誰より重くて愛がないと言われる僕の後ろには、いつも監禁趣味のあいつがいる

迷路を跳ぶ狐

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18.冷たく微笑んで


 バーベキューから遠ざかりたくて、こっそりデスクの下に移動して蹲っていたけど、僕が隠れるところはいつもここ。

 だからすぐに見つかってしまう。

 ヴァルアテアが、肉と、食べやすく切った巨大とうもろこしの乗った皿を持って、デスクの下を覗き込んできた。

「ほら、トラシュ。肉ととうもろこし。ドラム缶用意したから、肉多めにしてやったぞ」
「……ありがとう……」

 反射的にお礼を言って、皿を受け取る。それには、山盛りの肉と、僕にも食べられるよう人族用の調味料がかけられたとうもろこしが乗っていて、いつも添えてくれるパンもある。

 なんで僕、ありがとうなんて言っているんだ……

 全くありがたくなんてない。だって、失恋の悲しみを癒すためのドラム缶で、バーベキューされてるんだぞ。

 これ、最初は本気で怒っていたんだ。僕は失恋したのに、無神経だって。

 だけど、こうして焼いた肉だの野菜だのを差し出されると、だんだん受け取るようになり、僕も食べるようになってきた。

 今だって、思い出を焼いてできた焼き肉なんて、食べる気しないはずなのに、箸を持ってしまう。こうしてヴァルアテアが焼いてくれる肉を見下ろすと、少しだけ涙が収まった。

 いつのまにかショックだった気持ちも薄れている。あれだけ辛かったのに、もう、あの男の顔すら、思い出せそうにない。

 まあ、いいか。もう、あんな男のことは忘れたんだ。

 新しい恋でも探そう。

 顔を上げると、ヴァルアテアが、こんがり焼けた肉を、僕の皿に追加してくれた。

「食べておけ。空腹では戦えないだろう。最近、魔物を売って稼いでいる盗賊たちが、俺たちを恨んで刺客を差し向けていることも知っているはずだ。警戒を怠るな」
「……うん……」

 魔物を売って稼ぐことや、魔物を手懐けて売ることは禁止されているが、そういうことをする連中は後を絶たない。そういう奴らからすれば、魔物を退治して報酬をもらう僕らは、商売敵らしい。この前は、そいつらに捕まった同僚が病院送りにされた。

 魔物自体にも恨まれているから、いつの間にか体に染み付いた匂いを嗅ぎつけ、さっきのマンションの時みたいに、魔物が襲ってくる。

 もうあちこちから恨みを買ってばかりだ。

 だから、本当ならすぐに戦えるように準備してなきゃいけないんだけど、真面目にそれをしている奴はほとんどいない。

 いつも全く緊張感のない奴の筆頭であるオーイレールが、ヴァルアテアの後ろから、焼けたニンニクを山ほど乗せた皿を持って顔を出した。

「トラシュー。俺のとうもろこし、食ったか?」
「まだ……」
「なんだよ、食欲ねえのか? それなら、ニンニク食うか!? 焼きニンニク!!」
「それはいい……」
「焼きそばは? うどんもあるけど、どっちにする?」
「……お好み焼き」
「ない!! そばにしとけ!!」

 いらないって意味で言ったのに……

 それでも、オーイレールは焼き網の上に乱暴に黒焦げ同然の古いフライパンを置いて、大量に油をいれ麺を焼き出して、他の奴らに怒られてる。

 ……あれ、絶対また半分以上焦げた焼きそばになる。オーイレールの焼きそばって、いつも油たっぷりで、ソースが焦げてるんだ。

 他にもいろんな奴らが集まってきて、僕に肉だの野菜だのをすすめてくれる。

 あんまり食欲ないけど、渡されると受け取ってしまう。缶ビールまで出てきて、もう、職場のオフィスとは思えない宴会状態だ。

 ますますデスクの奥まで下がってしまう僕だけど、オーイレールは、断ったはずの焼きそばを持ってきた。

「トラシュ。ほら、焼きそば。青のりと紅生姜、かけてやったぞ」
「…………ありがとう……」

 やっぱり焦げてる……それなのに、つい食べてしまう。

 せっかく焼いてくれたし、これだけニコニコされながら渡されると、なんとなく、美味しい気がする。焦げた味がするけど。

 だけどオーイレールは、自分の焼きそばに自信があるらしい。箸を片手に僕の前に座って、感想を求めてくる。

「うまいかー? 俺の焼きそば」
「……焦げた脂の味……」
「そうか! うまいか!!」
「……」

 そうは言っていない。オーイレールの焼きそば食べてるの、オーイレールと僕だけじゃないか。

 だけど、いつの間にか皿は空になっていた。肉ととうもろこしと油と焦げた麺で、もうお腹いっぱいだ。

 僕は一体何をしているんだ……

 さっきまでニコニコしながら成り行きを見守っていたフュイアルさんまで近づいてきた。

 そいつは、宴会を続ける面々に、ぱんぱんと手を叩いて言った。

「はーい。仕事中だよー。解散かいさーん」

 一応ここの管理者のフュイアルさんが来て、みんなそそくさと肉の乗った皿を持って、デスクに戻っていく。

 僕も、ドラム缶を魔法で小さくして、デスクに戻った。

 ヴァルアテアが僕の肩にぽんと手を置いて、こんがり焼けた肉と野菜が乗った皿を僕に渡してくる。
 皿の隅には、魔力で書かれた「フュイアルの分」という文字。渡して来いっていう意味だ。
 ヴァルアテアは、いつも最後に僕にこれをさせる。

 フュイアルさんは、わざわざ僕の隣の空いているデスクに座ってきた。
 せめて塩分取りすぎで死んでほしくて、デスクの引き出しに置いてある塩を振って差し出すけど、フュイアルさんにおでこをこづかれ、せっかく振った塩は魔法で集められて瓶に入れられて、僕の頭に飛んできた。

「いたっ……!」
「トラシュは、いつその塩作戦やめるの?」
「フュイアルさんが塩分取りすぎて死ぬまでです」
「毎回気づかれてるのに? 食べ物は大事にしなさい。これもうまいけど、俺はトラシュが作った料理が食べたい。今度何か作ってよ」
「僕は好きな人のためにしか料理しません。死んでください」

 心底、気持ち悪い人だ。

 僕は恋人にしか料理を作らない。こんな人に何か作るくらいなら、死んだ方がマシだ。

 もう明日にでも死んでくれないかな。

 イライラする。

 食事でもして、気を鎮めよう。

 さっき渡してもらった肉に手をつける。

 デスクに戻って行った面々も、思い思いに食事を続けていた。

 今日はあの魔物騒動があったし、残業になりそうだ。
 フュイアルさんも、それがわかっているから、いきなりオフィスが夕飯の時間になっても何も言わない。
 それどころか、自分もしっかり焼き立ての肉を食べながら、魔法で人数分のお茶を入れている。

「あ、そうだ。トラシュ、しばらく仮眠室に住んでいいよ」
「……なんで僕がそんなところに住むんですか?」
「壁に大穴開けて、マンション出て行けって言われてるだろ? 現場の検証も必要になるし、しばらくは住めないんじゃないか? あのクソ男のせいで、トラシュまで犯罪者みたいに思われてるし、しばらく部屋、借りれそうにないんだろ? 仮眠室、ずっと使ってないし、もうすぐ寮作る予定だから、出来たらそっちに移ればいい」
「寮、作るんですか?」
「うん。要望も多かったから。これ、計画書。他にも、移りたい人、これに名前書いといてー」

 フュイアルさんが、立ち上がって入居のための書類を振ると、みんな嬉しそうによってくる。

 この仕事、魔物に狙われやすいってことで、不動産屋には敬遠されるし、狙われたときに、一人より近くに仲間がいる方がすぐに対処しやすいということで、寮を求める声は昔からあったんだ。

 僕もこれから住むところを探さなくて済む。荷物、持ってこないと。

 そんなことを考えながら、書類に必要事項を記入していたら、後ろから食事を終えたフュイアルさんが急かしてくる。

「トラシュー。行くよー。仕事ー」
「なにしに行くんですか……」
「魔物が出たところに検証に行く。ついてきなさい」
「行きません。僕、他に仕事あるし、僕は現場に行ったらだめなんじゃなかったんですか?」
「トラシュの部屋だろ? 終わったら荷物運んでいいから」
「フュイアルさんとは行きたくありません」
「いいから来なさい」
「わっ!!」

 いきなりそいつが放った鎖の魔法が、僕をぐるぐる巻きにする。

「離してください! フュイアルさん!! 離せ!!」
「いいから来なさい」
「ざけんな!! 離せ! フュイアルさんと仕事なんてやだ!」

 叫んで暴れても、フュイアルさんは聞き入れるどころか、僕が逃げられないように鎖をきつく巻きつけて、担ぎ上げてしまう。

 オフィスから出る際、すれ違ったヴァルアテアが「あまり乱暴にするな。フューア」と、優しい忠告をしてくれるのに、冷酷魔族のフュイアルさんは、そいつに冷たく微笑んで呟く。

「これは、俺の」

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