誰より重くて愛がないと言われる僕の後ろには、いつも監禁趣味のあいつがいる

迷路を跳ぶ狐

文字の大きさ
51 / 106

51.組まないか?

しおりを挟む

 何が待ってるね、だ。なんだあいつ。本当に、一体どういうつもりなんだ。

 昨日、やろうと思えばやれたくせに、あいつはしなかった。

 昨日は、僕は体が動かなくて、拒絶することも死ぬこともできずにあいつを受け入れるしかなかったのに、あいつは手を止めた。

 ……なんでやめたんだ……続けようと思えば、できたはずなのに。

 握ったマグカップからは、まだ湯気が上がっている。

「変なやつ……」

 まあ、いいや。いつか必ず、あいつに勝ってやる。その時せいぜい後悔すればいいんだ。

 そう思ってみても、頭の中がモヤモヤしたままだ。

 そのまま僕は、洗面所へ向かった。

 涙で濡れてぐちゃぐちゃだった顔も、もう元に戻っている。

 ……なんだか、何事もなかったみたいだ。

 洗面台には、コップが二つ。歯ブラシも二つ。洗顔料まで二つ。僕のと、フュイアルさんのだ。

 苛立つ。気持ち悪い。僕の家の中に、僕じゃない奴がいる。なんでいるんだ。僕の家の中には、僕だけいれば十分なのに。

 カッとなって、憎い男の歯ブラシが入ったコップを取って振りかぶる。すると、突然、僕の前に煙のようなものが現れた。魔法の煙だ。それは輪の形になって、中に人の姿が映し出された。
 またフュイアルさんかと思ったけど、そこに映し出されたのは、昨日僕にしつこく話しかけてきた男だ。

 煙に映る男は、僕に向かって片手を上げる。

『よう。人族』
「お前……」
『おっと……大きな声を出すなよ? フュイアルに隠れて魔法使ってるんだ。あいつに見つかったら、俺もお前も困るだろ?』
「別に……困るのは、お前だけ。僕はあんなやつ、怖くないから。それより、何? 魔法使って、昨日の仕返しに来た?」
『まさか。俺も魔族だ。人族の魔法使い一人追い回すほど、暇じゃねえよ』
「じゃあ、なに? フュイアルさんに仕返しにでも来た?」
『まあ……そうだな。俺は、あいつをぶっ殺したい。それは、お前も同じのはずだ』
「だから、なに?」
『……俺と組まないか?』

 煙の向こうの男は、ニヤリと笑う。

 組む……? 僕が、こいつと?

 突然のことに、僕がキョトンとしていると、そいつは、僕を誘うように手招いた。

『お前と俺が組めば、あの野郎をぶっ殺せる。何しろ、お前はあいつの、唯一の弱点だからな』
「……なんで僕が弱点なんだよ?」
『はあ? お前……自覚なしかよ……』
「自覚? なんの?」
『……まあ、いいや。自覚ない方が、お前があいつに絆されて裏切ることもなさそうだ』
「……さっきから、何言ってるの? 絆される?」
『なんでもないんだ。忘れてくれ。俺の名前は、エイリョーゾ。お前となら、俺はあいつに勝てる。お前だって、あいつを殺したいんだろ? 俺もだ。二人であいつの息の根を止めるんだ』
「……僕、誰かと組みたい訳じゃない。だいたい、僕は一人でフュイアルさんに勝てるから」
『……お前本気で言ってるのか? フュイアルは、ああ見えて魔界一の魔力の持ち主だ。そんなもん相手に、人族が一人で向かっていく気か?』
「僕はっ……」
『落ち着け落ち着け! 大きな声出すな! フュイアルに気づかれる!!』
「……」
『だいたいお前、フュイアルに勝ちたいのなら、もっと上手くやれ。俺が調べたところによると、お前は唯一、あいつの弱点をつけるやつだ』
「僕が……?」
『ああ。お前がだ。その意味も、俺と組むなら教えてやる。だから、俺と組め。このままだとお前、いつかフュイアルに犯されるぞ』
「……っ!!」

 それを聞いて、僕の体は大きく震えた。

 昨日はなぜかあいつが勝手に引き下がったけど、こんなことばかりとは限らない。いつかあいつに押さえ込まれたら、また今回みたいに逃げられるとは限らないんだ。

「……僕は……」

 つい、口を開いてしまう。

 フュイアルさんとだけは嫌だ。だけど……あいつが本気になったら、僕は……今度こそ犯されるかもしれない。
 そんなことになる前に、あいつを……

 それでも迷う僕に、煙の中のエイリョーゾが、畳み掛けるように促す。

『いいだろ? 俺と来い。トラシュ!』
「……何か策でもあるの?」
『策? あるに決まってるだろ』

 そう言って、そいつはニヤリと笑う。そして、僕をじっと見つめて、言った。

『俺と付き合えよ』
「は? 誰が?」
『お前だよ! お前!! お前が俺と付き合うんだよ!!』
「僕が……?」
『ああ。俺とお前が付き合うんだ。そうすれば、あいつに勝てる。なんで勝てるのかは、俺と付き合ったら教えてやるよ』
「…………お前、僕のこと、好きなの?」
『え? ああ……うん。好きだよ。つーか、そんなの、適当に付き合ってやったら好きになるって。深く考えんな!』

 そう言って、そいつが煙の中で僕に手を伸ばす。

 その手を見て、僕は感じた。

 この人は、よさそうだ。

 僕は、この人を好きになれる。また、夢中になれる。また、夢中になって、他の余計なことなんて、全部忘れるくらい、好きになれる。

 僕は、無意識のうちに、その手に向かって、手を伸ばしていた。

 この人を好きになれる。きっと愛せる。
しおりを挟む
感想 3

あなたにおすすめの小説

吊るされた少年は惨めな絶頂を繰り返す

五月雨時雨
BL
ブログに掲載した短編です。

鎖に繋がれた騎士は、敵国で皇帝の愛に囚われる

結衣可
BL
戦場で捕らえられた若き騎士エリアスは、牢に繋がれながらも誇りを折らず、帝国の皇帝オルフェンの瞳を惹きつける。 冷酷と畏怖で人を遠ざけてきた皇帝は、彼を望み、夜ごと逢瀬を重ねていく。 憎しみと抗いのはずが、いつしか芽生える心の揺らぎ。 誇り高き騎士が囚われたのは、冷徹な皇帝の愛。 鎖に繋がれた誇りと、独占欲に満ちた溺愛の行方は――。

ヤンデレだらけの短編集

BL
ヤンデレだらけの1話(+おまけ)読切短編集です。 【花言葉】 □ホオズキ:寡黙執着年上とノンケ平凡 □ゲッケイジュ:真面目サイコパスとただ可哀想な同級生 □アジサイ:不良の頭と臆病泣き虫 □ラベンダー:希死念慮不良とおバカ □デルフィニウム:執着傲慢幼馴染と地味ぼっち ムーンライトノベル様に別名義で投稿しています。 かなり昔に書いたもので芸風(?)が違うのですが、楽しんでいただければ嬉しいです! 【異世界短編】単発ネタ殴り書き随時掲載。 ◻︎お付きくんは反社ボスから逃げ出したい!:お馬鹿主人公くんと傲慢ボス

俺にだけ厳しい幼馴染とストーカー事件を調査した結果、結果、とんでもない事実が判明した

あと
BL
「また物が置かれてる!」 最近ポストやバイト先に物が贈られるなどストーカー行為に悩まされている主人公。物理的被害はないため、警察は動かないだろうから、自分にだけ厳しいチャラ男幼馴染を味方につけ、自分たちだけで調査することに。なんとかストーカーを捕まえるが、違和感は残り、物語は意外な方向に…? ⚠️ヤンデレ、ストーカー要素が含まれています。 攻めが重度のヤンデレです。自衛してください。 ちょっと怖い場面が含まれています。 ミステリー要素があります。 一応ハピエンです。 主人公:七瀬明 幼馴染:月城颯 ストーカー:不明 ひよったら消します。 誤字脱字はサイレント修正します。 内容も時々サイレント修正するかもです。 定期的にタグ整理します。 批判・中傷コメントはお控えください。 見つけ次第削除いたします。

ヤリチン伯爵令息は年下わんこに囚われ首輪をつけられる

桃瀬さら
BL
「僕のモノになってください」 首輪を持った少年はレオンに首輪をつけた。 レオンは人に誇れるような人生を送ってはこなかった。だからといって、誰かに狙われるようないわれもない。 ストーカーに悩まされていたレある日、ローブを着た不審な人物に出会う。 逃げるローブの人物を追いかけていると、レオンは気絶させられ誘拐されてしまう。 マルセルと名乗った少年はレオンを閉じ込め、痛めつけるでもなくただ日々を過ごすだけ。 そんな毎日にいつしかレオンは安らぎを覚え、純粋なマルセルに毒されていく。 近づいては離れる猫のようなマルセル×囚われるレオン

4人の兄に溺愛されてます

まつも☆きらら
BL
中学1年生の梨夢は5人兄弟の末っ子。4人の兄にとにかく溺愛されている。兄たちが大好きな梨夢だが、心配性な兄たちは時に過保護になりすぎて。

普通の男の子がヤンデレや変態に愛されるだけの短編集、はじめました。

山田ハメ太郎
BL
タイトル通りです。 お話ごとに章分けしており、ひとつの章が大体1万文字以下のショート詰め合わせです。 サクッと読めますので、お好きなお話からどうぞ。

完成した犬は新たな地獄が待つ飼育部屋へと連れ戻される

五月雨時雨
BL
ブログに掲載した短編です。

処理中です...