73 / 106
73.誤解だ
「トラシュ……もしかして、その男が好きになったんじゃないよね?」
そう言ったフュイアルさんが、ひどく冷たい目で、僕を見下ろしている。
誤解だ。
僕の背後では、チイラントがビルの壁にもたれかかり気絶していて、エイリョーゾが、丸いボールみたいに丸められて、鎖で縛られている。多分、全身の骨が折れているんだろう。たまに聞こえるうめき声は、耳を塞ぎたくなるほどだ。
やっぱり、フュイアルさんの魔力はとてつもない。二人を相手にしても、服すら乱れることなく平然としている。
僕、いつもフュイアルさんが本気でやっているなんて思っていたけど、全くそんなことはなかったらしい。
壁まで殴り飛ばされていたけど、あれでも相当手加減していたんだ。僕、最初から相手になってなかったんだ。
なんかムカつく。フュイアルさんにからかわれていたみたいで。
僕、ちょっとくらい勝てる気でいたのに。
魔族が二人でかかって、全く相手になっていないどころか、ここまで来ると、一方的な暴力以外の何物でもない。
「……その……そろそろやめた方がいい気がして……」
言い淀んでいると、フュイアルさんは、僕に微笑んだ。こういう時のフュイアルさんは、ひどく冷たい顔をしていて、本当に怖い。
「そうか……あんなところにあったら、邪魔だよね。とりあえず、全身折ってみたけど、このまま潰そうか」
「フュイアルさん…………僕、そういうの嫌……かな」
「え? 魔物の餌にしてからゾンビにして奴隷にするの、だめ?」
「だめ……かな…………」
「でもあいつ、トラシュに手を上げたんだろ? トラシュ、怪我してる。首と、頭」
「あ……っ!!」
慌てて、首と頭の、血が出ている辺りを隠す。自分の怪我なんて、すっかり忘れていた。どうりで痛いと思った。
フュイアルさんは、僕の顔を覗き込んでくる。さっと顔を背けたけど、すぐに首と頭の傷は塞がった。フュイアルの魔法だろう。
「トラシュは人族で、脆いんだから。気をつけなきゃダメだよ?」
「…………余計なお世話です……」
「……トラシュ……もしかして、まだ痛い?」
「は? なんでですか?」
フュイアルさんの魔力で、すっかり体は癒された。もう、全く痛くない。だけど、フュイアルさんはすごく心配そうに僕の顔を覗き込んでくる。
「だって、いつもの勢いがないなーと思って。やっぱりまだ、回復してないのかな?」
「……そんなんじゃありません。近づかないでください……」
あんまり近寄られくない。気持ちを絶対に悟られたくない。
一生隠し通したいのに、今日一日ずっと待っていたフュイアルさんが来てくれて、嬉しいのが顔に出ちゃいそうなんだ。
フュイアルさんは、僕の頭を撫でてくれて、微笑んだ。
「仕方ないな……トラシュが嫌って言うなら……」
「……」
フュイアルさんは、背後の二人に魔法をかける。すると、二人の体は見る間に縮んで、二匹の小さな手のひらに乗るくらいの竜になった。首には、大きな首輪をつけている。それが、僕の手元まで飛んできた。
「あげる。俺からの誕生日プレゼントだよ」
「……いりません」
「後、これ」
フュイアルさんが、僕の手をぎゅっと握る。途端に、そこが熱くなる。それが全身に広がって、なんだか体温が上がったみたい。
「な、何したんですか?」
「俺の魔力。少しトラシュにあげたから」
「いりません。抜いてください」
「無理。誕生日プレゼントだよ」
「……プレゼントって、こんなふうに押し付けるものなんですか? キモいです。死んでください。死ぬ前に、魔力抜いてください」
「本当は一度にいっぱいあげたいけど、そうするとトラシュの体が壊れちゃうから。今度から少しずつあげるね」
「いりません。プレゼントって言うなら、たまには僕の話を聞いてください」
って言っても、フュイアルさんが僕の話なんか聞くはずない。
彼は、僕の手元の二匹の竜を見下ろしている。
フュイアルさんに睨まれて、二匹の竜は、僕の背中に隠れてしまった。
「お前たちには、トラシュの盾になってもらう。役に立たなかったら壊して捨てるから、そのつもりでいろ」
こんな人に睨まれて、嫌です、なんて言える人がいるはずがない。竜たちは、僕の肩から顔を出して、何度も頷いて返事をしていた。
フュイアルさんは、僕ににっこり笑う。
「じゃあ、トラシュとデートに行くか」
「行きません。キモいです。真面目に彼らのアジトに行きましょう」
「だから、敵のアジトまでデート」
「嫌です。そんなデート」
「じゃあ、アジトが終わったら、魔界でデートは?」
「魔界……? 嫌です。なんだか、フュイアルさんの領域に引き摺り込まれるみたいで嫌です」
「そんなことしないよ。今度連れて行くって言っただろ?」
「僕は行くなんて言ってません。死んでください」
やっぱり、こんな人を好きなんて、何かの間違いなんじゃないだろうか。僕がこんな人を好きなはずがない。
だけど、フュイアルさんは嬉しそう。僕をいきなり抱き上げてしまう。
「うわっ……! ふ、フュイアルさん!??」
「とりあえず、早く終わらせよう。今日のトラシュはなんだかますます可愛く見えるし、早く終わらせて、早くベッドに行こう」
「は!? 離せよっ!! キモいんだよ死ね!!!! もう今度こそ殺す!!」
「無理だって。トラシュじゃ」
そう言って、フュイアルさんは、僕を抱っこしたまま、背中に羽を作り出し、空に飛び上がった。
あなたにおすすめの小説
番を拒み続けるΩと、執着を隠しきれないαが同じ学園で再会したら逃げ場がなくなった話 ――優等生αの過保護な束縛は恋か支配か
雪兎
BL
第二性が存在する世界。
Ωであることを隠し、平穏な学園生活を送ろうと決めていた転校生・湊。
しかし入学初日、彼の前に現れたのは――
幼い頃に「番になろう」と言ってきた幼馴染のα・蓮だった。
成績優秀、容姿端麗、生徒から絶大な信頼を集める完璧なα。
だが湊だけが知っている。
彼が異常なほど執着深いことを。
「大丈夫、全部管理してあげる」
「君が困らないようにしてるだけだよ」
座席、時間割、交友関係、体調管理。
いつの間にか整えられていく環境。
逃げ場のない距離。
番を拒みたいΩと、手放す気のないα。
これは保護か、それとも束縛か。
閉じた学園の中で、二人の関係は静かに歪み始める――。
ストーカーから逃げ切ったのも束の間、転移後はヤンデレ騎士団に殺されかけている現実!
由汰のらん
ファンタジー
ストーカーから逃げていたある日、ハルは異世界に召喚されてしまう。
しかし神官によれば、どうやらハルは間違って召喚された模様。さらに王子に盾ついてしまったことがきっかけで、ハルは国外追放されてしまう。さらに連行されている道中、魔族に襲われ、ハルの荷馬車は置き去りに。
そのさなか、黒い閃光を放つ騎士が、ハルに取引を持ちかけてきた。
「貴様の血を差し出せ。さすれば助けてやろう。」
やたら態度のでかい騎士は、なんとダンピールだった。しかしハルの血が特殊だと知ったダンピールはハルを連れ帰って?
いっそ美味しい『血』(治癒)と『体液』(バフ)と『癒し』を与えるダンピール騎士団のセラピストを目指します!
平凡な俺が完璧なお兄様に執着されてます
クズねこ
BL
いつもは目も合わせてくれないのにある時だけ異様に甘えてくるお兄様と義理の弟の話。
『次期公爵家当主』『皇太子様の右腕』そんなふうに言われているのは俺の義理のお兄様である。
何をするにも完璧で、なんでも片手間にやってしまうそんなお兄様に執着されるお話。
BLでヤンデレものです。
第13回BL大賞に応募中です。ぜひ、応援よろしくお願いします!
週一 更新予定
ときどきプラスで更新します!
人気アイドルの俺、なぜかメンバー全員に好かれてます
七瀬
BL
デビュー4年目の人気アイドルグループ「ECLIPSE(エクリプス)」に所属する芹沢 美澄(せりざわみすみ)は、昔からどこか抜けていてマイペースな性格。
歌もダンスも決して一番ではないはずなのに、なぜかファンからもメンバーからも目を離されない存在だった。
世話焼きな幼なじみ、明るく距離の近い同い年、しっかり者で面倒見のいい年上、掴みどころのない自由人、そして無言で隣にいるリーダー——。
気づけば、美澄の周りにはいつも誰かがいて、当たり前のように甘やかされていく。
被虐趣味のオメガはドSなアルファ様にいじめられたい。
かとらり。
BL
セシリオ・ド・ジューンはこの国で一番尊いとされる公爵家の末っ子だ。
オメガなのもあり、蝶よ花よと育てられ、何不自由なく育ったセシリオには悩みがあった。
それは……重度の被虐趣味だ。
虐げられたい、手ひどく抱かれたい…そう思うのに、自分の身分が高いのといつのまにかついてしまった高潔なイメージのせいで、被虐心を満たすことができない。
だれか、だれか僕を虐げてくれるドSはいないの…?
そう悩んでいたある日、セシリオは学舎の隅で見つけてしまった。
ご主人様と呼ぶべき、最高のドSを…
弟がガチ勢すぎて愛が重い~魔王の座をささげられたんだけど、どうしたらいい?~
マツヲ。
BL
久しぶりに会った弟は、現魔王の長兄への謀反を企てた張本人だった。
王家を恨む弟の気持ちを知る主人公は死を覚悟するものの、なぜかその弟は王の座を捧げてきて……。
というヤンデレ弟×良識派の兄の話が読みたくて書いたものです。
この先はきっと弟にめっちゃ執着されて、おいしく食われるにちがいない。