誰より重くて愛がないと言われる僕の後ろには、いつも監禁趣味のあいつがいる

迷路を跳ぶ狐

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73.誤解だ

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「トラシュ……もしかして、その男が好きになったんじゃないよね?」

 そう言ったフュイアルさんが、ひどく冷たい目で、僕を見下ろしている。

 誤解だ。

 僕の背後では、チイラントがビルの壁にもたれかかり気絶していて、エイリョーゾが、丸いボールみたいに丸められて、鎖で縛られている。多分、全身の骨が折れているんだろう。たまに聞こえるうめき声は、耳を塞ぎたくなるほどだ。
 やっぱり、フュイアルさんの魔力はとてつもない。二人を相手にしても、服すら乱れることなく平然としている。

 僕、いつもフュイアルさんが本気でやっているなんて思っていたけど、全くそんなことはなかったらしい。
 壁まで殴り飛ばされていたけど、あれでも相当手加減していたんだ。僕、最初から相手になってなかったんだ。
 なんかムカつく。フュイアルさんにからかわれていたみたいで。
 僕、ちょっとくらい勝てる気でいたのに。

 魔族が二人でかかって、全く相手になっていないどころか、ここまで来ると、一方的な暴力以外の何物でもない。

「……その……そろそろやめた方がいい気がして……」

 言い淀んでいると、フュイアルさんは、僕に微笑んだ。こういう時のフュイアルさんは、ひどく冷たい顔をしていて、本当に怖い。

「そうか……あんなところにあったら、邪魔だよね。とりあえず、全身折ってみたけど、このまま潰そうか」
「フュイアルさん…………僕、そういうの嫌……かな」
「え? 魔物の餌にしてからゾンビにして奴隷にするの、だめ?」
「だめ……かな…………」
「でもあいつ、トラシュに手を上げたんだろ? トラシュ、怪我してる。首と、頭」
「あ……っ!!」

 慌てて、首と頭の、血が出ている辺りを隠す。自分の怪我なんて、すっかり忘れていた。どうりで痛いと思った。

 フュイアルさんは、僕の顔を覗き込んでくる。さっと顔を背けたけど、すぐに首と頭の傷は塞がった。フュイアルの魔法だろう。

「トラシュは人族で、脆いんだから。気をつけなきゃダメだよ?」
「…………余計なお世話です……」
「……トラシュ……もしかして、まだ痛い?」
「は? なんでですか?」

 フュイアルさんの魔力で、すっかり体は癒された。もう、全く痛くない。だけど、フュイアルさんはすごく心配そうに僕の顔を覗き込んでくる。

「だって、いつもの勢いがないなーと思って。やっぱりまだ、回復してないのかな?」
「……そんなんじゃありません。近づかないでください……」

 あんまり近寄られくない。気持ちを絶対に悟られたくない。
 一生隠し通したいのに、今日一日ずっと待っていたフュイアルさんが来てくれて、嬉しいのが顔に出ちゃいそうなんだ。

 フュイアルさんは、僕の頭を撫でてくれて、微笑んだ。

「仕方ないな……トラシュが嫌って言うなら……」
「……」

 フュイアルさんは、背後の二人に魔法をかける。すると、二人の体は見る間に縮んで、二匹の小さな手のひらに乗るくらいの竜になった。首には、大きな首輪をつけている。それが、僕の手元まで飛んできた。

「あげる。俺からの誕生日プレゼントだよ」
「……いりません」
「後、これ」

 フュイアルさんが、僕の手をぎゅっと握る。途端に、そこが熱くなる。それが全身に広がって、なんだか体温が上がったみたい。

「な、何したんですか?」
「俺の魔力。少しトラシュにあげたから」
「いりません。抜いてください」
「無理。誕生日プレゼントだよ」
「……プレゼントって、こんなふうに押し付けるものなんですか? キモいです。死んでください。死ぬ前に、魔力抜いてください」
「本当は一度にいっぱいあげたいけど、そうするとトラシュの体が壊れちゃうから。今度から少しずつあげるね」
「いりません。プレゼントって言うなら、たまには僕の話を聞いてください」

 って言っても、フュイアルさんが僕の話なんか聞くはずない。

 彼は、僕の手元の二匹の竜を見下ろしている。
 フュイアルさんに睨まれて、二匹の竜は、僕の背中に隠れてしまった。

「お前たちには、トラシュの盾になってもらう。役に立たなかったら壊して捨てるから、そのつもりでいろ」

 こんな人に睨まれて、嫌です、なんて言える人がいるはずがない。竜たちは、僕の肩から顔を出して、何度も頷いて返事をしていた。

 フュイアルさんは、僕ににっこり笑う。

「じゃあ、トラシュとデートに行くか」
「行きません。キモいです。真面目に彼らのアジトに行きましょう」
「だから、敵のアジトまでデート」
「嫌です。そんなデート」
「じゃあ、アジトが終わったら、魔界でデートは?」
「魔界……? 嫌です。なんだか、フュイアルさんの領域に引き摺り込まれるみたいで嫌です」
「そんなことしないよ。今度連れて行くって言っただろ?」
「僕は行くなんて言ってません。死んでください」

 やっぱり、こんな人を好きなんて、何かの間違いなんじゃないだろうか。僕がこんな人を好きなはずがない。

 だけど、フュイアルさんは嬉しそう。僕をいきなり抱き上げてしまう。

「うわっ……! ふ、フュイアルさん!??」
「とりあえず、早く終わらせよう。今日のトラシュはなんだかますます可愛く見えるし、早く終わらせて、早くベッドに行こう」
「は!? 離せよっ!! キモいんだよ死ね!!!! もう今度こそ殺す!!」
「無理だって。トラシュじゃ」

 そう言って、フュイアルさんは、僕を抱っこしたまま、背中に羽を作り出し、空に飛び上がった。
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