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身代わりの結婚
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「彼女は、最初から女性として求められたかったのだろう」
しばらくして、ため息交じりで碧斗さんが言う。
彼女のプライドの高さは私も知っているが、彼との関係はいわゆる政略的なもので私情など二の次だ。
後に碧斗さんから想われるようになったという結果はともかく、婚約を強制されたのは彼だって同じ立場だ。どうして姉は、それがわからなかったのか。
「俺は仕事ばかりで、異性を喜ばせることに関しては疎いのも彼女の不興を買った一因だろうな」
「そんなこと、ありませんから」
切なげな彼を見て、間髪を容れずに否定する。
「碧斗さんは婚約者の妹でしかない私までいつも気遣って、お祝いや励ましの声をかけてくれる優しい人です。私、碧斗さんからもらったプレゼントはどれもうれしくて励みになったし、今でも大切にしているんですよ」
碧斗さんに悲しい顔をさせたくなくて、捲し立てるように打ち明けた。
「少なくとも私は、碧斗さんの言葉が支えになっていました」
むきになって前のめりになる私に、一瞬面食らった彼がフッと小さく笑う。
「ありがとう、音羽ちゃん。君にそう言ってもらえるのはうれしいよ」
ふわりと微笑みかけられて、鼓動が大きく跳ねる。
感情的になってしまい、ずいぶん子どもっぽかったとようやく気づく。今になって羞恥に襲われて、身を縮こませた。
「さっきは無理に結婚の話を進めてしまったが、音羽ちゃんはどう思っているのか正直に話してほしい。もしかして、心に決めた人はいなかったか?」
「そ、そんな人は、まったくいませんから」
急な問いかけに焦りながら手と首をブンブン振って否定したとろ、碧斗さんがほっとした顔になる。
優しいこの人はそこに罪悪感すら抱いていたのかもしれず、安心してもらうために重ねて否定する。
「私に特定の相手なんていませんから。それよりも、碧斗さんの方こそ大丈夫ですか? 私の姉はあなたを裏切ったような人で、その妹と結婚するなんて……」
「それは無用な心配だ。俺は自分の意志で、音羽ちゃんとの結婚を希望したんだから」
「え?」
少しも迷いのない口調で、碧斗さんがきっぱりと言いきった。
こちらをまっすぐに見つめる彼を前に、瞬きすら忘れてしまう。
「音羽ちゃんが結婚を受け入れてくれるのなら、俺は一生、君を大切にすると約束する」
熱い口調で真剣に言われたら、まるでそこに恋愛感情があるように勘違いしそうになる。
自惚れてはいけないと、高鳴る胸を押さえながら必死で自身に言い聞かせた。
「わ、私は、嫌じゃないです。ちゃんと、受け入れられます」
なんとかそれだけ伝えると、碧斗さんが満面の笑みを浮かべる。
「よかった」
下手に出なければならないのはこちらなのに、碧斗さんは終始私の気持ちを優先する姿勢を崩さない。そんな姿を見せられたら、ますます彼に惹かれてしまう。
理由はどうであれ、碧斗さんが私を求めてくれるというだけで十分だ。これ以上なにかを望んではいけないと自分を戒めた。
「俺たちはいずれ夫婦になるのだから、これからは音羽と呼んでいいかな?」
「は、はい」
突然の提案に、ドキリとする。
「音羽」
私を見つめながら、碧斗さんが確かめるように呼ぶ。
「はい」
それだけで舞い上がりそうになるが、ぐっと自制する。
すっかり混乱してしまい、とりあえず落ち着こうと、もう冷めかけているコーヒーで喉を潤わせた。
しばらくして、ため息交じりで碧斗さんが言う。
彼女のプライドの高さは私も知っているが、彼との関係はいわゆる政略的なもので私情など二の次だ。
後に碧斗さんから想われるようになったという結果はともかく、婚約を強制されたのは彼だって同じ立場だ。どうして姉は、それがわからなかったのか。
「俺は仕事ばかりで、異性を喜ばせることに関しては疎いのも彼女の不興を買った一因だろうな」
「そんなこと、ありませんから」
切なげな彼を見て、間髪を容れずに否定する。
「碧斗さんは婚約者の妹でしかない私までいつも気遣って、お祝いや励ましの声をかけてくれる優しい人です。私、碧斗さんからもらったプレゼントはどれもうれしくて励みになったし、今でも大切にしているんですよ」
碧斗さんに悲しい顔をさせたくなくて、捲し立てるように打ち明けた。
「少なくとも私は、碧斗さんの言葉が支えになっていました」
むきになって前のめりになる私に、一瞬面食らった彼がフッと小さく笑う。
「ありがとう、音羽ちゃん。君にそう言ってもらえるのはうれしいよ」
ふわりと微笑みかけられて、鼓動が大きく跳ねる。
感情的になってしまい、ずいぶん子どもっぽかったとようやく気づく。今になって羞恥に襲われて、身を縮こませた。
「さっきは無理に結婚の話を進めてしまったが、音羽ちゃんはどう思っているのか正直に話してほしい。もしかして、心に決めた人はいなかったか?」
「そ、そんな人は、まったくいませんから」
急な問いかけに焦りながら手と首をブンブン振って否定したとろ、碧斗さんがほっとした顔になる。
優しいこの人はそこに罪悪感すら抱いていたのかもしれず、安心してもらうために重ねて否定する。
「私に特定の相手なんていませんから。それよりも、碧斗さんの方こそ大丈夫ですか? 私の姉はあなたを裏切ったような人で、その妹と結婚するなんて……」
「それは無用な心配だ。俺は自分の意志で、音羽ちゃんとの結婚を希望したんだから」
「え?」
少しも迷いのない口調で、碧斗さんがきっぱりと言いきった。
こちらをまっすぐに見つめる彼を前に、瞬きすら忘れてしまう。
「音羽ちゃんが結婚を受け入れてくれるのなら、俺は一生、君を大切にすると約束する」
熱い口調で真剣に言われたら、まるでそこに恋愛感情があるように勘違いしそうになる。
自惚れてはいけないと、高鳴る胸を押さえながら必死で自身に言い聞かせた。
「わ、私は、嫌じゃないです。ちゃんと、受け入れられます」
なんとかそれだけ伝えると、碧斗さんが満面の笑みを浮かべる。
「よかった」
下手に出なければならないのはこちらなのに、碧斗さんは終始私の気持ちを優先する姿勢を崩さない。そんな姿を見せられたら、ますます彼に惹かれてしまう。
理由はどうであれ、碧斗さんが私を求めてくれるというだけで十分だ。これ以上なにかを望んではいけないと自分を戒めた。
「俺たちはいずれ夫婦になるのだから、これからは音羽と呼んでいいかな?」
「は、はい」
突然の提案に、ドキリとする。
「音羽」
私を見つめながら、碧斗さんが確かめるように呼ぶ。
「はい」
それだけで舞い上がりそうになるが、ぐっと自制する。
すっかり混乱してしまい、とりあえず落ち着こうと、もう冷めかけているコーヒーで喉を潤わせた。
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