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不穏な足音
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私に視線を止め、それから半歩後ろに立つ翔君を鋭く射抜いた。
「翔、どういうつもりだ」
怒りの滲んだ声に、ピクリと肩が跳ねる。
「どうって、なにが?」
翔君はこの張り詰めた空気をものともせず、普段通りに返した。
「ふざけるなよ」
「ふざけているのは、兄貴の方だろ?」
「ちょ、ちょっと翔君」
顔を合せて早々に喧嘩腰になるふたりに慄きつつ、なんとか仲裁を試みる。
背後に立つ翔君を振り返り、落ち着くように必死に訴える。けれど彼は、変わらず碧斗さんを見据えたままで、私の制止を完全に無視した。
「音羽」
碧斗さんに苦しげな声音で呼ばれて、ハッとする。
「兄貴、こんなところで痴話喧嘩なんてみっともない。そういえばまだ新居に招待してもらっていなかったし、ちょうどいいから上がらせてよ」
この空気の中でよくそんなことが言えたものだと、翔君を見やる。
彼は終始堂々とした様子で、私を抜かしてすたすたと碧斗さんに近づいていった。
そうして碧斗さんに小声でなにかをささやき、私の方を振り返る。
「ほら。音羽も行くぞ」
状況はわからないけれど、碧斗さんが翔君に続くのを見て慌てて追いかけた。
「へえ、いい部屋じゃん」
案内もそこそこに、翔君は遠慮のない態度でリビングのソファーにゆったりと座った。
「の、飲み物を……」
「いや。長居するつもりはないからいい」
どうしていいかわからず、とりあえず提案しかけたが、最後まで言いきる前に断られてしまう。
翔君の向かいに、碧斗さんも腰を下ろす。
「音羽はこっちだ」
一瞬どこに座るべきか迷ったが、碧斗さんに促されるままその隣に落ち着いた。
「翔、どういうつもりだ」
「どうもこうも、友人と会って話していただけだよ」
悪びれない翔君に、碧斗さんが顔をしかめた。
「友人だと?」
「ああそうだ。なあ、音羽」
「え、ええ」
碧斗さんの視線が私に向くのがわかったが、なんとなく気まずくて彼の方を見られない。
「たとえ友人とはいえ、俺の妻になった音羽とふたりきりで会うのはどうなのか?」
「どうって、普通だろ。兄貴なんて、友人どころか元婚約者とこそこそ会ってたんだろ?」
翔君の言葉に、碧斗さんの体が小さく揺れた。
その反応は、後ろめたかったからかと穿った見方をしてしまう。
「兄貴に裏切られた音羽が、どれだけ心を痛めているか知ってるのか?」
「音羽が?」
まさか私に知られているとは、碧斗さんは思ってみなかったようだ。
「翔、どういうつもりだ」
怒りの滲んだ声に、ピクリと肩が跳ねる。
「どうって、なにが?」
翔君はこの張り詰めた空気をものともせず、普段通りに返した。
「ふざけるなよ」
「ふざけているのは、兄貴の方だろ?」
「ちょ、ちょっと翔君」
顔を合せて早々に喧嘩腰になるふたりに慄きつつ、なんとか仲裁を試みる。
背後に立つ翔君を振り返り、落ち着くように必死に訴える。けれど彼は、変わらず碧斗さんを見据えたままで、私の制止を完全に無視した。
「音羽」
碧斗さんに苦しげな声音で呼ばれて、ハッとする。
「兄貴、こんなところで痴話喧嘩なんてみっともない。そういえばまだ新居に招待してもらっていなかったし、ちょうどいいから上がらせてよ」
この空気の中でよくそんなことが言えたものだと、翔君を見やる。
彼は終始堂々とした様子で、私を抜かしてすたすたと碧斗さんに近づいていった。
そうして碧斗さんに小声でなにかをささやき、私の方を振り返る。
「ほら。音羽も行くぞ」
状況はわからないけれど、碧斗さんが翔君に続くのを見て慌てて追いかけた。
「へえ、いい部屋じゃん」
案内もそこそこに、翔君は遠慮のない態度でリビングのソファーにゆったりと座った。
「の、飲み物を……」
「いや。長居するつもりはないからいい」
どうしていいかわからず、とりあえず提案しかけたが、最後まで言いきる前に断られてしまう。
翔君の向かいに、碧斗さんも腰を下ろす。
「音羽はこっちだ」
一瞬どこに座るべきか迷ったが、碧斗さんに促されるままその隣に落ち着いた。
「翔、どういうつもりだ」
「どうもこうも、友人と会って話していただけだよ」
悪びれない翔君に、碧斗さんが顔をしかめた。
「友人だと?」
「ああそうだ。なあ、音羽」
「え、ええ」
碧斗さんの視線が私に向くのがわかったが、なんとなく気まずくて彼の方を見られない。
「たとえ友人とはいえ、俺の妻になった音羽とふたりきりで会うのはどうなのか?」
「どうって、普通だろ。兄貴なんて、友人どころか元婚約者とこそこそ会ってたんだろ?」
翔君の言葉に、碧斗さんの体が小さく揺れた。
その反応は、後ろめたかったからかと穿った見方をしてしまう。
「兄貴に裏切られた音羽が、どれだけ心を痛めているか知ってるのか?」
「音羽が?」
まさか私に知られているとは、碧斗さんは思ってみなかったようだ。
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