【完結】執着系御曹司との甘く切ない政略結婚 ー愛した人は姉の婚約者でしたー

波野雫

文字の大きさ
111 / 113
あなたの隣に立ちたくて

しおりを挟む
「俺が求めたのは、未来の社長夫人なんかじゃない。生涯一緒にいたい伴侶を選んだんだ。それは決して君ではない」

「なっ」

 碧斗さんからの強い否定に、姉の顔が瞬時に怒りに染まる。

「俺が君に、社長夫人としてふさわしくあるように一度でも求めたか?」

 それを望んでいたのなら、婚約期間にほかの男性との交際を許すはずがない。
 さすがにそれがわかったのか、姉がわなわなと唇を震わせた。

「俺が求めるのは、音羽だけだ」

「そ、それじゃあ、私と婚約しておきながら、あなただって妹とそういう……」

「君と一緒にしないでもらいたい」

 婚約していた頃の彼の不貞を疑う姉に腹が立ち、前のめりになりかける。
 碧斗さんはそんな私を手で制して、姉の言葉をきっぱりと否定した。

「もちろん音羽とは、君との婚約がなくなるまで異性としていっさい接触していない」

 それは事実だと、私もうなずいた。

「君との婚約がなくなり、波川サイドはかなり焦っていた。うちが関係を絶てば、波川屋はたちまち立ちいかなくなるだろうからな」

 姉は少しでも会社の都合を考えていただろうか。そこで働く社員らの心配をしたことはあるのか。

「音羽との結婚を持ち出したのは、俺の方からだ。彼女は会社のために、それを決意してくれた。君のせいで、小野寺家によく思われていないだろうとわかっていたのにな」

 姉の瞳から、激しい感情が薄れていく。

 婚約を結んだ時点で、お互いの気持ちは明かしていない。
 だから彼にどう思われているのか、義理の家族の心情はどうなのかと不安は大きかった。

 それでも承諾したのは、波川屋を守りたいと思ったからだ。
 同時に、ここまでしてくれる碧斗さんを支えたかった。

「君に、その覚悟があるか?」

 碧斗さんに追い詰められて、姉は無言のままうつむいた。

 しばらくして顔を上げた姉の表情に怒りの感情は見られないが、複雑にゆがんだままだ。彼女の中では、まだいろいろな葛藤があるのだろう。

「邪魔して、悪かったわ」

 それでも、すんなりそう認めたのは、彼女の中にも波川屋を思う気持ちがあったからだと信じたい。

 さっと立ち上がった姉は、それ以上なにも言わないまま店を後にした。

 相変わらず正式な謝罪がないのは、碧斗さんに対して申し訳ない。
 ただ、心がこもっていなければ意味がなく、無理にそれを求めるつもりはない。

 自分の気持ちを押しつける気はないが、姉が少しでも自身の言動を振り返ってくれるように願った。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

病弱な彼女は、外科医の先生に静かに愛されています 〜穏やかな執着に、逃げ場はない〜

来栖れいな
恋愛
――穏やかな微笑みの裏に、逃げられない愛があった。 望んでいたわけじゃない。 けれど、逃げられなかった。 生まれつき弱い心臓を抱える彼女に、政略結婚の話が持ち上がった。 親が決めた未来なんて、受け入れられるはずがない。 無表情な彼の穏やかさが、余計に腹立たしかった。 それでも――彼だけは違った。 優しさの奥に、私の知らない熱を隠していた。 形式だけのはずだった関係は、少しずつ形を変えていく。 これは束縛? それとも、本当の愛? 穏やかな外科医に包まれていく、静かで深い恋の物語。 ※この物語はフィクションです。 登場する人物・団体・名称・出来事などはすべて架空であり、実在のものとは一切関係ありません。

エリート役員は空飛ぶ天使を溺愛したくてたまらない

如月 そら
恋愛
「二度目は偶然だが、三度目は必然だ。三度目がないことを願っているよ」 (三度目はないからっ!) ──そう心で叫んだはずなのに目の前のエリート役員から逃げられない! 「俺と君が出会ったのはつまり必然だ」 倉木莉桜(くらきりお)は大手エアラインで日々奮闘する客室乗務員だ。 ある日、自社の機体を製造している五十里重工の重役がトラブルから莉桜を救ってくれる。 それで彼との関係は終わったと思っていたのに!? エリート役員からの溺れそうな溺愛に戸惑うばかり。 客室乗務員(CA)倉木莉桜 × 五十里重工(取締役部長)五十里武尊 『空が好き』という共通点を持つ二人の恋の行方は……

どうやら夫に疎まれているようなので、私はいなくなることにします

文野多咲
恋愛
秘めやかな空気が、寝台を囲う帳の内側に立ち込めていた。 夫であるゲルハルトがエレーヌを見下ろしている。 エレーヌの髪は乱れ、目はうるみ、体の奥は甘い熱で満ちている。エレーヌもまた、想いを込めて夫を見つめた。 「ゲルハルトさま、愛しています」 ゲルハルトはエレーヌをさも大切そうに撫でる。その手つきとは裏腹に、ぞっとするようなことを囁いてきた。 「エレーヌ、俺はあなたが憎い」 エレーヌは凍り付いた。

極悪家庭教師の溺愛レッスン~悪魔な彼はお隣さん~

恵喜 どうこ
恋愛
「高校合格のお礼をくれない?」 そう言っておねだりしてきたのはお隣の家庭教師のお兄ちゃん。 私よりも10歳上のお兄ちゃんはずっと憧れの人だったんだけど、好きだという告白もないままに男女の関係に発展してしまった私は苦しくて、どうしようもなくて、彼の一挙手一投足にただ振り回されてしまっていた。 葵は私のことを本当はどう思ってるの? 私は葵のことをどう思ってるの? 意地悪なカテキョに翻弄されっぱなし。 こうなったら確かめなくちゃ! 葵の気持ちも、自分の気持ちも! だけど甘い誘惑が多すぎて―― ちょっぴりスパイスをきかせた大人の男と女子高生のラブストーリーです。

極上イケメン先生が秘密の溺愛教育に熱心です

朝陽七彩
恋愛
 私は。 「夕鶴、こっちにおいで」  現役の高校生だけど。 「ずっと夕鶴とこうしていたい」  担任の先生と。 「夕鶴を誰にも渡したくない」  付き合っています。  ♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡  神城夕鶴(かみしろ ゆづる)  軽音楽部の絶対的エース  飛鷹隼理(ひだか しゅんり)  アイドル的存在の超イケメン先生  ♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡  彼の名前は飛鷹隼理くん。  隼理くんは。 「夕鶴にこうしていいのは俺だけ」  そう言って……。 「そんなにも可愛い声を出されたら……俺、止められないよ」  そして隼理くんは……。  ……‼  しゅっ……隼理くん……っ。  そんなことをされたら……。  隼理くんと過ごす日々はドキドキとわくわくの連続。  ……だけど……。  え……。  誰……?  誰なの……?  その人はいったい誰なの、隼理くん。  ドキドキとわくわくの連続だった私に突如現れた隼理くんへの疑惑。  その疑惑は次第に大きくなり、私の心の中を不安でいっぱいにさせる。  でも。  でも訊けない。  隼理くんに直接訊くことなんて。  私にはできない。  私は。  私は、これから先、一体どうすればいいの……?

【完結】妖精姫と忘れられた恋~好きな人が結婚するみたいなので解放してあげようと思います~

塩羽間つづり
恋愛
お気に入り登録やエールいつもありがとうございます! 2.23完結しました! ファルメリア王国の姫、メルティア・P・ファルメリアは、幼いころから恋をしていた。 相手は幼馴染ジーク・フォン・ランスト。 ローズの称号を賜る名門一族の次男だった。 幼いころの約束を信じ、いつかジークと結ばれると思っていたメルティアだが、ジークが結婚すると知り、メルティアの生活は一変する。 好きになってもらえるように慣れないお化粧をしたり、着飾ったりしてみたけれど反応はいまいち。 そしてだんだんと、メルティアは恋の邪魔をしているのは自分なのではないかと思いあたる。 それに気づいてから、メルティアはジークの幸せのためにジーク離れをはじめるのだが、思っていたようにはいかなくて……? 妖精が見えるお姫様と近衛騎士のすれ違う恋のお話 切なめ恋愛ファンタジー

【完結済】25億で極道に売られた女。姐になります!

satomi
恋愛
昼夜問わずに働く18才の主人公南ユキ。 働けども働けどもその収入は両親に搾取されるだけ…。睡眠時間だって2時間程度しかないのに、それでもまだ働き口を増やせと言う両親。 早朝のバイトで頭は朦朧としていたけれど、そんな時にうちにやってきたのは白虎商事CEOの白川大雄さん。ポーンっと25億で私を買っていった。 そんな大雄さん、白虎商事のCEOとは別に白虎組組長の顔を持っていて、私に『姐』になれとのこと。 大丈夫なのかなぁ?

悪役令嬢と誤解され冷遇されていたのに、目覚めたら夫が豹変して求愛してくるのですが?

いりん
恋愛
初恋の人と結婚できたーー これから幸せに2人で暮らしていける…そう思ったのに。 「私は夫としての務めを果たすつもりはない。」 「君を好きになることはない。必要以上に話し掛けないでくれ」 冷たく拒絶され、離婚届けを取り寄せた。 あと2週間で届くーーそうしたら、解放してあげよう。 ショックで熱をだし寝込むこと1週間。 目覚めると夫がなぜか豹変していて…!? 「君から話し掛けてくれないのか?」 「もう君が隣にいないのは考えられない」 無口不器用夫×優しい鈍感妻 すれ違いから始まる両片思いストーリー

処理中です...