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第一章 OBEY

第十八話 御しきれない

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 壬生浪士組でも、最大派閥の芹沢一派が、恐喝まがいのやり方で、島原や祇園などでの遊興費を、あちこちの商家から巻きあげる悪評は、土方の耳にも届いていた。

 それでも芹沢鴨は、烏合うごうしゅうの壬生浪士組には、希少ともいえる武士階級。


 水戸藩士の芹沢の働きかけで、会津藩主との謁見が可能になり、自分達は晴れて会津若松藩御預かりの身となることができたのだ。
 本人もそれを傘にきて、立場上同等であるはずの近藤が、忠告すらもできずにいるのが現状だ。


 今度のことでも、騒ぎの発端となった芹沢は島原にずっと居続けて、屯所とんしょに戻ってさえいない。


 同志といっても芹沢は武士階級。

 会津若松藩御預りになったとはいえ、自分や近藤は、未だ奥多摩で生まれた農民身分のままなのか。
 主家を持たない浪人か。

 会津藩の召し抱えであるのかすらも、判然としない自分達に、武士の芹沢に手は出せない。
 それがどんなに歯がゆくても、だ。


「お前がここにいたって仕方がない。とっとと夜間の巡察に行け」

 土方は項垂れる沖田を顎でしゃくって促した。

「わかりました」
  
 苦々しげに目を伏せて、沖田は身を翻してえんに出る。

 広縁に面した中庭には、蔦屋に斬られた隊士の腕や足などが、ゴミのようにたらいに積まれ、無造作に放置されていた。


 いったい我が身と隊に何が起きたというのだろう。

 あまりのことに絶句して、唇だけを喘がせる。
 すると、質素な茅葺かやぶきの裏門から、諸士取調役兼監察方の宮迫みやさこが現れた。

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