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第一章

第12話 迷惑な犬

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「ルガさん」

「ん? おお、ハヤトか。毎日は来なくていいと言ったのに。どうしたんだ?」

 まだまだ時間もあったからルガさんに会いに来た。ルガさんは呆れたように言ってくるけど、照れ隠しだろうな。

「皆さんは?」

「おう、いつもの食べ物探しさ。おっと、恵もうなんて思うなよ。俺達は自分で生きていくからな」

「分かってますけど……少しくらい」

「はぁ。それになれたら俺らは抜けられなくなっちまう。俺達を助けると思ってな。おめえが優しいのは分かってるからよ」

 ルガさんはそういって頭を撫でてくる。恩人のみんなには少しでもいい生活をしてほしいんだけどな。
 名前も教えてくれないくらい、世の中から逃げてる人たちだから仕方ないんだけどさ。

「分かりましたよ。でも、話しあいてになってくれた人にお金を払うのは普通のことでしょ?」

 そういって銀貨を一枚取り出す。ルガさんはため息をついて受け取る。

「受け取らなかったら置いていくんだろ?」

「そうですね」

「まったく……」

 ルガさんは呆れて笑顔になっていく。お金は最後まで使わないらしい。本当に律儀だな。

「酒と服はありがたく使わせてもらってるよ。これで目立っても大丈夫なやつらで少しの仕事をさせてもらってる。その中に俺も含まれるってわけだ」

「ハンマーですか?」

「ああ、ハヤトは知らんだろう。俺は鍛冶屋をやっていたんだ。少し有名になっちまってな。それで目をつけられて隠れてるってわけだ」

 ハンマーを取り出して話すルガさん。感慨深げに空を見上げていてうっすらと涙が見える。

「そうだったんですね」

「ああ、他の奴らもみんな同じようなもんだ」

 有名になって煩わしくなっちゃったんだな。贅沢な悩みではあるけど、この時代じゃそれだけで命に関わることになるのかもな。日本の刀匠も凄腕になると一本名刀を作らせて、殺されてしまったとか言うしね。希少価値を生むために……。

「俺は剣を作っていたんだがな。今は手甲なんかを作るようなはこびになった。自由に作っていいと言われたがそうもいかねえんだよな。儲けを出したらハヤトにも作ってやるからな」

 ルガさんは嬉しそうに報告してくれる。一日しか経ってないのにそんなはこびになったのか。その鍛冶屋さんは見る目があるな。

「というわけでだ。おめえが置いていった酒がある。そして、ここにも酒がある。みんなが帰ってきたら宴会をする予定なんだが」

「あっ! じゃあ参加しますよ。いいですか?」

「飲もうって誘おうとしたのにおめえは。まったく」

 ルガさんは恥ずかしそうに話してきた。言えない感じだったから僕から言ったら背を向けてきた。あれは泣いてるだろうな。ふふふ。

「おお~、ハヤト~」

「おじさん達お帰り」

 そうこうしているうちにおじさん達が帰ってきた。早速布で出来た小屋に入って大宴会。どんちゃん騒ぎですぐに帰る時間になっちゃった。

「もう帰るのか? 送っていかなくて大丈夫か?」

「はい。大丈夫。酔ってもいないですし」

「そうか、気をつけて帰れよ~」

「みんなも程々にね」

 お酒好きのおじさん達は大量にお酒を飲んじゃって酔っちゃってるけど、僕とルガさんはそんなに飲んでない。普通の足取りで帰れる。

「てめ~。待ってたぞ」

 帰ろうと思ったら細い路地で犬の獣人と取り巻き達が待っていた。腕をけがしてるのに木の棒なんか持ってて完全にやる気満々だな。

「覚えてたか? ああ?」

「覚えてないけど、何か用?」

 とりあえず、問いかけに答える。まったく、僕が恨みを持つのは当たり前だけど、君たちは恨まなくていいだろうに。僕が何か奪ったわけじゃないだろ。って言うか僕のスーツ脱げよ。ぱっつんぱっつんだから似合わないぞ。おまえ。って声に出せればいいんだけどな、小心者ではあるから仕方ない。

「すぐに泣かせてやる」

「おっと、ハヤト殿を迎えに来たら変な奴らに囲まれているな」

 犬の獣人の言葉を裂くように白銀の鎧を着たアイラさんが現れた。颯爽と僕の前を陣取ると剣を引き抜いて天へと切っ先を掲げた。

「ハヤト殿の敵は私の敵。死ぬ覚悟があるのならば来るがいい」

 アイラさんはかっこよく言い放つ。

「ハヤト兄ちゃん!」

「ニカも来てくれたのか」

「うん。迎えに来たんだ~。このお兄ちゃん達は?」

 ニカが抱き着いてきた。二人で迎えに来てくれたみたいだ。なんだか嬉しいな。

「ちぃ。覚えてろよ」

「だから、覚えてないって」

 逃げ台詞にいちいち返す。本当に覚えておくのは頭の容量の無駄遣いなんだよな。

「ふむ、この町の不良は気概がないな。つまらない」

「やりたかったの?」

「剣はやりすぎだが、教え込むにはやり合わないといけない場合もあるからな」

 アイラさんの言葉に質問すると剣を鞘に納めて経験談っぽいことを話してくる。騎士団を除隊したといっていたよな。町の警備みたいなこともしていたのかもな。

「あのもの変な服を着ていたが?」

「ああ、僕の服だよ。そこそこ高価な服なんだけどね。初めて会った時に取られてそのままなんだ」

 アイラさんの疑問に答えると彼女は考え込んだ。僕のとは言わない方がよかったかな?

「お兄ちゃんお姉ちゃん帰ろう」

 ニカに手を引っ張られて三人で雷の宿屋へと帰る。あの犬の獣人達に毎回会うようになったな。完全に目をつけられちゃったよ。

「ふぅ~」

 雷の宿屋に帰ってきてベッドに横たわると自然とため息がでる。あんな不良たちが初めての異世界人なんだよな。ルガさんやニカが初めてだったらこんな考えることもなかったんだけどな。
 まあ、悔やんでも仕方ない。とりあえず、ステータスを見てみよう。

 伊勢川 隼人 (イセガワ ハヤト)

 LV 4

【体力】35
【魔力】26



【筋力】25

【生命力】24

【命中性】25

【敏捷性】25

【知力】20

【精神力】23

 スキル

【学習アシスト】【ブラリカ語】【軽装】【棒術】【剣術】【短剣術】【料理】【格闘術】【二刀流】

 異世界商店  4万3百G

【入店】【退店】

 一レベルあがってもこのステータス。ステータスの数字自体はチートの物じゃないな。
 異世界商店をどう使うかが僕のチートの見せどころだろう。

「ベロニカさんの料理を見ると調味料は塩だけだよな~。肉の骨から出汁をとるとかそういったのもないように感じる」

 肉を煮て出た出汁は使うけど骨は捨ててる。ルガさんの小屋の前にあったゴミもそんなものがいっぱいだった。骨は使い物にならないって考えなんだろう。

「砂糖とか胡椒とか、調味料を売れば結構お金には困らないだろうけど。この世界で売られている商品しかリストに載らないんだよな」

 異世界商店は異世界の店。地球の商品が載るわけじゃないから調味料もあるかわからない。まだ全部見れてないって言うのもあるけどね。

「あっ。砂糖があった。100グラム100Gか安いかもな」

 砂糖百グラムって結構な量だよな。販売はまだ商人ギルドみたいなところに伝手がないから考えられないけど、ベロニカさんに使ってもらうって言うのはいいかもな。とりあえず、一袋。

「ペロ。うん、甘いな。色も白いしいいかも」

 一袋買って中身を確認。ペロッとなめると地球の砂糖と変わらない甘さ、色も真っ白で品物としては間違いはないかもな。

「明日は商人ギルドにでも行ってみようかな」

 少し胸弾ませて眠りにつく。心配な異世界生活だったけど、何とかなりそうだな。
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