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第一章

第11話 エンプレスの町

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「すぐ終わっちゃったね~」

「そうだね。ニカが強いからね」

「え~、ハヤト兄ちゃんも強いよ~。僕だけじゃないよ」

 ニカと褒め合いながら森を抜けて街道を歩く。依頼のゴブリンは瞬殺だったし、グールは危なかったけど、難なく倒せたしな。

「あっ、入るにはあの列に並ばないといけないのか」

 町に入る街道に人の列が出来てる。馬車が並ぶ列と歩きの人の列の二つ。馬車の列はすぐにはいれそうだけど、人の列はさっき出てきた時よりも多いな。

「お兄ちゃん何してるの?」

「え? いや、町に入るには列に」

「僕らは町に住んでるから大丈夫だよ。ギルドでもらった登録証があるでしょ。僕はこっちだけど」

 ニカは列に並ぶ僕に驚いて声をあげた。僕がそれに答えるとニカは手首のリストバンドを見せて話す。
 あれが町の住人の証なのか。オシャレ的なものだと思ったんだけど、違うみたいだ。

「外に出る時はこのリストバンドをしなさいって母ちゃんに言われたんだ」

「そうだったのか。じゃあ、僕らは普通に入れるんだな」

 列から離れてニカと一緒に門へと向かう。
 ニカの言う通り、ギルドの登録証とリストバンドを二人で見せると兵士達は僕らをそのまま通してくれた。

 まっすぐギルドに向かう。ギルドについて入ると町の外であった白銀の騎士が受付と話しをしているのが視界に入った。
 騎士と受付のヴェインの声が聞こえてくる。

「狼の牙が換金できないなんておかしいだろ」

「すみません。エンプレスでは常時依頼に入っていなくて、明日には常時依頼にしておきますから」

「それでは金が……事情があって無一文なのだ」

 白銀の騎士さんは切羽詰まっている様子。馬も持っていたのに無一文はかなりの事情がありそうだな~。

「ハヤト兄ちゃん。あの人困ってるみたいだけど、うちに呼んでもいいかな?」

「ああ、そうか。お金がないことを言ってるってことは宿のこととかを気にしてるのか。ってニカはなんで僕に確認してるの? ベロニカさんに聞かないと」

「母ちゃんは大丈夫だと思うから。いいかな?」

 ニカが指をくわえて聞いてくる。ベロニカさんは大丈夫だから僕に聞くってよくわからないな。とりあえず、僕はいいから肯定しておくか。

「宿代くらいにしてもらえないと困るぞ。町に入るのでまったくないからな」

「って言われてもな……」

 騎士さんとヴェインさんが困ってる。ニカがそれを見て駆けていくとすぐに笑顔に変わった。

「それは本当か?」

「はい」

 騎士さんは喜んで声をあげる。ニカが帰ってくると騎士さんも一緒に来て、自己紹介してくれた。

「私の名はアイラ。訳あってある騎士団を除隊してきたんだ」

「あ~それで無一文なんですね。僕はハヤトと言います」

「僕はニカだよ」

 握手を交わしてアイラに自己紹介。それから僕もヴェインに依頼報告をして雷の宿屋に帰ることになった。まだまだ時間があるからもう一件くらいやりたかったんだけどね。
 それでもゴブリン五匹の討伐依頼は銀貨一枚もらえた。下水のネズミとは大きく違う報酬に驚いたな。
 まあ、もっと驚いたのがグールの切れ端と魔石だ。グールの討伐証明の切れ端は一枚で銀貨一枚。魔石は銀貨二枚と高くなってる。生命力が強いだけのグールなのにな。冒険者にとってはボーナスみたいなものかもな。

「ここがニカ殿のお母様の?」

「うん。雷の宿屋だよ。さあ、はいって~」

 アイラが首を傾げて質問するとニカが自慢げに話して扉を開けてくれる。アイラとニカが入った後に入って行くと、ベロニカさんに抱き着くニカ。外での冒険を楽しそうに話す。

「私はアイラだ。お金は後で払ってもいいだろうか?」

「大丈夫よ。またニカが連れてきたんでしょ?」

「え~。今度はハヤト兄ちゃんだよ~」

「ええ!?」

 アイラの自己紹介に呆れた様子のベロニカさん。なぜかニカが僕のせいにしてきたが顔がいたずらが成功したように緩んでる。完全に狙ってたな。

「ふふ、大丈夫よ。ニカのせいでしょ」

「えへへ。ごめんねお兄ちゃん」

 ベロニカさんは分かってくれて、ニカの頭を撫でながら笑顔を向けてくれる。ニカは楽しそうに謝ってるな。

「ふふふ、仲がいいんだな。よろしく宿屋の女将」

「私の名はベロニカよ」

「よろしくベロニカ殿」

 微笑ましく笑うアイラが握手を求めてベロニカさんに手を伸ばす。ベロニカさんは自己紹介をして握手を交わす。

「ハヤト殿はベロニカ殿の旦那様か?」

「「!?」」

 急なアイラさんの質問にベロニカさんと一緒に驚く。手をブンブン振って、

「いやいや、違うよ」

「む? そうなのか? ニカ殿はハヤト殿の息子ではないのか?」

「違うって……」

「むむ、そうか。かなり距離が近かったのでな。勘違いしてしまって申し訳ない」

 何度も言ってくるアイラ。そんなに距離近かったかな? 少し気をつけないといけないな。

「ん~。僕はハヤト兄ちゃん好きだけどな~。母ちゃんダメなの?」

「そうゆうことはもっとお近づきになってからってことね」

「え~。そうなの?」

 ニカとベロニカさんが小声で話してる。内容は聞こえないけど、ニカが不満そうだな。

「まあ、とりあえずありがとう。ニカ殿、ハヤト殿」

 深くお辞儀をしてお礼を言ってくるアイラさん。兜も外して長い赤い髪から甘い香りが。

「いえいえ、お礼はニカに言ってよ。僕もニカに連れられて泊めてもらった口だから」

「そうなのか? では、ニカ殿ありがとう」

「えへへ」

 僕がニカの頭を撫でて言うとアイラが続いて頭を撫でていく。嬉しそうに照れるニカ。

「じゃあ、お部屋を案内するね」

「ああ、すまない」

 ニカと一緒に奥の通路に入って行くアイラ。僕とベロニカさんはそれを見送った。

「ごめんなさいねハヤトさん」

「え? 何のことですか?」

 急にベロニカさんに謝られて困惑。何かあったっけ?

「アイラさんに誤解されるなんて嫌だったでしょ?」

「……あっ、ああ~。いやいや、それはこちらこそですよ。僕なんかと、ね~」

 ベロニカさんの言葉に顔が赤くなるのを感じた。昨日会ったばかりの人と、それもベロニカさんみたいな凄い美人と……光栄でしかない。

「お兄ちゃん。何やってるの~、一緒に来てよ~」

「え? あ、分かった」

 なぜかニカに呼ばれてアイラの部屋へ。ベロニカさんは微笑んで厨房に帰っていく。
 うむ、家族って感じでいいな。ってそれを僕が想うのはおこがましいか。

「ハヤト殿、この宿はいいな」

「え、ああ、そうだね」

 部屋を覗くと鎧を脱いだアイラがベッドに寝そべっていた。鎧の中も少し高めの服を着てるんだな。

「じゃあ、僕は母ちゃんを手伝ってくるね~」

「あ、お~い。……なんで僕は呼ばれたんだ?」

 ニカが出ていくのを見送って呟く。

「ああ、それは私が呼んだんだ」

 するとアイラがそういって立ち上がって近づいてくる。

「これから同じ屋根の下、仲よくしよう」

「ん、ああ。よろしく」

 アイラさんは握手を改めて求めてきて答えるとニカっと笑った。
 
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