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第一章

第26話 リーサの嫁入り修行

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「そこ、わきがあまくなってる!」

「は、はい!」

「今度は握りがあまい!」

「はい!」

 アイラに剣の指導をされるリーサさん。
 リーサさんに助けを求められて次の日。今日は依頼をせずに彼女の問題を解決しようと動くことにした。アイラはこの世界の女性代表、必ずバルバトスさんと彼女を結んでくれると思って任せてみたんだけど。なんか違うような……。

「相手が剣を振り上げる。すると自然に隙が脇にできる。そこを鋭く切り込む!」

 アイラがそういってかかしの脇を切り裂く。木剣なのにかかしが上下に分かれてる。やっぱり違うと思うんだけどな。

「なるほど、強いバルバトス様の気持ちを理解するには自身も強くなるしかない。流石はアイラさんですね」

「ん~、違うと思うな~。ねえ? お兄ちゃん」

 リーサさんが僕らに確認を取るように目を輝かせて聞いてくる。ニカが我慢できずに僕を見て正直な感想を告げてくる。僕も頷くとリーサさんは首を傾げてしまった。

「私は母から嫁に行くには強くならないといけないと教わったぞ?」

「なにその部族みたいな考え……」

「なっ! ハヤト! 部族とはなんだ部族とは!」

 わあ! アイラが首を傾げながら話してきたから教えてあげようと答えると掴みかかってきた。上下に首を揺らされて気持ち悪くなってきた。

「アイラダメにゃ、マスターいじめるにゃ」

「な、ルキナを使うのは反則だぞハヤト」

 ルキナちゃんが僕を庇ってくれる。アイラに反則とか言われるけど、言葉が分かるのは僕だけだからな。そう思われても仕方ないか。
 ルキナちゃんも徐々にみんなの言葉を理解し始めてる。言葉を話せるかって言うとまだまだだ。アイラと僕とで教え始めることになったからこれからだな。

「やっぱり、リーサさんは綺麗なんだから綺麗な服とかを着てバルバトスさんを誘惑すればいいんじゃないの?」

「ゆ!? 誘惑!?」

 ニカの提案にリーサさんがかちんこちんに固まってしまう。アイラが揺らしても柔らかくならないな。

「まあ、確かに。意識させるには綺麗な姿を見せるべきなのかな? 告白は出来ないんでしょ?」

「は、はい」

 リーサさんが元に戻るのを見て話すと顔を赤くして頷く。まあ、告白できても、今まで娘と思っていたリーサさんだもんな。本気に取ってくれるかわからないな。バルバトスさんって鈍感っぽいしね。

「やはりお母様の言っていたことをやるべきだ! さあ、剣を握って!」

「は、はい!」

 アイラが目を輝かせてリーサさんに木剣を手渡す。しばらく冒険者ギルドの地下の訓練場でリーサさんとアイラの掛け声がこだますることとなった。
 ため息をつきながらも二人を見ているとギルドからだれか降りてくる。

「あ~……コホン」

「ん? ダンだっけ?」

 僕にヤジを飛ばしてきた男ダンがやってきて咳ばらいをする。僕の横に座ると独り言を話し始める。

「バルバトスさんはオークの肉のステーキが好きなんだ。それと青いワンピース」

「え?」

「だ~か~ら~、バルバトスさんの好きなものだよ。リーサとくっつけるんだろ?」

 なぜかバルバトスさんの好きなものを言ってくるダン。何か裏があるんじゃないかな?

「裏があると思ってるんだろ? そんなもんねえよ」

「じゃあなんで?」

「バルバトスさんがよ……こけたんだ」

「こけた?」

 ダンが俯きながらバルバトスさんの様子を伝えてくる。思わず首を傾げると大きなため息をつかれる。

「あの人のあんな気の抜けた姿見てられねえよ。早く元に戻ってほしいんだ。俺が原因みたいなものだったしな」

「は~、ちゃんと責任感じてるんだ~」

「ばっ! そういうんじゃねえよ。ただ……みていられねえだけだ」

 ダンの呟きに僕も呟くと顔を赤くするダン。誰得だ。

「おじさんはバルバトスさんが好きなんだ~」

「おじ!? 馬鹿野郎、好きとかじゃねえよ」

 ニカの指摘にまたもや顔を赤くするダン。だから、誰得だよ。

「と、とにかく! 伝えたからな。ぜってえくっつけて元に戻してくれよ」

「はいはい。やれるだけやってみるよ」

「ぜってえだ。俺の情報が役に立ったって言うのも言っといてくれよ」

 ダンの捨て台詞に手をひらひらとふって答える。彼がいなくなるのを見送って大きなため息をついた。
 あの人は素直じゃないおじさんなのかな? あの人も言っていたけど、あなたのせいでこじれてしまったんだよね。あのまま一緒に過ごしていれば自然と夫婦になったって言うのにさ。

「はぁ。まあ情報通り、手はうちますか」

「マスター? お洋服買うにゃ?」

「そうだね。青いワンピースだっけ」

「にゃ!」

 オークのステーキと青いワンピース。どちらも100Gで買える。異世界商店の凄いところは持った人のサイズになるところだ。ニカの服と僕の服を買った時に気が付いたんだよな。勝手に小さくなったり大きくなったりした、思えばあの時からニカにはバレていたんだろうな。
 因みにルキナちゃんには可愛いフリフリのついたピンクのワンピースを買ってあげた。凄い喜んでくれて僕らも嬉しかった。

「アイラ! 色々分かったから訓練は終わりにしよう」

「ん? もうか? これから技を伝授しようと思ったのに……」

 買い物を終えて、アイラに声をかける。残念そうにアイラたちが引き上げてくる。汗だくの二人にタオルを渡すと微笑んでお礼を言ってくる。美人に微笑まれるとついつい口角が上がってしまうな。ダンの赤くなった顔を見た後だからって言うのもあるから眼福だ。

「バルバトス様の好きな服?」

「そうみたいだよ」

「……知らなかった」

 青いワンピースを手渡すと感慨深げに呟くリーサさん。好きな人の好みも知らない、そんな感じで自己嫌悪してるのかな……。

「オークのお肉ですか?」

「ステーキが好きなんだってさ」

「そうなのですね……。ステーキは良く焼いていました」

 オークの肉を手渡すと頬を高揚させて話す。思い入れがあるのかもな。食事は流石に好みは知ってるだろう。

「じゃあ、ワンピースを着てステーキを用意してあげればメロメロだね」

「メロメロにゃ!」

 ニカとルキナちゃんが声をあげる。ルキナちゃんも僕を通して何をしてるのか分かってるからな。ニカの言葉のニュアンスに反応したんだろう。嬉しそうに跳ねる二人、リーサさんも微笑んで見てる。

「皆さん、ありがとうございます。アイラさんの剣術もとても勉強になりました。彼の世界はああいった世界だったんですね」

「あ、ああ。いついかなる時も隙を見せると命に関わる。そういう世界だぞ?」

 リーサさんは青いワンピースをギュッと握ってお礼を言ってくる。アイラがそれに答えると僕らに背を向けて地下の出口へと向かって歩き出した。

「ここからは私の戦場。必ず勝ち取って帰ってきます」

 リーサさんは決意めいた言葉を残して地下から消えていった。どうやら、決心がついたみたいだな。絶対にうまくいくよ、だって嫌いって言うわけじゃないんだからさ。
 
「大丈夫だよな?」

「大丈夫、バルバトスさんはいい人だもん。素直に好きだと伝えれば必ず答えてくれるよ」

 アイラが心配そうに呟いてくる。僕が答えるとみんな頷いて笑顔になっていく。
 ステーキなんて言ったから僕らもお腹が空いてしまった。雷の宿屋に帰ってご飯にしよう。
 
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