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第一章
第27話 領主カタリナ
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「お帰りなさい」
『ただいま~』
雷の宿屋に帰ってきてベロニカさんに迎えられる。満面の笑みで食事を準備してくれてる。僕らの欲しいものが分かっていたかのようにステーキが食堂の机に並んでる。サラダも添えられててすぐにでも食べ始めたい気持ちになる。
「みんなの分も用意してるから、食べ始めていいわよ」
「手伝いますベロニカさん」
「ありがとうアイラさん」
ベロニカさんの言葉にアイラが手伝いを申し出る。二人の様子を伺いながら席に着くとみんなの前に料理が並んでいく。
「ルキナちゃんはこっちね」
「ありがとうにゃ、ベロニカさん」
「ふふ、お礼を言ってくれたのかしら?」
少し小さめのステーキをルキナちゃんの前に置くベロニカさん。僕にはしっかりとお礼を言ったのは分かるんだけどベロニカさん達はわからない。微笑んでるルキナちゃんを見て察してる。僕も本来は異世界語を喋ってるみんなの言葉は分からないんだろうな。スキル様様だ。
「ルキナちゃんも勉強頑張ろうな」
「うん。ルキナ頑張るにゃ!」
彼女の頭を撫でてあげると嬉しそうに尻尾をブンブン振った。ステーキを頬張ると更に速度が速くなる。
「美味しいにゃ!」
「美味しい!? これって胡椒? 母ちゃん、お金大丈夫?」
ルキナちゃんの声とほぼ同時にニカが嬉しそうに叫んだ。このステーキには見覚えのある黒い粒がかかってる。この世界の胡椒はとても希少、異世界商店では希少価値は入らないから地球の胡椒と同じくらいの値段だ。100グラム100Gと言った感じ。ベロニカさんに美味しいものが食べたいということで前もって調味料はわたしてあるんだよね。料理スキルを持っていても料理をしない僕、宝の持ち腐れだな。
みんなと一緒にベロニカさんの料理を楽しんで今日はゆっくり過ごす。異世界に来てみんなと休むのはこれが初めてだな。
僕の部屋にみんなで集まって雑談をすることにして、怠惰に過ごす。
異世界に来て初めてゆっくりしていると、ベロニカさんから声がかかる。
「ハヤトさん。お客様が~」
部屋の外からそんな声がかかる。少しするとベロニカさんに案内されてカタリナ様がやってきた。領主様が来たということでみんな姿勢を正す。
「カタリナ様! どうしたんですか?」
驚いてカタリナ様に問いかける。名前を呼んだことでベロニカさんも気が付いて驚いてる。
カタリナ様は後ろにいたメイドさんから書状を受け取ると僕に手渡してきた。
「これは?」
「ん? 依頼?」
王印のような物が刻まれている綺麗な白い紙。アイラも紙を覗いてきて首を傾げる。
「ハヤトさん……。下水道と城壁について、なにかいうことはないですか?」
カタリナ様は目を瞑って少しため息のように息を吐くと声を発した。
下水道と城壁? 何のことだろう、少し怒っているようにも思えるけど?
「すみませんカタリナ様。思いつきません……」
「……でしょうね。あなたはとても優しい人のようですから」
僕の言葉を聞いて、カタリナ様は瞑っていた目を開くと優しく口角をあげる。
「その依頼書は下水道と城壁の修繕依頼のものです。これを冒険者ギルドに出せば報酬が貰えます。本当にありがとうございました」
「え? どういうことですか?」
メイドさんと共に深くお辞儀をするカタリナ様。何が何やら?
「お兄ちゃん! 下水道と城壁を直しちゃったでしょ、そのことだよ!」
「え? ああ~、ひびが入ってたやつ?」
ニカが気がついて僕の肩を叩いてくる。あんな片手間に直したことを言っているのか。報酬なんていらないのにな。
「ハヤト様、私はセレスと申します」
要らないと言おうと思ったらメイドさんが僕の顔に肉薄してきて自己紹介してくる。流石に近すぎてたじろぐ。
「お優しいあなた様のことです。報酬はいらないなんて言うんじゃないですか?」
「あっ、はい。ついでに直しただけなんでそんな報酬なんて」
「やはり、それではダメです。あなた様のランクは鉄でしょ? これを終らせれば銀まで上がれるはずです。すぐにでも報酬を受け取ってくださいませ」
セレスさんが更に顔を近づけてきて早口に話す。鉄ランクから銀に一気に? そんなに凄いことしたの?
「ハヤトさん。グールとの戦いで一番の功労者となりました。それだけでも銀になれます。ですが依頼をこなした数がまだまだ少なかったので据え置いたのです。今回の報酬を達成することでバルバトス様から了承を得て、銀へと上がることとなります。おめでとうございます」
セレスさんに続いてカタリナ様は教えてくれる。二人共満面の笑みでなんか怖いな。
「ふむ、二人はハヤトを早く使いたいといったところか?」
「な! 何を言うのですアイラ様!」
アイラが二人に向かって声をあげる。セレスさんが驚いて睨みつける。
「セレスいいのです。本当のことですから」
「カタリナ様……」
なんかわけありみたいでカタリナ様が悲しい顔になっていく。セレスさんも辛そうだ。
「グールの群れが思ったよりも多くて財政が厳しい状況です。下水道と城壁の修繕、グール撃退の報酬等などが重なったせいで滞ってしまう状況になってしまいました」
カタリナ様が俯きながら話しだす。
「そんな時、下水道や城壁を再度調べて見積もりを出そうと思ったら、すべて直っていたのです……。調べてみたら城壁が崩れたという情報と共にハヤトさんが目撃されていました。綺麗に直っている城壁も確認しましたよ」
カタリナ様が嬉しそうに報告してくる。あの時見てる人がいたのか、あの大きさの壁が壊れたんだから見ようとしなくても見えるか。
「……。カタリナ様、セレスさん。本題はなんですか? ハヤトになにを?」
「アイラ?」
アイラが考え込んで口を開く。カタリナ様の話とセレスさんの話を聞いて何か感じとったみたいだ。僕は何のことか全然わからない。
「単刀直入に言います。ハヤトさんの力で特産品を作ってほしいのです」
「特産品?」
「実は商人ギルドでのあなたの取引を見させていただきました。砂糖の件です」
カタリナさんは俯きがちに声をもらす。エラさんとの取引の書類を見たみたいだ。取引はどうしても証拠が残るからな。
「特産品を作って財政を良くする。そうすることが出来れば商人ギルドにお金を借りることも容易になるはずなんです。どうか! お願いします」
「カタリナ様! あなた様が頭を下げなくても!」
「止めないでセレス。ハヤトさんの砂糖があれば経済はいい方向に向くわ。そうすれば、この町も救われるの」
カタリナ様が深く頭を下げたことでセレスさんが驚いて声をあげる。それでもお構いなしに僕へと頭を下げるカタリナ様。
僕は冷や汗をかいてみんなの顔に視線を向ける。みんなもかなり驚いてるな。
「ハヤトさん。どうにかできないの?」
「そ、そういわれても……」
ベロニカさんが心配そうに声をかけてくる。そんなこと言われても、これでいうこと聞いたらきりがなくなるよね。ずっと砂糖を生む仕事につかないといけなくなっちゃうよ。
「ハヤトに頼る前に何かできることはないのか?」
「最近入った鍛冶屋の新人がとてもいい働きをしてくれていて、それはとても好調なのですがなにぶん最近のことなので、まだまだ……」
アイラの問いにカタリナ様が答える。
鍛冶屋ってルガさんのことか、彼の腕に気が付くなんて見る目あるな~。でも、そうなるとルガさんが一躍有名になっちゃうな。それは困るんじゃないだろうか……。仕方ない……
「分かりました。でも条件があります」
「ありがとうございます。条件とは?」
ルガさんを守るために声をあげる。カタリナ様はとても喜んでくれて首を傾げて聞いてきた。
「鍛冶屋の新人さんが目立たないようにすることと僕のことを秘密にすることです」
「新人の方と知り合いなんですか?」
「はい、たぶんカタリナ様の言っている方はルガさんだと思います。とても恩のある方で彼の仲間にも同じくらいの恩があるんです」
条件を話すとカタリナ様は興味津々といった様子。ルガさんのことを話すと大きく頷いてくれた。これであんまり目立たなくなるはずだ。
「分かりました。二人のことは秘密で。町の特産品を生む方々を秘匿するのはある意味常識、徹底して守っていきます」
「ありがとうございます」
「いえ、こちらこそありがとうございます」
カタリナ様が誓ってくれると握手を交わした。綺麗な紙に毎日砂糖を十キロ卸すという契約を交わす。砂糖じゃなくて他の物も卸していいという話もすると驚いていた。しかし、そうなるとお金が足りなくなってきそうだな。
本格的に異世界商店のお金を稼ぐ必要が出てきてしまった。また、ゴミ山できてないかな~。
『ただいま~』
雷の宿屋に帰ってきてベロニカさんに迎えられる。満面の笑みで食事を準備してくれてる。僕らの欲しいものが分かっていたかのようにステーキが食堂の机に並んでる。サラダも添えられててすぐにでも食べ始めたい気持ちになる。
「みんなの分も用意してるから、食べ始めていいわよ」
「手伝いますベロニカさん」
「ありがとうアイラさん」
ベロニカさんの言葉にアイラが手伝いを申し出る。二人の様子を伺いながら席に着くとみんなの前に料理が並んでいく。
「ルキナちゃんはこっちね」
「ありがとうにゃ、ベロニカさん」
「ふふ、お礼を言ってくれたのかしら?」
少し小さめのステーキをルキナちゃんの前に置くベロニカさん。僕にはしっかりとお礼を言ったのは分かるんだけどベロニカさん達はわからない。微笑んでるルキナちゃんを見て察してる。僕も本来は異世界語を喋ってるみんなの言葉は分からないんだろうな。スキル様様だ。
「ルキナちゃんも勉強頑張ろうな」
「うん。ルキナ頑張るにゃ!」
彼女の頭を撫でてあげると嬉しそうに尻尾をブンブン振った。ステーキを頬張ると更に速度が速くなる。
「美味しいにゃ!」
「美味しい!? これって胡椒? 母ちゃん、お金大丈夫?」
ルキナちゃんの声とほぼ同時にニカが嬉しそうに叫んだ。このステーキには見覚えのある黒い粒がかかってる。この世界の胡椒はとても希少、異世界商店では希少価値は入らないから地球の胡椒と同じくらいの値段だ。100グラム100Gと言った感じ。ベロニカさんに美味しいものが食べたいということで前もって調味料はわたしてあるんだよね。料理スキルを持っていても料理をしない僕、宝の持ち腐れだな。
みんなと一緒にベロニカさんの料理を楽しんで今日はゆっくり過ごす。異世界に来てみんなと休むのはこれが初めてだな。
僕の部屋にみんなで集まって雑談をすることにして、怠惰に過ごす。
異世界に来て初めてゆっくりしていると、ベロニカさんから声がかかる。
「ハヤトさん。お客様が~」
部屋の外からそんな声がかかる。少しするとベロニカさんに案内されてカタリナ様がやってきた。領主様が来たということでみんな姿勢を正す。
「カタリナ様! どうしたんですか?」
驚いてカタリナ様に問いかける。名前を呼んだことでベロニカさんも気が付いて驚いてる。
カタリナ様は後ろにいたメイドさんから書状を受け取ると僕に手渡してきた。
「これは?」
「ん? 依頼?」
王印のような物が刻まれている綺麗な白い紙。アイラも紙を覗いてきて首を傾げる。
「ハヤトさん……。下水道と城壁について、なにかいうことはないですか?」
カタリナ様は目を瞑って少しため息のように息を吐くと声を発した。
下水道と城壁? 何のことだろう、少し怒っているようにも思えるけど?
「すみませんカタリナ様。思いつきません……」
「……でしょうね。あなたはとても優しい人のようですから」
僕の言葉を聞いて、カタリナ様は瞑っていた目を開くと優しく口角をあげる。
「その依頼書は下水道と城壁の修繕依頼のものです。これを冒険者ギルドに出せば報酬が貰えます。本当にありがとうございました」
「え? どういうことですか?」
メイドさんと共に深くお辞儀をするカタリナ様。何が何やら?
「お兄ちゃん! 下水道と城壁を直しちゃったでしょ、そのことだよ!」
「え? ああ~、ひびが入ってたやつ?」
ニカが気がついて僕の肩を叩いてくる。あんな片手間に直したことを言っているのか。報酬なんていらないのにな。
「ハヤト様、私はセレスと申します」
要らないと言おうと思ったらメイドさんが僕の顔に肉薄してきて自己紹介してくる。流石に近すぎてたじろぐ。
「お優しいあなた様のことです。報酬はいらないなんて言うんじゃないですか?」
「あっ、はい。ついでに直しただけなんでそんな報酬なんて」
「やはり、それではダメです。あなた様のランクは鉄でしょ? これを終らせれば銀まで上がれるはずです。すぐにでも報酬を受け取ってくださいませ」
セレスさんが更に顔を近づけてきて早口に話す。鉄ランクから銀に一気に? そんなに凄いことしたの?
「ハヤトさん。グールとの戦いで一番の功労者となりました。それだけでも銀になれます。ですが依頼をこなした数がまだまだ少なかったので据え置いたのです。今回の報酬を達成することでバルバトス様から了承を得て、銀へと上がることとなります。おめでとうございます」
セレスさんに続いてカタリナ様は教えてくれる。二人共満面の笑みでなんか怖いな。
「ふむ、二人はハヤトを早く使いたいといったところか?」
「な! 何を言うのですアイラ様!」
アイラが二人に向かって声をあげる。セレスさんが驚いて睨みつける。
「セレスいいのです。本当のことですから」
「カタリナ様……」
なんかわけありみたいでカタリナ様が悲しい顔になっていく。セレスさんも辛そうだ。
「グールの群れが思ったよりも多くて財政が厳しい状況です。下水道と城壁の修繕、グール撃退の報酬等などが重なったせいで滞ってしまう状況になってしまいました」
カタリナ様が俯きながら話しだす。
「そんな時、下水道や城壁を再度調べて見積もりを出そうと思ったら、すべて直っていたのです……。調べてみたら城壁が崩れたという情報と共にハヤトさんが目撃されていました。綺麗に直っている城壁も確認しましたよ」
カタリナ様が嬉しそうに報告してくる。あの時見てる人がいたのか、あの大きさの壁が壊れたんだから見ようとしなくても見えるか。
「……。カタリナ様、セレスさん。本題はなんですか? ハヤトになにを?」
「アイラ?」
アイラが考え込んで口を開く。カタリナ様の話とセレスさんの話を聞いて何か感じとったみたいだ。僕は何のことか全然わからない。
「単刀直入に言います。ハヤトさんの力で特産品を作ってほしいのです」
「特産品?」
「実は商人ギルドでのあなたの取引を見させていただきました。砂糖の件です」
カタリナさんは俯きがちに声をもらす。エラさんとの取引の書類を見たみたいだ。取引はどうしても証拠が残るからな。
「特産品を作って財政を良くする。そうすることが出来れば商人ギルドにお金を借りることも容易になるはずなんです。どうか! お願いします」
「カタリナ様! あなた様が頭を下げなくても!」
「止めないでセレス。ハヤトさんの砂糖があれば経済はいい方向に向くわ。そうすれば、この町も救われるの」
カタリナ様が深く頭を下げたことでセレスさんが驚いて声をあげる。それでもお構いなしに僕へと頭を下げるカタリナ様。
僕は冷や汗をかいてみんなの顔に視線を向ける。みんなもかなり驚いてるな。
「ハヤトさん。どうにかできないの?」
「そ、そういわれても……」
ベロニカさんが心配そうに声をかけてくる。そんなこと言われても、これでいうこと聞いたらきりがなくなるよね。ずっと砂糖を生む仕事につかないといけなくなっちゃうよ。
「ハヤトに頼る前に何かできることはないのか?」
「最近入った鍛冶屋の新人がとてもいい働きをしてくれていて、それはとても好調なのですがなにぶん最近のことなので、まだまだ……」
アイラの問いにカタリナ様が答える。
鍛冶屋ってルガさんのことか、彼の腕に気が付くなんて見る目あるな~。でも、そうなるとルガさんが一躍有名になっちゃうな。それは困るんじゃないだろうか……。仕方ない……
「分かりました。でも条件があります」
「ありがとうございます。条件とは?」
ルガさんを守るために声をあげる。カタリナ様はとても喜んでくれて首を傾げて聞いてきた。
「鍛冶屋の新人さんが目立たないようにすることと僕のことを秘密にすることです」
「新人の方と知り合いなんですか?」
「はい、たぶんカタリナ様の言っている方はルガさんだと思います。とても恩のある方で彼の仲間にも同じくらいの恩があるんです」
条件を話すとカタリナ様は興味津々といった様子。ルガさんのことを話すと大きく頷いてくれた。これであんまり目立たなくなるはずだ。
「分かりました。二人のことは秘密で。町の特産品を生む方々を秘匿するのはある意味常識、徹底して守っていきます」
「ありがとうございます」
「いえ、こちらこそありがとうございます」
カタリナ様が誓ってくれると握手を交わした。綺麗な紙に毎日砂糖を十キロ卸すという契約を交わす。砂糖じゃなくて他の物も卸していいという話もすると驚いていた。しかし、そうなるとお金が足りなくなってきそうだな。
本格的に異世界商店のお金を稼ぐ必要が出てきてしまった。また、ゴミ山できてないかな~。
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