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2 出会い

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佐久夜は、行く当ては無かったが、取り敢えず自分の学校に向かって歩き始めた。理由は、学校へ徒歩で通えて寝泊まり出来る場所を探す為だった。乏しい手持ちの小銭を交通費で失いたくない。そんな思いでの行動だった。

親戚を今更頼る気にもなれない、かと言って学校やバイト先の友人を頼るとしても、何日も世話になるわけも行かない。

バイト先と学校の両方に徒歩で通えそうな場所を求めて、佐久夜は歩き続けた。

ぎゅるるるる

歩き続ければ、健康な少年である佐久夜も腹は減る。ちょうど人気のない竹林の側にちょうどいい感じの石があった。佐久夜は、休憩がてらその石に座った。肩に食い込んだ荷物も下ろして、消防士に貰った差し入れを取り出す。

ペットボトルの蓋を開けてゴクリ、ゴクリと喉を潤す。おにぎりは、定番の昆布とシャケ。佐久夜は、手に持ってじっと見つめる。

「腹は減っている。減っているけど、今食べるべきかどうか……どうしよう」

だけど空腹には敵わず、シャケのおにぎりを包むビニールを剥ぎ取った。

「一つだけ、一つだけ。昆布は、大事にとって置いて明日の朝食べよう」

自分に言い訳をしながら、シャケのおにぎりに齧り付いた。一気に食べてしまうのは、勿体ない。味わいながらゆっくりとシャケのおにぎりを咀嚼していく。

「あぁ、飲み込むのが勿体ないくらい美味い」

佐久夜は、天を見上げ涙を流しながら味わった。

「のう、そのにぎりめし、そんなに美味いのか?
「うん、とっても美味しい。今まで生きてきた中で、一番美味いかもしれない」

ペットボトルの蓋を開け、水をゴクリと飲み、口の中からおにぎりがなくなっていく。そして、また一口おにぎりを齧る。真ん中に近い為、口の中をほぐしたシャケの匂いが充満する。

ゆっくり、ゆっくり咀嚼して、再び佐久夜の頬を涙が伝う。

「のう、そんなに美味いのか?泣くほど美味いにぎりめしなのか?」
「うん、めちゃくちゃ美味い。もう二度と味わえないくらい美味い」
「本当か!のう、我にも恵んでくれんか?」
「…………?」

佐久夜は、あまりものおにぎりの美味しさに気づいていなかった。当たり前に、普通におにぎりの美味しさを語っていたが、天を見上げていた為に、視界に入っていなかった。

俺の隣に誰かがいる。

佐久夜は、恐る恐る声のする方向へ、顔をゆっくり向けた。

「あんた、誰?」

佐久夜の隣には、座った招き猫の様な面を被った、小人の様な何かが座っていた。

「我か?我にはまだ名がない。故に名乗ることができぬ。それよりもそのにぎりめしを分けてくれぬか?」

佐久夜が気づいた事が判ると、石の上に立ち、佐久夜に向かっておにぎりが欲しいと両手を伸ばした。

佐久夜は、ほんの少しだけおにぎりを千切ると小人に手渡した。

「すまぬの。感謝する」

ぺこりとお辞儀をすると、小人はその場に座り、面を少し上にずらして米粒に齧り付く。もぎゅっもぎゅっと米粒を噛み締めて、リスの様に頬袋が膨らむ。

「美味い!確かに美味いぞ!お主のにぎりめし」

ペットボトルの蓋を開け、蓋に飲料水を少し入れる。小人は、両手で蓋を受け取ると、丸で大盃から酒を飲み干すかの様に、ごきゅっごきゅっと喉を鳴らして飲み干した。

佐久夜は、おにぎりを持ったまま、小人が米粒を喰う様をじっと見ていた。

「何じゃ?お主は、もう食わんのか?ならもう少し分けてくれぬか?」

おにぎりを強請る小人に、佐久夜はまた少し千切って渡す。

「いや、俺もまだ食べるけど…あんた、何?」
「我には、まだ名乗る名がないんじゃが、敢えて云うなら神かのう」

米粒を食べ、満足そうに佐久夜を見上げて小人は面から覗かせた唇に笑みを浮かべた。


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