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85 儀式の後
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「どうじゃ?」
神さまは、フウッと息を整えながら、佐久夜に様子を伺った。
佐久夜は、両腕を前に差し出して交互に見る。大きく目が開き、表情が誰から見ても明るくなっていく。
「…消えた。神さま、黒いのが消えたよ!」
「そうか、良かった」
神さまの安堵した声と同時に、ピシリと何かに亀裂が入った音が佐久夜の耳に届いた。
「今、何の音?」
佐久夜が、顔を上げ、視線が亀裂音のした方向に向けられた。その方向、正面には神さまが立っている。
「神さま……何、それ」
朧は、すくっと立ち上がると素早く神さまの後ろに陣を取ったゆっくりと神さまの膝が折れ、朧にもたれ掛かるように後ろに倒れた。
神さまのお面の真上から頬の辺りにかけて、大きな亀裂が入っていた。
「全く、無理しすぎにゃ」
ぽてんと朧に抱き抱えられるように神さまは倒れると、ぽりぽりと頭をかいた。
「ちと、張り切りすぎたかのう?」
「え?え?ヒビ入ったけど、大丈夫なの?」
朧にもたれ掛かったままの神さまは、じっと佐久夜を見つめた。朧が、ふうっとため息を吐き、神様の首根っこを咥えると、佐久夜の前に連れてきた。
両手のひらを揃えて朧に差し出すと、加えた神さまをそっと置いた。
「佐久夜には、説明してやるべきにゃ」
「うむ?」
佐久夜の手のひらの上で、胡座をかき座る神様は、背筋を伸ばして見上げてきた。近くで見ると可愛らしい招き猫の面にパッキリと亀裂が入っているのがよくわかった。
「体は、大丈夫なのか?」
「うむ、神力をかなり消耗しておるが、大事はないぞ」
「このヒビは?」
「………やはり、気になるのか?」
「当たり前にゃ!」
朧は、前脚で神さまを突いた。神さまにとっては、朧の前脚は大きくガクンガクンと頭が揺れる。
「我は、まだ名がない」
「それは知ってる」
「故に、この面で顔を隠しておる」
「それも知ってる」
「我が、この面を外すことが出来るのは、名を得た時か、もしくはこの面が完全に砕け散った時じゃ」
朧は、少し後ろで毛繕いを始めた。神さまが、佐久夜に話し始めたことで、見守っているというか、見届け人としての役目をしているつもりなのかもしれない。
佐久夜からしてみれば、緊張に耐えかねる猫のグルーミングの習性にしか見えず、相変わらず自由だなと感じてしまっていた。
「名前が与えられる前に砕け散るとどうなるんだ?」
「チッ」
神さまが、舌打ちしてそっぽを向いた。
「ちんちくりん、正直に話すにゃ」
「堕ちるだけじゃ」
「堕ちる?」
神さまは、ハァっとため息を吐くと覚悟を決め、話し始めた。
「やはり、誤魔化せぬか……。浄の神か、不浄の神か。先に名を得れば、浄の神、面が砕ければ不浄の神となる。お主次第で、我はどのような神となるか決まると伝えたのは覚えておるか?」
コクリと頷き、佐久夜は大きく目を開く。
「じゃ、じゃあ、俺のせいで面が砕け始めたってこと?俺、俺…一体どうしたら」
佐久夜の手のひらから震えが伝わってくる。神さまは、小さな手で佐久夜の手のひらを摩った。
「これ、思い悩むでないぞ。神とて全てが真っ白ではないのじゃ。ひいを見てもわかるじゃろう?」
スセリビメは、煩悩に左右される傾向がある。神さま自身も朱丸と本気でおかずの取り合いをしたり、拗ねたり、僻んだりする事もある。
「我だけが逃げてはならぬと思ったのじゃよ。我も佐久夜と共にありたいのじゃ」
神さまの声は、優しく心地よく佐久夜の耳に届いた。
神さまは、フウッと息を整えながら、佐久夜に様子を伺った。
佐久夜は、両腕を前に差し出して交互に見る。大きく目が開き、表情が誰から見ても明るくなっていく。
「…消えた。神さま、黒いのが消えたよ!」
「そうか、良かった」
神さまの安堵した声と同時に、ピシリと何かに亀裂が入った音が佐久夜の耳に届いた。
「今、何の音?」
佐久夜が、顔を上げ、視線が亀裂音のした方向に向けられた。その方向、正面には神さまが立っている。
「神さま……何、それ」
朧は、すくっと立ち上がると素早く神さまの後ろに陣を取ったゆっくりと神さまの膝が折れ、朧にもたれ掛かるように後ろに倒れた。
神さまのお面の真上から頬の辺りにかけて、大きな亀裂が入っていた。
「全く、無理しすぎにゃ」
ぽてんと朧に抱き抱えられるように神さまは倒れると、ぽりぽりと頭をかいた。
「ちと、張り切りすぎたかのう?」
「え?え?ヒビ入ったけど、大丈夫なの?」
朧にもたれ掛かったままの神さまは、じっと佐久夜を見つめた。朧が、ふうっとため息を吐き、神様の首根っこを咥えると、佐久夜の前に連れてきた。
両手のひらを揃えて朧に差し出すと、加えた神さまをそっと置いた。
「佐久夜には、説明してやるべきにゃ」
「うむ?」
佐久夜の手のひらの上で、胡座をかき座る神様は、背筋を伸ばして見上げてきた。近くで見ると可愛らしい招き猫の面にパッキリと亀裂が入っているのがよくわかった。
「体は、大丈夫なのか?」
「うむ、神力をかなり消耗しておるが、大事はないぞ」
「このヒビは?」
「………やはり、気になるのか?」
「当たり前にゃ!」
朧は、前脚で神さまを突いた。神さまにとっては、朧の前脚は大きくガクンガクンと頭が揺れる。
「我は、まだ名がない」
「それは知ってる」
「故に、この面で顔を隠しておる」
「それも知ってる」
「我が、この面を外すことが出来るのは、名を得た時か、もしくはこの面が完全に砕け散った時じゃ」
朧は、少し後ろで毛繕いを始めた。神さまが、佐久夜に話し始めたことで、見守っているというか、見届け人としての役目をしているつもりなのかもしれない。
佐久夜からしてみれば、緊張に耐えかねる猫のグルーミングの習性にしか見えず、相変わらず自由だなと感じてしまっていた。
「名前が与えられる前に砕け散るとどうなるんだ?」
「チッ」
神さまが、舌打ちしてそっぽを向いた。
「ちんちくりん、正直に話すにゃ」
「堕ちるだけじゃ」
「堕ちる?」
神さまは、ハァっとため息を吐くと覚悟を決め、話し始めた。
「やはり、誤魔化せぬか……。浄の神か、不浄の神か。先に名を得れば、浄の神、面が砕ければ不浄の神となる。お主次第で、我はどのような神となるか決まると伝えたのは覚えておるか?」
コクリと頷き、佐久夜は大きく目を開く。
「じゃ、じゃあ、俺のせいで面が砕け始めたってこと?俺、俺…一体どうしたら」
佐久夜の手のひらから震えが伝わってくる。神さまは、小さな手で佐久夜の手のひらを摩った。
「これ、思い悩むでないぞ。神とて全てが真っ白ではないのじゃ。ひいを見てもわかるじゃろう?」
スセリビメは、煩悩に左右される傾向がある。神さま自身も朱丸と本気でおかずの取り合いをしたり、拗ねたり、僻んだりする事もある。
「我だけが逃げてはならぬと思ったのじゃよ。我も佐久夜と共にありたいのじゃ」
神さまの声は、優しく心地よく佐久夜の耳に届いた。
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