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一章 ベロリン王国編

宴と邂逅

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「うーん、ああ、もう夕方か」

 慣れない固いベッドの割にはよく寝たな。時計がないから正確にはわからないけど、四、五時間は寝た感じかな?

「お、おはようございます……」

 ベッドの傍には見慣れない若い娘さんが立っていた。なんとなく気配を感じていたから驚きはしないけど、いつからいたんだろう? おまけにモジモジするだけで名乗りもしないから誰かもわからん。面倒だ。こそっと鑑定してやれ。

 ミリア タングー村村長の娘 17歳

 村長の娘か。あんまり似ているとは思わないけど、素朴な感じの可愛い子だな。だけど17歳、高校生にしては幼く見えるな。どう見ても中学生くらいにしか見えん。

「あ、あの……勇者様」

「勇者様? それって、俺の事か?」

「はい! 勇者様は勇者様です。森狼を素手で倒すなんて、物語の中の勇者様そのものです!」

 そんなキラキラした眼で言われても困る。そもそも俺は勇者様って柄じゃないし、なりたいとも思わない。それにしても救世主様の次は勇者様とはね。本当に勘弁してほしい。
 常鱗凡介じょうりんぼんかい
 俺はただつまらない人生を捨てて、自由に生きたいだけの身勝手な男だよ。

「あの、勇者様?」

「悪いんだけど、その勇者様ってのはやめてくれないかな? どうも落ち着かなくて。普通に名前で呼んでくれるとありがたい」

「ご、ごめんなさい! セ、セイゴ様でよろしいでしょうか?」

「それでいい。それで、何か用かな?」

「あっ、はい! その、宴の用意ができたので村の広場までお越しくださいと父から。それと……た、昂っているようだったらお相手してくるようにって……」

 昂っている? 相手? 村長ぉおおおおおおおおお! 異世界転生の醍醐味をいきなり差し出してくるとは、けしからん! 何とけしからんくて、有難い事を! ありがとう、村長! 
 ……でも、いくら可愛くても年齢より幼く見えるせいか全く食指が動かない。俺からすると倫理的にもアウトだし、ここは次の機会に期待しよう。
 
「有難い申し出だが、今はいいよ。それより腹が減ってるんだ。場所まで案内してくれると助かる」

「そう……ですか。残念です。では、その気になったらいつでも言ってください。一生懸命御奉仕しますから!」

 そう言うとミリアちゃんは部屋を出て行った。うーん、あと五年後が楽しみだ。ところでミリアちゃん? 先に出ていっちゃったけど案内はしてくれないの?

「まぁいいか。そんなに大きな村じゃないみたいだし、外に出ればわかるだろう」

 村長の家を出ると奥の方から人の声がしてきた。あそこが広場みたいだな。声のする方に歩いて行くと、広場には既にたくさんの人が集まっていて、何やら忙しなく働いている。何人くらいいるんだろ? 見た感じだと五十人くらいかな? 気のせいか女性の方が多い気がする。 とりあえず村長に声をかけたいんだけど、どこにいるんだろ? 鑑定してみるか。名前はわからないけど肩書きさえ見えれば……ん? こ、この名前はさっきの!?
 
「おや? セイゴ様。随分とお早いお着きですな。その、ミリアはお気に召しませんでしたか?」

「そ、村長さん!? あ、いや……そういうわけではなくて。あの、それよりも……」

「そうですか。では、また後ほど改めてという事で。ささ、先ずは宴を始めましょう! 皆、セイゴ様の偉業を心よりお祝いいたしますよ!」

 半ば強引に宴が始まってしまった。脅威だった森狼がいなくなって、村人達は心底嬉しいのか、半ば狂乱しているかのように騒ぎ立てていた。子ども達に囲まれるのはいいんだけど、困るのが妙齢の女性達だ。未亡人から若妻まで、やたらと身体を擦り寄せてくる。くぅ……さっきのミリアちゃんの事があったせいか妙に意識してしまう! でも、ここで色情に溺れるのはマズい。あの人に会うまでは!
 心頭滅却しんとうめっきゃく
 何とか誘惑に堪えて、人が捌けたタイミングを見計らって宴を抜け出し、目的の人がいる村の外れにある簡素は倉庫までやって来た。けど、なんて声をかけたらいいんだろう。ここは全部正直に話すべきなんだろうか。

「入って来ていいよ。ここには俺しかいないから」

 悩んでいる内に中から声をかけられた。こっそり来たつもりだってけどバレバレか。当然だよな。だって、【鑑定】があるんだから。

「失礼します」

 中に入ると、そこにはナイフを持った中年の男性が立っていた。印象深い一重に長い黒髪を無造作に一つに束ねている。見た目的にも間違いなさそうだ。

「初めまして。セイゴ君。いや、四ノ字しのあざ成吾せいご君と言った方がいいかな?」

「ははっ、君と呼ばれる程、若くもないんですけどね。初めまして、秀島ひでじましゅうさん」
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