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番外編〜アオイの恋〜

12(アオイ視点)

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「ねえマシュー」
「な、何だっ!」

 ステラたちが去って行って、私はマシューと二人きりになった。

『俺が好きなのはアオイです!』

 さっきマシューはアシュリー様にそう言った。

 マシューがステラを妹のように思っているのはわかったけど、アシュリー様にそう思わせるためのその場しのぎの言葉だったら……?

「さっきのもう一度言って欲しいの」
「さ、さっきって……」
「好きってやつ」
「!」

 背の高いマシューを見上げ、じいっと見つめれば、彼はぱっと背を向けてしまった。

 ……やっぱり。

 さっきのは、ステラを好きだった想いをアシュリー様に隠すための嘘。

 私はそれに利用されただけ。そんなこと、わかってた。私を真剣に好きになってくれる人なんて現れない。

 背を向けたマシューをぼんやりと見つめながら、ポロポロと涙が溢れてくる。

 今まで出会った男たちとは違う。マシューはいつだって飾らない言葉で、私自身を見てくれていた。

 私、マシューのこと、こんなに好きになっていたんだ。

 流れる涙を頬に感じながら、私は初めての感情に胸が押しつぶされそうだった。

 先生と恋愛をしていた時は、これが本気の恋だと思っていた。でも違った。先生は私を愛してなんかいなかった。身重な奥さんの代わりとして、遊べる相手が欲しかっただけ。

 マシューに私が好き、と嘘でも言われて嬉しかった。

 今までは男が寄ってくるだけで、自ら想いを寄せることなんて無かった。

 片思いって、こんなに切ないんだね。

「あの、さ…、アオイ……」

 何かを言いにくそうに振り返ったマシューが私を見て、ぎょっとした。

「な、何で泣いてるんだ?!」

 私は涙をぐい、と手で拭うと、マシューを真っ直ぐに見た。

「私、マシューのことが好き」

 真っ直ぐに絡んだ視線が熱を帯びる。

 好きになった人の焦げ茶色の目が、驚きで揺れている。

 迷惑……だよね。こんなこと言われても。

「………俺をからかっているのか……?」

 真剣な告白だったのに、マシューから溢れてきたのは、そんな酷い言葉だった。

「何言ってるの……?」
「お前が? 俺を?! 嘘だろ……」
「嘘じゃないもん!!」

 信じられない、といった表情で、マシューは片手で額を覆った。

 告白さえ、受け入れてくれないの?

 私を拒絶するように一歩引いているマシューの距離がもどかしい。

 やっぱり、私が人を好きになるなんて……

 ーーーーアオイーーーー!!

 卑屈な思いが胸に充満した時。

 浮かんだのはステラの顔だった。

 日本にいた時の私とはもう違う。ステラが私を変えてくれた。

 私はぐっ、と胸の前で拳を握ると、マシューに駆け寄った。

「アオイーー?」

 距離を詰めた私に驚いて顔を向けたマシューの胸元を掴んで、グイ、と引き寄せる。

 屈んだ形になったマシューに、私は思いっきり背伸びをして、キスをした。

「な……」

 顔を赤くして固まるマシューに、もう一度気持ちをぶつける。

「私は、真剣にあなたのことが好きなの。その気持ちを否定しないで」

 掴んでいた胸元を優しくマシューに剥がされ、彼はポツリと話し出す。

「お前なら選び放題だろ…何で俺なんか」
「私はマシューだから好きになったの! さっき言ってくれたことは……嘘だったの?!」

 またポロポロと涙が溢れてくる。

 ステラのように、強く気持ちを伝えられる女の子であろうとしたのに。

 すると、マシューがふわりと私を抱きしめた。

「頼む、泣かないでくれ。お前に泣かれると、困る……」
「どうして困るのよ………」

 抱きしめられた胸の中で私はマシューを問い詰める。

 鍛えられた彼の胸はたくましくて。ドキドキしながらも、可愛げなく受け答えをしてしまう。

 いつも言い合いをしてきた皺寄せかも。

「俺は……お前が俺のことなんて何とも思ってないと思ったから……」
「だから?!」
「だから……自分の気持ちを口にした……」

 マシューの胸の中で、ばっと彼の顔を見上げる。

「それって、私のことちゃんと好きってこと?!」
「俺は騎士だ。この命をこの国に捧げている。女一人を幸せになんて出来ない。俺は振られると思ったから……」
「うるさい!!」
「なっ?!」

 大事なのは、私を好きかそうじゃないかってこと。

 それなのにマシューはさっきからグダグダと言い訳を並べている。ーー私と想い合ってはいけないかのように。

「私はあんたに幸せにしてもらおうなんて思ってない! 私がマシューを幸せにしてあげるんだから!!」

 マシューの胸の中。

 きっぱりとそう宣言すると、一瞬固まったマシューは、ブハッ、と笑いだした。

「なっまいき!」
「な、な……!」

 真剣に言ったのに!!

 笑うマシューを見て、恥ずかしさで震えていると、今度は彼からキスをされた。

「俺も男らしく、覚悟決めないとな?」
「覚悟?」

 急なキスに目を瞬きながらも、彼の言葉を聞き返す。

「お前を幸せにする覚悟」
「マシュー!」

 ふわりと微笑んだ彼に、私は嬉しくて抱きついた。

「……本当に俺で良いのか?」
「あんたが良いって言ってるでしょ! それに、あんたのことは死なせないから」
「え?」
「だって聖女である私が側にいるんだから」
「……それは頼もしいな」

 彼の胸の中で見つめ合いながら。私たちは、再びキスをした。

「俺は唯一を作らないと決めていた。その唯一にお前がなるってことは、覚悟出来てるよな?」
「覚悟?」

 唇を離した後、至近距離のマシューがまた覚悟の話をしている。

「アオイの全てを一生俺のものにするってこと」
「!」

 しれっと答えるマシューに顔が赤くなる。

 な、な、……!私の方が恋愛経験値高いと思ってたのに……!

「望むところよ!!」

 赤くなりながらも、必死に叫べば、大人の余裕の表情で微笑んでいた彼は、愛おしそうに私を見た。

 このあと、私はマシューと婚約をすることになる。

 一人の人に愛される喜び、大切な人を想う気持ち。そして、帰れる場所。

 私はこの国で、ようやく本物の幸せを手に入れたんだ。



~終わり~
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みんなの感想(14件)

ぬこぽん。
2023.08.22 ぬこぽん。

ちょっとひとことよろしいか。尾も白…もとい面白かったでふ。(噛)







思いがけない飯旨?( ゚Д゚)ウマー。ステーキな…あ。何か違…ステすて…素敵な!お話をあり…あ。あり?アリ?そうモハメド!アリが十!じゃなくありがとうございますた。(噛)

解除
とまとさん
2023.04.17 とまとさん

アオイちゃんも聖女召喚されて良かったね。😊
アオイちゃん達もステラ達も
みんなみ~んな
しあわせにな~れッ✨✨
  *``・*+。
 |   `*。
 |     *。
 。∩∧ ∧   *
+   (・∀・ )*。+゚
`*。 ヽ  つ*゚*
 `・+。*・`゚⊃ +゚
 ☆  ∪~ 。*゚
 `・+。*・+ ゚

海空里和
2023.04.18 海空里和

とまとさん様

ありがとうございます(●´ω`●)
みんな幸せになれーー☆
絵文字可愛いです💓💓

解除
なぁ恋
2023.04.15 なぁ恋

きゃあ!!!!
アオイの恋❤いい❤
ご馳走様でした!

海空里和
2023.04.15 海空里和

なぁ恋様

わあ♥♥
ありがとうございます(*´艸`*)

解除
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