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27. 彼らが見守っていてくれます
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治療院の扉の横には、騎士が立つようになった。
その騎士から聞いたのだが、私のことをよそ者に話すことは禁じられているらしい。どうやら、ジョーが私を守ろうとしてくれているようだ。それが嬉しいし、ホッとした。
箝口令が敷かれているが、治療院には相変わらず患者たちが押し寄せてくる。疫病の流行が止まり、患者の半分は無駄話に来ているだけのようだが。だが、こうやって人に囲まれて楽しく生活していると、このままこの街で生きていけそうな気がした。
患者が途切れ暇になった時に、
「いつもありがとうございます」
見守りの騎士に礼を言った。
「せっかくなので、二階でお食事でもどうですか?」
それでも騎士は、困った顔をする。
「気持ちは嬉しいが、私は持ち場を離れられないので……
もし貴女になにかあったら、団長に酷く叱られてしまう」
そんな騎士に申し訳なく思い、元気が出る薬草入りのパンやクッキーを差し入れた。騎士たちは仕事だからと拒否するが、私なんかに時間を割いてもらっているからと必死で押し付けた。
騎士たちも次第に心を開いてくれるようになり、ジョーの話をはじめ、色々な話をした。
騎士たちと話すと、ジョーがいかに強くて尊敬されているのかがよく分かった。
「団長は、御歳二十七歳にもなるのに、貴女以外の女性に興味を持たれたことはなかった」
「そうなんですか!?」
思わず聞き返してしまう。
ジョーほどの美男で強い男なら、世の中の女性が放っておかないわけがないのに。
「本当に興味がなかったのだろう。女性が話しかけても団長は無視するから、誰も寄り付かなかった。
だから、団長があんなに満面の笑みでアンに犬みたいについて回っているのを見て、皆見てはいけないものを見てしまった気分だ」
「そ……そうですか……」
何も答えられない私は、かろうじてそう答えただけだった。
「でも正直、騎士団の間でも貴女の評判は高い。
我らの団長を救ってくれたり、疫病を止めてくれただけではない。こうやって私たちを気遣って食べ物を分け与え……この食べ物を食べた者は皆、体の調子が良く徹夜の任務でも成し遂げれるほどだ」
「ありがとうございます」
もったいないお言葉だ。私はただでさえ多忙な騎士団の皆さんに、さらに業務を増やさせてしまっている。私みたいな平民の護衛なんていう、馬鹿げた業務を。だからせめてもの償いに、こうして力になれることをしているのだ。
「アン。今度休みの時に、騎士団にも来てみるか?」
「……えっ?」
「団長が真面目に業務をしている姿を見ると、団長のことを惚れ直すのではないか?
アンの前にいる団長は、ただの恋に酔った馬鹿男に他ならないから」
「馬鹿男とはなんだ」
急に声がして、この強くてキラキラした騎士は、ひいいいっと飛び上がる。そして、慌てて口を押さえた。
その声を聞くと胸が温かくなる。頬も緩んできてしまう。私は彼にそんなに狂わされているのに……
「だ、団長!!」
騎士は青ざめた顔で必死に言い訳を考えている。そこまで団長の存在は怖いのだろう。
だが、ジョーは意外にも怒ってはいなかった。
「お前、いいこと言うな」
騎士の肩をぽんと叩く。
「今度、アンに騎士団を見学してもらい、俺に惚れ直してもらおう」
「な……なんでそうなるの!?」
思わずジョーに言ってしまう。ジョーも必死にアピールしてくるが、もう遅いと思う。私はすでに、後に退けないほどジョーにのめり込んでいる。……ジョーが好きなのだ。
ジョーが来たため、騎士が慌てて持ち場に戻る。そんな騎士を横目に見ながら、ジョーは私に続いて治療院の中へと入る。
あの黒い騎士騒ぎがあってから、ジョーが私のもとを訪れる頻度が増えた。心配してくれるのはいいが、仕事はしているのかと不安になる。私を守るために仕事を投げ出すのだけはやめて欲しいと、心から思う。ジョーには今まで通り、皆の尊敬する騎士団長でいて欲しいから。
だから、
「私は元気だよ?」
努めて元気に告げるが、ジョーに会って元気をもらっているのかもしれない。
ジョーが近くにいるだけで安心する。私はここにいてもいいのだと思って。
「アン、そろそろ仕事も終わりの時間だ。
さっさと閉店して帰るぞ」
「そうだね」
今日はソフィアさんは体調を崩し、休みを取っている。だから治療院にいるのは私だけだ。そして黒い騎士の騒ぎがあってから、ジョーはいつも私を家まで送り届けてくれる。今日だってそのつもりらしい。
「ジョー。家は近いんだし、一人で帰れるよ?」
「駄目だ。アンに何かあっては困るから」
抵抗するものの、ジョーが折れないことは知っているため、いつものようにジョーと帰ることになる。さっと洗い物を済ませ、治療院を閉め、外に出た。
外はすでに暗くなっていた。そして、私がこの地に来た時よりも、随分暖かくなっている。
家々からは灯りが漏れ、楽しそうな笑い声が聞こえてくる。はじめは何も言わなかった騎士たちも、私を見て
「お疲れ様」
「お休み」
だなんて声をかけてくれるようになった。
私はこの街が好きだ。ジョーがいて、街のみんなが幸せに暮らしている、この街が……
家に着くと、ジョーが跪いて手に唇を当てる。
「おやすみ、アン」
ジョーと別れるのが寂しい。だけど、一緒にいてと言えるはずもない。ジョーだって、自分の生活があるのだから。
「おやすみ、ジョー」
そう告げると、嬉しそうに微笑んでくれる。その笑顔にいちいち胸がきゅんという。
「いつもありがとう、ジョー」
ジョーは温かい笑みを浮かべたまま、そっと顔を近付ける。そして、頬にキスをくれる。
かっと顔に血が上り、真っ赤になって頬を押さえる私はまた、さらにジョーの深みにはまっていくのだった。
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