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4章:変化する日常

4:深夜

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 真っ暗なリビングにたどり着く。
小さい頃はこの空間が怖かった。夜中の、誰もいないこの空間が。それこそ、幼稚園生くらいの小さい頃はお化けが出てくるんじゃないか、っていう意味で怖かったし、母さんが死んでからすぐくらいは、父さんもいなくなってしまうんじゃないか。この暗い空間の中にずっと一人でいることになるんじゃないか、とも思って。さすがにそれも中学生くらいまでには怖さが薄らいでいたけれど。

 電気をつけた。リビングの時計は深夜12時過ぎを指していた。眠る前と明るさはあまり変わらない、というのに、深夜というだけでどこか怖いというか、心の隙間を感じてしまうような気持ちなのはどうしてのだろうか。

 リビングのソファに、隣り合って座る。ガレットは未だに不安そうな雰囲気が消えていない。俺よりも、ガレットの方が随分深刻そうな顔をしている。

「……大丈夫かい?」
「ああ、大丈夫」

 俺が答えても、ガレットの表情は変わらなかった。

「……まあ、疲れた時によく見る夢を見ただけだから……」

 つい言葉を濁してしまった。
 触れてほしくないわけではないけれど、これ以上気を遣わせたり心配はかけたくはなかったから。
 俺が言うと、ガレットは、わかった、とただ頷いただけで、深く訊こうとはしなかった。それでも、彼の表情は心配の色が抜けていない。
 触れないでくれているのをありがたいと思う反面、心配させてしまって申し訳なくなる。

 深夜だからか、随分静かだ。外からは時々車の音が聞こえてくるだけ。

 リビングのテーブルの上にあったリモコンを手に取る。

静かな夜の空間を紛らわすために、テレビをつけた。リモコンのボタンを押してチャンネルを変えていく。全く観たことがない何話目かも分からないアニメ番組、どこかの国のニュース番組、知らない人ばかりが出ているなんだか不思議な雰囲気のバラエティ番組。外国の、俺が生まれるずっとずっと前に作られたであろう映画。どれも今の気分とは合わなくてすぐに消してしまった。

喋るにしても、なんだか話題が出てこない。この間映画を観た時のように最初から楽しく始めた夜更かし、というよりは、俺が眠くなるまでの夜更かしに付き合わせてしまっている、という感じだから。

 このまま、生産性のないまま朝まで過ごすわけにもいかない。眠くなる方法を考える。二人でひつじを数えてみても途中で何匹数えたか分からなくなりそう。五円玉を揺らす催眠術は効くのかどうか分からない。他には、と考えて思いついたことがあった。

「……ホットミルクでも作るか」

小さい頃、眠れない夜に、母さんが作ってくれた。これを飲むとよく眠れる、と言って、少し甘めのホットミルクを。
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