華と舞う

乙人

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圓妃

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淋闇リンアン妃。圓妃から、茶会のお誘いが。」
 侍女が言った。
「行くわ。」
 淋闇は溜め息をついた。

(圓妃って、どっちだろう。)
 圓妃は圓家出身の妃のことだが、二人いる。寳闐ホウテン賢妃と、稜鸞ロウラン昭儀だ。
 稜鸞妃は璙寍皇子の母なので、淋闇にとっては、義母になる。
「いらっしゃい、瑜妃。」
 二人の妃に迎えられた。二人は寳闐と稜鸞だ。
「よく、来てくれましたね。」
 寳闐が微笑んだ。
 寳闐は、白と薄青の衣裳に、古風に結った髪をした、落ち着いた女だった。
 稜鸞は桃色に近い色を着た、若々しい女だ。二人とも、四十路を超えているが、二十の頃の面影のまま、歳を止めているようだ。
「瑜妃は、武芸が得手と聞いたわ。それ、本当なの?」
 稜鸞が笑っている。
「そうですけど………それしか、取り柄という取り柄はありませんから。」
「まぁ、顕光ケンコウ大長公主様とそっくりね。」
 寳闐も上品に笑う。だが、目は何処か、遠くを見ていた。変わった妃だと噂されていたが、本当なのかもしれない。
「顕光大長公主様?」
 母が最も憎んでいた女の名前だ、それに似ているとは、心外だ。
「どんな方だったのですか?妾は会ったことがありません故。」
 そうね、と寳闐。
「其方のように武芸が得手で、朗らかな方だったわ。名家櫖家を後ろ盾に持っておられて、璙寍皇子の前の東宮様よ。其方の承香宮に住まわれていたわ。永寧宮と呼ばれていたもの。」
 もう、二十年近く前の話だ。寳闐も、稜鸞も懐かしそうだ。
「風流を解さない方とか、言われてましたよ。魖家殲滅は、顕光大長公主様の命令だとか。」
 真っ先に、否定される。
「永寧大長公主様-顕光大長公主様は、とても繊細で、感傷的センチメンタルな方よ。」
 行き遅れなのに後宮に堂々と居座るし、女なのに東宮になったため、図太い女だと思っていた。偏見だったらしい。
「そう言えば、璙寍とは、仲良くやっているの?」
 稜鸞は璙寍の母だ。
「左氏のことを、引きずってはいないかしら。」
 左氏は璙寍の最初の妃。会ったこともないが、若く、美しい女だったらしい。
リー氏の推薦で入れたんだったわね。」
 俐氏は元豪商の出身だ。寳闐の想い人の妹なのだが、寳闐の父に潰された。理由は、俐氏の兄にあたる丁理トウリが皇妃になるべく生まれた寳闐を誑かした、と云う。
 その俐氏は歌舞音曲の得意な娘で、淋闇の身内である瑜氏とは、同じ時期に入宮している。二人とも才人だった。
「良い娘だったわ。」
「そうね。」
 病で死んでしまったらしいが、そんなに良い娘だったのか。だったら、全く逆の淋闇なんて、後宮に入れたのは、おかしい。
「でもねぇ、見た目は其方にそっくりなのよ。」
 そうか、と納得した。
 禁忌だったり、喪った愛しき人の身代わりに、血縁だったや、そっくりな人間を愛すのは、少なくない。実際、この国の後宮では、榮元貴妃だろう。愛すことの出来ない、永寧大長公主の身代わりにされた、憐れな人である。
(お互い様か。)
 璙寍にとって、淋闇は愛した人の身代わり、淋闇にとって璙寍は、暗殺対象。
(これ以上、知る必要はないな。)

 暗殺対象を、これ以上知ってしまって、同情が生まれてしまったら、何になる。無用だ。
 その後も、寳闐と稜鸞は何かを話していたが、淋闇には、聞こえなかった。
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