その傷を舐めさせて

先生、お付き合いをしましょう！

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　夕映の視線は気にならないのか、あるいは凝視されることには慣れているのか、希星はさほど気にする様子もなく手術の説明をした。

　傷が残ることはなんとなく旭から聞かされていた。万が一のリスクがあることも。母親と夕映は息を飲んで真剣に説明を聞いた。
　今回の手術は甲状腺の部分切除を行う。甲状腺は首の前側、喉仏のすぐ下にあり蝶が羽を広げたような形をした臓器である。
　脳から指令を受け、甲状腺ホルモンが分泌されると新陳代謝を活発にさせる。大体のバセドウ病患者は薬物治療のみで経過を見るのだが、正確な服薬が困難な夕映は甲状腺が肥大しており、左右差もあった。

　従来の手術は、首の皺に沿って8cmから10cmほど切開をして行われた。

「夕映さんの場合、女性だし傷跡が気になるだろうから内視鏡でやろうと思っています」

「内視鏡……」

「鎖骨の下から内視鏡を入れて手術をするの。首だと色んな人の目に入るけど、ここなら服で隠れるでしょう？　傷口ももっと小さくできるわ」

　夕映の隣で母親が安堵の息をこぼした。手術が決まった時、喜びはしたが同時にどんな手術かと恐ろしくもあった。インターネットを使って検索すれば、首元に痛々しい傷が残った画像ばかりがヒットした。
　女の子なのに……そう思いながら目に涙を浮かべてそれ以上検索するのも怖くなった。それが思っていたよりも小さな傷で済むと聞けば、そんなに喜ばしいことはなかった。

「それから、甲状腺の近くには声帯があってね、万が一そこを傷付けてしまうと声がガラガラになったり出にくくなる嗄声という後遺症が残る場合があるの」

　希星の言葉に夕映はゾッと背筋が凍るようで、つつっと冷たい感覚がした。