その傷を舐めさせて

雪村こはる

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パーティーでは淑女を演じさせていただきます

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「奥さんは……モデルさんですか?」

「個人情報」

 ポツリとそう呟いた旭に、うー……と顔をしかめた夕映。その様子に気付いた旭は「淑女でいるんじゃなかったの? 感情が全部顔に出てるよ」とグラスを口に運びながら言った。

 テーブル席が用意されているものの、自由席であり、それぞれ自由に出歩いては空いている席に腰掛けて談笑していた。
 院長の挨拶も乾杯もそこそこに、全員が同期とあって賑やかなものだ。

 もっと堅苦しい雰囲気を想像していた夕映は、楽しそうな様子につい顔が綻んでしまう。まるでアミューズメントパークにでも来たかのように心が弾んだ。
 おとなしくしている、淑女になる、などと豪語したはいいが、逸る気持ちを抑えきれずどうしても顔が緩んでしまっていた。

「そ、そうでした! しおらしく、しおらしく……」

 何となくパーティーでの振る舞いをインターネットで検索し、予習してきた。それを1つずつ思い出しながら、旭の同期達に失礼のないようにしなければと頭の中で復習をする。

--ぐぅー……

 賑やかな会場だというのに、旭にも聞こえる大きさで夕映の腹が鳴った。

「あ……」

 ぱっと両手で腹部を押さえた夕映は、おずおずと旭を見上げた。顔を背けて肩を揺らしている旭。いかにも笑いを堪えている様子に夕映は顔を真っ赤にさせてぷるぷると小刻みに震えた。

「とりあえずご飯食べようか。食欲があってなにより」

「……手術で絶食だったから」

「それ1ヶ月も前の話でしょ。好き嫌いない?」

「お刺身は苦手です……」

「え? 寿司も?」

「玉子とエビは食べます」

「何それ」

 顔をしかめた旭にはっと顔を上げる。夕映は、寿司とは大人の好む料理だと思っており、地雷を踏んだことに気付いた。
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