その傷を舐めさせて

雪村こはる

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パーティーでは淑女を演じさせていただきます

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「どう? それ、何?」

「わかんな……多分、三葉じゃないかと」

「ああ、じゃあ大丈夫」

 そう言いながら、保は気にする様子もなくそのフォークで同じようにパスタをクルクルと巻くと、自分の口に運んだ。

「うん、美味い。もうちょっと貰っておこう」

 数回頷きながら、また皿に盛り付ける。さらりとこなした間接キスに、旭は堪らず顔を赤らめた。それを隠すかのように右手で口元を覆い、保に背を向けた。

 夕映はその光景を眺めながら、なんて羨ましいんだと瞬きも忘れた。好きな人にこんな公共の場で食べさせてもらえるなんて。中々訪れることのないチャンスに、なぜか夕映は旭のことが好きだということさえ置き去りにしてそのシチュエーションを羨ましく思ったのだ。

 後ろで悶絶している旭の背中をちらりと見た保が「そんなに美味かった? 旭の分も取ってあげるよ」と旭の手から皿を奪った。
 夕映は、十数分前に自分が旭に取ってもらった事を思い出し、皿の中身を確認する。

 いや、嬉しかったけどさ……嬉しかったけど、武内先生それはちょっとずるいんじゃないかな。

 ここで初めて夕映はむうっとむくれた。夕映では旭にあんな顔をさせることなどできない。見た事のない貴重な表情が見られて嬉しい反面、相手は自分じゃないんだと誇示されているようでモヤモヤとした感情が曇る。

「旭、あとどれ食べたい?」

 先程と全く同じような展開となり、夕映はぐっと歯を食いしばって持っていたフォークでウィンナーを刺した。素早く口に放り込んで激しくむしゃむしゃと口を動かす。とても淑女と呼ぶには程遠い振る舞いだった。
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