その傷を舐めさせて

雪村こはる

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パーティーでは淑女を演じさせていただきます

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 ただ夕映と保の様子を傍観することしかできなかった旭は、はっと意識を戻してその皿を受け取った。

「食べるよ……」

「うん。オペなくても腹は減るよねぇ」

 そう言いながら、保はトングで皿に料理を盛り付けていく。

「外科は忙しいでしょ」

「まぁ、回転早いからぼちぼち。うちにはオペの鬼がいるから俺なんかは楽な方だよ」

 爽やかな笑みをこぼす保は、チラリと昴を横目に見る。敏腕外科医として評判の昴。口も目付きも態度も悪いが、患者とその家族の前でだけは温厚な医師の姿を崩すことはない。笑顔で接し、病気の早期発見に加えて手術の成功率はほぼ100%。
 患者からの信頼が厚い昴の素顔を知っているのはスタッフ側だけである。

 趣味が手術と言っても過言ではない昴はほとんど院内で過ごしていた。だから自分の患者に加えて緊急オペが入っても率先して手術に入る。それがつい2ヶ月ほど前に同じ病棟の看護師が彼女になった。お互いに忙しい中、時間を作るようになってから、彼は少しだけ家に帰る頻度を増やした。
 それでも月にこなしているオペ件数は保よりも昴の方が断然多い。本人が望んでオペをしてるわけだし、と思いつつも保が助けられているのも事実だった。

「あ、これパクチーかな?」

 ポツリと呟いた保。トングで掴んで料理を皿に乗せると、近くにあったフォークでそれをクルクルと巻いた。パスタのようだ。クンクンと近くで匂いを嗅ぐ。

「あ、違うか。ねぇ、ちょっとこれ食べてみて」

 そのフォークを旭の口元に持っていく保。えぇ!? とたじろぐ旭だが「俺パクチー嫌いだから。間違って食べたら死ぬ。はい、あーん」と言って皿にフォークを突き出した。

「え、ちょ、えっと……」

「口開けてー」

 言われるがまま、そっと口を開けた旭。保はそれをそのまま放り込む。引き抜かれたフォークを見ながら、旭は真っ赤になりそうになるのをぐっと堪えてもぐもぐと口を動かした。
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