その傷を舐めさせて

雪村こはる

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友達、あげようか?

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 初夏の風が薫る頃。汗と埃と制汗剤の匂いが混ざったロッカールーム。仄暗い蛍光灯がチカチカと揺れる。
 夕映は、スクラブの胸元をぎゅっと左手で掴み、くしゃっと顔を歪めた。

 泣くな、私。そう自分に言い聞かせても自然と涙が滲んだ。

 夕映が6A病棟、すなわち消化器外科に配属されてから1ヶ月と少しが経過した。保に誘われたからというのもあるが、実際に病棟を見学してみてそこに決めた。希星のいる甲状腺外科と悩んだものの、患者として世話になった病棟で働くというのも勇気がいるもので、結局のところ一択しかなかった。
 心臓血管外科は圧倒されるほどの重傷者ばかりでICUやCCUではとてもやっていけそうにないと怖気付いた。
 といっても外科はどこも重傷者がいる。故に学べることも多いのだが、夕映にはまだ難しいことばかりである。その中でも、知った顔があるというのは安心するものだ。

 武内先生も岩崎先生もいるなら……それに、岩崎先生の彼女さんも先輩でいるならきっと大丈夫だよね。

 そんな気持ちで就職したはいいが、現場は夕映が思っていたよりも更に緊迫していた。保も昴もパーティーではあんなにも子供っぽさを見せていたが、仕事中は人が変わったようにピリピリとしていた。
 特に昴がオペを終えた後などは、怒鳴り声が耐えない。術後の経過観察ができない看護師を尽く嫌い、罵倒する。急変患者がでた日には最悪である。
 あの優しかった保でさえ、患者の命が危ういとなれば真剣な表情で対応のできない看護師に注意をする。

 そうだよね……2人とも医者だし……。

 医師を患者の目線でしかみたことのなかった夕映は、共に働くという環境を初めて理解した。
 1日に何件もオペが入っているため、保も昴も病棟に留まっている時間は少ない。そのため、当然仕事以外のプライベートを話す時間などない。初日に挨拶したくらいで、後は旭の彼女というよりも新人看護師として扱われた。
 しかし、そうはいかなかったのが看護師達である。
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