その傷を舐めさせて

雪村こはる

文字の大きさ
上 下
120 / 253
友達、あげようか?

23

しおりを挟む
「じゃあ、ふち……夜天先生は、そのチケットのために昨日私と会ったってことですか?」

「そういうこと。付き合っていようがなかろうが、旭の好きなヤツが誰でも俺には関係ないってこと」

「じゃ、じゃあ何であんなに根掘り葉掘り!」

「うるせぇな。俺が旭に誤解されたら困るからだよ。付き合ってたらこんなふうに2人で会ってて何言われるかわかったもんじゃねぇだろ」

「あぁ……確かに」

 夕映はその場で数回小さく頷いた。普通のカップルならこんなふうに男性と2人きりで会ってたら勘違いされても不思議ではない。ただ、旭は夕映に対して恋愛感情のれの字もないし、きっと何ら気にすることはないだろうと思えた。

「だから連絡先教えろ。それで俺のミッション達成だから」

「あぁ……はい」

 それでこれ以上巻き込まれずに済むならそれでいいかと思えた。夕映はスマートフォンをバッグから取り出して夜天と連絡先を交換した。

「これで、よしっと。んじゃ、気を付けて帰れよ」

 そう言って立ち上がった夜天。夕映は本当にこれで用無しか。そう目を瞬かせた。

「あ、はい。帰ります。私もこれから勉強しなきゃいけないので」

 夕映の言葉に立ち止まった夜天はそっと振り返った。あの看護師2人組の会話を思い出したのだ。ちゃんと勉強してきたのにもかかわらず、私情で合格なんかやらないと笑っていた女達。
 夕映には全く興味がないが、単なる醜い嫉妬で人の努力を踏み付ける行為は納得がいかなかった。

「お前……何をそんなに怒られてたわけ?」

「え?」

「紙持ってたろ。貸せ」

 一旦夕映の横を通り過ぎていった夜天だが、白衣を翻して夕映の元に戻ってきた。手を差し出す夜天の行動に夕映は目を大きくさせた。

「えっと……」

「怒られてた時、紙持ってたろ。何か勉強してきたんじゃねぇのかよ」

「あ、はい……」

 夕映はピクリと肩を揺らすと、バッグの中からクリアファイルを取り出し、更にその中からA4サイズで3枚綴りの用紙を取り出した。

 それを受け取り、目を通す。

「ふーん。バルーン挿入とCV介助な。それと術後観察」

「はい。今日はバルーン挿入を見てもらったんですけど、合格くれませんでした」

「技術的には合格レベルだったけど絶対合格なんかやらないって言ってたぞ」

「んな!?」

 ガッと大きく口を開け、唖然とする夕映。その頭を紙ペラ3枚でパシっと叩く。

「とりあえず勉強しろ。相手がぐうの音もでないくらい。じゃなきゃ無理だ。単純に嫌われてるだけだからな」

「嫌われてる、嫌われてるって言わないで下さいよ」

「うるせぇ」

 夜天は用紙を持ったままニヤリと笑った。しっかりと勉強しているその内容に、本当のバカではなさそうだと思ったのだった。
しおりを挟む
1 / 5

この作品を読んでいる人はこんな作品も読んでいます!

女子に虐められる僕

大衆娯楽 / 連載中 24h.ポイント:1,448pt お気に入り:15

追放された令嬢がモフモフ王子を拾ったら求愛されました

恋愛 / 完結 24h.ポイント:63pt お気に入り:1,503

異世界にきたら天才魔法使いに溺愛されています!?

恋愛 / 連載中 24h.ポイント:25,362pt お気に入り:1,000

あなたにはもう何も奪わせない

恋愛 / 連載中 24h.ポイント:47,720pt お気に入り:2,789

負け組スタート!(転生したけど負け組です。)

ファンタジー / 連載中 24h.ポイント:1,178pt お気に入り:2

時計じかけの恋

恋愛 / 連載中 24h.ポイント:49pt お気に入り:38

処理中です...