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近付く距離と遠ざかる距離
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夜天の腕に自分の腕を絡める杏奈は、そっと上目遣いで視線を送る。
「俺、忙しいから」
夜天は軽く腕を持ち上げて簡単にその手を振りほどいた。杏奈はぐっと顔を歪ませるが、すぐに笑顔を繕い「ねぇ夜天先生、私もご飯に連れてって欲しいなぁ」と言った。
「無理。忙しい」
身を屈めてマウスを操作し、パソコン画面からカルテを閉じる。白衣の中のPHSを確認し、診察室を後にしようと1歩足を踏み出した。
「私、聞いちゃったんですけど夜天先生って小柳さんと仲良しなんですよね?」
そう背後から言われてピタリと足を止める。めんどくせぇな、とそっと目を閉じた夜天は振り返り「別に仲良くもねぇけど?」と低い声で返した。
「プライベートで会ってるところを見たって人がいるんです。小柳さんって確か荻乃先生の彼女さんでしたよね? いいんですかぁ? 2人でコソコソ会ったりして」
ニヤリとほくそ笑む杏奈にぷっと吹き出す。夜天はなるほど、旭も夕映もこうやって弱味を握られたわけかと納得した。
「コソコソじゃねぇよ。旭は知ってるからな、俺達が出かけてるの」
「……え?」
「姉貴の患者だから色々頼まれたんだよ。疑うなら姉貴か旭に確認してくれていいぞ」
「べ、別に疑っているわけじゃありません!」
真っ赤な顔をして声を荒らげる杏奈に夜天はおかしそうに笑った。自分の思い通りにいかなかったことが余程悔しいのだろうと思えた。
「そういうわけだから、俺とアイツは何でもないし、飯なら他の男に連れてってもらえ」
「私、夜天先生がいいんです!」
「お前、それ他の男にも言ってるだろ? 信用できない女とは外で会わない主義なんでな」
余裕そうに白衣を翻した夜天に、杏奈はぐっと奥歯を噛み締める。
「信用できないって……荻乃先生や小柳さんは信用できるんですか?」
「何が言いたいんだよ」
「あの人達、2人して夜天先生を欺いているかもしれませんよ」
「どういう意味だ」
「荻乃先生には他に好きな人がいるんです!」
杏奈がそう言ったことで、軽く瞼を上げる夜天。知ってるけど……。旭には別に好きな女がいて、夕映はその女に迷惑をかけないためのカモフラージュだ。
それも、この女があることないこと言いふらそうとしたからややこしくなったわけで、今だって……。
「荻乃先生が好きな人は武内先生なんですよ」
院内でも何度か耳にしたその噂に夜天は顔をしかめた。
「俺、忙しいから」
夜天は軽く腕を持ち上げて簡単にその手を振りほどいた。杏奈はぐっと顔を歪ませるが、すぐに笑顔を繕い「ねぇ夜天先生、私もご飯に連れてって欲しいなぁ」と言った。
「無理。忙しい」
身を屈めてマウスを操作し、パソコン画面からカルテを閉じる。白衣の中のPHSを確認し、診察室を後にしようと1歩足を踏み出した。
「私、聞いちゃったんですけど夜天先生って小柳さんと仲良しなんですよね?」
そう背後から言われてピタリと足を止める。めんどくせぇな、とそっと目を閉じた夜天は振り返り「別に仲良くもねぇけど?」と低い声で返した。
「プライベートで会ってるところを見たって人がいるんです。小柳さんって確か荻乃先生の彼女さんでしたよね? いいんですかぁ? 2人でコソコソ会ったりして」
ニヤリとほくそ笑む杏奈にぷっと吹き出す。夜天はなるほど、旭も夕映もこうやって弱味を握られたわけかと納得した。
「コソコソじゃねぇよ。旭は知ってるからな、俺達が出かけてるの」
「……え?」
「姉貴の患者だから色々頼まれたんだよ。疑うなら姉貴か旭に確認してくれていいぞ」
「べ、別に疑っているわけじゃありません!」
真っ赤な顔をして声を荒らげる杏奈に夜天はおかしそうに笑った。自分の思い通りにいかなかったことが余程悔しいのだろうと思えた。
「そういうわけだから、俺とアイツは何でもないし、飯なら他の男に連れてってもらえ」
「私、夜天先生がいいんです!」
「お前、それ他の男にも言ってるだろ? 信用できない女とは外で会わない主義なんでな」
余裕そうに白衣を翻した夜天に、杏奈はぐっと奥歯を噛み締める。
「信用できないって……荻乃先生や小柳さんは信用できるんですか?」
「何が言いたいんだよ」
「あの人達、2人して夜天先生を欺いているかもしれませんよ」
「どういう意味だ」
「荻乃先生には他に好きな人がいるんです!」
杏奈がそう言ったことで、軽く瞼を上げる夜天。知ってるけど……。旭には別に好きな女がいて、夕映はその女に迷惑をかけないためのカモフラージュだ。
それも、この女があることないこと言いふらそうとしたからややこしくなったわけで、今だって……。
「荻乃先生が好きな人は武内先生なんですよ」
院内でも何度か耳にしたその噂に夜天は顔をしかめた。
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