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近付く距離と遠ざかる距離
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「お前、何言ってんだ」
「本当です! 私、見たんですから! 荻乃先生のスマホのロック画面が武内先生になってるの」
「見間違えだろ」
「違います!」
必死にそう訴える姿は、夜天にも嘘をついているようには見えなかった。
旭が好きなヤツが武内? そんなわけあるか。同期で男で既婚者で……既婚者?
夜天はふと夕映から契約で旭と付き合っているフリをしているという話を聞いた時のことを思い出した。どうせ既婚者だろ。そう夜天が言った時に夕映が見せた表情。
一瞬顔を強ばらせたが、深く追求してこない夜天に安堵の息をついた。仮にこの噂が本当で、旭の片想いの相手が武内だったとしたら全ての辻褄が合う。そう思う夜天は必死に顔が引きつりそうになるのを堪えた。
「あっそ。じゃあそうなのかもな」
「や、夜天先生! 信じてませんね」
「信じるもなにも、つい最近旭と夕映と出かけてたぞ」
「……え?」
「旭からデートに誘ってくれたって喜んでたし」
「そ、そんな……」
「まぁ、付き合ってんだから当然だろうけど。仮にスマホ画面が武内に設定されてたなら、武内本人がそうしたんじゃねぇの?」
「はい?」
思い付きで言った夜天の言葉に翻弄される杏奈。わけがわからないと言ったように苦い顔をする。
「そういうわけわかんねぇことしたがるヤツだからな。それか罰ゲームか」
「罰ゲーム……」
「武内なら旭より昴の方が仲がいいし、同期だけど言うほど接点ないだろ。武内のことが好きならなんで旭から夕映を誘うんだよ」
「そ、それは……」
「あんまり確証のない噂ばら撒くなよ。誰が誰と恋愛してようが関係ないだろ。仕事はちゃんとやってんだから。お前こそ、今日小平先生の指示忘れてたろ。他人の心配してる暇があったら自分の仕事を全うしろ。俺は、仕事のできない看護師は好きじゃない」
くぐっと拳を握りしめ、わなわなと怒りに震える杏奈は、「仕事に関しては気を付けます……でも、小柳さんの方が私よりも仕事ができないと思いますけどね。でも夜天先生は気にかけてあげるんですね!」と言った。
夜天は呆れたようにため息をつき「お前、何年目だっけ? 俺よりも早く病棟にいたよな? それで夕映の方がお前より仕事できたらヤバいだろ。それこそお前、看護師辞めた方がいいと思うぞ」と低い声を発する。
「なっ……」
「アイツはまだ新人だ。伸び代もあるしこれから成長する。今のお前と同じ実務経験があってお前より仕事ができなければ関わるのもやめるかもな」
夜天はそれだけ言い残して、今度こそ杏奈に背を向けた。顔が見えなくなった瞬間、夜天はぐっと唇を結んで眉をひそめた。どういうことか問い詰めないとな、そう思いながら夜天は白衣の中のPHSを再び触った。
「本当です! 私、見たんですから! 荻乃先生のスマホのロック画面が武内先生になってるの」
「見間違えだろ」
「違います!」
必死にそう訴える姿は、夜天にも嘘をついているようには見えなかった。
旭が好きなヤツが武内? そんなわけあるか。同期で男で既婚者で……既婚者?
夜天はふと夕映から契約で旭と付き合っているフリをしているという話を聞いた時のことを思い出した。どうせ既婚者だろ。そう夜天が言った時に夕映が見せた表情。
一瞬顔を強ばらせたが、深く追求してこない夜天に安堵の息をついた。仮にこの噂が本当で、旭の片想いの相手が武内だったとしたら全ての辻褄が合う。そう思う夜天は必死に顔が引きつりそうになるのを堪えた。
「あっそ。じゃあそうなのかもな」
「や、夜天先生! 信じてませんね」
「信じるもなにも、つい最近旭と夕映と出かけてたぞ」
「……え?」
「旭からデートに誘ってくれたって喜んでたし」
「そ、そんな……」
「まぁ、付き合ってんだから当然だろうけど。仮にスマホ画面が武内に設定されてたなら、武内本人がそうしたんじゃねぇの?」
「はい?」
思い付きで言った夜天の言葉に翻弄される杏奈。わけがわからないと言ったように苦い顔をする。
「そういうわけわかんねぇことしたがるヤツだからな。それか罰ゲームか」
「罰ゲーム……」
「武内なら旭より昴の方が仲がいいし、同期だけど言うほど接点ないだろ。武内のことが好きならなんで旭から夕映を誘うんだよ」
「そ、それは……」
「あんまり確証のない噂ばら撒くなよ。誰が誰と恋愛してようが関係ないだろ。仕事はちゃんとやってんだから。お前こそ、今日小平先生の指示忘れてたろ。他人の心配してる暇があったら自分の仕事を全うしろ。俺は、仕事のできない看護師は好きじゃない」
くぐっと拳を握りしめ、わなわなと怒りに震える杏奈は、「仕事に関しては気を付けます……でも、小柳さんの方が私よりも仕事ができないと思いますけどね。でも夜天先生は気にかけてあげるんですね!」と言った。
夜天は呆れたようにため息をつき「お前、何年目だっけ? 俺よりも早く病棟にいたよな? それで夕映の方がお前より仕事できたらヤバいだろ。それこそお前、看護師辞めた方がいいと思うぞ」と低い声を発する。
「なっ……」
「アイツはまだ新人だ。伸び代もあるしこれから成長する。今のお前と同じ実務経験があってお前より仕事ができなければ関わるのもやめるかもな」
夜天はそれだけ言い残して、今度こそ杏奈に背を向けた。顔が見えなくなった瞬間、夜天はぐっと唇を結んで眉をひそめた。どういうことか問い詰めないとな、そう思いながら夜天は白衣の中のPHSを再び触った。
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