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お付き合いすることになりまして
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「今日ね、伝えてきたんだ」
旭は夕映と電話をしながら、ケトルで湯を沸かし始めた。まだとても眠れそうになかった。日中の保の言葉も、抱擁もキスもなにもかも忘れられない。胸は激しく高鳴って、うるさいくらいだ。
ただ、気持ちはとても満足していた。見ているだけでよかった時よりもずっと。保を追いかけていながら、どこかで自分の気持ちを否定したい思いもあった。それは、保に拒絶されるのが怖かったからに他ならない。けれど彼は全てを受け入れてくれた。
付き合えないことはわかっていたが、旭の気持ちを知って尚、まだ友達でいようと言ってくれたのだ。
もうそれだけで十分だった。精算というに相応しい時間だった。こんなにも清々しい気分なのは久しぶりのこと。
嬉しかったのとようやく訪れた開放感が心地よくて、このことを誰かに言いたかった。
そこで頭に浮かんだのは夕映だった。夜天に警告されたように、保への想いを精算させてから夕映と向き合おうと考えていた。
告白したその日に夕映に連絡することができようとは、旭自身も思っていなかった。きっとこっぴどく振られて傷付いて、立ち直れないほどに落ち込んで、どちらにせよ夕映と向き合うことができるのは当分先になると考えていたから。
向き合うといっても、もちろん今すぐ付き合いましょうというわけではない。保から恋心への餞別として多くのものをもらってしまった結果、すぐに他の人間と恋愛をするなどとは考えられない。
それでも進捗状況を夕映に伝え、これから少しずつ時間をかけて距離を縮めていきたい意向を示したいと思ったのだった。
ほんの少しだけ経緯を話した。
「先生は……大丈夫なんですか?」
「うん。思ったよりもずっと気持ちが楽になった」
「そうですか……。それならよかったです」
「まぁ、傷付いていないと言ったら嘘になるけどね」
ふっと笑えば、電話の向こうで震えるように息を吐く音がした。何となく泣きそうな夕映の顔が想像できた。
自分のことではないのにどうしてこんなにも感情移入できるのか不思議だった。
「……泣いてるの?」
「……泣いて、ないです」
夕映はそう言ったが、電話の向こう側ではボロボロと涙を流していた。初めて旭に告白した時の緊張と勇気を思い出したのだ。看護師達に笑われ、旭にもあっさり振られた。わかっていても切なかったあの日。あの時にはこんなふうに旭から電話をもらえるだなんて想像もできなかったし、旭が告白するということさえ現実的ではなかった。
旭は夕映と電話をしながら、ケトルで湯を沸かし始めた。まだとても眠れそうになかった。日中の保の言葉も、抱擁もキスもなにもかも忘れられない。胸は激しく高鳴って、うるさいくらいだ。
ただ、気持ちはとても満足していた。見ているだけでよかった時よりもずっと。保を追いかけていながら、どこかで自分の気持ちを否定したい思いもあった。それは、保に拒絶されるのが怖かったからに他ならない。けれど彼は全てを受け入れてくれた。
付き合えないことはわかっていたが、旭の気持ちを知って尚、まだ友達でいようと言ってくれたのだ。
もうそれだけで十分だった。精算というに相応しい時間だった。こんなにも清々しい気分なのは久しぶりのこと。
嬉しかったのとようやく訪れた開放感が心地よくて、このことを誰かに言いたかった。
そこで頭に浮かんだのは夕映だった。夜天に警告されたように、保への想いを精算させてから夕映と向き合おうと考えていた。
告白したその日に夕映に連絡することができようとは、旭自身も思っていなかった。きっとこっぴどく振られて傷付いて、立ち直れないほどに落ち込んで、どちらにせよ夕映と向き合うことができるのは当分先になると考えていたから。
向き合うといっても、もちろん今すぐ付き合いましょうというわけではない。保から恋心への餞別として多くのものをもらってしまった結果、すぐに他の人間と恋愛をするなどとは考えられない。
それでも進捗状況を夕映に伝え、これから少しずつ時間をかけて距離を縮めていきたい意向を示したいと思ったのだった。
ほんの少しだけ経緯を話した。
「先生は……大丈夫なんですか?」
「うん。思ったよりもずっと気持ちが楽になった」
「そうですか……。それならよかったです」
「まぁ、傷付いていないと言ったら嘘になるけどね」
ふっと笑えば、電話の向こうで震えるように息を吐く音がした。何となく泣きそうな夕映の顔が想像できた。
自分のことではないのにどうしてこんなにも感情移入できるのか不思議だった。
「……泣いてるの?」
「……泣いて、ないです」
夕映はそう言ったが、電話の向こう側ではボロボロと涙を流していた。初めて旭に告白した時の緊張と勇気を思い出したのだ。看護師達に笑われ、旭にもあっさり振られた。わかっていても切なかったあの日。あの時にはこんなふうに旭から電話をもらえるだなんて想像もできなかったし、旭が告白するということさえ現実的ではなかった。
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