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傷が疼く
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「……ちょっとね。ちょっとだけだよ。夜天ほど夕映ちゃんのこと好きじゃないし」
「だなー」
「……否定しないの?」
「しねぇよ。俺、今結構夢中だから」
「なんだ、そっか……」
夜天はふうっと息をつく。旭とこんなふうに仕事以外の話を、まして恋愛についてプライベートで話す日がくるなんて思わなかったなと軽く目を閉じた。
「お前はどうすんの? 武内諦めて」
「さぁ……。もう、恋愛とか暫くいい。疲れた」
「ふーん」
「……なんのためにかけてきたの?」
「夕映を抱いたこと、自慢するため」
「性格悪……」
「ばーか。嘘だよ。……ありがとな、夕映のこと送ってくれて」
「……うん。大事にしてほしい」
「当たり前だろ。……ちょっと激しくしすぎて失神したけど」
「は!?」
キンっと耳に響くような声が聞こえて、夜天は慌ててスマートフォンを耳から話した。
「うるせ……」
「夜天は限度ってもんを」
「わかってるよ。次は気を付ける。なー……」
「……なに」
「男紹介してやろうか」
「は!?」
「ゲイのツレけっこういるぞ。いいヤツ」
「……いい。夜天がそういう人と交流もつとは思わなかった」
「言ったろ? 俺、偏見ねぇから。人間性重視」
「あっそ……」
「お前は性格悪いけどな」
「は!? 誰が言ってんの……」
「夕映は最後までお前のこと優しいって言ってたけど、優しさじゃなかった時もある」
「……自覚してる」
優しい医師を演じている努力は夜天も認めている。けれど、自分本意なところがあるところも否めない。
「俺が男もいけたら早い段階で解決したのになー」
冗談混じりにそう言えば、心底嫌そうな声で「は? 俺にも選ぶ権利があるんだけど。夜天はタイプじゃない」とバッサリ切られた。
「お前な……」
「でも、友達としては嫌いじゃない……」
初めて旭が友達と口にした。夜天は目を丸くさせる。つい最近までただの同期としかみていなかった。お互いに。
「……俺もー」
照れたように夜天が言えば、電話の向こうで旭がクスリと笑った。
「お前の連絡先、夕映に消させるぞ」
「うん。俺も消すよ」
「お前、キスしたろ」
「した。謝らないからね」
「何でだよ……」
「彼女だったもん。あの時には」
そう言った旭は、そっと潤んだ瞳を閉じた。保ほど好きになれたわけじゃない。本当に恋愛の類だっかと聞かれると怪しくもある。けれど、夕映は旭に1つの可能性を与えた存在だった。
生まれて初めて彼女ができた。自分には無縁だと思っていた。他の人とは違う、欠陥品だと思って生きてきた。でも、それを覆してくれた人。
きっとこの先、どんな女性に出会っても夕映ほど可能性を感じる人には出会えないだろうと思う。ただそれでも、30年間生きてきて貴重な体験ができた。好きかもしれないと思わせてくれた。保に好きだと伝える勇気をくれた。
旭の止まっていた時間はゆっくりと動き始めた。
「……会ってみてもいいけどね。……夜天の友達」
「なんで上から目線なんだよ。……武内くらい顔面いいヤツもいるぞ」
「っ……別に俺はっ」
「はい、面食い」
間髪入れずに夜天が言えば、2人揃ってふはっと笑った。
「だなー」
「……否定しないの?」
「しねぇよ。俺、今結構夢中だから」
「なんだ、そっか……」
夜天はふうっと息をつく。旭とこんなふうに仕事以外の話を、まして恋愛についてプライベートで話す日がくるなんて思わなかったなと軽く目を閉じた。
「お前はどうすんの? 武内諦めて」
「さぁ……。もう、恋愛とか暫くいい。疲れた」
「ふーん」
「……なんのためにかけてきたの?」
「夕映を抱いたこと、自慢するため」
「性格悪……」
「ばーか。嘘だよ。……ありがとな、夕映のこと送ってくれて」
「……うん。大事にしてほしい」
「当たり前だろ。……ちょっと激しくしすぎて失神したけど」
「は!?」
キンっと耳に響くような声が聞こえて、夜天は慌ててスマートフォンを耳から話した。
「うるせ……」
「夜天は限度ってもんを」
「わかってるよ。次は気を付ける。なー……」
「……なに」
「男紹介してやろうか」
「は!?」
「ゲイのツレけっこういるぞ。いいヤツ」
「……いい。夜天がそういう人と交流もつとは思わなかった」
「言ったろ? 俺、偏見ねぇから。人間性重視」
「あっそ……」
「お前は性格悪いけどな」
「は!? 誰が言ってんの……」
「夕映は最後までお前のこと優しいって言ってたけど、優しさじゃなかった時もある」
「……自覚してる」
優しい医師を演じている努力は夜天も認めている。けれど、自分本意なところがあるところも否めない。
「俺が男もいけたら早い段階で解決したのになー」
冗談混じりにそう言えば、心底嫌そうな声で「は? 俺にも選ぶ権利があるんだけど。夜天はタイプじゃない」とバッサリ切られた。
「お前な……」
「でも、友達としては嫌いじゃない……」
初めて旭が友達と口にした。夜天は目を丸くさせる。つい最近までただの同期としかみていなかった。お互いに。
「……俺もー」
照れたように夜天が言えば、電話の向こうで旭がクスリと笑った。
「お前の連絡先、夕映に消させるぞ」
「うん。俺も消すよ」
「お前、キスしたろ」
「した。謝らないからね」
「何でだよ……」
「彼女だったもん。あの時には」
そう言った旭は、そっと潤んだ瞳を閉じた。保ほど好きになれたわけじゃない。本当に恋愛の類だっかと聞かれると怪しくもある。けれど、夕映は旭に1つの可能性を与えた存在だった。
生まれて初めて彼女ができた。自分には無縁だと思っていた。他の人とは違う、欠陥品だと思って生きてきた。でも、それを覆してくれた人。
きっとこの先、どんな女性に出会っても夕映ほど可能性を感じる人には出会えないだろうと思う。ただそれでも、30年間生きてきて貴重な体験ができた。好きかもしれないと思わせてくれた。保に好きだと伝える勇気をくれた。
旭の止まっていた時間はゆっくりと動き始めた。
「……会ってみてもいいけどね。……夜天の友達」
「なんで上から目線なんだよ。……武内くらい顔面いいヤツもいるぞ」
「っ……別に俺はっ」
「はい、面食い」
間髪入れずに夜天が言えば、2人揃ってふはっと笑った。
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