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第七章 信仰か魔導具か。
海の牛と見回りと。
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我とシャッテンの前で大きな水しぶきが上がり一隻の軍艦が海上から全体像を見せた。
「モオオオォォォォ!!」
声と共に水しぶきから姿をみせた存在に驚きよりも懐かしさを覚えた。
頭は闘牛のような角と顔つきに身体はオットセイという感じの濃い青色の毛並みの生物を。
「おお!あれはスイギューではないか!」
大黒林の近海にいるエメソンと同じく我が連れてきた魔界の海洋生物の一体。
本当の名前はブルーホーンバッファローで海辺の河口や湖に生息する。
ただ我は見た目、というかほとんど顔からパッと浮かんでスイギュー(水牛)と名付けたのである。
スイギューが自慢の二本角でかち上げた軍艦は半回転して隣にいた別の軍艦の後方部分に落ちた。
さらにスイギューは水しぶきで起きた大波に翻弄される二隻の内の一隻へと泳いで横っ腹へと突っ込んでみせた。
五十年経って中型から大型船に匹敵するほどのスイギューの突撃に軍艦は大きく傾いて甲板にいただろう幾人かの人間達を海に落としてやってみせた。
「なんじゃなんじゃ?あれはお前さんところのペットかえ?」
「うむ、まさかこんなところまで泳いでいたとはな。」
大黒林からオサカの町近くまでなんて大陸の四分の一くらいの移動距離になるだろうから大移動したものである。
きっとエメソンと違ってスイギューは雑食だからこそなのだろう。
としみじみ考えていればスイギューの悲鳴が聞こえてきた。
見れば最後の一隻の砲台から火炎放射が出てスイギューに襲いかかっていた。
おいおい、水に生息する相手に火属性なんてあまり効果がないだろうが。
必死になるあまり考えが回らなかったのか、やはり読み通り決まった属性しか放てないのか。
ともかくうちのペットに火傷させては飼い主として許せぬ。
「貴様らぁ!」
ボンッと足裏から風を噴射させて飛び出し軍艦に接近すれば盾を変形させて巨大な棘鉄球にすると
「うちのペットをぉ!いじめるでないわぁ!!」
魔力を鎖に形作って棘鉄球を振り回すとおもいっきり砲台に叩きつけた。
放射している最中に鉄球に叩きつけられた砲台は少しして火属性の大爆発をしてみせる。
巻き込まれた者達は丸焦げになり無事だった者は船の後方に逃げ出す。
「ちょっと大魔将軍!妾にも戦わせぬか!」
鎖を引いて鉄球を盾に戻しているところで追いついたシャッテンから文句が飛んできた。
だから残りは全部任せたぞとシャッテンに告げてから我は飛んでスイギューのところに向かった。
スイギューも我を視認すると頭を見せてフモオッフモオッと短く鳴いてくれた。
見た感じ火炎放射を受けたところは毛が少し焦げた程度で無事なようだ。
「久しぶりだなスイギュー。この辺りを縄張りとしているのか?」
エメソンと同等に知力があるので質問にスイギューは頭を上下させてみせる。
となれば今まで姿を見せなかったのはタイミングが悪かったということかな?
この浜辺には最初ぐらいしか近づいていなかったから確認は取れなかっただろうし。
それにこう見えてスイギューは少々内気な正確だから気配を感じても視認しなければ確信を得られなかったので姿を見せなかったということも考えられる。
だから今回我の魔力を感じて海から視認したことで戦闘に参加してくれたのだろうから全く可愛いやつだ。
「おーい、終わったぞ大魔将軍。」
大きな大きなスイギューの頭を撫でて再会を感じている間にシャッテンが残った一隻を影で真ん中から引き裂くように破壊して帰ってきた。
所詮人間が扱える程度の軍艦では四隻いたとしても大ボス二体に中ボス一体が相手となればこうもあっさり終わってしまうということか。
「ならシャッテンは逃げ延びた人間がいないか探索を。見つけ次第捕縛してくれ。スイギューはそうだな、あのゴミを砂浜まで押して運んできてくれ。我は住民達に安全を伝えてくる。」
結構大きな音が響いたから町にも伝わっているだろうし、それが戦闘ならば住民達が不安に感じているかもしれないので彼女らに指示してから一足先に報告に戻ることにした。
案の定外壁で様子見してくれていたクーナ達を見つけまずはそこに降りて話す。
「ではあの巨大な魔物も大魔将軍様の配下なのですね。」
「うむ、見た目は怖いだろうが大人しいやつだから警戒する必要はないぞ。」
スイギューのことを話してあげるとクーナと一緒にいたラッダは苦笑いを浮かべていたが彼女は冷静にわかりましたと返す。
もうすっかりこちらのやること成すことにいちいち驚いていられないとばかりの反応に感心しながら二人に下にいる者達への報告を頼んでまた海辺に戻った。
軍艦だったものを頭と身体を使って砂浜まで押してみせるスイギュー。
身体がオットセイみたいなので短時間ならば水辺から出てみせる水陸両用性も兼ねているところはエメソンと違う点である。
シャッテンの方はまだ作業中だからここはスイギューに指示して効率的に運ばせてあげた。
三隻目を運び終えたあたりにシャッテンがこちらに声を掛けてきた。
海岸を指差して生き残りを集めたと報告してくれた彼女と一緒に向かい影の網で捕縛された水兵さん達を見下ろす。
向こうはあっという間に自分達の軍艦を壊滅させられた相手にすっかり怯えていた。
「お前達は何処の国の所属だ?素直に話せ。」
上の階級らしい服装の相手に顔を向けて問いかければ正直に応えてくれた。
ここにいる水兵達は全員聖教皇国シェガヒメの北側にある属国でシェガヒメの命令で所有する軍艦による連合艦隊でオサカの町を殲滅する為にきたとのこと。
その為、当初は一斉砲撃による短期決戦にするつもりだったらしい。
まあ、逆にこちらがスイギューと一緒に短期決戦の返り討ちにしてやったのだが、なるほど殲滅ときたか。
奪還に失敗して数ヶ月経つか経たないかでもう殲滅に切り替えるとは思いきったことをしたものだ。
他の二大国が知ったら抗議文が飛んでいくんじゃないかと思う。
誰がそんな命令を出したかは知らないが相変わらず属国を利用して攻めようとは姑息である。
「ふむ、話も聞いたしシャッテン、こいつらを解放してやれ。」
シャッテンにそう指示して我は一方向を指差す。
示す方向を見てシャッテンは笑みを浮かべると捕縛している水兵ごと影を伸ばし網網と繋げば手に変え持ち上げてから海に向かって投げ捨てた。
宙に放り出された水兵達は飛んでいく先を見て絶叫した。
我の指の動きで理解し大きく口を開けたスイギューを見て。
「さて、海をあまり汚さない内に片付けを済ませるとしよう。」
バクンッ!という音を背後に聞きながら我はシャッテンに言って作業を再開するのであった。
*
ーー…水遊びとペットの再会から一週間後に思った。
あの船団はシェガヒメ国にとっての隠れ蓑だったのだと。
軍艦をエイムとドワーフ達で解体するよう指示してから五日間ほど我は国境作りをこっそり視察していた。
やはりヒトと魔族による世界初の事業なので多少の問題が起こるだろうと心配してだ。
空から作業を眺めていると皆互いに身振り手振りに声かけをしながら奮闘しているのが伺えた。
するとこちらの存在に気づいたゾドラが飛んできた。
「旦那様、今のところ作業は順調に進んでおります。」
「うむ、結構。ヒト側の健康状態に問題は?」
「ありません。ドワーフが飲酒を求めてる以外は。」
ゾドラの報告を聞いてそこはドワーフらしいと軽く笑う。
まあ休日に飲むお酒くらいなら提供してやってもいいかもしれないので検討しておこう。
今のまま工事が進めばもしかしたら早くて四ヶ月目あたりにはほぼ完成するかもしれない。
そうなったら完成会と称して宴を開くとしよう。
「ところでエルフェンはどうしている?」
「エルフェンなら監督役をしっかりこなしています。小さないさかいを納めるのも積極的にやっておりますよ。」
「……お前は?」
振り向いてじっと視線を送ってゾドラに一言尋ねる。
この質問は同じように仕事をこなしているかとエルフェンに協力しているかという二つの意味でだ。
質問と視線にゾドラは戸惑いを見せながら答える。
「私はぁ、少々加減を間違えないようにしながら尽力しております。はい。」
わかりやすい反応だな全く…。
多分叱る時の力加減を間違えてエルフェンに小言を言われているのかもしれない。
それでも努力してくれているのならばほんの少しだけ褒めてやるとしよう。
「それで良いゾドラ。何事も歩くことから始めればいいのだ。古い言葉にこういうのがある[千里の道も一歩から]とな。」
そう言ってまた無意識にゾドラの頭に手を伸ばして優しく撫でた。
久しぶりに褒められたゾドラは頬を赤くし尻尾を揺らして喜びを表してみせた。
なのでエルフェンへの労いの言葉をゾドラに言伝てさせてから視察を済ませ、次はオガコ達の様子を見に行くことにした。
彼女らは現在オーガ族の里周辺の要塞化を行っている。
エイムと我から与えられた資材と道具を使って門から前方一帯を囲む形に建設して新たな拠点とする為だ。
無論、作業は日中のみで暗くなったら夜の作業をやっていることだろう。
変な話だが人間族とは相性が良いから確率が高いので増えていくのに時間は掛かるまい。
「下世話な話になってすまない親分。でも作業は順調に進んでいるし、風の噂でも聞いたのか散り散りになっていた同族がやってきてもいるんだ。」
「それは行幸だなオガコよ。ならば何か褒美を取らせよう。どんなのがいい?」
復帰してからの頑張りに個人的な褒美を与えようとオガコに尋ねた。
すると彼女から以外なものを求められる。
「じゃ、じゃあさ、日記帳みたいなのとペンが欲しい。」
「んん?能力向上の装飾品とかでなくか?」
筆記具を求められ何故と聞けばオガコは話す。
この世界に侵略していた当時、オガコは筆記具を見つけそれで伝記を密かに作ろうと思っていた。
しかし前の身体の大きめの手ではこの世界のペンは弱すぎてオガコはすぐに壊してしまっていた。
それに紙なんて彼女以外のオーガにとっては薪の火付け役程度の扱いしかしないから保存もされない。
でも進化して縮んだ今の身体ならペンを握り潰さず紙の上にすらすらと書ける器用さを得ていたことをオガコは最近知ったという。
「だから今度こそ書いてみたいんだ。親分とアタシ達の記録を。」
それは前世がラノベ好きの女子高生だったが故のオガコの目的の一つであった。
当然話を聞いた我に反対の言葉はないし応援してあげたいとも思えた。
よかろうと倉庫から新品同然の日記帳と魔法が付与されたペンを贈呈する。
このペンは魔力を注げば決してインクが切れないし水を浴びても滲まないのだ。
二品を受け取ったオガコは満面の笑顔で感謝を告げると
「最後に親分、今からアタシの家にこないかい?」
我が立ち去ろうかと思った矢先に右手を取ってお願いしてきたオガコ。
別に構わないがオガコは何故かよそよそしい雰囲気を出してみせている。
「どうした?まだお願いがあるなら聞くぞ?」
「そ、そのぉ、久しぶりにあれをやってほしいと思って…。」
視線を逸らしながらオガコは呟くように言ってきた。
アレってなんだろう?
久しぶりってことは、前にもやったことがあるってことだしオガコの様子からしてフクチョウらには見られたくないというものだから……
「…ああ、なるほどなるほど。確かに復活してからはしてなかったな。では行くか。」
「っ!…う、うん!」
オガコの手を引いて横並びに歩く。
恥ずかしげな顔で軽く下を向いている彼女と一緒に我が歩く光景に周りのオーガ族は神々しいものでも見るかのような眼差しを向けてくる。
一体何を想像しているかは知らない、知らない方がいいと思う。
だってその想像を簡単に折ってしまうからだ。
「……んっはぁ…冷たい。けど、気持ちいい。」
「そうか?硬くて辛くないのか?」
自宅でオガコは我の上に寝ていた。
胡座で座るとできる空間にオガコは頭を入れる形で寝転がり更に我が彼女の頭を優しく撫でる。
進化前ならぴったりだった頭が今では肩まですっぽり入ってしまいそうだ。
これがオガコの喜ぶご褒美の一つ。
前世がおじいちゃんっ子だったからこの寝方が好きなんだと以前話してもらい実際にやってあげたら硬いのも気にせず快くしていた。
以降は里に訪問した時とか戦果を上げた時とかに二人っきり限定でしてあげていたものだ。
「いいんですよ大魔将軍様。それにちゃんと気を遣ってくれてますよね?」
下から見上げる形でオガコは素の口調になりそう言って微笑む。
確かに【鎧変形】で脚の形を辛くない形に湾曲してはしているが質感は硬いままだ。
「こんなこと頼めるのはもう大魔将軍様とエイムくらいですね。」
「そう、だな。皆いなくなってしまった……」
言葉にふと消滅してしまった眷属を思い出して我はつい影を落としてしまう。
それを見上げる形で気づいたオガコは頭を上げて振り返りあわあわしながらフォローしようとしてくれた。
「大丈夫だオガコよ。お前達がいたからこそ、いやお前達の想いがあったからこそ我はここにいるのだとも思っているのだから。」
だから見えない笑顔を向けてオガコの頭を優しく撫でる。
すると通信機が鳴ったので繋ぐと先にエイムの声が聞こえてきた。
『マスターマスター。また敵襲だよ。』
「何?もう次がきたか。というかシャッテンはどうした?」
『シャッテンは今防戦中なんだけど、敵が面白いゴーレム軍団を出してきたから連絡は任せたってこれ渡してきたの。』
エイムの連絡と間に聞こえてくる戦闘音を聞いて我はシェガヒメ国がいよいよ重い腰を上げたかと思った。
エイムが面白いと言ってきたからには前回の量産型ゴーレムとは違ったゴーレムがやってきたということ。
シャッテンが防戦しているということは街に攻撃が届いているということ。
以上二つの情報から属国に配っていい程度の品物ではない可能性と激しい戦闘が予想できる。
つまりロサリオ騎士団本隊かカテジナ自ら赴いてきたかということにも繋がるかもしれない。
「わかった。すぐに向かうからそれまで守りきれ。」
『オッケーだよマスター。おもいっきり遊ぶさ!』
通話を終えると一緒に聞いていたオガコに事情を伝えた。
「…へっ!ならアタシも行くぜ親分!ゴーレム相手なら退屈しのぎができるからな!」
意気込みを見せ同行を願い出たオガコに頷いて了承する。
オガコは手下を呼んで話を通すと自身の得物を背負ってから傍にきた。
彼女と準備が済んだことを聞いてから我は【次元転移】でオサカの街に向かった。
「モオオオォォォォ!!」
声と共に水しぶきから姿をみせた存在に驚きよりも懐かしさを覚えた。
頭は闘牛のような角と顔つきに身体はオットセイという感じの濃い青色の毛並みの生物を。
「おお!あれはスイギューではないか!」
大黒林の近海にいるエメソンと同じく我が連れてきた魔界の海洋生物の一体。
本当の名前はブルーホーンバッファローで海辺の河口や湖に生息する。
ただ我は見た目、というかほとんど顔からパッと浮かんでスイギュー(水牛)と名付けたのである。
スイギューが自慢の二本角でかち上げた軍艦は半回転して隣にいた別の軍艦の後方部分に落ちた。
さらにスイギューは水しぶきで起きた大波に翻弄される二隻の内の一隻へと泳いで横っ腹へと突っ込んでみせた。
五十年経って中型から大型船に匹敵するほどのスイギューの突撃に軍艦は大きく傾いて甲板にいただろう幾人かの人間達を海に落としてやってみせた。
「なんじゃなんじゃ?あれはお前さんところのペットかえ?」
「うむ、まさかこんなところまで泳いでいたとはな。」
大黒林からオサカの町近くまでなんて大陸の四分の一くらいの移動距離になるだろうから大移動したものである。
きっとエメソンと違ってスイギューは雑食だからこそなのだろう。
としみじみ考えていればスイギューの悲鳴が聞こえてきた。
見れば最後の一隻の砲台から火炎放射が出てスイギューに襲いかかっていた。
おいおい、水に生息する相手に火属性なんてあまり効果がないだろうが。
必死になるあまり考えが回らなかったのか、やはり読み通り決まった属性しか放てないのか。
ともかくうちのペットに火傷させては飼い主として許せぬ。
「貴様らぁ!」
ボンッと足裏から風を噴射させて飛び出し軍艦に接近すれば盾を変形させて巨大な棘鉄球にすると
「うちのペットをぉ!いじめるでないわぁ!!」
魔力を鎖に形作って棘鉄球を振り回すとおもいっきり砲台に叩きつけた。
放射している最中に鉄球に叩きつけられた砲台は少しして火属性の大爆発をしてみせる。
巻き込まれた者達は丸焦げになり無事だった者は船の後方に逃げ出す。
「ちょっと大魔将軍!妾にも戦わせぬか!」
鎖を引いて鉄球を盾に戻しているところで追いついたシャッテンから文句が飛んできた。
だから残りは全部任せたぞとシャッテンに告げてから我は飛んでスイギューのところに向かった。
スイギューも我を視認すると頭を見せてフモオッフモオッと短く鳴いてくれた。
見た感じ火炎放射を受けたところは毛が少し焦げた程度で無事なようだ。
「久しぶりだなスイギュー。この辺りを縄張りとしているのか?」
エメソンと同等に知力があるので質問にスイギューは頭を上下させてみせる。
となれば今まで姿を見せなかったのはタイミングが悪かったということかな?
この浜辺には最初ぐらいしか近づいていなかったから確認は取れなかっただろうし。
それにこう見えてスイギューは少々内気な正確だから気配を感じても視認しなければ確信を得られなかったので姿を見せなかったということも考えられる。
だから今回我の魔力を感じて海から視認したことで戦闘に参加してくれたのだろうから全く可愛いやつだ。
「おーい、終わったぞ大魔将軍。」
大きな大きなスイギューの頭を撫でて再会を感じている間にシャッテンが残った一隻を影で真ん中から引き裂くように破壊して帰ってきた。
所詮人間が扱える程度の軍艦では四隻いたとしても大ボス二体に中ボス一体が相手となればこうもあっさり終わってしまうということか。
「ならシャッテンは逃げ延びた人間がいないか探索を。見つけ次第捕縛してくれ。スイギューはそうだな、あのゴミを砂浜まで押して運んできてくれ。我は住民達に安全を伝えてくる。」
結構大きな音が響いたから町にも伝わっているだろうし、それが戦闘ならば住民達が不安に感じているかもしれないので彼女らに指示してから一足先に報告に戻ることにした。
案の定外壁で様子見してくれていたクーナ達を見つけまずはそこに降りて話す。
「ではあの巨大な魔物も大魔将軍様の配下なのですね。」
「うむ、見た目は怖いだろうが大人しいやつだから警戒する必要はないぞ。」
スイギューのことを話してあげるとクーナと一緒にいたラッダは苦笑いを浮かべていたが彼女は冷静にわかりましたと返す。
もうすっかりこちらのやること成すことにいちいち驚いていられないとばかりの反応に感心しながら二人に下にいる者達への報告を頼んでまた海辺に戻った。
軍艦だったものを頭と身体を使って砂浜まで押してみせるスイギュー。
身体がオットセイみたいなので短時間ならば水辺から出てみせる水陸両用性も兼ねているところはエメソンと違う点である。
シャッテンの方はまだ作業中だからここはスイギューに指示して効率的に運ばせてあげた。
三隻目を運び終えたあたりにシャッテンがこちらに声を掛けてきた。
海岸を指差して生き残りを集めたと報告してくれた彼女と一緒に向かい影の網で捕縛された水兵さん達を見下ろす。
向こうはあっという間に自分達の軍艦を壊滅させられた相手にすっかり怯えていた。
「お前達は何処の国の所属だ?素直に話せ。」
上の階級らしい服装の相手に顔を向けて問いかければ正直に応えてくれた。
ここにいる水兵達は全員聖教皇国シェガヒメの北側にある属国でシェガヒメの命令で所有する軍艦による連合艦隊でオサカの町を殲滅する為にきたとのこと。
その為、当初は一斉砲撃による短期決戦にするつもりだったらしい。
まあ、逆にこちらがスイギューと一緒に短期決戦の返り討ちにしてやったのだが、なるほど殲滅ときたか。
奪還に失敗して数ヶ月経つか経たないかでもう殲滅に切り替えるとは思いきったことをしたものだ。
他の二大国が知ったら抗議文が飛んでいくんじゃないかと思う。
誰がそんな命令を出したかは知らないが相変わらず属国を利用して攻めようとは姑息である。
「ふむ、話も聞いたしシャッテン、こいつらを解放してやれ。」
シャッテンにそう指示して我は一方向を指差す。
示す方向を見てシャッテンは笑みを浮かべると捕縛している水兵ごと影を伸ばし網網と繋げば手に変え持ち上げてから海に向かって投げ捨てた。
宙に放り出された水兵達は飛んでいく先を見て絶叫した。
我の指の動きで理解し大きく口を開けたスイギューを見て。
「さて、海をあまり汚さない内に片付けを済ませるとしよう。」
バクンッ!という音を背後に聞きながら我はシャッテンに言って作業を再開するのであった。
*
ーー…水遊びとペットの再会から一週間後に思った。
あの船団はシェガヒメ国にとっての隠れ蓑だったのだと。
軍艦をエイムとドワーフ達で解体するよう指示してから五日間ほど我は国境作りをこっそり視察していた。
やはりヒトと魔族による世界初の事業なので多少の問題が起こるだろうと心配してだ。
空から作業を眺めていると皆互いに身振り手振りに声かけをしながら奮闘しているのが伺えた。
するとこちらの存在に気づいたゾドラが飛んできた。
「旦那様、今のところ作業は順調に進んでおります。」
「うむ、結構。ヒト側の健康状態に問題は?」
「ありません。ドワーフが飲酒を求めてる以外は。」
ゾドラの報告を聞いてそこはドワーフらしいと軽く笑う。
まあ休日に飲むお酒くらいなら提供してやってもいいかもしれないので検討しておこう。
今のまま工事が進めばもしかしたら早くて四ヶ月目あたりにはほぼ完成するかもしれない。
そうなったら完成会と称して宴を開くとしよう。
「ところでエルフェンはどうしている?」
「エルフェンなら監督役をしっかりこなしています。小さないさかいを納めるのも積極的にやっておりますよ。」
「……お前は?」
振り向いてじっと視線を送ってゾドラに一言尋ねる。
この質問は同じように仕事をこなしているかとエルフェンに協力しているかという二つの意味でだ。
質問と視線にゾドラは戸惑いを見せながら答える。
「私はぁ、少々加減を間違えないようにしながら尽力しております。はい。」
わかりやすい反応だな全く…。
多分叱る時の力加減を間違えてエルフェンに小言を言われているのかもしれない。
それでも努力してくれているのならばほんの少しだけ褒めてやるとしよう。
「それで良いゾドラ。何事も歩くことから始めればいいのだ。古い言葉にこういうのがある[千里の道も一歩から]とな。」
そう言ってまた無意識にゾドラの頭に手を伸ばして優しく撫でた。
久しぶりに褒められたゾドラは頬を赤くし尻尾を揺らして喜びを表してみせた。
なのでエルフェンへの労いの言葉をゾドラに言伝てさせてから視察を済ませ、次はオガコ達の様子を見に行くことにした。
彼女らは現在オーガ族の里周辺の要塞化を行っている。
エイムと我から与えられた資材と道具を使って門から前方一帯を囲む形に建設して新たな拠点とする為だ。
無論、作業は日中のみで暗くなったら夜の作業をやっていることだろう。
変な話だが人間族とは相性が良いから確率が高いので増えていくのに時間は掛かるまい。
「下世話な話になってすまない親分。でも作業は順調に進んでいるし、風の噂でも聞いたのか散り散りになっていた同族がやってきてもいるんだ。」
「それは行幸だなオガコよ。ならば何か褒美を取らせよう。どんなのがいい?」
復帰してからの頑張りに個人的な褒美を与えようとオガコに尋ねた。
すると彼女から以外なものを求められる。
「じゃ、じゃあさ、日記帳みたいなのとペンが欲しい。」
「んん?能力向上の装飾品とかでなくか?」
筆記具を求められ何故と聞けばオガコは話す。
この世界に侵略していた当時、オガコは筆記具を見つけそれで伝記を密かに作ろうと思っていた。
しかし前の身体の大きめの手ではこの世界のペンは弱すぎてオガコはすぐに壊してしまっていた。
それに紙なんて彼女以外のオーガにとっては薪の火付け役程度の扱いしかしないから保存もされない。
でも進化して縮んだ今の身体ならペンを握り潰さず紙の上にすらすらと書ける器用さを得ていたことをオガコは最近知ったという。
「だから今度こそ書いてみたいんだ。親分とアタシ達の記録を。」
それは前世がラノベ好きの女子高生だったが故のオガコの目的の一つであった。
当然話を聞いた我に反対の言葉はないし応援してあげたいとも思えた。
よかろうと倉庫から新品同然の日記帳と魔法が付与されたペンを贈呈する。
このペンは魔力を注げば決してインクが切れないし水を浴びても滲まないのだ。
二品を受け取ったオガコは満面の笑顔で感謝を告げると
「最後に親分、今からアタシの家にこないかい?」
我が立ち去ろうかと思った矢先に右手を取ってお願いしてきたオガコ。
別に構わないがオガコは何故かよそよそしい雰囲気を出してみせている。
「どうした?まだお願いがあるなら聞くぞ?」
「そ、そのぉ、久しぶりにあれをやってほしいと思って…。」
視線を逸らしながらオガコは呟くように言ってきた。
アレってなんだろう?
久しぶりってことは、前にもやったことがあるってことだしオガコの様子からしてフクチョウらには見られたくないというものだから……
「…ああ、なるほどなるほど。確かに復活してからはしてなかったな。では行くか。」
「っ!…う、うん!」
オガコの手を引いて横並びに歩く。
恥ずかしげな顔で軽く下を向いている彼女と一緒に我が歩く光景に周りのオーガ族は神々しいものでも見るかのような眼差しを向けてくる。
一体何を想像しているかは知らない、知らない方がいいと思う。
だってその想像を簡単に折ってしまうからだ。
「……んっはぁ…冷たい。けど、気持ちいい。」
「そうか?硬くて辛くないのか?」
自宅でオガコは我の上に寝ていた。
胡座で座るとできる空間にオガコは頭を入れる形で寝転がり更に我が彼女の頭を優しく撫でる。
進化前ならぴったりだった頭が今では肩まですっぽり入ってしまいそうだ。
これがオガコの喜ぶご褒美の一つ。
前世がおじいちゃんっ子だったからこの寝方が好きなんだと以前話してもらい実際にやってあげたら硬いのも気にせず快くしていた。
以降は里に訪問した時とか戦果を上げた時とかに二人っきり限定でしてあげていたものだ。
「いいんですよ大魔将軍様。それにちゃんと気を遣ってくれてますよね?」
下から見上げる形でオガコは素の口調になりそう言って微笑む。
確かに【鎧変形】で脚の形を辛くない形に湾曲してはしているが質感は硬いままだ。
「こんなこと頼めるのはもう大魔将軍様とエイムくらいですね。」
「そう、だな。皆いなくなってしまった……」
言葉にふと消滅してしまった眷属を思い出して我はつい影を落としてしまう。
それを見上げる形で気づいたオガコは頭を上げて振り返りあわあわしながらフォローしようとしてくれた。
「大丈夫だオガコよ。お前達がいたからこそ、いやお前達の想いがあったからこそ我はここにいるのだとも思っているのだから。」
だから見えない笑顔を向けてオガコの頭を優しく撫でる。
すると通信機が鳴ったので繋ぐと先にエイムの声が聞こえてきた。
『マスターマスター。また敵襲だよ。』
「何?もう次がきたか。というかシャッテンはどうした?」
『シャッテンは今防戦中なんだけど、敵が面白いゴーレム軍団を出してきたから連絡は任せたってこれ渡してきたの。』
エイムの連絡と間に聞こえてくる戦闘音を聞いて我はシェガヒメ国がいよいよ重い腰を上げたかと思った。
エイムが面白いと言ってきたからには前回の量産型ゴーレムとは違ったゴーレムがやってきたということ。
シャッテンが防戦しているということは街に攻撃が届いているということ。
以上二つの情報から属国に配っていい程度の品物ではない可能性と激しい戦闘が予想できる。
つまりロサリオ騎士団本隊かカテジナ自ら赴いてきたかということにも繋がるかもしれない。
「わかった。すぐに向かうからそれまで守りきれ。」
『オッケーだよマスター。おもいっきり遊ぶさ!』
通話を終えると一緒に聞いていたオガコに事情を伝えた。
「…へっ!ならアタシも行くぜ親分!ゴーレム相手なら退屈しのぎができるからな!」
意気込みを見せ同行を願い出たオガコに頷いて了承する。
オガコは手下を呼んで話を通すと自身の得物を背負ってから傍にきた。
彼女と準備が済んだことを聞いてから我は【次元転移】でオサカの街に向かった。
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