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第七章 信仰か魔導具か。
戦争ものですか?
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暗転から次に見えてきたのは煙が上がる外壁であった。
転移先のバルコニーから下を見れば城の前にたくさんのヒトが集まっている。
これはちゃんと非常事態の際には城に避難するよう伝聞してあったからこそだろう。
すると上から背中に鳥の翼を生やした何故か迷彩服にヘルメットという前世の自衛隊みたいな格好のエイムが飛んでやってきた。
格好に関しては我の伝えた知識が影響したのだろうが鳥の翼とは全く合っていない気がする。
「あれ?オガコも一緒なのマスター?」
「うむ、成り行きでな。現状を報告せよエイム。」
返事してからすぐに報告を求めれば格好に合わせてか敬礼してみせてからエイムは話す。
始まりは一時間ほど前に遡り大きな砲撃音が空に木霊すれば外壁の正門前からかなり前あたりで爆発が起きた。
浜辺に運ばれた軍艦を解体していたエイムとシャッテンはそれを聞いて現場に向かった。
また新たな敵襲にシャッテンとエイムはウキウキしながら正門前に着くも不思議に思った。
遠くまで見ても敵の姿が見えなかったからだ。
何処だろうと二体が左右を探索していればシャッテンが言っていたロサリオ騎士団がいる山から閃光がいくつも見え後からまた砲撃音がした。
次の瞬間、二体のちょっと手前あたりの地面に無属性の砲弾が複数命中し爆発してみせたのだ。
つまり敵が曲射による遠距離砲撃を使ってきたのである。
そこでシャッテンは防衛は自分に任せて敵の数を調べてこいとエイムに伝える。
我以外の命令にエイムはちょっとムッとしながらも先の話通り背中に鳥の翼を生やし山に向かって海沿いから迂回するように飛んでみた。
上空からエイムは山を上から麓まで眼を動かしながら敵を探す為に【生命探知】を使った。
すると麓あたりに複数の反応が確認できたのでエイムは左手を双眼鏡に変形させて見れば森と平野の境界線にあたるところから五本の大砲の砲首が出ているのが確認できた。
その砲首が少し上に動くとけたたましい砲音と共にまた無属性の弾を発射してみせた。
弧を描いて飛ぶ砲弾をエイムが見送れば四発はギリギリ手前に落ち一発が町の外壁端に命中する。
これは敵がついに本格的な攻撃をしてきたと判断してエイムは魔法攻撃を放った。
ところがその攻撃は森に届く前に阻まれてしまう。
森の中で何か光るとドーム状の防御壁が発生したからだ。
これに予想外だったエイムであったがさらに驚かされたのは森の中から魔法攻撃を逆に飛ばされたことだ。
しかも数が多くて反撃の余地すらなかったエイムは諦めて町へと撤退した。
後はシャッテンから通信機を受け取って我に連絡したのである。
「ごめんねマスター。僕あんまり活躍してなくて……」
「いいや十分だエイム。敵の兵器と居場所がわかっただけでも抱っこもののの成果である。」
しゅんとするエイムにそう言って励ましてあげると表情が明るくなるのが見れた。
しかしまあ半世紀経ったらこうも兵器が生まれるのか。
まさかガトリング砲の次は迫撃砲とはな。エイムにとっては初めてみたからきっとゴーレムと勘違いしてあんな報告してきたのだろう。
しかも上からの攻撃に対して対策も出来ている。
でも迫撃砲なんて下手したら町に大きな被害を与え兼ねない兵器だ。
先の量産型ゴーレム軍団の時は一度脅しの攻撃をしてから降伏を薦めてきたが今回も同じということか?
「エイム、オガコ。前線に向かうからついてこい。」
ひとまず我は眷属を連れてシャッテンが奮闘しているだろう正門前に向かった。
その間に一度砲撃音がしてから砲弾が落ちていくところとそれを影で作った手で弾き落とすところを見ながらシャッテンの元に着く。
「むむ!漸くきたでありんすか大魔将軍。」
「よく耐えてくれたシャッテン。共闘するぞ。」
我が言うと当然ですわ!とシャッテンはよりやる気を出してみせる。
すると背後からセプトの呼び掛けを受けたので振り返ると外壁にイランダと一緒に彼がいた。
なんだと返してやればセプトは迫撃砲の説明をしてくれた。
あれは魔力を充填させてから砲弾に性質を与え最後に角度を調整して発射するのでその間が反撃のチャンスだと言ってくれた。
多分知らないだろうからという配慮であろうからせっかく話してくれた彼に対してちょっと申し訳ない気持ちになる。
ともかく情報をくれたセプトに感謝を伝えてから改めて正面を向く。
「それで親分。どうやってあいつらをやっつける?」
「そうだな。皆、我は敵の兵器が欲しくなった。なのでここは絡め手でいく。」
我が意味深に告げると眷属らは元気よく返事して、シャッテンは不思議そうにこちらを見る。
そうこうしている間にまた砲撃が起きて弾を視認出来た我は手本として動く。
ちょうど落下する高さに少し上昇してから迫る砲弾へ向けて右手をかざしてスキルを使う。
「【魔法反射壁】!」
スキルを口に出せば我の前方約数メートル先に黄緑色の半透明な壁が長方形に発生する。
そのまま砲弾が壁に衝突すると爆発しないで弾かれ前方の適当なところの地面に落ちてから爆発してみせた。
【魔法反射壁】は名前の通り魔法攻撃を反射させる防御魔法スキルだ。
そんなスキルがあるなら半世紀前も勇者パーティーに使えばよかったのではと思ったそこの君。
実はこのスキルはそこまで万能ではないし取得難易度で言ったら中の下くらいなのだ
まず最大の欠点は名前のくせに無属性魔法しか反射しないという点だ。
それでいて出せる範囲も小さく我ほどでも五十平方メートルしか出せない。
初級の魔法使いでさえ努力すれば無属性魔法からすぐに属性魔法を習得できるのだからこのスキルの活躍する機会なんて滅多にないのだ。
飛んでくる砲弾が無属性しかなかったので使ってみたが効果ありのようなのでこのまま使っていくとして取りこぼしは眷属らに対応してもらうとしよう。
***
「ーー…馬鹿な!?砲弾が弾き返されただと!?」
森の中から望遠鏡で見ていた中年男性は驚く。
さっきまで黒い手で砲弾を叩く魔物の様子を伺っていれば報告に聞く大魔将軍が姿を見せ発射した砲弾を障壁を出して弾き返してみせたのだからだ。
あんなに広範囲を防ぐ壁を装置も使わず出すことが可能な者がいようとは思わなかった為に迫撃砲を担当する魔法使い達からも動揺が広がる。
「ついに現れましたか、大魔将軍…!」
そして一緒に見ていたあのヌンメルは遠くに見える相手に緊張した表情で立つ。
町が襲撃されたあの日から月日が経とうとも離れていようとも心から恐怖を感じてしまう。
しかもドワーフの重装歩兵すらも近寄らせず壊滅させた砲撃を跳ね返したところを見せられるとヌンメルは身震いもしてしまった。
「怯むな!我らはロサリオ魔砲兵師団!火力支援と攻城戦に特化した我らの砲撃を防ぎきれる輩は存在しない!」
異端者に断罪の炎を!という号令と共に再び砲撃が始まる。
五門の魔砲から今度は弾を小さくする代わりに連続で放たれる。
けたたましい爆音は全て遮音結界によって防がれているので魔砲を扱う者達への影響は最小限にされている。
さすがはかの英雄にして大司教のカテジナ・タニールの傑作の一つである。
しかしこれだけではない。
魔砲兵師団はあくまでも先鋒でありあと少しでやってくる本隊の為にも敵の戦力を削る役目があるのだ。
時間にして約三分間、砲撃を続けてから止める。
それ以上続けると最高硬度で製作されたとはいえ砲身が熱で歪んでしまい暴発の可能性があるからだ。
でも、数十発に及ぶ砲撃の雨はあらゆるものを破壊してみせた。
「ーー…そ、そんな…!」
「馬鹿な…あり得ない…!」
……そう、この迫撃砲が生まれ活躍してきたこれまで、は。
曲線を描いた砲撃を前に大魔将軍が出した防御壁は当たる全ての砲弾を前へと弾き返す。
防御壁から取りこぼした少数の砲弾は大魔将軍の背後にいた別の魔物が弾き落としてみせた為に街には外壁に当たった最初の指で数える程度しか届いていなかった。
これには師団長も砲兵を任された魔法使い達も唖然とした。
「くぅっ!次撃つまでどれくらいかかる!」
「あと長針2周半分です!」
砲身が冷めてから次の砲撃までの時間を確認している間に師団長は周囲の索敵を指示する。
これは先に空から攻撃を受けたからの的確な判断であった。
すると案の定、索敵班の装置に反応があった。
さっきは海側から迂回するような動きできたが今回は一直線にこちらへと向かってきていたのですぐに防御に入る。
この結界装置も従来型より範囲は普通だが強度が高くしかも外側からの攻撃は防ぎ内側からの出す攻撃は通す高性能だ。
「敵が間もなく最接近します!」
「よし!迎撃用意!」
索敵班と連携して対空の用意をしたヌンメル含む魔法と弓兵は上に向けて構える。
ところが索敵班から真上を通り過ぎて部隊の中心から少し後方にまできたことを報せられる。
これにすぐに各々が踵を返して振り返る中、ヌンメルは違和感に覚えた。
(あれ?この木、こんなに枝が下を向いていたかしら?)
振り返った先の木々の枝が斜め下を向いているかのように見えたヌンメル。
そう、まるで自分達に向けて枝が、木が傾いているかのようにだ。
「敵が止まりました!」
「今だ!放てぇ!」
号令で他の者が迎撃を始めるが嫌な予感を感じたヌンメルは左右に視線を送る。
彼女のその行動が一時であろうとも自分の身を守ることに繋がった。
「皆さん!上ではありません!下です!」
周りに伝わるよう言うヌンメルの視線の先にいたのは師団長。
彼の左の足首にいつの間にか木が巻きついていたのだ。
ヌンメルの言葉に師団長が何っ!?と言った次の瞬間、彼の視界は天地がひっくり返った。
師団長に続いて迫撃砲を担当していた魔法使いの手足や胴体にも蠢く木が巻きついて地面から浮かせて拘束していく。
「敵の攻撃です!森から脱出しましょう!」
次々と仲間達が拘束されていく中で先に気づいたヌンメルはまだ捕まっていない者達に報せる。
助けたいところではあるが不用意に魔法攻撃をすれば味方を傷つけてしまう為に手が出せないので脱出することをヌンメルは駆け出しながら伝えていく。
見た限り木を変化させて操るくらいしかきていないので報せたヌンメルは自分へと迫る枝木を避け、火属性魔法を駆使しながら森を抜ける為に走る。
森さえ抜ければ敵に姿を見せることになるが遠くにいるのですぐに攻撃はされないはずだ。
そこから抜けた者達でチームを編成して一度撤退するしかないだろう。
まさか大魔将軍と最初に砲撃を防いでいた魔族以外にあそこまで大規模な魔法を使う存在がいたことはヌンメル達にとって完全な想定外としか言いようがない。
しかしここで生き延び本隊に報せることが出来れば対策を作ることが出来る。
その為にもヌンメルはなんとしてもこの状況から脱出しようと前に向かって全力で走った。
短い距離なのですぐに木々の間から見えた平野にヌンメルは微かに安堵してしまった。
「……逃がしませんよ愚かなる略奪者達よ。」
足下から聞こえてきた女性の声、直後に左足首を掴まれた感触。
ヌンメルの早くなった鼓動は大きく脈打ちながら彼女はうつ伏せに倒れる。
身体を地面に打ちつけた痛みより左足を未だに掴まれている感触に現実味を感じると一気に冷や汗が噴き出たヌンメルは恐る恐る自分の左足へと顔を向け見えたものに顔を青くさせた。
地面を破って現れたのではなく、まるで水面から出たかのようにして伸びた真っ白な右手が自分の足首をしっかりと掴んでいたことに。
「我らが主君より賜ったこの力。存分に振るいましょう。」
地面が波打つような動きをしながら怯えるヌンメルの前にゆったりと姿をみせた相手は一目で人間でないとわかった。
高身長に白いドレスを纏っているかのようだが実際は手足と一体化しており、薄い黄緑の髪からは左右に緑と水色、紫と茶色の四本の角を生やした女性の目鼻しかない顔。
「この、フォースエレメントティムバーのラオブがいる森からは逃がしはいたしません。誰一人たりとも。」
***
ーー…暫く様子を伺っていれば森の中から一本の木が伸びてから季節外れの開花した姿を見せた。
「あれはぁ…成功したということでいいのか?」
「そうなんじゃない?ラオブの奴すごく張り切ってたみたいだし」
遠目に見えた光景に尋ねればエイムが一番に答える。
我が言った絡め手というのは相手の猛攻を凌いでから一気に攻勢へと転じる形だ。
…なのだが、ここでエイムからとある提案を出た。
『ねえねえ、マスター。』
『ん?なんだエイム?』
『よくよく考えたらさ、敵は森にいるんだからあの子呼んだら楽勝なんじゃない?』
エイムに言われたあの子というのに我は最初エルフェンのことかと聞き返してしまった。
するとエイムは頬を膨らませて子どもらしく違うよと軽く怒ってラオブを出してくれたのだ。
国境作りが始まってから少し経って我は約束通りラオブと【眷属契約】をしていた。
その結果、ラオブは二段階進化を果たし四つの自然エネルギーを操るとされるフォースエレメントティムバーに成ったのである。
進化の過程でついに木目のないしなやかな身体となにより視力を得たラオブは我のはっきりした容姿を見ると涙を流す機能はなくてももの凄く感動してきたのでちょっと気恥ずかしくなったものだ。
少し脱線したが確かに敵は森の中にいるのでラオブの本領を見れるいい機会だと判断し呼び出しすることにした。
『承知しました主君。鶏が十回鳴く前に向かいます。』
という返事を頂いてから再び砲撃が始まる前にラオブは地面から上半身が出る形で姿を見せた。
風、水、土、そして弱点だった雷の力を得たラオブは地面を掘ることなく海のように潜って移動できる能力を得たのでシャッテンには負けるだろうがその移動速度は超高速と言っていいだろう。
あとは【念間話術】で状況を伝えて行かせたというわけだ。
「なんじゃなんじゃ大魔将軍。部下を活躍させる為に自分が壁役を担うなんて、妾なら逆のことを命じるぞえ。」
「ふん、生憎だが我は魔界でもそうしてきたのだ。この世界に復活してもそれは変わらない。」
店員の活躍の場をちゃんと作ってやる気を出させれば相手も成長することが出来るし失敗してもフォローできるなら守ってこそ店長である。
という方針はやり方は形が変わっても我の中で活きているのだから当然の行動である。
そんな我の返事を一緒に聞いていたエイムとオガコから笑顔を向けられる。
「さて、決着はついた。得るものを得に向かうぞ。」
話を一旦終え我は仲間達を引き連れて森に向かった。
森と平野の境まで近づくとラオブがこちらへとゆっくり手を振ってくれていた。
「終わったのだなラオブよ。」
「はい大魔将軍様。ご命令通り敵は全て捕らえてあります。」
ラオブがそう言って手を向けた先には木に手足が飲み込まれた姿の人間達が顔を揃えて並んでいた。
こうしてみるとなんだかホラー映画にありそうな光景だな。
とりあえず敵は再起不能なのでオガコとシャッテンに兵器の運搬を頼んでから我はエイムとラオブを隣に人間達のところへと足を動かした。
ここからは文字通り極悪人の仕事をするからな。
転移先のバルコニーから下を見れば城の前にたくさんのヒトが集まっている。
これはちゃんと非常事態の際には城に避難するよう伝聞してあったからこそだろう。
すると上から背中に鳥の翼を生やした何故か迷彩服にヘルメットという前世の自衛隊みたいな格好のエイムが飛んでやってきた。
格好に関しては我の伝えた知識が影響したのだろうが鳥の翼とは全く合っていない気がする。
「あれ?オガコも一緒なのマスター?」
「うむ、成り行きでな。現状を報告せよエイム。」
返事してからすぐに報告を求めれば格好に合わせてか敬礼してみせてからエイムは話す。
始まりは一時間ほど前に遡り大きな砲撃音が空に木霊すれば外壁の正門前からかなり前あたりで爆発が起きた。
浜辺に運ばれた軍艦を解体していたエイムとシャッテンはそれを聞いて現場に向かった。
また新たな敵襲にシャッテンとエイムはウキウキしながら正門前に着くも不思議に思った。
遠くまで見ても敵の姿が見えなかったからだ。
何処だろうと二体が左右を探索していればシャッテンが言っていたロサリオ騎士団がいる山から閃光がいくつも見え後からまた砲撃音がした。
次の瞬間、二体のちょっと手前あたりの地面に無属性の砲弾が複数命中し爆発してみせたのだ。
つまり敵が曲射による遠距離砲撃を使ってきたのである。
そこでシャッテンは防衛は自分に任せて敵の数を調べてこいとエイムに伝える。
我以外の命令にエイムはちょっとムッとしながらも先の話通り背中に鳥の翼を生やし山に向かって海沿いから迂回するように飛んでみた。
上空からエイムは山を上から麓まで眼を動かしながら敵を探す為に【生命探知】を使った。
すると麓あたりに複数の反応が確認できたのでエイムは左手を双眼鏡に変形させて見れば森と平野の境界線にあたるところから五本の大砲の砲首が出ているのが確認できた。
その砲首が少し上に動くとけたたましい砲音と共にまた無属性の弾を発射してみせた。
弧を描いて飛ぶ砲弾をエイムが見送れば四発はギリギリ手前に落ち一発が町の外壁端に命中する。
これは敵がついに本格的な攻撃をしてきたと判断してエイムは魔法攻撃を放った。
ところがその攻撃は森に届く前に阻まれてしまう。
森の中で何か光るとドーム状の防御壁が発生したからだ。
これに予想外だったエイムであったがさらに驚かされたのは森の中から魔法攻撃を逆に飛ばされたことだ。
しかも数が多くて反撃の余地すらなかったエイムは諦めて町へと撤退した。
後はシャッテンから通信機を受け取って我に連絡したのである。
「ごめんねマスター。僕あんまり活躍してなくて……」
「いいや十分だエイム。敵の兵器と居場所がわかっただけでも抱っこもののの成果である。」
しゅんとするエイムにそう言って励ましてあげると表情が明るくなるのが見れた。
しかしまあ半世紀経ったらこうも兵器が生まれるのか。
まさかガトリング砲の次は迫撃砲とはな。エイムにとっては初めてみたからきっとゴーレムと勘違いしてあんな報告してきたのだろう。
しかも上からの攻撃に対して対策も出来ている。
でも迫撃砲なんて下手したら町に大きな被害を与え兼ねない兵器だ。
先の量産型ゴーレム軍団の時は一度脅しの攻撃をしてから降伏を薦めてきたが今回も同じということか?
「エイム、オガコ。前線に向かうからついてこい。」
ひとまず我は眷属を連れてシャッテンが奮闘しているだろう正門前に向かった。
その間に一度砲撃音がしてから砲弾が落ちていくところとそれを影で作った手で弾き落とすところを見ながらシャッテンの元に着く。
「むむ!漸くきたでありんすか大魔将軍。」
「よく耐えてくれたシャッテン。共闘するぞ。」
我が言うと当然ですわ!とシャッテンはよりやる気を出してみせる。
すると背後からセプトの呼び掛けを受けたので振り返ると外壁にイランダと一緒に彼がいた。
なんだと返してやればセプトは迫撃砲の説明をしてくれた。
あれは魔力を充填させてから砲弾に性質を与え最後に角度を調整して発射するのでその間が反撃のチャンスだと言ってくれた。
多分知らないだろうからという配慮であろうからせっかく話してくれた彼に対してちょっと申し訳ない気持ちになる。
ともかく情報をくれたセプトに感謝を伝えてから改めて正面を向く。
「それで親分。どうやってあいつらをやっつける?」
「そうだな。皆、我は敵の兵器が欲しくなった。なのでここは絡め手でいく。」
我が意味深に告げると眷属らは元気よく返事して、シャッテンは不思議そうにこちらを見る。
そうこうしている間にまた砲撃が起きて弾を視認出来た我は手本として動く。
ちょうど落下する高さに少し上昇してから迫る砲弾へ向けて右手をかざしてスキルを使う。
「【魔法反射壁】!」
スキルを口に出せば我の前方約数メートル先に黄緑色の半透明な壁が長方形に発生する。
そのまま砲弾が壁に衝突すると爆発しないで弾かれ前方の適当なところの地面に落ちてから爆発してみせた。
【魔法反射壁】は名前の通り魔法攻撃を反射させる防御魔法スキルだ。
そんなスキルがあるなら半世紀前も勇者パーティーに使えばよかったのではと思ったそこの君。
実はこのスキルはそこまで万能ではないし取得難易度で言ったら中の下くらいなのだ
まず最大の欠点は名前のくせに無属性魔法しか反射しないという点だ。
それでいて出せる範囲も小さく我ほどでも五十平方メートルしか出せない。
初級の魔法使いでさえ努力すれば無属性魔法からすぐに属性魔法を習得できるのだからこのスキルの活躍する機会なんて滅多にないのだ。
飛んでくる砲弾が無属性しかなかったので使ってみたが効果ありのようなのでこのまま使っていくとして取りこぼしは眷属らに対応してもらうとしよう。
***
「ーー…馬鹿な!?砲弾が弾き返されただと!?」
森の中から望遠鏡で見ていた中年男性は驚く。
さっきまで黒い手で砲弾を叩く魔物の様子を伺っていれば報告に聞く大魔将軍が姿を見せ発射した砲弾を障壁を出して弾き返してみせたのだからだ。
あんなに広範囲を防ぐ壁を装置も使わず出すことが可能な者がいようとは思わなかった為に迫撃砲を担当する魔法使い達からも動揺が広がる。
「ついに現れましたか、大魔将軍…!」
そして一緒に見ていたあのヌンメルは遠くに見える相手に緊張した表情で立つ。
町が襲撃されたあの日から月日が経とうとも離れていようとも心から恐怖を感じてしまう。
しかもドワーフの重装歩兵すらも近寄らせず壊滅させた砲撃を跳ね返したところを見せられるとヌンメルは身震いもしてしまった。
「怯むな!我らはロサリオ魔砲兵師団!火力支援と攻城戦に特化した我らの砲撃を防ぎきれる輩は存在しない!」
異端者に断罪の炎を!という号令と共に再び砲撃が始まる。
五門の魔砲から今度は弾を小さくする代わりに連続で放たれる。
けたたましい爆音は全て遮音結界によって防がれているので魔砲を扱う者達への影響は最小限にされている。
さすがはかの英雄にして大司教のカテジナ・タニールの傑作の一つである。
しかしこれだけではない。
魔砲兵師団はあくまでも先鋒でありあと少しでやってくる本隊の為にも敵の戦力を削る役目があるのだ。
時間にして約三分間、砲撃を続けてから止める。
それ以上続けると最高硬度で製作されたとはいえ砲身が熱で歪んでしまい暴発の可能性があるからだ。
でも、数十発に及ぶ砲撃の雨はあらゆるものを破壊してみせた。
「ーー…そ、そんな…!」
「馬鹿な…あり得ない…!」
……そう、この迫撃砲が生まれ活躍してきたこれまで、は。
曲線を描いた砲撃を前に大魔将軍が出した防御壁は当たる全ての砲弾を前へと弾き返す。
防御壁から取りこぼした少数の砲弾は大魔将軍の背後にいた別の魔物が弾き落としてみせた為に街には外壁に当たった最初の指で数える程度しか届いていなかった。
これには師団長も砲兵を任された魔法使い達も唖然とした。
「くぅっ!次撃つまでどれくらいかかる!」
「あと長針2周半分です!」
砲身が冷めてから次の砲撃までの時間を確認している間に師団長は周囲の索敵を指示する。
これは先に空から攻撃を受けたからの的確な判断であった。
すると案の定、索敵班の装置に反応があった。
さっきは海側から迂回するような動きできたが今回は一直線にこちらへと向かってきていたのですぐに防御に入る。
この結界装置も従来型より範囲は普通だが強度が高くしかも外側からの攻撃は防ぎ内側からの出す攻撃は通す高性能だ。
「敵が間もなく最接近します!」
「よし!迎撃用意!」
索敵班と連携して対空の用意をしたヌンメル含む魔法と弓兵は上に向けて構える。
ところが索敵班から真上を通り過ぎて部隊の中心から少し後方にまできたことを報せられる。
これにすぐに各々が踵を返して振り返る中、ヌンメルは違和感に覚えた。
(あれ?この木、こんなに枝が下を向いていたかしら?)
振り返った先の木々の枝が斜め下を向いているかのように見えたヌンメル。
そう、まるで自分達に向けて枝が、木が傾いているかのようにだ。
「敵が止まりました!」
「今だ!放てぇ!」
号令で他の者が迎撃を始めるが嫌な予感を感じたヌンメルは左右に視線を送る。
彼女のその行動が一時であろうとも自分の身を守ることに繋がった。
「皆さん!上ではありません!下です!」
周りに伝わるよう言うヌンメルの視線の先にいたのは師団長。
彼の左の足首にいつの間にか木が巻きついていたのだ。
ヌンメルの言葉に師団長が何っ!?と言った次の瞬間、彼の視界は天地がひっくり返った。
師団長に続いて迫撃砲を担当していた魔法使いの手足や胴体にも蠢く木が巻きついて地面から浮かせて拘束していく。
「敵の攻撃です!森から脱出しましょう!」
次々と仲間達が拘束されていく中で先に気づいたヌンメルはまだ捕まっていない者達に報せる。
助けたいところではあるが不用意に魔法攻撃をすれば味方を傷つけてしまう為に手が出せないので脱出することをヌンメルは駆け出しながら伝えていく。
見た限り木を変化させて操るくらいしかきていないので報せたヌンメルは自分へと迫る枝木を避け、火属性魔法を駆使しながら森を抜ける為に走る。
森さえ抜ければ敵に姿を見せることになるが遠くにいるのですぐに攻撃はされないはずだ。
そこから抜けた者達でチームを編成して一度撤退するしかないだろう。
まさか大魔将軍と最初に砲撃を防いでいた魔族以外にあそこまで大規模な魔法を使う存在がいたことはヌンメル達にとって完全な想定外としか言いようがない。
しかしここで生き延び本隊に報せることが出来れば対策を作ることが出来る。
その為にもヌンメルはなんとしてもこの状況から脱出しようと前に向かって全力で走った。
短い距離なのですぐに木々の間から見えた平野にヌンメルは微かに安堵してしまった。
「……逃がしませんよ愚かなる略奪者達よ。」
足下から聞こえてきた女性の声、直後に左足首を掴まれた感触。
ヌンメルの早くなった鼓動は大きく脈打ちながら彼女はうつ伏せに倒れる。
身体を地面に打ちつけた痛みより左足を未だに掴まれている感触に現実味を感じると一気に冷や汗が噴き出たヌンメルは恐る恐る自分の左足へと顔を向け見えたものに顔を青くさせた。
地面を破って現れたのではなく、まるで水面から出たかのようにして伸びた真っ白な右手が自分の足首をしっかりと掴んでいたことに。
「我らが主君より賜ったこの力。存分に振るいましょう。」
地面が波打つような動きをしながら怯えるヌンメルの前にゆったりと姿をみせた相手は一目で人間でないとわかった。
高身長に白いドレスを纏っているかのようだが実際は手足と一体化しており、薄い黄緑の髪からは左右に緑と水色、紫と茶色の四本の角を生やした女性の目鼻しかない顔。
「この、フォースエレメントティムバーのラオブがいる森からは逃がしはいたしません。誰一人たりとも。」
***
ーー…暫く様子を伺っていれば森の中から一本の木が伸びてから季節外れの開花した姿を見せた。
「あれはぁ…成功したということでいいのか?」
「そうなんじゃない?ラオブの奴すごく張り切ってたみたいだし」
遠目に見えた光景に尋ねればエイムが一番に答える。
我が言った絡め手というのは相手の猛攻を凌いでから一気に攻勢へと転じる形だ。
…なのだが、ここでエイムからとある提案を出た。
『ねえねえ、マスター。』
『ん?なんだエイム?』
『よくよく考えたらさ、敵は森にいるんだからあの子呼んだら楽勝なんじゃない?』
エイムに言われたあの子というのに我は最初エルフェンのことかと聞き返してしまった。
するとエイムは頬を膨らませて子どもらしく違うよと軽く怒ってラオブを出してくれたのだ。
国境作りが始まってから少し経って我は約束通りラオブと【眷属契約】をしていた。
その結果、ラオブは二段階進化を果たし四つの自然エネルギーを操るとされるフォースエレメントティムバーに成ったのである。
進化の過程でついに木目のないしなやかな身体となにより視力を得たラオブは我のはっきりした容姿を見ると涙を流す機能はなくてももの凄く感動してきたのでちょっと気恥ずかしくなったものだ。
少し脱線したが確かに敵は森の中にいるのでラオブの本領を見れるいい機会だと判断し呼び出しすることにした。
『承知しました主君。鶏が十回鳴く前に向かいます。』
という返事を頂いてから再び砲撃が始まる前にラオブは地面から上半身が出る形で姿を見せた。
風、水、土、そして弱点だった雷の力を得たラオブは地面を掘ることなく海のように潜って移動できる能力を得たのでシャッテンには負けるだろうがその移動速度は超高速と言っていいだろう。
あとは【念間話術】で状況を伝えて行かせたというわけだ。
「なんじゃなんじゃ大魔将軍。部下を活躍させる為に自分が壁役を担うなんて、妾なら逆のことを命じるぞえ。」
「ふん、生憎だが我は魔界でもそうしてきたのだ。この世界に復活してもそれは変わらない。」
店員の活躍の場をちゃんと作ってやる気を出させれば相手も成長することが出来るし失敗してもフォローできるなら守ってこそ店長である。
という方針はやり方は形が変わっても我の中で活きているのだから当然の行動である。
そんな我の返事を一緒に聞いていたエイムとオガコから笑顔を向けられる。
「さて、決着はついた。得るものを得に向かうぞ。」
話を一旦終え我は仲間達を引き連れて森に向かった。
森と平野の境まで近づくとラオブがこちらへとゆっくり手を振ってくれていた。
「終わったのだなラオブよ。」
「はい大魔将軍様。ご命令通り敵は全て捕らえてあります。」
ラオブがそう言って手を向けた先には木に手足が飲み込まれた姿の人間達が顔を揃えて並んでいた。
こうしてみるとなんだかホラー映画にありそうな光景だな。
とりあえず敵は再起不能なのでオガコとシャッテンに兵器の運搬を頼んでから我はエイムとラオブを隣に人間達のところへと足を動かした。
ここからは文字通り極悪人の仕事をするからな。
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