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第七章 信仰か魔導具か。

簡単なアンケートです。

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 …あれからどうなった?
 魔物に足首を掴まれた後で急に襲ってきた睡魔に意識を手放してしまったヌンメルは目覚めるとゆっくり瞼を開けた。
 だが瞼を開けたことをすぐに後悔する。
 まるで根っ子を足のようにして立つ木に仲間達が埋め込まれるように拘束され、兵器や装置にも近くの木から伸びた枝木が絡まって地面から離されていた。

「…んん?この者は見覚えがあるぞ。」

 周りに気を向けていれば聞こえてきた声にヌンメルの表情が強張る。
 身体が震えてしまうヌンメルの前に三つの影が現れ彼女は勇気を出して顔を向けてみる。。

「知ってるのマスター?」
「うむ、町を占拠する時に戦っていた魔法使いだ。確か、ヌンメルという名前だったな。」

 自分の足首を掴んだ者と子どもっぽい者を左右に大魔将軍はヌンメルを見下ろす。
 闇属性を抑えているのか前回のような気持ち悪さをヌンメルはあまり感じなかった。

「じゃあこの者からまず聞きますか?」
「いや、むしろ最後にしよう。上品な見た目の奴が最初だ。」

 大魔将軍が指示するとラオブは返事してから木を操って歩かせ師団長を連れてきた。

「お前が指揮官か?」
「ぐ…貴様は一体何者だ!異端者か!魔族なのか!」

 身動き取れない中でも師団長は恐れず敵の大将を前に言う。
 それが虚勢であっても部下達の手前では精一杯やるしかなかった。

「その通りだ。我々はこの一帯を統べる魔族だ。故に勝手に攻撃してきた無法者を捕らえただけに過ぎない。」

 腕を組んで大魔将軍が言ってきたことにヌンメル達は身勝手なと憤りを覚えた。

「さて、無駄に時間を使いたくないので手短に質問しよう。町を攻撃する部隊はお前達だけか?」
「魔族に答えることなど何もながあぁぁぁぁっ!?」

 答える途中で師団長は突然悲鳴をあげた。
 ヌンメルがどうしてと見れば師団長の右太ももを鋭い木が生えるように貫いていたのだ。
 ヌンメルが大魔将軍を見るも彼は何もしておらずラオブが左手を前に出していたので理解した。

「…そうか、では次の質問だ。あの迫撃砲はカテジナが作ったのか?」
「だ、大司教様を呼び捨てにぐおおぉぉぉっ!?」

 そこからヌンメルや捕まっている他の者は見せつけられた。
 大魔将軍が質問しては師団長が身体を次々と貫く木によって苦痛の声を上げる様を。
 ただ一方的に質問しては傷つけ続ける魔族の冷酷さを。
 白かった制服が血で染め上げられた頃にとうとう師団長は頭をガクリと下に向けて喋らなくなった。
 ここまで見せつけられたヌンメル達はこれが何を意味するか十分理解させられた。

「…はぁ、ろくな答えを得られなかったな。次からは少し加減してくれラオブ。」
「承知しました。では刺すのではなく搾り取ることに致します。」

 大魔将軍がそう命じるとラオブは会釈して返す。その間に師団長を抱えた木の表面が動いて遺体を覆い隠すと最後に肉を潰す音が聞こえた。
 その音もまたヌンメル達に恐怖を与えながら大魔将軍が次に選んだのは索敵班の一人で多少ふくよかな男性。
 大魔将軍は彼にも同じ質問を投げ掛けるも男性は怯えて言葉すら出なかった。
 失礼だと判断したラオブが再び手をかざすとヌンメル達の前で次に見せられたのは言葉通りのであった。
 木全体が蠢いてから淡く光り出すと男性は師団長と同じように苦痛の声を上げると急に一回り痩せてみせたのだ。
 そのまま次の質問をしても答えられなかった男性はみるみる痩せていき最後はふくよかな体型が嘘のように干からびて亡くなった。

「魔力と生命力を吸収して自然に還元してみました。」
「ほお、それは実にエコな方法だなラオブよ。」
「え、えこ、ですか?それはお褒めの言葉でしょうか主君?」
「あ…お、おほん!そうだともラオブよ。自然に還すというのは長いから短く言う為の言葉だ。」

 軽く咳き込んでから大魔将軍が言うと表情は変わらずも声色でラオブは嬉しさをありがとうございますと共に伝える。
 師団長の時と違うとはいえこちらの方が長い苦痛を与えることになる。
 ヌンメルだけでなく大魔将軍もそれを理解してかエイムに命令した。

「時間を短縮しよう。男の方は我とラオブが聞くから女の方はエイムが手短に聞け。ああ、先ほども言ったが彼女は最後だ。」
「はあい、すぐに終わらせるねマスター。」

 大魔将軍の命令に片手を挙げて返事したエイムはタッタッタッと小走りに捕まっている女性の一人に近寄る。
 怯え涙を流す女性を前にエイムは笑顔を向けると両手を挟むように彼女の耳に当てた。

「っ!?…おほおおぉぉぉっ!?いひぃぃぃぃっ!?」

 直後、女性の顔は半分白目になり舌を出して悲鳴とは違った声を上げた。
 背を大きく反らして全身を震わせると少しして鼻と口から血を噴き出して女性はガクリと項垂れた。

「うーん、この子は下っ端だね。全然情報なかったや。それに……」

 両手を離してから項垂れている女性の顔を覗き込んでからエイムは首を左右に振ってから言った。

「これくらいで心臓止まってる弱さじゃ仕方ないかぁ。」

 わざとかどうかはわからないが近くに聞こえる声量でエイムは言うと別の女性へと振り向いて頬に鮮血の点を付けた笑顔を向けた。


***


 エコな方法とか言ってみたけれどさすが樹木系モンスター……
 魔界にいた頃からも尋問の仕方が前者も後者もなかなかエグいな。
 その点エイムの【侵食ハッキング】なら女性の身体を傷つけずに調べられるだろう。
 それで死んだらラオブに、生きてたらオガコに後処理を頼むとしよう。
 だからこちらはこちらでアンケートを続けるだけだ。

「ロサリオ騎士団で最も強い奴は?」
「ぐああぁぁぁぁっ!?」
「ゴーレム工場というのはどんなところだ?」
「し、知らない!ぎゃあぁぁぁぁっ!?」
「カテジナはどうやって人間になった?」
「ゆ、許してくれ!がひいぃぃぃぃっ!?」
「聖教皇国の動向は?何故あの町を執拗に狙う?」
「か、神よぉ!ぐはあぁぁぁぁっ!?」

 同じ質問を流れ作業レベルで聞いてみたのだがろくな情報を聞けないまま男性側はあっという間に全滅してしまった。
 やはりエルフやドワーフと違って人間は魔力も生命力も平均的だからか搾取でもすぐに底が尽きる。
 彼らから唯一聞けたのは二つ。
 一つ目は彼らは本隊がやってくるまでの敵戦力の削り役だったこと。
 二つ目はあの迫撃砲はやはりカテジナが開発したらしく性能がわかったことだ。

「マスター、言われた通りあの子は残して皆から聞いてみたよ~。」

 そこへエイムも聞き込みを終えて我の元にきてくれた。
 【侵食ハッキング】で得られた情報によると本隊の正体はカテジナが最近開発したという高性能最新型ゴーレムが主軸の軍隊らしい。
 あと連中が与えられた命令はオサカの町の奪還ではなくやはり殲滅だという。
 どうやらや先の軍艦殲滅から我の存在を聖教皇国はやっと確信し国自ら本気で攻めてくるということか。
 これは後で町に戻ってから全体会議を開いた方がいいだろう。
 その他にも聖教皇国の内政やカテジナの今の立場、ゴーレム工場の数などいろいろあるが今は省くことにする。
 最後に女性側の状態を聞けば三人が耐えきれず亡くなったらしいが他はギリギリも含めれば生きているとのことなのでよしとする。

「うむ、よくやったぞエイム。ラオブも尋問に付き合ってくれて感謝する。」

 エイムを抱っこしながら双方を褒めてあげるとエイムは無邪気に喜び、ラオブは相変わらず静かにお役に立てて光栄ですと返してみせた。
 そして、最後にとっておいた彼女と話をすることにした。

「久しぶりだなヌンメル。ゲイルは元気にしているか?」
「大魔将軍…!よくも皆を、女性にまであのような非道な処刑をするとは…!」

 声を掛けるとヌンメルは臆することなく怒りの眼差しを向けてきて言ってみせる。
 女性側のも尋問なのだが彼女には処刑に見えていたようだ。

「心配するなヌンメル。生きていようが死んでいようが我々はしっかり糧にする。さて、この場の人間の中で一番冷静であろう君にも質問する。」
「また世界を狙う魔族に答えることはありません!さっさと殺しなさ…!」
「君は今の世界をどう思っている?」

 ヌンメルが言い終る前に質問する。そうしないとラオブが手を出してしまうと懸念したからだ。
 ここまで一度も聞かなかった質問をされたヌンメルは何故ここにきてそんなことを聞いてきたのかという不思議な表情になった。

「君はおかしいと思ったことはないか?何故一つの種族が他の種族を虐げ支配しているのに?五十年前は一緒に戦い、手を繋ぎ、酒を酌み交わすような間柄だったのに。何故だ?」
「そ、それは……」

 問い詰めてみるとヌンメルは動揺を見せる。
 その様子からして人間至上主義を全て受け入れて生きているというわけではなさそうだと伺えた。

「もう一度聞く。君はこの今の世界が[正義]だと、[平和]だと心から思えるか?」

 顔を近づけてまた尋ねればヌンメルの口から短く悲鳴が漏れてから顔を背けた。
 我から感じる闇属性に対しての反射的による反応なのだが後ろの二体は不敬だと思っているのが背中に感じられた。

「…た、確かに、何故獣人だけでなくエルフやドワーフを奴隷にするのはいささかやり過ぎたかもしれません。」
「ふむ、そう思うか。」
「しかし!かの勇者様と大司教様が力の弱い人間族の未来を守る為に五十年も戦ってこられたのです!今さらごく少数の声に意味などありません!況してや、情勢に便乗し三つの種族を引き込んだ卑怯な魔族が正義を問わないでください!」

 後半はもはや自分は助からないならもうどうでもいいという勢いでヌンメルは言い張ってから我を睨みつける。
 彼女の言い分はそうだとも言える。
 オサカの町を占拠したのだってパーサー達の出会いがなければ手を出すことすらなかっただろうからな。
 見事な啖呵を切ってみせたヌンメルに大した肝っ玉の女性だと思ったのだが背後からの通りすぎる敵意が殺気に変わっているのに気づく。

「処分提案を。四肢を引き裂き、永遠に死ねない植物にしてあげましょう。」
「いいや、頭いじくり回して感度バカにしてからオガコに預けて辱しめてやればいいよマスター。一生オーガ達に媚びて生きればいいんだ。」

 まだ我から殺しの許可が下りてないのであくまでもヌンメルは生かす意味での処分案を二体は出してくれたが双方なかなかのやり方を思いつくものだな。

「ふん、卑怯か。当然であろうヌンメルよ。我々はこの世界の悪役なのだから。使えるものは使ってなんぼであろう。」

 だが我には全く意味のない虚勢である。
 五十年前から、いやもっと前から悪役として活動すると決めて戦ってきた我にとってはその程度の罵声はそよ風にすらならない。
 だいたいどうしてそうなったかの一因を担っているのは人間族とその代表である勇者なのだからな。

「さて次の質問だ。聖教皇国は聖女を探しているか?」
「せ、聖女様!?何故それを知っているのです!?まさかお前達も聖女様を探しているのですか!」

 聖女について尋ねるとヌンメルはいっそう動揺してみせた。
 まるで国の重大事項の一つみたいな反応を見て勇者と同様に聖教皇国は聖女を探しているようだと伺えた。
 だからここは悪役として意地悪してやろう。

「地獄を見る前の手土産に言ってやろう。聖女はツルガミ山の目撃談がある。つまり我の占領下にいるということだ。つまり何が言いたいかというと、、だ。」

 我の意地悪発言にヌンメルの顔から一気に血の気が引いて俯いてしまう。
 勇者以外に唯一勝てる存在が魔族側の領域にいるかもしれないのと大魔将軍も探しているという二つの事は彼女にとって衝撃的な話になったようで俯いて見えない顔から嗚咽が聞こえ滴が落ちた。
 こうなるともう彼女が質問に答えてくれるか定かではないし、次の戦闘があるのはわかったから時間も掛けられないのでもう決めるとしよう。

「これ以上は時間が惜しい。エイム、殺さないようにして情報を得ろ。それからお前の案を採用する。ラオブは我と一緒に後始末だ。」
「やったぁ!任せてよマスター!」
「承知しました主君。」

 二体に指示してからラオブを連れて我はオガコとシャッテンの手伝いに向かった。
 ゴーレムに続いて攻守の兵器も手に入れたからこれで町周辺の防備はより強固に出来そうだ。
 だがこれは前哨戦に過ぎないことも知った。
 次の相手こそが言葉を変えるなら今のカテジナとのになるのだ。
 当然だが護ると決めた以上は必ずやり遂げてみせるし何より楽しみだ。
 カテジナが開発した最新型ゴーレムの性能はいかに我々を楽しませてくれるかどうか期待するとしよう。
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