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「思い出した? エルツが自由になった記念日なんだから、もう忘れちゃダメだよ」

「ああ」

「エルツは去年もベリル嬢の家でお祝いをしていたんだよ」

「そうだったのか……」

 グラナートは、エルツがオシャレをしていた理由が、ブラウと出かけるためではなかったことに安堵した。

 そんなグラナートの様子を見て、ブラウは優しく声をかける。

「ボクとエルツは二人きりでお出かけをするような関係じゃないから安心して」

「え……」

「あれ? そう思って後をつけてきたんじゃないの?」

「そうだけど……。どうして?」

「それくらいグラナートの発言と表情からわかるよ。……ボクはエルツのことを妹みたいに思っているから恋愛感情は全くないし、エルツはきっとボクのことを何とも思っていないだろうから心配しないで大丈夫だよ」

「……妹?」

「うん。エルツのことは妹で、グラナートのことは弟みたいに思っているんだ」

「そっか……」

 グラナートはブラウの口から、エルツに対して恋愛感情はない、という言葉を聞くことができて、安心するとともに心がスッキリするような感覚がした。

「話は変わるけど、グラナートは家を出るときに、ちゃんと誰かに声をかけてきた?」

「いや……」

「それなら早く帰らないと。きっと皆んな心配しているよ」


 グラナートはブラウと一緒に急いで家に帰ったが、グラナートが無断で外出をしたせいで家中大騒ぎになっていたらしく、父親から叱られた。

「どうして誰にも何も言わずに外に出たんだ?」

「それは……」

 エルツとブラウの後をつけていた、とは言えずに困っていると、隣にいるブラウが口を開いた。

「ボクが、エルツをベリル嬢の家へ送った後に街で買い物でもしよう、とグラナートを誘ったんです」

「それならそうと言えばいいのに、どうしてグラナートは誰にも言わなかったんだ?」

「ボクはエルツと違って今日は休日ではないので、グラナートはボクが仕事をサボって街で買い物をしているのがバレたら叱られてしまうと思って庇ってくれたのだと思います」

「……街で何を買ってきたんだ?」

「良さそうなものが無かったので、結局何も買わずに帰ってきました」

 グラナートの父親は納得がいっていないような顔をして、ため息を吐いた。

「……まあ、いいだろう。これからは気をつけなさい」

 グラナートは、はい、と返事をするとブラウと一緒に父親の部屋を出た。

「ありがとう。助かったよ」

 グラナートがお礼を言うと、ブラウはニッと笑った。

「それじゃあボクは仕事に戻るね」

 そう言うとブラウは廊下を歩いていってしまった。

 ブラウの後ろ姿を眺めているグラナートの心の中には、ブラウへの対抗心や嫉妬心はなくなっていた。

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