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8日目 親友は何でもお見通し!?(颯・翔編)

18ー1

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 悠人達が見えなくなった方向に伸ばした颯の片手は虚しく宙を掴み、翔が肩を叩こうともその場から動こうとしない。


 やれやれと肩を竦めた翔は、颯の隣に腰を下ろした。

「そもそも、手は繋いじゃダメだろ。俺だってこの前間接的だったわけだし。せめて腕を組むとか……いやいや、それもダメだな」


 体を丸めブツブツと呟く颯の背をそっと撫でて、先程の光景を思い浮かべた。

『悠人さん、僕達も行きましょう』


 手を繋いで歩いて行った二人の後ろ姿。
 そして、戸惑いに揺れる悠人の瞳が印象的だった。

 颯にはかなりのダメージだっただろう。

「颯、晩飯は食べたのかい?」

「いや……」

「よし、ちょっと待っててくれよ!」

 腹が減っては余計に滅入るだろうと、翔は祭り会場に向かって走り出す。


 雪に指定された裏通りには細い道の両側に露店がぎっしり出ていて、先が全く見えないほど人が溢れていた。

 ごった返している人混みを眺めて足を止めた翔は、盛大な溜息を零した。


「颯も素直じゃないからな」

 ポツリと呟いた声は、闇に呑まれて消えていった。

 手の掛かる親友だと思いながらも、羨ましくもあった。

 ただ一人を想い続けて、長く一緒にいても自分より大切にしている存在がいる。

 翔は自分には一生無理だと乾いた笑いを零した。


 人混みに加わり流れに従って手前の露店で食べ物とビールを買い込む。


 のんびりしていたら今の颯なら家に帰るかもしれないと思い、両腕に買い込んだビニール袋を幾つも引っ掛け、ビールが零れそうになりつつ急いで颯が待つ神社を目指す。


 鳥居が見えて暗闇の中、目を凝らして見ると階段に座っていたはずの颯が立ち上がってどこかへ行こうとしてるところだった。


「お~い、颯~!」


 何とか間に合ったとホッとした翔は、元気な声で呼びかけた。

 翔の声にビクッと肩を震わせた颯が立ち止まり、片手にはスマホを握り締めている。


 翔はいつもと変わらず軽い調子で言った。

「俺がなかなか戻らないから、探そうと思ってたのかな?心配無用!ほら、しっかり食料調達してきたぜ!」


 コップを一つ颯に手渡し石段に座ると、買ってきた焼きそばやはしまき、牛串にたこ焼きを次々と袋から取り出した。


 そして泡の減ったビールのカップを掲げる翔に、颯は渋々と腰を下ろして軽くカップを傾けた。


「「乾杯」」

 冷えたビールは渇いた喉を潤して、暑さで火照った体に染み渡るようだった。

 買ってきたものをつまみ、幾らか腹が満たされると次第に落ち着きを取り戻したのか、引きつっていた颯の顔は緩んで穏やかになった。


「それにしても、いつからセイヤと知り合いになったんだ?親友の俺は何も聞いてないぜ」

「言ってなかったっけ?」

 颯はわざとらしくとぼけた。


 初めから責めるつもりで言ったわけではなかった翔は、それ以上追求することはせずに牛串に手を伸ばして頬張った。

「颯が妬いてるの久々に見たな」

「別に……」

 颯は不満そうに顔をしかめると、グッとビールを煽った。


「してたしてた!昔だって悠人が就職決まった時、「就職してすぐ良い相手見つけて結婚したりしないか心配だ」とか言ってたぜ!」


 それは、颯がまだ悠人への気持ちに気付いてない時の話だ。

 最初はバイト時代から面倒をみていた後輩だから心配なのかと思っていたが、悠人の事になると度を超えた心配性になる颯に、もしやとは思っていた。

 本人は至って自覚がなく、見ている方が焦れったかった。

 そんな颯がようやく自分の気持ちに気付いたのは、偶然悠人が女性と二人で自宅の方向に歩いて行く姿を見た時だった。



 ♢ ♢ ♢ ♢ ♢


 プルルルル──ガチャ


「颯?どうした?」

『ヤバい。悠人が可愛い女の子と歩いてた』

 電話を取った翔は、珍しく余裕のない颯の声を聞いて相当動揺していると分かったが、敢えて冷静に対応した。

「それで?」

『それでって……他にもっとない?』

「ないかな。彼女いてもおかしくないし。颯は知らないのかもしれないけど、悠人は可愛い顔してるだろ?かなりモテる方だと思うぜ!」

『今度悠人と会ったらまともに顔見れねぇかも……』

 悠人の前では良い先輩をしていた颯だが、翔から見れば好意があるのは丸分かりだった。

 教えるのは簡単でも、その気持ちの意味は颯が自分で気付くものだと敢えて黙っていた。

 しかし、ここまで鈍感なのも問題だと顎に触れて考えていると、何も反応しない翔に電話口から不機嫌な声が聞こえる。

『翔?聞いてる?』

「うんうん。聞いてるよ。実は俺、これでも今忙しいからさ。顔が見られないなら電話してみればいいと思うぜ!じゃあな!」

『おい、翔!翔?』

 ピッ──



 その後、悠人から連絡があり、颯から電話があったが言っている事が支離滅裂で何かあったのかと問い詰められた翔は苦労した。

 親友の想いを間接的に伝えるわけにはいかず、苦しい言い訳を重ねて何とか誤魔化したのだ。

 因みに、悠人が一緒に歩いてた女性は彼女ではなく妹だったと知った颯は、安心と疲れがドッと出たのかしばらく放心状態だった。


 ♢ ♢ ♢ ♢ ♢


 複雑な顔をして黙々と焼きそばを食べる颯は隠してるつもりだろうが、膝の上に置いたスマホをちらちらと気にしている視線に、翔は最初から気付いていた。


 知らない振りをするのも親友の務めだと、素知らぬ振りを貫いて言った。

「安心しすぎだぜ?」

「安心?」

「歳を重ねて悠人に寄りつくライバルもいなくなったって、颯は安心してたんじゃないかな」


 その言葉を聞いた瞬間、颯は目を丸くして吹き抜ける夜風が優しく髪を撫でた。


「俺の事理解しすぎだろ」

「親友を見くびってもらっちゃ困るぜ!」

「恐れ入ったわ」

「悠人やめて俺にしとけよ」

「悪い、1億積まれても無理」

「言った俺も無理だから、お互い様だぜ!」


 親指を立てて笑った翔に、颯は嫌そうな顔をして上体を後ろに傾ける。

 いつも通りに戻って安心した翔は、すっかり温くなったビールを飲み干した。

 そして、いつ言い出そうかと悩んでいた話を切り出す。

「実は俺、ホスト辞めたんだぜ!!」

 重くならないよう軽く言った言葉は、思いのほか力が入ってしまい、語尾が強調されてしまった。

「……」

 マズい!と、思った時には既に手遅れで、沈黙は羞恥心を搔き立てた。

「何か反応して!?」

「あ、悪い」


 昨日から連絡が取れない自分を心配していただろう親友にきちんと説明しようと思っていたが、なかなか切り出せずにいた思いなど知る由もない颯に、あっさりとした反応をされた翔はその場で項垂れた。


 額から流れ落ちた汗のせいなのか、翔の瞳からは涙が零れそうになった。

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