俺の名前は今日からポチです

ムーン

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けーたい、いち

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雪兎を抱き締めて眠って、起きたのは昼前だった。当然雪兎はとっくに学校に行った後で、大きなベッドの真ん中で俺は寂しさを感じた。

「ん……?」

手首に違和感を覚え、寝ぼけ眼の前に持ってくる。手首には赤い紐が巻かれていた。しばらく見つめていると首輪に繋がっていることが分かった。

「……ベッドに繋がれてちゃ顔も洗えねぇもんな」

誰に言うでもなく呟く。
顔を洗って、ビニール袋に入れられベッドに置かれていたパンを食べ、同じく乱雑に置かれていたペットボトルを開けた。

「野菜ジュースか……あんま好きじゃねぇな」

一口飲んで、机に置く。机には勉強道具や辞書が並んでおり、そのタイトルだけで忌避感を覚える俺には雪兎の頭の良さがよく分かった。
机の中央には雪兎の携帯端末が置かれていた。学校に持って行っているはずだが……忘れたのだろうか。

「パス何かな……」

六桁の数字を要求される。何度も間違えると何分間かロックされてしまう。初期化設定もしてあるかもしれない。だが、二、三回なら平気だろう。

「ユキトだから……ユキウサギだから……セツ……ト…………んー?」

語呂合わせは特に思い付かない。適当にゼロを六個打ってみた。

「違うよな」

ならイチだ。別にそこまで見たいものがある訳でも無いし────開いた。パスコードは『111111』だった、不用心にも程がある。

「…………とりあえずメール履歴」

大量に入れられたアプリも気になるけれど、やはりメールは最優先だろう。

「おー本当に送られてら。既読無視だし」

雪風に写真を送ったと聞いていたから、パパと付けられた人物との履歴を見てみた。

「お付その一、お付その二、運転手、掃除してる人、料理してる人、じーじの医者、パパの医者、ゆきの医者……名前の付け方ひでぇな」

ここに俺が居たとしたら──ポチ、だろうな、面白みもない。

「…………友達とか居ないのか?  お、アイ?  これは女の子っぽ……親戚かよ」

親戚は名前で登録しているものが多い。叔父一、伯母一、では誰だか分からない程多いのだ。

「登録してるだけで話してはないんだな」

雪兎が話していたのは雪風とお付その二だけだった。お付その一は嫌われているのだろうか、その一なのに。

「ゆきの医者とは電話してるな……何医なんだろ」

火傷痕から考えれば外科医か、持病はないようだし。しかし、使用人から聞く以前の雪兎の話や幼い頃に亡くなったらしい母親、多忙と無関心の父親から考えれば精神科医という線も──まぁ、医者にかかる理由は知られたくないだろう。

「写真でも見るかな」

俺はメッセージアプリを閉じ、それらしい絵のアイコンをタップした。
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