俺の名前は今日からポチです

ムーン

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さんにんでゆうはん、よん

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振動を弱めてもらい、何とか箸を持てるようにはなったが、どんな上等な物を口に入れても味が分からない。しかし食感だけは嫌なくらいに分かってしまう。舌の上を滑る刺身の僅かなザラつきだとか、醤油の水分としての働き、冷たく柔らかい全体の印象までもが俺の口内を苛む。

「……っ、ぅ、ん……」

噛めば食感が脳に伝わり、先程の条件付けのせいで快楽に変わる。上顎と舌で押し潰せば単純に敏感な口内と舌が快楽を覚える。だからといって食感を多く残したまま飲み込めば喉を通る感覚が喉を犯される快感を呼び起こす。

「どうしたの、ポチ。口押さえて。美味しくない?」

「い、いえ……美味しい、です」

「その割に遅いよね、いつももっとパクパク食べてるのに」

食事で感じるようになってしまったら本当の終わり、そんな考えが浮かんでいる。何度も何度も「これがこうなったら終わりだ」と言っては簡単に陥落して、ペットらしくなれたと喜んでいるくせに。

「やっぱり床で食べないと気分でないのかな、犬だもんね、お箸は難しいよね」

「いえ……食べられます」

「犬が喋らないで?」

「…………くぅん」

いつもはそこまで犬らしさを求めないくせに。

「それともトッピングが欲しいのかな? いっつも必死にしゃぶって欲しがってるもんね、あれかけてあげようか?」

「え……? いや、それ、もしかして……」

「喋らないでってば。で? どうするのポチ、トッピングいる?」

必死にしゃぶって……まさか精液でも飲まされるのか? 心身共に口に意識が向いている今だけは避けたい。そもそも食ザーは趣味じゃない。

「わ、わん……わわん……?」

首を横に振りながら、ううんと言ってみたりもする。下手くそな鳴き真似は雪兎の頬を緩ませたが、それで結果が変わる訳もなく、俺は箸を奪われた。

「食べやすいようにしてあげるから、その間は伏せして待ってて、僕のポチ」

雪兎は俺の茶碗の白米を食べて少し減らし、上に刺身やその他海産物を並べて丼を作った。俺は別々に食べる方が好きなのだが、まだ食欲がそそられる範囲だ。

「もうちょっと待ってね。雪風!」

部屋の隅などから座布団を集めてその上に座り、海鮮丼を混ぜながら雪風を呼び付ける。父親に対する態度ではないし、蟹を剥いていても素直に呼び付けられる雪風も雪風だ。

「雪風、ポチがご飯食べる気しないって言ってるから、気分上がるようにトッピングしてあげて」

「……十分トッピングされてるように見えるけど。あ、いくら無いな。奥にあるから届かなかったんだろ」

「…………鈍い人。分かんないかな」

暗に背が低いことを言われて不機嫌になった雪兎は爪先を雪風の股間に沈ませた。

「出、せ、って言ってるんだよ。雪風は僕と違って体力あるもんね?」

「……いや、でもっ……真尋も、ご主人様のの方が……ぁ、気分……上がるだろ?」

「…………何喘いでんの? 僕はポチと違って血も繋がってるんだけど、何考えてるのさ」

「筋金入りだなほんと……なんで、こうなったかな……」

俺に対してだけでなく実父に対してまでサディズムを発揮するとは……あぁ、なんだろう、胸の奥がジリジリするな、嫉妬か? どっちにだ? 雪風を喘がせたいのか、雪兎に踏まれたいのか……どっちもだな、挟まりたい。だが、美人親子の絡みを見ているのはそれはそれで。

「……なかなか勃たないね、歳?」

「いや、流石に……息子にされて、は……プライドがさ」

「ふぅん……? 勃たれても嫌だし、勃たれなくてもムカつくけど、まぁ、いいや」

雪兎に手招きされ、小高く積まれた座布団の前に四つん這いになる。雪兎お手製の海鮮丼を顔の下に、瓜二つの美顔を眺める。

「トッピング……調味料かな? ポチ、調味料が出てきません。逆さにしても、叩いても、振っても出てきません、どうする?」

「……す、捨てます」

「犬が喋らないで。そう、吸ってみるよね」

聞かれたから答えたのに怒られた上に答えを変えられた。理不尽だ、だがそれがいい。

「しねぇよそんなこと」

「調味料が喋らないで」

「俺調味料なの……? ぁ、でもそういう扱い新鮮で興奮する……皿にされたことはあるけど調味料は初だ……」

雪風は自分から大人の玩具だと思えとか言っていたし、俺が抱く忌避感ほどのものは彼らの間にはないのだろう。
なら、もう今更道徳や倫理を語るのはやめて、雪兎の足によって持ち上げられた調味料の口を吸うとしよう。
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