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2.ジョーの父
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ジョーは婚約者とその義母をホテルまで送ると結婚前に母娘水入らずで過ごす二人をホテルに残して仕事をしている父親の会社に向かった。
車を自動運転に切り替え電話を手に取る。
数十回コールするとやっと父親が電話に出た。
「なんだ?」
たまにかけたんだから他の言葉は出ないのか、この親父は。
ジョーはそう思いながらも悪態を飲み込んで父親を食事に誘った。
「珍しいな。赤も一緒なのか?」
「いや、彼女は今夜は母親と一緒にホテルに泊まってる。」
「はははは、振られたのか。」
父親は一しきり笑うと行きつけのレストランの名を告げるとすぐに電話が切れた。
まったくあの人は会話と言うものを知らないのか。
そうは思ったが彼女の為にも親父にガイドを頼まなければならないのでジョーはそのまま黙ってそのレストランを目指した。
そこから数十分の距離の所に何の看板もないビルが建っていて、彼はそのビルの前で車を降りた。
自動駐車場にカードを通して車を止めるとビルの扉にそのカードを翳した。
音もなく扉が開いてその建物のの中に入るとフカフカの絨毯がまっすぐエレベーターホールまで続いていた。
ジョーは迷いなくその通路を歩いて、先程とは違うエレベーターにカードを翳すとドアが自動で閉まって上昇し始めた。エレベーターはすぐに目的の階の手前に着くとドア前にあるキーパッドが点滅した。
ジョーが迷いなく12ケタの数字を打ち込むと止まっていたエレベーターが音もなく動き出した。
しばらくするとドアが開いて目の前に黒服の男が現れた。現れた男は深々とお辞儀をしてから彼をレストランの最奥にある個室に案内してくれた。
ジョーが椅子に座ると目の前にグラスが置かれ、黒服の男はもう一度丁寧なお辞儀をするとすぐに下がって行った。
グラスを手に取って窓から見える夜景をボンヤリと眺めていると人の気配がして、やっと父親が現れた。
「すまん、待たせたか?」
ジョーが視線を向けるとなぜかそこには親父と一緒に彼の秘書もいた。
ジョーがどういうことだと目線を横に向けるが親父は彼女をそのままにしてジョーの前に腰を下ろすと黒服の男を呼びつけた。親父は傍に来た黒服の男に彼女に他の部屋で食事を出してくれと言付けた。
父の秘書は目を見開いて一瞬口を開こうとしたが親父の態度に何も言わずに黒服の男に案内されるまま、その場からいなくなった。
相変わらず女性に冷たい男だと改めて親父を見ると向こうもジョーの視線に気づいたらしくとんでもないことを言い出した。
「なんだ。彼女が一緒の方が良かったか。」
ああ!
言い訳ないだろ。
思わず悪態をつきそうになった自分に気がついて肩の力を抜くと、息を吐き出した。
「取り敢えず食事にしないか、親父。」
父親はジョーの提案にニヤリと笑うと傍に控えていた同じような黒服の男に目線で食事を持って来てくれるように合図した。
すぐに食前酒に前菜と料理がどんどん運ばれくる。
ジョーも彼の父親も綺麗なテーブルマナーで次々とそれらを胃におさめた。
最後のデザートを食べて食後の酒を飲んでいると珍しく父親の方から話しかけられた。
「でっ、俺に何をしてほしいんだ?」
どうやらお見通しらしい。
ジョーは意を決して赤の母親を自分たちがいない間、観光ガイドをしながらもてなしてほしいとお願いした。
渋い顔の父親は目を丸くした後、嫌そうにしながらも最後は是と答えた。
ほっとして肩を力を抜くと承諾した本人からとんでもないことを聞かされた。
「だが言っておくが必要以上にベタベタするようなら俺以外の相手を派遣するからな。」
ジョーはその話に笑いながらそれはないと断言した。
「親父、それだけはないよ。」
「なんで言いきれる?」
「赤の母親だからだよ。」
息子の発言に父親は溜息を吐きながら女は誰でも同じだと返したが、息子は意味ありげに見返した後絶対それだけはありえないと断言した。
だがジョーがいくらここでありえないと言っても本物に会わない限り本人は信じないだろう。
ある意味これはいい機会になるだろう。
この親父が赤の母親に振り回されるのを見れないのは少々残念だが当初の目的は達成された。
後は明日の結婚式を楽しみに待つだけだ。
ジョーがそう思った時、父親が脇に控えていた男に新しい酒を頼んでくれた。
二人で向い合せでしばらく酒を煽っていたら珍しく酒に酔った父親を担ぐようにして自分たちの部屋に戻ることになった。ジョーは父親を寝室に運ぶと自分も明日に備えてそのままベッドに入った。
翌朝、目覚まし音に起こされ居間に向かうとすでにシャキとネクタイをした父親がそこにいた。
ジョーのボヤーとした顔を見て二日酔いかと聞いてきた。
「いや、もう酒は抜けたよ。ただ、まだちょっと眠いだけさ。」
「なら、まだ時間がある。もう一眠りして来たらどうだ?」
一眠りしてたら時間に間に合わなくなる。
「いや、赤を待たせたくないからそろそろ出よう。」
「はぁ、お前は女を知らないなぁ。女は遅れてくるものだ。」
父親の言葉にジョーは反論しようとして思いとどまった。
この男が自分の意見を曲げる訳がない。
それならもっといい方法がある。
ジョーはネクタイを締めながら椅子に座ると前々から欲しかった別荘の権利をもし赤たちが式場に先に来ていたなら無償で譲ってくれるように提案してみた。
「自信ありげだな。いいだろう、交渉成立だ。」
父親は濃いコーヒーを飲みながらジョーの提案を承諾した。
それからジョーも服を着てきちんとネクタイをしめると二人で式場に向かった。
式場は今回、赤の希望で親族だけしか入れないようにした。
本当は大々的にやりたかったがその話をした途端、花嫁本人に逃げ出されそうになったのだ。
慌てたジョーは父親や彼の仕事関係の人間を根気強く説得し、親族だけで式を挙げることを納得してもらってやっと赤との結婚式を実現したのだ。
感慨無量だ。
式前に花嫁じゃなくジョーの方が泣きだしそうだ。
もっとも父親は最後まで一人息子のジョーがこじんまりとした式を挙げるのを強硬に反対していたが、最後は彼が何度も豪勢な式を挙げながら一度も結婚生活が上手く行かなかった人間が言う言葉じゃないという正論に折れた。
そんなことをつらつらと思い出しているうちに車は式場となるホテルについていた。
ジョーは車を降りると専用のエレベーターに速足で向かった。
父親はそんな息子を見て内心笑っていた。
彼の知る女性で結婚式に遅れて来なかった女がいなかったからだ。
理由を聞くと必ずキレイに見られたくて時間がかかったと答える。
彼は急かす息子を見ながらゆっくりと歩くとエレベーターに乗った。
二人を乗せたエレベーターがゆっくりと閉まるとそれはすぐに動いて音もなく最上階を目指した。
車を自動運転に切り替え電話を手に取る。
数十回コールするとやっと父親が電話に出た。
「なんだ?」
たまにかけたんだから他の言葉は出ないのか、この親父は。
ジョーはそう思いながらも悪態を飲み込んで父親を食事に誘った。
「珍しいな。赤も一緒なのか?」
「いや、彼女は今夜は母親と一緒にホテルに泊まってる。」
「はははは、振られたのか。」
父親は一しきり笑うと行きつけのレストランの名を告げるとすぐに電話が切れた。
まったくあの人は会話と言うものを知らないのか。
そうは思ったが彼女の為にも親父にガイドを頼まなければならないのでジョーはそのまま黙ってそのレストランを目指した。
そこから数十分の距離の所に何の看板もないビルが建っていて、彼はそのビルの前で車を降りた。
自動駐車場にカードを通して車を止めるとビルの扉にそのカードを翳した。
音もなく扉が開いてその建物のの中に入るとフカフカの絨毯がまっすぐエレベーターホールまで続いていた。
ジョーは迷いなくその通路を歩いて、先程とは違うエレベーターにカードを翳すとドアが自動で閉まって上昇し始めた。エレベーターはすぐに目的の階の手前に着くとドア前にあるキーパッドが点滅した。
ジョーが迷いなく12ケタの数字を打ち込むと止まっていたエレベーターが音もなく動き出した。
しばらくするとドアが開いて目の前に黒服の男が現れた。現れた男は深々とお辞儀をしてから彼をレストランの最奥にある個室に案内してくれた。
ジョーが椅子に座ると目の前にグラスが置かれ、黒服の男はもう一度丁寧なお辞儀をするとすぐに下がって行った。
グラスを手に取って窓から見える夜景をボンヤリと眺めていると人の気配がして、やっと父親が現れた。
「すまん、待たせたか?」
ジョーが視線を向けるとなぜかそこには親父と一緒に彼の秘書もいた。
ジョーがどういうことだと目線を横に向けるが親父は彼女をそのままにしてジョーの前に腰を下ろすと黒服の男を呼びつけた。親父は傍に来た黒服の男に彼女に他の部屋で食事を出してくれと言付けた。
父の秘書は目を見開いて一瞬口を開こうとしたが親父の態度に何も言わずに黒服の男に案内されるまま、その場からいなくなった。
相変わらず女性に冷たい男だと改めて親父を見ると向こうもジョーの視線に気づいたらしくとんでもないことを言い出した。
「なんだ。彼女が一緒の方が良かったか。」
ああ!
言い訳ないだろ。
思わず悪態をつきそうになった自分に気がついて肩の力を抜くと、息を吐き出した。
「取り敢えず食事にしないか、親父。」
父親はジョーの提案にニヤリと笑うと傍に控えていた同じような黒服の男に目線で食事を持って来てくれるように合図した。
すぐに食前酒に前菜と料理がどんどん運ばれくる。
ジョーも彼の父親も綺麗なテーブルマナーで次々とそれらを胃におさめた。
最後のデザートを食べて食後の酒を飲んでいると珍しく父親の方から話しかけられた。
「でっ、俺に何をしてほしいんだ?」
どうやらお見通しらしい。
ジョーは意を決して赤の母親を自分たちがいない間、観光ガイドをしながらもてなしてほしいとお願いした。
渋い顔の父親は目を丸くした後、嫌そうにしながらも最後は是と答えた。
ほっとして肩を力を抜くと承諾した本人からとんでもないことを聞かされた。
「だが言っておくが必要以上にベタベタするようなら俺以外の相手を派遣するからな。」
ジョーはその話に笑いながらそれはないと断言した。
「親父、それだけはないよ。」
「なんで言いきれる?」
「赤の母親だからだよ。」
息子の発言に父親は溜息を吐きながら女は誰でも同じだと返したが、息子は意味ありげに見返した後絶対それだけはありえないと断言した。
だがジョーがいくらここでありえないと言っても本物に会わない限り本人は信じないだろう。
ある意味これはいい機会になるだろう。
この親父が赤の母親に振り回されるのを見れないのは少々残念だが当初の目的は達成された。
後は明日の結婚式を楽しみに待つだけだ。
ジョーがそう思った時、父親が脇に控えていた男に新しい酒を頼んでくれた。
二人で向い合せでしばらく酒を煽っていたら珍しく酒に酔った父親を担ぐようにして自分たちの部屋に戻ることになった。ジョーは父親を寝室に運ぶと自分も明日に備えてそのままベッドに入った。
翌朝、目覚まし音に起こされ居間に向かうとすでにシャキとネクタイをした父親がそこにいた。
ジョーのボヤーとした顔を見て二日酔いかと聞いてきた。
「いや、もう酒は抜けたよ。ただ、まだちょっと眠いだけさ。」
「なら、まだ時間がある。もう一眠りして来たらどうだ?」
一眠りしてたら時間に間に合わなくなる。
「いや、赤を待たせたくないからそろそろ出よう。」
「はぁ、お前は女を知らないなぁ。女は遅れてくるものだ。」
父親の言葉にジョーは反論しようとして思いとどまった。
この男が自分の意見を曲げる訳がない。
それならもっといい方法がある。
ジョーはネクタイを締めながら椅子に座ると前々から欲しかった別荘の権利をもし赤たちが式場に先に来ていたなら無償で譲ってくれるように提案してみた。
「自信ありげだな。いいだろう、交渉成立だ。」
父親は濃いコーヒーを飲みながらジョーの提案を承諾した。
それからジョーも服を着てきちんとネクタイをしめると二人で式場に向かった。
式場は今回、赤の希望で親族だけしか入れないようにした。
本当は大々的にやりたかったがその話をした途端、花嫁本人に逃げ出されそうになったのだ。
慌てたジョーは父親や彼の仕事関係の人間を根気強く説得し、親族だけで式を挙げることを納得してもらってやっと赤との結婚式を実現したのだ。
感慨無量だ。
式前に花嫁じゃなくジョーの方が泣きだしそうだ。
もっとも父親は最後まで一人息子のジョーがこじんまりとした式を挙げるのを強硬に反対していたが、最後は彼が何度も豪勢な式を挙げながら一度も結婚生活が上手く行かなかった人間が言う言葉じゃないという正論に折れた。
そんなことをつらつらと思い出しているうちに車は式場となるホテルについていた。
ジョーは車を降りると専用のエレベーターに速足で向かった。
父親はそんな息子を見て内心笑っていた。
彼の知る女性で結婚式に遅れて来なかった女がいなかったからだ。
理由を聞くと必ずキレイに見られたくて時間がかかったと答える。
彼は急かす息子を見ながらゆっくりと歩くとエレベーターに乗った。
二人を乗せたエレベーターがゆっくりと閉まるとそれはすぐに動いて音もなく最上階を目指した。
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