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58 ケバブに似たソベラってやつ

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 夜の街で仕事の種を仕入れてホテルに朝帰りした。
 扉を開けるとミラに声をかけられた。

「お帰りなさい、マスター」
「ワフ……」

 朝なんで控えめに返事をするラッキーは賢いな。

「あ、起きてたのか、ミラとラッキー、すまないな。俺は徹夜仕事で疲れたんだ。
 今から昼まで寝るからジェラルドやミレナには朝食はそれぞれ自由にとってほしいと伝えてくれ」
「はい」

 三人分の撮影を終えて来たんだ。
 踊り子の衣装の子は二人、ナイトドレスの子が一人、合計3人分の嬢に交渉して撮影をしてきた。

「マスター、撮影データをください。
 編集作業をお手伝いします」

 ドキーン!!

「いや、その、成人向けのはやらなくていい。あ、旅の記念の風景とか普通のだけ頼むよ」
「そうですか」
「うん、とりあえずおやすみ、あ、ラッキーにはこの肉が朝飯な」

 俺は青鹿の肉を魔法の鞄から出して紙皿の上に置き、そのままベッドに倒れ込むようにして寝た。

 そして昼くらいに起きた。
 ラッキーの皿を確認したら、空になってたから肉は食べてくれたんだろう。

 俺は紙皿を回収してビニールのゴミ袋に入れて魔法のカバンに入れた。
 今度外料理の時に、焚き付けにでも使う。

 さて、ブレスレットで連絡をとるとしよう、まずはジェラルドから。
 

『ジェラルドおはよう。今起きたけど、今はどこにいる?』
『ショータは昼まで寝てるってミラから聞いたからな、海でギルドの仕事をしている』
『海で何を?』
『素材狩りだ』
『なるほど、じゃあ今からミレナにも連絡をするから』
『ああ』

 ひとまずジェラルドとの連絡を切り、今度はミレナに連絡をしたら、

『ショータ、あなた夜に部屋から抜け出したのね』
『あ、うん、仕事をしに行ってたぞ』
『ふーん、さぞかし楽しく気持ちがいい仕事だったんでしょうね』


 うっ!! 何かを察してる!!
 でも俺は撮影に忙しくてゆっくり楽しむ暇は無かったんだよ!


『ははは、ところでジェラルドは海でギルドの仕事をしてるらしいが、ミレナは今、どこで何をしてるんだ?』
『ビーチ側のオープンカフェよ……いろんな男が言い寄ってきて大変だから早く来なさいよ』

 う、なんかミレナの声がいつもより冷たい気がする、怒ってそうだ。

『わ、分かった』

 ジェラルドに今から海に向かうとまた連絡をしてから俺はミラとラッキーを連れて浜に向かった。

 ジェラルドと合流してミレナのいるカフェに向かった。
 やはり本当に二人組の男にナンパされている。
 俺はミレナのいるテーブルに向かい、ナンパ男に声をかけた。

「うちの子に何か?」
「あ? まさか親父か? まるで似ていないが」
「人族じゃん、ハーフか養子?」
「お前達、散れ。そこにいるのは俺達の連れだ」

「うお、ハイエルフ!?」
「失礼しました!」


 男達はバタバタと逃げ出した!


「ナンパ男達が逃げてった。ジェラルド、エルフって恐れられているのか?」

 こんなに美しいのに?

「長生きだから有力者の知り合いと繋がりがある場合がある上に、我々はやろうと思えば人族の末代まで攻撃もできるんだ。
 迂闊に悪さして子孫込で長い報復に合う話はたまにあるからそういう話でも聞いた事があるんじゃないか?」


 なるほど!
 末代まで祟る代わりにリアルで長い攻撃を悪さした一族に与えることが可能なのか!

 これは確かに怖い。


「よほどたちの悪い相手にしかやらないと思うがな」

 だよね!


「ところであなた達、立ってないで席に座れば?」
「このままここで昼を食べるのか?」

 ジェラルドが訊いた。

「私もうお腹空いてるし、わざわざ移動したいの?」


 ミレナのテーブルにはまだ飲み物しかなかった。
 律儀に食事をせずに待っていたようだ。

 不機嫌そうにテーブルを指でトントンしてるから、早く機嫌をなおしてもらわないと!
 美味しいものでも食わせて!


 今更移動も面倒だなと、俺達は言い合って、ジェラルドも椅子を引いて座ったので俺もそれに習った。

 ちなみにミラはトートバッグの中で、ラッキーはオープンカフェだし、足元で大人しくしてるからセーフだろう。


「じゃあ何を注文するかな」

 俺がそう言って周囲の人が何を食べてるかぐるりと店内を見回すと、

「さっきのナンパ男達が言うにはあれがおすすめらしいわよ」

 ミレナが示した人達が食べていたのはケバブっぽい食べ物だった。


 シュラスコのように回転させながら焼いた大きな肉の塊から薄く切り取って、トマトやパプリカや葉物野菜と一緒に少し厚めで大判餃子の皮のようなものに包まれている。


「あの料理、赤いソースつきだから辛いのかもしれない、食べてみるか」

 ジェラルドは辛いのが好きだしな。


「辛さは調整できるらしいわよ」
「じゃあ中辛くらいで頼んでみるかな」
「あそこのテーブルと同じ料理を」

「ソベラ三個ですね、辛さはどうしますか?」
「俺のは辛いのでいい」
「私は通常の辛さで」
「俺は中辛、いえ、俺も通常で」


 中辛なんて多分通じないか。

「なかなかいい辛さだ」

 とは、ジェラルドの感想でミレナは、

「このお肉なかなか美味しいわね」
 と、言いつつソベラにかぶり付いている。

「ソースの味もしっかりしてるし、野菜も新鮮で美味しいな」

 美味しくソベラをいただいた後に、南国フルーツのジュースを飲んだ。
 食事は美味しかったのでミレナの機嫌もひとまずは直ったようだ。
 良かった。

 俺は内心で胸を撫で下ろす。


「それで仕事の素材は仕入れたから、次の作業ををするために一旦家に帰ろうと思う、画像編集とかそれにつける文章とかを考えないといけないからな」
「じゃあバカンスも終わりね」

「二人がこの辺でまだ遊んでいたいなら俺は先に帰るが」
「は!? 帰りの船で何かあったら困るでしょ!」
「そうだぞ、ショータ」

「あ、そうだった」

 ここは異世界、ただの船の移動時に海の魔物や海賊が出ることがあるんだった。

「ギルドの追加仕事は帰りも船の護衛でいいか、手配してくるから、ショータは船着き場の近くでゆっくりしていていいぞ」

 体力が二人ほどにはない、おじさんだから助かる!

「ありがとうジェラルド」
「あ! 私の分も護衛の手続きしといて!」
「甘えるな。面倒だから今回は自分でやれ」
「むー! 分かったわよ!」


 ガタンとミレナが席を立ち、ジェラルドを追って行った。

 ジェラルドは不機嫌なミレナと俺を引き離す為にわざとああ言ってくれたのかな?
 ミレナと気まずく二人で待たなくて済むように。
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