ある時、ある場所で

もこ

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5年前、公園で(真人)

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高校2年になって半年が過ぎた。弓道部の先輩方は皆引退し、俺は男子弓道部の副部長になっていた。

「おい真人、最後頼める?俺ちょっと…待たせているからさ。」
「ああ、いいよ。」
部長の谷村が照れ臭そうに俺に話しかける。女子弓道部の部長と付き合い始めたっていうのは本当だったんだ。…別に羨ましいとは思わない。俺は中学の頃から、女子に興味が持てないことに気づいていた。

「いいな…デート?」
ニヤッと笑って聞いてみる。
「まあな。…お前、瑞希ちゃん振ったってホント?」
「ああ。俺好きな奴いるし…。」
谷村の言葉にすかさず準備していた言葉を返す。好きな奴などいないが、周囲にこう言い続けているうちに、俺には好きな女の子がいて、その子に夢中だと認識されていた。

「とか言いながら、お前告ったためし、ねぇじゃん。」
「いいんだよ。見ているだけで。」
出しっぱなしになっていた掃除用具を持ち上げながら、部屋の隅にあるロッカーへ片付ける。
「もったいねえな。お前のこと狙ってる子、結構いるって噂だぜ?」
「噂は噂だろ?それに好きな子以外に告白されても心は動かないし。ほら、遅くなるぞ。待たせてるんだろ?とっとと行け!」

ロッカーの扉を閉め、谷村の尻を蹴るフリをしながら追い立てた。谷村は、じゃ、ヨロシク!と言って走って行った。一年生が掃除を終えて帰った後、弓道場や部室の鍵を閉めて顧問のところへ返すのが部長と俺の仕事だった。弓道場を閉め、部室に戻り道着を着替える。谷村はいない。アイツ、着替えずに行ったのか?あのままデート?…クスッと笑いがこみ上げた。

『みんな、青春してるな…。』

袴を脱いで長机に広げて畳みながら考える。自分のセクシャリティーが異常だとは思わないが、口には出せない。特に半年前に初めて告白した人に振られてからは、とても臆病になってると自分でも分かっている。…このままでいい。あの時、知り合いに見られなくてラッキーだった。残り半分の高校生活を無事に過ごして、卒業できればそれで…。

『伊那村先輩…』

高校の入学式に向かう途中、道端で転んだ。その時、店を空けるわけにはいかなかった母親は、一緒じゃなかった。俺には父親がいない。物心ついた時から母と俺とで過ごしていた。
「あーあ。買ったばかりの制服汚してー。」
俺の腕を持ち上げて立たせてくれたのが先輩だった。

「大丈夫?ケガは?」
「い、いえ…ありがとうございます。」
「そ、よかったよかった。じゃあな。」
颯爽と歩く先輩の後ろ姿から目が離せなかった。…その時からずっと先輩のことを見ていた。

「…ま、終わったことだ。」

畳んだ道着をしまい、制服に着替えて部室に鍵をかける。「弓道部」というシンプルなプラスチックのキーホルダーがついた鍵を返すために職員室に向かった。



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