ある時、ある場所で

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5回目〜20年前〜(悠)

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「今回はずいぶんと昔ですね。」
「ああ。だから持っていく物も違う。こっちだ。」
「過去の部屋」で、折りたたみ式の携帯電話を渡されて唖然とする。この携帯…色は違うけど、父親が昔使っていたものにそっくりだ。小さい頃、よくこれでパズルゲームをやらせてもらった…。

「必要な情報は全て写真で納めてある。それ以上は…自分の足で探ってくれ。」
「はい…ターゲットは…小島章二ですね?」
「ああ。当時の年齢で31歳。」
という事は、今は51か…。20年も前だと、亡くなっている可能性も高くなる…。

「今回の俺の名前は…?」
免許証を手に取る。「斎藤龍之介」。これまた古風な…。
「龍之介、龍之介、龍之介…。斎藤」
「もう行けるか?」
パソコンの前に座った洸一さんが、忙しくキーボードを叩きながら聞いてきた。免許証と携帯をスーツのポケットにしまう。今日は、安物だけど、スーツを新調した。今度、真人の家に行く時にはこれをきて行こうと購入したものだ。

「はい、…あの、手紙ありがとうございました。」
俺はこの1ヶ月、週に一度、洸一さんに手紙を出してもらっていた。真人と何らかの形で繋がっていたかった。水曜日の休みに必ず訪ねてくる俺を、洸一さんは何も言わずに受け入れてくれていた。

「ただの遊びじゃないことが何となくわかったからな。何故だろうな?…応援したくなる。」
そう言って初めて微笑んだ姿に…見惚れた。こりゃモテるわ…。小野寺さん、いや、奏さんも大変だ。

奏さんは、2月になって「巌城奏」になった。結婚して姓が変わったと経理部で堂々と宣言した。相手が男と聞いて、佐藤さんや田中さんは、興味深々だったが、嫌な顔は一切しなかった。…いい職場だ。

『俺も…。できれば、真人と…。ずっと一緒にいられる未来があれば最高だな…。』
財布の中身を確認しながら、実現するかどうか分からない将来に思いを馳せた。

『…真人がもし心変わりしてたら?』
この1ヶ月間そればかり考えていた。前回から真人の方では2年が経っている。真人が快楽を求めて、他の誰かと肌を重ねるようになっているかもしれない。想像するだけで吐き気がしそうだが、もし真人に彼氏ができたにしても、諦めたくない。奪いに行くまでだ。俺のこの気持ちと身体で…。

「おい、伊那村。行かないのか?」
洸一さんに話しかけられてハッとした。
「すみません。行って来ます。」
過去へ通じる扉を手紋で開けて、俺は20年と5ヶ月前の地に降り立った。



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