私が思っていた恋愛とちがう

知見夜空

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第十一話・私が思っていたバレンタインとちがう

見えない傷(誠慈視点)

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 萌乃がパンケーキを食べている間にトイレに立った。この店にはトイレが2つあるけど、男女共用だ。そのせいで男性客が少ないわりにトイレは2つとも使用中で、戻るまでに少し時間がかかった。

 席に戻ると、萌乃が知らない女の子たちに絡まれていた。不良ってほどではないけど、黒髪お下げの萌乃と比べると派手な感じの子たち。

 あからさまにいじめている様子ではない。でも、なんか。遠目に彼女たちが萌乃を見下していること。彼女たちの視線に、萌乃が委縮しているのを感じて

「……その子に何をしているんですか?」

 決めつけはよくないと思いつつ、声にはすでに敵意が滲んでいた。でも時には第一印象が正解の場合もある。

「か、彼氏って本当ですか? あなた、すごくカッコいいのに。なんで池ちゃんなんかと?」

 口では友だちと言いながら、その子にとって萌乃は異性に愛されるはずのない存在らしい。

(なんで君に「なんか」呼ばわりされなきゃいけないんだ)

 とよほど言い返してやりたかったけど、店内で揉めたら他のお客さんにも店員さんたちにも迷惑だ。何より萌乃が今すぐこの場を離れたそうだった。

 俺の態度が気に入らないと突っかかって来る女の子を無視して、会計を済ませると萌乃を連れて店を出た。

 彼女たちが追って来ないように十分店から離れたあと。

「萌乃、大丈夫?」

 俺の質問に、萌乃は咄嗟に「だ、大丈夫……」と答えたが、明らかに顔色が悪かった。

 萌乃は彼女たちに怯えるように、背後を気にしながら

「……だけど、もしかしたら今ごろ誠慈君が悪く言われているかも。私のせいでゴメン。嫌な想いをさせて」

 萌乃の言うとおり、さっきの剣幕を考えると、今ごろ女同士で俺の悪口を言い合っているかもしれないが

「別にいいよ。あんな人たちに何を言われたって」

 ハッキリ何かされたわけじゃないけど、萌乃を「なんか」呼ばわりした時点で気に入らなかった。こっちが先に敵視したのだから、相手に睨まれても全く構わない。でも今は俺の感情より

「1人にしてゴメン。怖い人たちに囲まれて大変だったね」

 しかし萌乃は、俺の言葉に俯いて

「……怖い人たちじゃないよ。ただ話しかけられているだけなのに、普通に返せない私が悪いんだよ」

 確かに萌乃以外の女の子なら、怯えるほどの相手ではないのかもしれないけど

「向こうに悪気が無いとしても、萌乃にとっては苦手な人なんでしょう?」

 気落ちした姿を見れば、この子にとっていい相手じゃないことは明らかで

「じゃあ、「怖かった。嫌だった」でいいんだよ。そんな辛そうな顔をしているのに、自分が悪いなんて思わなくていいよ」

 それでも萌乃は「あの人たちは悪くないんだよ……」と再び否定したが

「……でもなんか怖くて、嫌だって思う」

 耐えかねたように涙を零すと、それが見えないように深く俯いて

「こんなことで泣いてゴメンなさい……」

 今まで何度か萌乃の涙を見たけど、悲しみや苦痛で泣く姿ははじめてだった。

 どう考えても普通じゃないと理由を聞こうとした。でも萌乃は菜穂と言う子について、中学のクラスメイトだとしか教えてくれなかった。

 もしかしてイジメられていたのかと疑ったけど

「いじめじゃない」

 萌乃はキッパリと否定すると

「あの子は先生に言われて、私の面倒を見てくれていただけ。でも私は菜穂ちゃんと違って、いろいろ出来が悪いから、それで勝手に苦手なだけ」

 ここまで言い切るからには、イジメでは無いのだろう。でも過去のことを話す萌乃の顔は暗くて辛そうで、とても平気には見えなかった。

 単なる好き嫌いなのだとしても、あの子の何がそんなに嫌なのか、教えて欲しかったけど

「もうあの子とは会わないと思うから。大丈夫だから聞かないで」

 萌乃は傷口に触れられるのを嫌がるように、強く拒否した。目には見えない傷が、そこにあるのだと感じた。

 でも嫌がっている人から、無理に聞き出すことはできない。本当はすごく気になったけど、萌乃の言うとおり、あの子とは学校が違うから、もう会うことは無いだろうと自分を抑えた。
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