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第十一話・私が思っていたバレンタインとちがう

望まぬ再会

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 女性客で賑わう店内。誠慈君がトイレに立ち、ちょうど私が1人になったタイミングで

「あれ? もしかして池ちゃん?」

 突然の呼びかけに心臓が凍る。ビクッとしながら顔を上げると、そこには私たちと同様、学校帰りらしくブレザーを着た女子高生たちが立っていて

菜穂なほ。知り合いなの? その子」
「うん。中学の友だち」

 菜穂ちゃんは友人らしき女の子2人に答えると、改めて私を見下ろして

「でも驚いた。池ちゃん、全然変わってないから。高校生なのに、まだその髪型って。相変わらず気にしないんだね」

 子どもの頃から変わらない私のお下げ髪を見て苦笑すると

「てか話しかけているんだから「久しぶり」くらい言ったら? 私は池ちゃんがコミュ障なのを知っているからいいけど、それじゃ無視していると思われるよ?」

 彼女の言うことは、いつも正しい。中学の同級生と会ったくらいで、こんなに動揺して喋れなくなっている私がおかしい。

 でもゴメンと謝る前に

「さっきからお説教ばっか。菜穂、先生みたいだね」

 友人のコメントに、菜穂ちゃんは私を指して笑いながら

「私もあんまり口うるさく言いたくないんだけど、中学の時の担任に池ちゃん、いつも1人で可哀想だから面倒見てくれって頼まれちゃってさ。その時の癖が抜けないんだよね」

 菜穂ちゃんは中学でも活発で、私と違ってなんでもテキパキこなして、可愛くて皆の人気者だった。

 担任に頼まれた彼女は私がクラスに馴染めるように、いつも悪いところを注意してくれた。でも私はどれだけ言われても、菜穂ちゃんと同じようにはできないし思えない。だから私は

「それで菜穂が面倒を見てあげていたんだ?」
「良かったね。池ちゃんだっけ? 菜穂みたいに気にかけてくれる人が居てさ」

 菜穂ちゃんの友人たちにいきなり話しかけられて、ついビクついてしまう。「はい」や「いいえ」すら咄嗟に言えず、オドオドする私を見て

「……うわ~。本当にコミュ障だ」
「確かに、これは心配だね」

 憐れむような曖昧な笑みに劣等感を刺激されて、余計に頭が真っ白になる。さらに菜穂ちゃんも心配顔で

「その調子じゃ高校でも1人なんじゃない? 大丈夫? 私で良ければ話を聞いてあげよっか?」

 私の隣に腰かけようとする彼女に「来ないで」と咄嗟に思う。

 相手は心配してくれているだけなのに。なんで私は、いつも攻撃されているみたいに、苦しくなってしまうんだろう?

 私と違って出来が良くて、キラキラした菜穂ちゃんに勝手に気後れしているのだと、頭では分かっている。でもやっぱり菜穂ちゃんと話すのは苦痛で。どうすれば相手を傷つけずに、穏便にこの場から逃げられるのか分からなくて固まっていると

「……その子に何をしているんですか?」

 硬い声に顔を上げると、トイレに行っていた誠慈君が戻って来ていた。

 声をかけられた菜穂ちゃんは「えっ!?」と驚いて

「やっ、別に普通に友だちと話しているだけですけど!?」

 単にいきなり話しかけられたからじゃなく、誠慈君のイケメンぶりにどうやらドギマギしながら

「と、ところであなたは?」
「その子の彼氏です」
「えっ!? 池ちゃんの!?」

 菜穂ちゃんだけじゃなく、彼女の友人たちも肩が跳ねるほどビックリして

「嘘っ!? 彼氏、こんなにイケメンなの!?」
「池ちゃん勝ち組じゃん!」

 さっきまでの憐れむような眼差しが一転、羨望に変わる。でも、その視線が気持ちいいとは少しも思わなかった。なぜなら

「か、彼氏って本当ですか? あなた、すごくカッコいいのに。なんで池ちゃんなんかと?」

 「なんか」って言葉が思わず付くくらい、私と誠慈君は不似合いだから。

 私なんかが誠慈君と付き合っていること、それを私のダメさを良く知る昔のクラスメイトに見られたことが、かえって居た堪れなかった。

 小さくなる私をよそに誠慈君は

「好きだから以外に理由がありますか?」

 私には決して向けない冷たい声と表情。私も驚いたけど

「っ、何その眼つき!? まさか睨んでいるんですか!? ただ理由を聞いただけなのに、睨むなんておかしくないですか!?」

 菜穂ちゃんは一気に気分を害したようだけど

「萌乃。行こう」

 誠慈君は彼女を無視すると、席に置いていた荷物を回収して、私の腕を取って立たせた。レジに向かう私と誠慈君の背に

「だから何よ、その態度! ちょっと話していただけなのに!」

 菜穂ちゃんの怒声が、矢みたいに突き刺さる。

 でも、これも今まで数え切れないくらい注意されて来たこと。このくらいで苦痛を感じる私がおかしい。
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