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5 祝わなきゃしょうがないでしょ?
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アレックスと出会ってから、1年が経った。私は相変わらず東宮殿の小さな屋敷でのんびり暮らしている。身分は、1年前と同じ婚約者のままである。
「メル!」
そして、アレックスはお昼休みには毎日私のところにやってくる。大型犬のような人懐っこさ。私はお菓子によって、王子様を見事に餌付けしてしまったらしい。
まあ、それが楽しみになってるから良いんだけどね。でも最近は少しアレックスを警戒するようにしている。
「今日もメルに会えて嬉しいよ。」
こんなふうに優しく笑って、私を騙そうとしてるんだ。そうやって、私を懐柔しようとしても無駄なんだから!私はもう、絶対に誰かを好きにならないから!
そんな覚悟を持って、私はアレックスにクッキーを差し出した。さあ、食べて。私の自信作だよ。
「美味しい!」
そう言って笑うアレックスを見ていると幸せな気持ちになる。しょうがないじゃん。元来私は世話好きな性格なんだから。
ちなみに私が誰のことも愛さないと決めているのには、深い理由がある。私には前世の記憶があるのだ。前世の私は、夫にDVを散々食らった挙げ句に、夫に殺されてしまった。
その経験から、愛する、という気持ちが恐ろしい形に変貌することを知った。誰かを愛そうとするから、人は不幸になるのだ。
(私は絶対に、アレックスを愛さないわ。)
別に、自分に言い聞かせている訳では無い。純粋に心のうちから溢れ出る感情である。本当だからね!
アレックスとは"愛さないこと、と婚約者として扱わないこと"を約束して、東宮殿に残ることを決めた。でも最近は、酷く曖昧な約束をしてしまったとよく思う。
「アレックス、たん、、、」
「来月はメルの誕生日だな!」
うっっ。アレックスと言いたいことが被るなんて、不覚、、、。そう、私が聞きたかったことはアレックスが誕生日に何が欲しいのかってこと。まさか一ヶ月も前から、アレックスが私の誕生日について聞いてくるとは、、、。
「ん?ごめん。被っちゃったね。メルはなんて言おうとした?」
貴方の誕生日についてだよ。だけど、アレックスと話題が被っているのが悔しいから、知らないふりをすることに決めた。
「アレックスは単純だねって、言おうとしたの。アレックスは何を聞こうとしたの?」
たん、までしか言ってなくてよかった。急に人を馬鹿にするやつみたいになっちゃったけど、まあ良いか。アレックスが単純なのは、ほんとのことだし。
「俺は単純か、、、?俺は繊細な男だぞ、、、。」
「どこがよ?」
「みたらわかるだろ。とにかく、メルの誕生日が一ヶ月後だってことが重要だ、、、!」
真面目な顔をして、アレックスが言った。本当はアレックスに誕生日を教えないつもりだったのだが、アレックスが脅迫まがいの方法で無理矢理私から誕生日を聞き出した。
まあ、誕生日のパーティ自体は楽しかったから、いいんだけどさ。
「まだまだ先じゃないの。」
「いや!最高のプレゼントを用意しようと思ったら、遅すぎるくらいだ!」
「最高のプレゼント、、ねぇ。別に私、欲しい物無いなぁ。」
私が、そう言うとアレックスは頭を抱えた。
「そう言われると、余計難しいんだよ、、、!そもそもメルは宝石類を好まないしな。」
どうも豪華なものを貰うと怯んでしまう。前世の私は、貧乏で日々スーパーの安いもやしを買っていたんでね。
「本当に、何もいらないわ。今の暮らしがあれば十分。」
むしろ、幸せすぎるくらいだ。私はアレックスの"お飾り婚約者"として、何不自由なく暮らすことができている。快適すぎて、アレックスに申し訳なくなるくらいだ。
「メルは、、、本当にずるいよね。」
アレックスが頭を抱えたまま、ボソリと呟いた。
「そうかもね。」
間違いなく、私は狡い。だって結婚もしないくせに、アレックスの好意に甘えてここに残っているんだから。でも、アレックスが他に好きな人ができたり、新しい婚約者を迎えたりしたときは、すぐにでも東宮殿を出ていこうと思う。それが、私にできるアレックスへの最低限の恩返しだ。
「けど、そんなメルも素敵だよ。」
アレックスはにっこりと微笑んだ。そうやって、貴方はいつも私を甘やかす。
お昼休憩が終わり、仕事場に帰っていくアレックスの背中を私はにらみつける。人のことばっかり気にして、、、!
(一ヶ月後の私の誕生日じゃなくて、一週間後の自分の誕生日を気にしなさいよ!!)
そう、私の誕生日は一ヶ月後だが、アレックスの誕生日はすぐ一週間後なのだ。あれ程私の誕生日を聞きたがっていたくせに、自分の誕生日にアレックスにはおどろくほど無頓着だった。
(祝われるだけなんて、むず痒くていや!)
一年前私の誕生日が終わったあと、アレックスの誕生日を尋ねると、彼はとぼけた顔で答えた。
『あ、一ヶ月前に終わったよ?』
その言葉を聞いて、私は愕然とした。私にプレゼント攻撃をしていた真っ最中ではないか。ショックを受ける私にはアレックスは笑っていった。
『いいんだよ。俺の誕生日なんて平日さ!』
冗談ではなく、澄んだ目でそう言われた。王子の誕生日が平日なら、私の誕生日も間違いなく平日だけどね!!
私が住む東宮殿の屋敷は隅にあるので、アレックスの誕生日を察知できなかったのだ。今年こそは、絶対にアレックスの誕生日を祝うんだと意気込んでいた。
問題は、プレゼントに何を渡すか、だ。
◇◇◇
「メル!」
そして、アレックスはお昼休みには毎日私のところにやってくる。大型犬のような人懐っこさ。私はお菓子によって、王子様を見事に餌付けしてしまったらしい。
まあ、それが楽しみになってるから良いんだけどね。でも最近は少しアレックスを警戒するようにしている。
「今日もメルに会えて嬉しいよ。」
こんなふうに優しく笑って、私を騙そうとしてるんだ。そうやって、私を懐柔しようとしても無駄なんだから!私はもう、絶対に誰かを好きにならないから!
そんな覚悟を持って、私はアレックスにクッキーを差し出した。さあ、食べて。私の自信作だよ。
「美味しい!」
そう言って笑うアレックスを見ていると幸せな気持ちになる。しょうがないじゃん。元来私は世話好きな性格なんだから。
ちなみに私が誰のことも愛さないと決めているのには、深い理由がある。私には前世の記憶があるのだ。前世の私は、夫にDVを散々食らった挙げ句に、夫に殺されてしまった。
その経験から、愛する、という気持ちが恐ろしい形に変貌することを知った。誰かを愛そうとするから、人は不幸になるのだ。
(私は絶対に、アレックスを愛さないわ。)
別に、自分に言い聞かせている訳では無い。純粋に心のうちから溢れ出る感情である。本当だからね!
アレックスとは"愛さないこと、と婚約者として扱わないこと"を約束して、東宮殿に残ることを決めた。でも最近は、酷く曖昧な約束をしてしまったとよく思う。
「アレックス、たん、、、」
「来月はメルの誕生日だな!」
うっっ。アレックスと言いたいことが被るなんて、不覚、、、。そう、私が聞きたかったことはアレックスが誕生日に何が欲しいのかってこと。まさか一ヶ月も前から、アレックスが私の誕生日について聞いてくるとは、、、。
「ん?ごめん。被っちゃったね。メルはなんて言おうとした?」
貴方の誕生日についてだよ。だけど、アレックスと話題が被っているのが悔しいから、知らないふりをすることに決めた。
「アレックスは単純だねって、言おうとしたの。アレックスは何を聞こうとしたの?」
たん、までしか言ってなくてよかった。急に人を馬鹿にするやつみたいになっちゃったけど、まあ良いか。アレックスが単純なのは、ほんとのことだし。
「俺は単純か、、、?俺は繊細な男だぞ、、、。」
「どこがよ?」
「みたらわかるだろ。とにかく、メルの誕生日が一ヶ月後だってことが重要だ、、、!」
真面目な顔をして、アレックスが言った。本当はアレックスに誕生日を教えないつもりだったのだが、アレックスが脅迫まがいの方法で無理矢理私から誕生日を聞き出した。
まあ、誕生日のパーティ自体は楽しかったから、いいんだけどさ。
「まだまだ先じゃないの。」
「いや!最高のプレゼントを用意しようと思ったら、遅すぎるくらいだ!」
「最高のプレゼント、、ねぇ。別に私、欲しい物無いなぁ。」
私が、そう言うとアレックスは頭を抱えた。
「そう言われると、余計難しいんだよ、、、!そもそもメルは宝石類を好まないしな。」
どうも豪華なものを貰うと怯んでしまう。前世の私は、貧乏で日々スーパーの安いもやしを買っていたんでね。
「本当に、何もいらないわ。今の暮らしがあれば十分。」
むしろ、幸せすぎるくらいだ。私はアレックスの"お飾り婚約者"として、何不自由なく暮らすことができている。快適すぎて、アレックスに申し訳なくなるくらいだ。
「メルは、、、本当にずるいよね。」
アレックスが頭を抱えたまま、ボソリと呟いた。
「そうかもね。」
間違いなく、私は狡い。だって結婚もしないくせに、アレックスの好意に甘えてここに残っているんだから。でも、アレックスが他に好きな人ができたり、新しい婚約者を迎えたりしたときは、すぐにでも東宮殿を出ていこうと思う。それが、私にできるアレックスへの最低限の恩返しだ。
「けど、そんなメルも素敵だよ。」
アレックスはにっこりと微笑んだ。そうやって、貴方はいつも私を甘やかす。
お昼休憩が終わり、仕事場に帰っていくアレックスの背中を私はにらみつける。人のことばっかり気にして、、、!
(一ヶ月後の私の誕生日じゃなくて、一週間後の自分の誕生日を気にしなさいよ!!)
そう、私の誕生日は一ヶ月後だが、アレックスの誕生日はすぐ一週間後なのだ。あれ程私の誕生日を聞きたがっていたくせに、自分の誕生日にアレックスにはおどろくほど無頓着だった。
(祝われるだけなんて、むず痒くていや!)
一年前私の誕生日が終わったあと、アレックスの誕生日を尋ねると、彼はとぼけた顔で答えた。
『あ、一ヶ月前に終わったよ?』
その言葉を聞いて、私は愕然とした。私にプレゼント攻撃をしていた真っ最中ではないか。ショックを受ける私にはアレックスは笑っていった。
『いいんだよ。俺の誕生日なんて平日さ!』
冗談ではなく、澄んだ目でそう言われた。王子の誕生日が平日なら、私の誕生日も間違いなく平日だけどね!!
私が住む東宮殿の屋敷は隅にあるので、アレックスの誕生日を察知できなかったのだ。今年こそは、絶対にアレックスの誕生日を祝うんだと意気込んでいた。
問題は、プレゼントに何を渡すか、だ。
◇◇◇
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