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第一章

お買い物デート

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 翌日。

 ヴィル様もお仕事がお休みだから、いっしょにお買い物に行くことになったんだ。

 今いるのは、平民街でも上品な品物を置いてる店が並んでるシャルム通りというところ。北西区画にあるし、市場付近のお店で済ませられるから特に足を運ばないんだよね。
 通りも綺麗に石が敷き詰めてあって、高級そうな雰囲気が漂ってた。飾り窓に陳列されてる商品はどれも職人さんが手を掛けて作ったものってわかるものばかりで、目を楽しませてくれる。

「こんなところあったんですね」
「エルは知らなかった?」
「はい。こんな素敵な所があるなんて知りませんでした」
「ちょうどよかったね」

 ヴィル様に連れられて入ったお店は大きい雑貨屋さん。文房具や食器や家具にアクセサリー。たくさんの商品があって目移りしちゃう。
 全部が貸しスペースらしい。しかも一点ものが多くて、貴族の方もここで掘り出し物を探したりすることがあるんだって。

 お気に入りのものを見つけたみたいで、ヴィル様が棚の前で立ち止まった。視線の先にあるのはティーセット。
 控えめに花の絵がいれてあって、確かにかわいい。

「これにしよ」

 おお、即決。
 迷いがないところがヴィル様だよね。それに比べて僕は優柔不断だ…。
 でもそんな僕が目を惹かれるものがあったよ。
 ステンドグラスのランプ傘。部屋のランプがむき出しで、殺風景で寝るだけの部屋って感じだったから、嫌だったんだよね。
 それに最近はヴィル様もいるし…。そのね、雰囲気って大事だよね。
 べ、別に、いやらしいこと考えてるわけじゃないよ。

「それ気に入った?」
「はい、これ買おうと思って」
「あの裸のランプ用に? 俺も気になってたんだ、あれ」

 ランプ裸で放置してる、とか思われてたのかな。うわー、恥ずかしっ!

「俺、あっちみてくるから、エルも好きな所みておいで。エルの家に戻ったら、何買ったか見せ合いっこしようね」
「は、はい」

 見せ合いっことか可愛すぎるよ、ヴィル様。
 って、家に戻る事は確定なんだ。買い物終わったらお別れかと思ってたから、嬉しい誤算。
 
 特に買いたいものもなくて、ぶらぶらと店内を見回ってたんだけど、アクセサリー売り場で足が止まってしまった。
 紫色の石のついたペンダントを発見。色の濃さといい、ヴィル様の瞳に似てて、手に取ってしまったよ。
 
 ちょっと待った。

 買った物後で見せ合いするんだったら、どう考えても見られるよね…。ヴィル様に隠し通せる気がしないし。
 今回は諦めて、一人で来た時に買おう。

 結局、購入したのはランプ傘だけだったけど、ヴィル様は大きい紙袋3袋分買ってた…。
 思ったより買っちゃった、って満足そうに微笑むヴィル様はとっても可愛くて、悶絶した。

 
 で、

 家に帰って来て、果実水を用意しながら、ヴィル様が紙袋の中身を広げ始めたのを何買ったんだろうって大人しく観察してた。本当に見せ合いっこするんだ。

 出てきたのはさっきのティーセットと数枚のお皿、クッション2つに、ベッドマットとそれらの付属品。
 ――え、ベッドマット? 雑貨屋さんにそんなの置いてあるんだね。すごい。
 
「ヴィル様、果実水入れたのでどうぞ」
「ありがとう、エル」

 チュッと音を立てて額にキスされる。
 相変わらず照れてしまう僕。呆れられてないかな。これってどのぐらいで慣れるんだろう…。 
 
 果実水を一口飲んで、ヴィル様は勝手知ったる様子で僕の部屋にクッションとベッドマットを運んで行った。

 ちょっと待ったー!

「ヴィル様、どこ持っていくんですか!」
「エルのベッド、硬くて寝心地悪いからね」

 うん、硬いし狭いよ。それはわかってるよ、十分に。だからって、

「僕の家で使うものだったんですか!」
「うん。全部ここで使うために買ったんだよ」
「ぜ、全部!?」

 ってことはこのティーセットもお皿も?
 聞いてないよ! 
 ちょっとこれヴィル様に貢がせてるみたいだよ!
 
「ダメです! 僕の家で使うものをヴィル様に買ってもらうなんてできません!」
「こうした方が俺も過ごしやすいし、問題ないよね」

 僕の制止の言葉も物ともせず、ベッドの上にマットを敷いてしまう。ヴィル様の腕を掴んで止めようとするけど、どうして?、って不貞腐れたように言われる始末。しかも手を止めるつもりは毛頭ないみたい。
 僕も慌てて、ベッドメイクを手伝う。

「な、ならこれは買い取りますから、金額教えてください。あと僕がやりますから、ヴィル様は休んでてください」
「だーめ。この間のお薬のお礼兼ねてるんだから」
「お、お礼もらうために渡したわけじゃないですから――」 

 グイっと引っ張られて、あ、っと思う間もなく、ベッドに寝かされ、ヴィル様が跨ってくる。

「柔らかくて、腰も痛くなりにくいからね」
「ちょ、っと、ヴィル様!」
「クッションもあるし、ね」

 にっこり笑ったヴィル様ほど怖いものはないと思う。

「ねーエル。あのペンダント買わなかったの?」
「へ、…ぺ、ぺ、ペンダント…な、何のことですか」
「あの色どこかで見たことあるんだよね…」
「い、色?」
「なんか、誰かの目の色に似てる気がしたんだけど」
「うっ!」

 見られてたー!
 どこから見てたのー!?
 にっこり笑ってるけど、目が…目が怒ってるー!

「また一人で買いに行こうとか思ってた?」
「はっ!」
「へぇ。一人で俺の色持ってるつもりだったんだ。俺にはエルの色くれないんだね?」
 
 知ってる。恋人になったら、お互いの色を交換するって。
 ヴィル様にしたら僕なんてただの通り道に過ぎないから、必要ないよね? よね?

「で、でも僕の色なんて――」
「『なんて』って言うの禁止。そんな風に自分の事卑下する子にはお仕置が必要だね」

 お仕置って、なに?!

 あ、ここベッドの上だった。
 で、でもまだ昼間!
 この部屋、日が当たらないから暗いんだけど、まだ昼間だからね!

「昼じゃなかったらいいの?」
「そういうことじゃなくて!」

 っていうか、聞こえてたの、僕の心の声!

「でも、お仕置だからね。エルの言うことは聞けないよ」

 ヴィル様の輝くような笑顔。
 見惚れるほど美しいけど、今はその裏にある感情がだだ漏れだから、僕は凍り付くしかなくて。
 しかもヴィル様に開発されまくった僕の体がヴィル様に触れられて反応しないわけがないよね…。


 焦らされて焦らされて、恥ずかしい言葉も言わされて、でも全然欲しいところにはくれなくて。

「ヴィルさま、おねがい、いれて、いれて…」

 って泣きながら言ってやっと貰えた。もう顔から火が出るかと思ったよ。
 ヴィル様が入ってきて、頭が真っ白になって、がむしゃらに求めてしまったような気がする。タガが外れたって言うのかな…。

「あぁ、おくぅ」
「どうして欲しい?」
「もっといっぱいついてぇ」

 なんて言ってないよ。言ってないからね…。言ってないって信じたいよ……。
 
 しかも、買って来たばっかりのクッションが僕の腰の下敷きに…。枕になると思ってた時がありました。
 腰が楽だし、ヴィル様も動きやすそう……って僕は何を…っ。
 
 とにかく…、いつも以上に気持ちよくて。僕は変態になっちゃったんだと思う。こんなこと絶対口が裂けても言えないけど。
 
  

 
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