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1巻
1-2
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「姫……その……」
背後に立つラファエルが明らかに動揺して、どうすべきか思いあぐねているようだった。
「ごめんなさい……突然、変なことを言って」
「いえ……」
美しい護衛騎士に自分の弱さをつい、吐露してしまい、ジュスティーヌは急に恥ずかしくなる。
こんなことを話すべきじゃなかったかも。でも口に出してしまった言葉は取り返すことはできない。どうしようかと俯いてしまったジュスティーヌを見て、ラファエルが慌てて首を振った。
「その、急に走ると侍女殿たちはびっくりするかもしれませんが、俺はついていきますから、姫が望むようになさってくださって構いません。どんなに走っても、池に落ちても、何が起きても俺は大丈夫です。俺はその……丈夫なだけが取り柄なので……」
「そう、丈夫な、だけが? え? ……」
月の光が零れるような美貌の騎士の言葉に、ジュスティーヌは目を瞬いた。
――この人はもしや鏡を見たことがない……?
そんな別の疑問に囚われたせいか、いつの間にか涙は引っ込んでしまった。
***
ジュスティーヌは祖母である王太后の病気見舞いを兼ねて、王都郊外の湖の畔にある、離宮を訪問することになった。
王太后は末の孫娘を溺愛し、隣国に嫁がせるのを最後まで反対していた。息子である王への怒りが強すぎて、王宮を出て離宮に居を移したくらいであった。
ジュスティーヌの帰国を何よりも喜んでいたが、体調を崩したせいで対面が叶わずにいた。それで、ジュスティーヌの方から離宮に足を運ぶことにしたのである。
六年ぶりの孫との再会で、王太后は夏風邪も吹っ飛ぶほどの回復を見せ、侍医を驚かせた。
折しも、離宮は薔薇の盛り。祖母や家族との再会の喜びにジュスティーヌの顔色もよくなり、怯えた表情は影を潜めて、明るさを取り戻しつつあった。
離宮の庭園は湖に面していて、直接、桟橋に降りられる。小舟がいくつも繋がれていて、遊覧用の大きな白い屋形船もあった。
散歩がてらに湖まで足を伸ばし、ジュスティーヌは煌めく湖面を見下ろした。
「昔はよく、あの屋形船に乗ったわね」
ジュスティーヌの言葉に、背後に控えた侍女が微笑む。
「そうですわね。……今回は王太后陛下がご不例でしたので、舟遊びは致しませんでしたが、次の機会にはぜひ」
ジュスティーヌは桟橋に並ぶ小舟を見まわして言った。
「この小舟は、湖上祭の時にも使うの?」
「ええそうです。湖の女神を祭るために、湖の上の小舟はたいがい、出払いますね」
ジュスティーヌは足を止め、湖の向こうの森を眺める。
森は全体が女神の神域になっていて、毎年、八月の満月の夜にはたくさんの松明や灯篭を湖上に掲げて、女神を祭るのだ。
「懐かしいわ……わたくし、小さなころあの舟に乗りたくて駄々をこねて、お兄様に叱られたのよね……」
ジュスティーヌは青い目を細め、幼いころの思い出に浸る。
嫁ぐ前の湖上祭の夜、離宮に作られた見物用の桟敷から、湖を眺めたのだ。
たくさんの松明と灯篭の光が溢れ、湖面には金色の月が映って――
その記憶と直前まで閉じ込められていた、隣国の離宮の中庭の風景が重なる。
四角い中庭には、中央に噴水のある四角い池があった。周囲の建物が高いので、上天に上るまで月は見えない。その月が、四角い池の水に映って揺らぐ。
大公の訪れのない夜だけ、それを眺めることができた。
水に映る月を見ながら、ジュスティーヌは祖国の月を思い出していたのだ。
幽閉中の記憶を思い出したその夜、ジュスティーヌは過去の悪夢にうなされていた。
四本柱の巨大な寝台は、閨というよりは牢獄だった。天蓋布に覆われた内部に蠢く黒い影。
ジュスティーヌにのしかかり、押さえつけ、力ずくで暴く恐ろしい男。
――いや、怖い……助けて……
心の声は口に出すことは叶わず、それはジュスティーヌの意志によらない、淫らな喘ぎ声となって零れ落ちる。
冷たい汗が噴き出て、身体が燃え盛っているのに、心は氷のように冷え切っていた。
――怖い、怖い……
屈辱的な行為に身体だけが絶頂して震えるジュスティーヌに、あの男が言った。
『見ろ、勃ったぞ!』
ぼやけた視界の向こう、でっぷり太った腹の肉の下あたり、何かが天をついてそびえ立っていた。それが何かわからないまま、男がジュスティーヌの上にのしかかってくる。
『ようやくだ――この時を待っていたぞ、わが姫よ――』
反射的に両の目を固く瞑れば、ジュスティーヌの耳をつんざく獣のような咆哮が響いた。次の瞬間、男の全体重がのしかかって押し潰され、息もできない。
そのままピクリとも動かなくなった男は――
白目を剥き、口から泡を吹いて――
「い、いやああああぁ!」
自分の悲鳴で目を醒まし、寝台の上に起き上がる。全身、びっしょりと汗をかいていた。
また、あの夢――
ジュスティーヌは荒い息を吐いて額の汗をぬぐう。
あの、離宮の寝台でない。ここは――そうだ、おばあ様の離宮に来ていて……
ジュスティーヌは深く息をつくと、枕元の水差しからグラスに水を注ぎ、一息に飲み干した。生ぬるい水が喉を通っていく。
ジュスティーヌは寝台をおりて、素足のまま窓に近寄り、カーテンを開けてみる。
ガラス窓の向こうに、煌々と輝く白金の月が見えた。
この部屋からは、空の月が見える。あの離宮とは違う。でも……空の月は、遠すぎる。
どうしても湖に映る月が見たくなったジュスティーヌは、一人、そっと抜け出すことにした。一瞬、ラファエルの銀の髪が浮かんだが、わざわざ起こす勇気がない。
――だって、なんて説明するの? ただの我儘だと言われてしまうかも……
ジュスティーヌはフード付きのマントを身に纏い布靴をひっかけて、そっと夜の庭に踏みだした。遠くの森から響くフクロウの啼く声を聴きながら、離宮の畔の湖まで、満月の下を駆けていく。
松林を抜ければ月の光に照らされた湖が広がっていた。暗い湖面に映る金色の月に吸い寄せられ、ジュスティーヌは足を早め、桟橋に降りた。
どれくらい、そこにいたのか。
桟橋に腰掛け、素足を湖水に浸して水を蹴りあげては、月光に煌めく水の飛沫を眺めていた。波に揺れる月の影を見つめていたジュスティーヌは、背後から呼びかけられて我に返る。
「姫――!」
振り返れば、銀色の髪を月の光に煌めかせた騎士がマントを靡かせて駆けてくる。
護衛騎士のラファエルだった。相当走ったのか、珍しく息を乱している。
「姫、困ります。必ず護衛をお連れください!」
すぐに戻るつもりが、時を忘れて月に見入っていた。きっと、ラファエルはもぬけの殻の寝室を見て泡を食って探しまわったことだろう。
そう思うと、申し訳なさでこのまま消えてしまいたくなる。ジュスティーヌは眉を下げて、ラファエルを見上げた。
「ごめんなさい。……ついてきてもらうのが、申し訳なくて……」
「今頃、皆で姫様を探して走りまわっています」
「ごめんなさい」
桟橋に降りてきたラファエルにもう一度謝る。すらりと背が高く均整が取れた体つきは、月光に照らされて、神殿に置かれた彫像が動き出したかのようだった。
「月が、見たかったのですか?」
ラファエルの声にはただ安堵が溢れていて、咎める色はない。ジュスティーヌはそのことにホッとすると同時に、なおさら申し訳なく思う。
「ええ……水に映った月が、見たかったのです」
部屋の窓から見上げる月ではなく、水に映った月が見たかった。だから――
そう言えば、ラファエルが月を見て、そしてジュスティーヌを見た。その視線に耐え切れず、ジュスティーヌはラファエルから目を逸らし、湖に映る月に目をやる。
「あの国では、四方を囲まれた中庭のある離宮から、出ることは許されませんでした。中庭には噴水のある四角い池があって――月の夜は、水に映る月を見ていました」
ラファエルが、息を呑む気配を感じる。同情を買いたいわけではないけれど、心配をかけた彼には理由を話さなければならないと思ったのだ。
――月夜には、水に映る月が見たい。なぜなら、それだけが許された自由だったから。
そんな理由で護衛の手を煩わせていいはずがない。
いっそ叱責してくれれば、謝って誤魔化してしまえるのにと、ジュスティーヌは言葉を探した。ラファエルが何も言わないので、ジュスティーヌはさらに焦って言葉を紡ぐ。
「そこにないのに、そこにあるように見えて、歪んで、崩れて……幸せって、水面に映る月のようだと思わないこと?」
「姫……」
無言の時が流れ、湖面が揺れ、水に映った月も揺れる。森からの風が吹き抜け、結わないままのジュスティーヌの長い金髪を靡かせる。
不意に、ジュスティーヌの横で、ラファエルが膝をついた。
「姫。俺に、騎士の誓いを立てることをお許しください」
「な、なに? どうしたの、ラファエル」
いったい何を言い出すのかと、ジュスティーヌは驚いてラファエルを見た。月の光に照らされたラファエルの顔は名工が彫り上げた彫像のごとく整っていて、人間離れした美しさだった。
「俺に騎士の誓いをお許しください。生涯、騎士として姫をお守りすることを誓います」
唐突な申し出に、ジュスティーヌは戸惑う。ラファエルは近衛騎士の一人として、王女の護衛につけられているだけだ。
「あなたは、国王の騎士です。あなたの忠誠はこの国と王に向けるべきでは」
ジュスティーヌの返答に、だがラファエルは食い下がる。
「たしかに俺は王の騎士です。でも、王や国へとは別に、心からの忠誠を姫にお捧げしたい。姫は我々のためにその身を捧げてくださった。俺はその献身に少しでも報いたいのです」
月の光の下、真剣な目で言われて、ジュスティーヌは戸惑う。
「献身だなんて、わたくしは……」
ジュスティーヌは視線を逸らし、長い睫毛を伏せる。
そんなのは買いかぶりだ。自分は言われるがままに嫁いだ愚かな子供に過ぎなかった。
自分が嫁いだおかげで戦争が終わったと、誰もが称賛するけれど、実態は何もできず、閉じ込められて慰み者にされていただけだ。それに何より、戦争そのものが――
だが、ジュスティーヌは心の内の葛藤を言葉には出さず、ただ、湖面に映る月影に視線を動かした。
「空の月は、遠すぎるの。……絶対に届かなくて、見ていると辛い。だから……月のある夜には、わたくしは水に映る月が見たいの。一人で出かけてはいけないというならば、ならばあなたが、それを見せに連れていって。……それなら……」
ラファエルがしばらく無言でジュスティーヌを見つめてから、言った。
「姫が望まれるのでありますなら、必ず、俺が水に映る月の見える場所にお連れすることを誓います。――どのような場所にいても、必ず」
奇妙な誓い。だが、ラファエルはそれ以上何も聞かず、跪いたままジュスティーヌの手を取ると、その甲にそっと口づけた。
湖を囲む黒い森が風にざわめき、水面に映る月影がさざ波に揺れる。青白い月の光が二人の髪を照らし、長い影が伸びていた。
第三章 騎士と恋人
六年ぶりに戻ってきたジュスティーヌには、高位貴族からの誘いがひっきりなしにある。少しずつながらそうした催しへの参加を始めた王女の傍らには、常に護衛としてラファエルがぴったりと張りついていた。
輝く銀髪と長身で均整の取れた体つき。彫像のように整った美貌を持つ彼が、儚げな悲劇の王女に影の如く付き添っている。
少人数のお茶会などにラファエルを従えて参加するたび、彼の際立った容姿が周囲の女性たちの視線を集めていることに、ジュスティーヌも気づいていた。
実際、ジュスティーヌの目から見てもラファエルは美しい。
だが、隣国の暮らしでジュスティーヌの心はすっかり擦り切れて、ラファエルの美貌を見ても何か遠いもののような気がしていた。
『姫が望まれるのでありますなら、俺が水に映る月の見える場所にお連れすることを誓います。――どのような場所にいても、必ず』
あの夜、満月に照らされた湖で、ラファエルの言葉にジュスティーヌの胸にはわずかなさざ波が立った。けれど、それは水に映った月を揺らす程度のもの。
――ラファエルは単なる護衛騎士。きっと誰にでも忠実な……
ラファエルはあくまで護衛に徹し、二人の間には明確な距離がある。
だから、ジュスティーヌは自分たちの仲が密かに噂されているなんて、想像もしていなかった。
季節は春から初夏へと移っていく。
毎年、王の妹であるヌイイ公爵夫人が主催する仮面舞踏会は、王都の貴族のほとんどが参加する盛大な催しであった。
仮面をつけての催しということで、王太子マルスランの薦めもあり、ジュスティーヌはおしのびで参加することにした。おしのびとはいえ、近衛騎士の制服を着た護衛も付く。ただ、エスコート役のラファエルだけは制服ではなく、ありふれた貴族男性の装いで付き添うことになった。
社交の経験のないジュスティーヌにとっては、初めての夜会となる。王家の正式な夜会に出る前に、場慣れさせて経験を積ませたいとマルスランが考えたのだ。
「でも緊張するわ。仮面舞踏会だなんて」
しり込みするジュスティーヌに、ラファエルが励ますように言った。
「ヌイイ公爵邸は、湖を挟んで離宮の対岸となります。たいてい、舞踏会の夜は月が明るくて、湖に見事な月が映るのですよ」
「あなたは以前に参加したことがあるの?」
ジュスティーヌに問われ、ラファエルが頷く。
「あの会は、毎年、王都じゅうの貴族が集います。若者も多く格式張らないので、初めて参加されるには、気楽でいいと思います」
いずれ、どこかで社交デビューはしなければならないなら、とジュスティーヌは腹を括った。
当日、青いドレスに金色の仮面をつけたジュスティーヌは、グレーの夜会服で盛装し、銀色の仮面をつけたラファエルの腕に手を預け、ゆっくりと広間に足を踏み入れた。シャンデリアの明かりが昼間のように広間を照らし、豪華に飾りつけられた華やかな会場に陶然となる。
隣国でも、夜会は頻繁に催されていたらしいが、ジュスティーヌは一度として出席を許されなかった。
――要するに、妻どころか人間として扱われていなかったのよね……
大公にとって、ジュスティーヌは隣国から奪い取った単なる愛玩人形でしかなかった。夫の死によって、ようやく光輝く世界に戻ることができたのだ。
もっとも、最初は心が沸き立ったものの、着飾った貴顕淑女が溢れる華やかな広間は、世慣れぬジュスティーヌにはただただ眩しくて、居心地はよくなかった。
そっと噛み殺したため息を、隣にいたラファエルは察知したらしい。
「バルコニーに出ましょうか。あの方角からは庭の向こうに湖が眺められます」
以前に訪れたことのあるラファエルの提案に、ジュスティーヌが頷いた。
人込みを離れて薄暗いバルコニーに出る。初夏の夜の湿った空気が心地よい。
仮面をつけた限られた視界から眺める夜空には、上弦の月が金色に輝いて、空と同じ深い紺青の湖にもやはり金色の姿が映っている。背後の広間から漏れる喧騒が嘘のように、湖と月は静寂の中にあった。
「綺麗ね……」
ジュスティーヌの唇から零れた呟きを、ラファエルが拾う。
「そうでしょう? このバルコニーは毎年、あまり人も来なくて、いい場所なんです」
会場を振り返って苦笑するラファエルが、視線を動かして月を見上げた。
毎年、この場所に来ているらしい彼の言葉に少し引っかかりを覚えながら、ジュスティーヌも月を眺める。
「こんなに美しい光景なのに、パーティーに夢中で誰も気にしないのね?」
「ええ、月を気にするのはごく一部の人間だけです。……ここに来るたびに、人間どもの騒ぎを月は見下ろして、さぞやかましく思うだろうと考えてしまうのですが……」
月の考えることを予想しようとするラファエルの言葉が意外で、ジュスティーヌがつい、噴き出した。
「銀月の騎士みたいなあなたにわからないなら、きっと誰もわからないでしょう」
ラファエルの銀色の髪が月の光に照らされて、青みを帯びて輝いていた。ジュスティーヌの冗談に、仮面をつけていてもわかるほどのラファエルの美貌がかすかに柔らかく綻んだ。
「このバルコニーから見る月はとても美しいので、ぜひ、姫にも見ていただきたかったのです」
そっと、寄り添いあって月を眺める二人の後ろ姿は、誰の目にも恋を語り合っているように見え、王女と護衛騎士の二人が深い仲だとの噂が、真実味を帯びて語られ始めるのだった。
***
ジュスティーヌが帰郷して二月が過ぎ、王都は本格的な夏を迎えた。
妊娠中の王太子妃イザベルは甘え盛りの幼い王女二人を持て余していたので、ジュスティーヌはしばしば王太子夫妻の宮を訪れ、二人の王女たちと遊んだり、イザベルの話し相手を務めたりした。
その日も、ジュスティーヌはイザベルの部屋のテラスでお茶を飲みながら、例によってとりとめのないおしゃべりに興じていた。話題は、近づく湖上祭のこと。
イザベルが言う。
「もうすぐ湖上祭ですわね! 今年はどんな趣向の灯籠が出るか、今年の花火はどんなか、今から楽しみだわ。ジュスティーヌ様も湖上祭は六年ぶりですわね」
北国の短い夏の盛りを惜しむ湖上祭。
王都では毎年八月の満月の夜、郊外の湖にたくさんの船を浮かべて松明を掲げ、趣向を凝らした灯籠を製作してその意匠を競う。もちろん、花火も惜しげなく打ち上げられ、祭の雰囲気を盛り上げる。湖上には小舟が木の葉のように浮かび、水面に揺らめく明かりが天の星のごとく煌めくのだ。ジュスティーヌも六年ぶりの祭を楽しみにしていた。
「幼いころ、わたくし、あの小舟に乗りたいって我儘を言って、お兄様に叱られましたのよ。今年は乗れるかしら」
ジュスティーヌがおっとりと言うと、遠く東洋から輸入した白地に青い染付けのカップを優雅に持ち上げたイザベルが、あら、という風に首を傾げた。
「……どなたかお誘いくださいましたの? ジュスティーヌ様」
「いいえ。前に、お兄様は、あれは大人にならないと乗っては駄目だっておっしゃって……。今はもう大人だから、乗ってもいいのでしょう?」
「あれは、想い合った男女で乗るものですわ。どなたかそういう殿方がいらっしゃる?」
その夜のために、恋人のいる男たちは早くから舟と船頭を確保して、女を誘う。小舟から女神像に愛を誓えば、湖の女神の恩寵を受けて幸福が約束されるという。
兄嫁の言葉に、ジュスティーヌが目を丸くする。
「そうでしたの⁉ 全然、知りませんでしたわ」
「わたくしもマルスラン様にお誘いいただきましたわよ? 結婚の前の年に」
イザベルが膨らんだお腹を誇らしげに撫でて言えば、ジュスティーヌが頷いた。
「そうそう、憶えていますとも。わたくし、お兄様がお舟を召されると聞いて、その舟に乗せてくれと言って、騒いだんですもの。イザベル様を誘った舟でしたのね。叱られるはずですわ」
王太子妃イザベルは先々代の王弟の孫である。二人は幼馴染で相思相愛の恋人同士であった。マルスランが湖上祭の舟の上でイザベルにプロポーズした逸話は、王都でも有名だった。
だが二人の婚約が調った直後に、隣国の大公から横槍が入る。マルスランの妃に大公の妾腹の姫を、という申し出を、マルスランと王は突っぱねた。だがその代償として、幼いジュスティーヌが四十以上も歳の離れた大公に嫁ぐことになった。
マルスランとイザベルの結婚も、ジュスティーヌの犠牲の上に成り立っていたとも言える。
イザベルがさりげなく視線を動かし、意味ありげにラファエルを見た。それからイザベルはジュスティーヌに向き直る。
「ジュスティーヌ様、お舟に乗りたいのでしたら、ラファエルに頼んでみたらいかが? きっと喜んで舟を出すのではないかしら」
イザベルの言葉に、白い指で焼き菓子を摘まんでいたジュスティーヌが、驚いて顔をあげた。
「お舟は恋人同士で乗るのでしょう? 恋人でもないのに、そんなこと頼めません」
恋人とはどういうものか、ジュスティーヌはよくわからなかったが、自分とラファエルがそうでないことは間違いない。
ラファエルはただの護衛騎士だ。恋人の役を頼むことはできない。そう思うのに、イザベルは悪戯っぽく目元を笑わせて言う。
「確かに恋人同士で乗るものですけど、別に資格試験があるわけでもなし、恋人じゃなくてもバレはしませんわよ」
扇をパタパタ振りながらイザベルは笑った。
「だって、考えてもごらんなさいな。もし、ジュスティーヌ様に恋人がいたとして、その人がジュスティーヌ様をお舟に誘ったら、絶対にラファエルもついていきますわよ? 自分は護衛だから、姫様のお側を離れることはできません、とか何とか言って」
自分に恋人がいるという状況が全く想像できなかったが、二か月を過ごして、ラファエルが生真面目を通り越して空気の読めないほどの鈍感な人間であることには気づいていた。
恋人同士の舟に無表情な顔で割り込んでくるラファエルの姿を想像してしまい、ジュスティーヌが扇を口元に当ててぷっと噴き出した。
おそらく同じ姿を思い描いていたのだろう、イザベルが笑いながら言う。
「そんなお邪魔虫なことになるくらいなら、最初からラファエルと二人で乗った方がマシでしょう? ジュスティーヌ様は要するにお舟にさえ乗れればよいのですもの。だったら別にラファエルでも何の問題もないわ」
イザベルのものすごい論理に、ジュスティーヌはちょっとびっくりする。
たしかにジュスティーヌは舟に乗りたいだけだ。別に恋人じゃなくてもいい。でも――
「……何だかそれは……ちょっと違うんじゃありませんの? お義姉様」
不安になったジュスティーヌは、背後に控えるラファエルを振り返った。
「ラファエル、今のお話、聞いていて?」
「は」
ラファエルが生真面目に頭を下げる。その美貌に視線を奪われつつも、ジュスティーヌはおずおずと聞いた。
「お義姉様は、どっちみち護衛としてついてくるのだから、最初からあなたに舟に乗せてもらいなさいとおっしゃるのだけど……ラファエル、あなたはどう思う?」
ラファエルは表情一つ動かさず、騎士然として答えた。
「……はい。当日の警備の観点から申し上げますれば、姫君がご乗船なさる場合は、護衛騎士隊の誰かが同乗すべきと存じます。姫君からの特段のご指名がない場合は、責任上、隊長である俺自身が警護に当たることになりますかと」
「つまり……どのみちラファエルとは一緒に舟に乗る、と言う意味かしら。でもそれと、いっそのことラファエルに舟に乗せてもらうというのは、意味が違うように思うのだけど……」
ラファエルが紫色の瞳をまっすぐにジュスティーヌに向け、続ける。
「我々としては、たとえ姫君に恋人なる者がいたとしても、お二人だけでのご乗船は許可できません。恋人なる者の有無はともかく、湖上祭の小舟に姫君が乗る場合、俺が同乗いたします」
つまり恋人のあるなしにかかわらず、ラファエルは舟に乗ってくるということだ。
ジュスティーヌが扇を口元に当てながら考える。
湖上祭の舟に乗るのは、ジュスティーヌの幼い頃からの夢でもあった。恋人がいなくとも、ラファエルに頼めば小舟に乗せてくれる。その提案は抗いがたいほど魅力的だった。
「……その……恋人がいなくても乗ってもいいのかしら。昔、湖の上の小舟がとても綺麗で……舟の上からの光景もさぞかし素敵だろうと思って……」
上目遣いに見上げるジュスティーヌを見て、ラファエルがかすかに頬を緩める。それから確かに頷いた。
「姫が望まれるのでありますならば。……湖上祭は満月の夜でございますから、水に映った月も見事でございましょう」
『姫が望まれるのでありますなら、俺が水に映る月の見える場所にお連れすることを誓います』
ラファエルとの以前の約束を思い出し、ジュスティーヌはハッとした。
あの時の誓いを、ラファエルは守ろうとしてくれているのだ。胸の奥に温かいものが満ちてくるような気がして、ジュスティーヌもつい、顔をほころばせる。
「じゃあ、お願いしてもいいかしら。……ラファエル、わたくしを舟に乗せてくださる?」
「もちろん、姫のお望みとありましたら、このラファエル、身命を惜しみません。……ただ、王太子殿下のお許しが得られましたならば、ですが」
ラファエルが胸に手を当てて騎士の礼を執ると、ジュスティーヌもニッコリ微笑んだ。
背後に立つラファエルが明らかに動揺して、どうすべきか思いあぐねているようだった。
「ごめんなさい……突然、変なことを言って」
「いえ……」
美しい護衛騎士に自分の弱さをつい、吐露してしまい、ジュスティーヌは急に恥ずかしくなる。
こんなことを話すべきじゃなかったかも。でも口に出してしまった言葉は取り返すことはできない。どうしようかと俯いてしまったジュスティーヌを見て、ラファエルが慌てて首を振った。
「その、急に走ると侍女殿たちはびっくりするかもしれませんが、俺はついていきますから、姫が望むようになさってくださって構いません。どんなに走っても、池に落ちても、何が起きても俺は大丈夫です。俺はその……丈夫なだけが取り柄なので……」
「そう、丈夫な、だけが? え? ……」
月の光が零れるような美貌の騎士の言葉に、ジュスティーヌは目を瞬いた。
――この人はもしや鏡を見たことがない……?
そんな別の疑問に囚われたせいか、いつの間にか涙は引っ込んでしまった。
***
ジュスティーヌは祖母である王太后の病気見舞いを兼ねて、王都郊外の湖の畔にある、離宮を訪問することになった。
王太后は末の孫娘を溺愛し、隣国に嫁がせるのを最後まで反対していた。息子である王への怒りが強すぎて、王宮を出て離宮に居を移したくらいであった。
ジュスティーヌの帰国を何よりも喜んでいたが、体調を崩したせいで対面が叶わずにいた。それで、ジュスティーヌの方から離宮に足を運ぶことにしたのである。
六年ぶりの孫との再会で、王太后は夏風邪も吹っ飛ぶほどの回復を見せ、侍医を驚かせた。
折しも、離宮は薔薇の盛り。祖母や家族との再会の喜びにジュスティーヌの顔色もよくなり、怯えた表情は影を潜めて、明るさを取り戻しつつあった。
離宮の庭園は湖に面していて、直接、桟橋に降りられる。小舟がいくつも繋がれていて、遊覧用の大きな白い屋形船もあった。
散歩がてらに湖まで足を伸ばし、ジュスティーヌは煌めく湖面を見下ろした。
「昔はよく、あの屋形船に乗ったわね」
ジュスティーヌの言葉に、背後に控えた侍女が微笑む。
「そうですわね。……今回は王太后陛下がご不例でしたので、舟遊びは致しませんでしたが、次の機会にはぜひ」
ジュスティーヌは桟橋に並ぶ小舟を見まわして言った。
「この小舟は、湖上祭の時にも使うの?」
「ええそうです。湖の女神を祭るために、湖の上の小舟はたいがい、出払いますね」
ジュスティーヌは足を止め、湖の向こうの森を眺める。
森は全体が女神の神域になっていて、毎年、八月の満月の夜にはたくさんの松明や灯篭を湖上に掲げて、女神を祭るのだ。
「懐かしいわ……わたくし、小さなころあの舟に乗りたくて駄々をこねて、お兄様に叱られたのよね……」
ジュスティーヌは青い目を細め、幼いころの思い出に浸る。
嫁ぐ前の湖上祭の夜、離宮に作られた見物用の桟敷から、湖を眺めたのだ。
たくさんの松明と灯篭の光が溢れ、湖面には金色の月が映って――
その記憶と直前まで閉じ込められていた、隣国の離宮の中庭の風景が重なる。
四角い中庭には、中央に噴水のある四角い池があった。周囲の建物が高いので、上天に上るまで月は見えない。その月が、四角い池の水に映って揺らぐ。
大公の訪れのない夜だけ、それを眺めることができた。
水に映る月を見ながら、ジュスティーヌは祖国の月を思い出していたのだ。
幽閉中の記憶を思い出したその夜、ジュスティーヌは過去の悪夢にうなされていた。
四本柱の巨大な寝台は、閨というよりは牢獄だった。天蓋布に覆われた内部に蠢く黒い影。
ジュスティーヌにのしかかり、押さえつけ、力ずくで暴く恐ろしい男。
――いや、怖い……助けて……
心の声は口に出すことは叶わず、それはジュスティーヌの意志によらない、淫らな喘ぎ声となって零れ落ちる。
冷たい汗が噴き出て、身体が燃え盛っているのに、心は氷のように冷え切っていた。
――怖い、怖い……
屈辱的な行為に身体だけが絶頂して震えるジュスティーヌに、あの男が言った。
『見ろ、勃ったぞ!』
ぼやけた視界の向こう、でっぷり太った腹の肉の下あたり、何かが天をついてそびえ立っていた。それが何かわからないまま、男がジュスティーヌの上にのしかかってくる。
『ようやくだ――この時を待っていたぞ、わが姫よ――』
反射的に両の目を固く瞑れば、ジュスティーヌの耳をつんざく獣のような咆哮が響いた。次の瞬間、男の全体重がのしかかって押し潰され、息もできない。
そのままピクリとも動かなくなった男は――
白目を剥き、口から泡を吹いて――
「い、いやああああぁ!」
自分の悲鳴で目を醒まし、寝台の上に起き上がる。全身、びっしょりと汗をかいていた。
また、あの夢――
ジュスティーヌは荒い息を吐いて額の汗をぬぐう。
あの、離宮の寝台でない。ここは――そうだ、おばあ様の離宮に来ていて……
ジュスティーヌは深く息をつくと、枕元の水差しからグラスに水を注ぎ、一息に飲み干した。生ぬるい水が喉を通っていく。
ジュスティーヌは寝台をおりて、素足のまま窓に近寄り、カーテンを開けてみる。
ガラス窓の向こうに、煌々と輝く白金の月が見えた。
この部屋からは、空の月が見える。あの離宮とは違う。でも……空の月は、遠すぎる。
どうしても湖に映る月が見たくなったジュスティーヌは、一人、そっと抜け出すことにした。一瞬、ラファエルの銀の髪が浮かんだが、わざわざ起こす勇気がない。
――だって、なんて説明するの? ただの我儘だと言われてしまうかも……
ジュスティーヌはフード付きのマントを身に纏い布靴をひっかけて、そっと夜の庭に踏みだした。遠くの森から響くフクロウの啼く声を聴きながら、離宮の畔の湖まで、満月の下を駆けていく。
松林を抜ければ月の光に照らされた湖が広がっていた。暗い湖面に映る金色の月に吸い寄せられ、ジュスティーヌは足を早め、桟橋に降りた。
どれくらい、そこにいたのか。
桟橋に腰掛け、素足を湖水に浸して水を蹴りあげては、月光に煌めく水の飛沫を眺めていた。波に揺れる月の影を見つめていたジュスティーヌは、背後から呼びかけられて我に返る。
「姫――!」
振り返れば、銀色の髪を月の光に煌めかせた騎士がマントを靡かせて駆けてくる。
護衛騎士のラファエルだった。相当走ったのか、珍しく息を乱している。
「姫、困ります。必ず護衛をお連れください!」
すぐに戻るつもりが、時を忘れて月に見入っていた。きっと、ラファエルはもぬけの殻の寝室を見て泡を食って探しまわったことだろう。
そう思うと、申し訳なさでこのまま消えてしまいたくなる。ジュスティーヌは眉を下げて、ラファエルを見上げた。
「ごめんなさい。……ついてきてもらうのが、申し訳なくて……」
「今頃、皆で姫様を探して走りまわっています」
「ごめんなさい」
桟橋に降りてきたラファエルにもう一度謝る。すらりと背が高く均整が取れた体つきは、月光に照らされて、神殿に置かれた彫像が動き出したかのようだった。
「月が、見たかったのですか?」
ラファエルの声にはただ安堵が溢れていて、咎める色はない。ジュスティーヌはそのことにホッとすると同時に、なおさら申し訳なく思う。
「ええ……水に映った月が、見たかったのです」
部屋の窓から見上げる月ではなく、水に映った月が見たかった。だから――
そう言えば、ラファエルが月を見て、そしてジュスティーヌを見た。その視線に耐え切れず、ジュスティーヌはラファエルから目を逸らし、湖に映る月に目をやる。
「あの国では、四方を囲まれた中庭のある離宮から、出ることは許されませんでした。中庭には噴水のある四角い池があって――月の夜は、水に映る月を見ていました」
ラファエルが、息を呑む気配を感じる。同情を買いたいわけではないけれど、心配をかけた彼には理由を話さなければならないと思ったのだ。
――月夜には、水に映る月が見たい。なぜなら、それだけが許された自由だったから。
そんな理由で護衛の手を煩わせていいはずがない。
いっそ叱責してくれれば、謝って誤魔化してしまえるのにと、ジュスティーヌは言葉を探した。ラファエルが何も言わないので、ジュスティーヌはさらに焦って言葉を紡ぐ。
「そこにないのに、そこにあるように見えて、歪んで、崩れて……幸せって、水面に映る月のようだと思わないこと?」
「姫……」
無言の時が流れ、湖面が揺れ、水に映った月も揺れる。森からの風が吹き抜け、結わないままのジュスティーヌの長い金髪を靡かせる。
不意に、ジュスティーヌの横で、ラファエルが膝をついた。
「姫。俺に、騎士の誓いを立てることをお許しください」
「な、なに? どうしたの、ラファエル」
いったい何を言い出すのかと、ジュスティーヌは驚いてラファエルを見た。月の光に照らされたラファエルの顔は名工が彫り上げた彫像のごとく整っていて、人間離れした美しさだった。
「俺に騎士の誓いをお許しください。生涯、騎士として姫をお守りすることを誓います」
唐突な申し出に、ジュスティーヌは戸惑う。ラファエルは近衛騎士の一人として、王女の護衛につけられているだけだ。
「あなたは、国王の騎士です。あなたの忠誠はこの国と王に向けるべきでは」
ジュスティーヌの返答に、だがラファエルは食い下がる。
「たしかに俺は王の騎士です。でも、王や国へとは別に、心からの忠誠を姫にお捧げしたい。姫は我々のためにその身を捧げてくださった。俺はその献身に少しでも報いたいのです」
月の光の下、真剣な目で言われて、ジュスティーヌは戸惑う。
「献身だなんて、わたくしは……」
ジュスティーヌは視線を逸らし、長い睫毛を伏せる。
そんなのは買いかぶりだ。自分は言われるがままに嫁いだ愚かな子供に過ぎなかった。
自分が嫁いだおかげで戦争が終わったと、誰もが称賛するけれど、実態は何もできず、閉じ込められて慰み者にされていただけだ。それに何より、戦争そのものが――
だが、ジュスティーヌは心の内の葛藤を言葉には出さず、ただ、湖面に映る月影に視線を動かした。
「空の月は、遠すぎるの。……絶対に届かなくて、見ていると辛い。だから……月のある夜には、わたくしは水に映る月が見たいの。一人で出かけてはいけないというならば、ならばあなたが、それを見せに連れていって。……それなら……」
ラファエルがしばらく無言でジュスティーヌを見つめてから、言った。
「姫が望まれるのでありますなら、必ず、俺が水に映る月の見える場所にお連れすることを誓います。――どのような場所にいても、必ず」
奇妙な誓い。だが、ラファエルはそれ以上何も聞かず、跪いたままジュスティーヌの手を取ると、その甲にそっと口づけた。
湖を囲む黒い森が風にざわめき、水面に映る月影がさざ波に揺れる。青白い月の光が二人の髪を照らし、長い影が伸びていた。
第三章 騎士と恋人
六年ぶりに戻ってきたジュスティーヌには、高位貴族からの誘いがひっきりなしにある。少しずつながらそうした催しへの参加を始めた王女の傍らには、常に護衛としてラファエルがぴったりと張りついていた。
輝く銀髪と長身で均整の取れた体つき。彫像のように整った美貌を持つ彼が、儚げな悲劇の王女に影の如く付き添っている。
少人数のお茶会などにラファエルを従えて参加するたび、彼の際立った容姿が周囲の女性たちの視線を集めていることに、ジュスティーヌも気づいていた。
実際、ジュスティーヌの目から見てもラファエルは美しい。
だが、隣国の暮らしでジュスティーヌの心はすっかり擦り切れて、ラファエルの美貌を見ても何か遠いもののような気がしていた。
『姫が望まれるのでありますなら、俺が水に映る月の見える場所にお連れすることを誓います。――どのような場所にいても、必ず』
あの夜、満月に照らされた湖で、ラファエルの言葉にジュスティーヌの胸にはわずかなさざ波が立った。けれど、それは水に映った月を揺らす程度のもの。
――ラファエルは単なる護衛騎士。きっと誰にでも忠実な……
ラファエルはあくまで護衛に徹し、二人の間には明確な距離がある。
だから、ジュスティーヌは自分たちの仲が密かに噂されているなんて、想像もしていなかった。
季節は春から初夏へと移っていく。
毎年、王の妹であるヌイイ公爵夫人が主催する仮面舞踏会は、王都の貴族のほとんどが参加する盛大な催しであった。
仮面をつけての催しということで、王太子マルスランの薦めもあり、ジュスティーヌはおしのびで参加することにした。おしのびとはいえ、近衛騎士の制服を着た護衛も付く。ただ、エスコート役のラファエルだけは制服ではなく、ありふれた貴族男性の装いで付き添うことになった。
社交の経験のないジュスティーヌにとっては、初めての夜会となる。王家の正式な夜会に出る前に、場慣れさせて経験を積ませたいとマルスランが考えたのだ。
「でも緊張するわ。仮面舞踏会だなんて」
しり込みするジュスティーヌに、ラファエルが励ますように言った。
「ヌイイ公爵邸は、湖を挟んで離宮の対岸となります。たいてい、舞踏会の夜は月が明るくて、湖に見事な月が映るのですよ」
「あなたは以前に参加したことがあるの?」
ジュスティーヌに問われ、ラファエルが頷く。
「あの会は、毎年、王都じゅうの貴族が集います。若者も多く格式張らないので、初めて参加されるには、気楽でいいと思います」
いずれ、どこかで社交デビューはしなければならないなら、とジュスティーヌは腹を括った。
当日、青いドレスに金色の仮面をつけたジュスティーヌは、グレーの夜会服で盛装し、銀色の仮面をつけたラファエルの腕に手を預け、ゆっくりと広間に足を踏み入れた。シャンデリアの明かりが昼間のように広間を照らし、豪華に飾りつけられた華やかな会場に陶然となる。
隣国でも、夜会は頻繁に催されていたらしいが、ジュスティーヌは一度として出席を許されなかった。
――要するに、妻どころか人間として扱われていなかったのよね……
大公にとって、ジュスティーヌは隣国から奪い取った単なる愛玩人形でしかなかった。夫の死によって、ようやく光輝く世界に戻ることができたのだ。
もっとも、最初は心が沸き立ったものの、着飾った貴顕淑女が溢れる華やかな広間は、世慣れぬジュスティーヌにはただただ眩しくて、居心地はよくなかった。
そっと噛み殺したため息を、隣にいたラファエルは察知したらしい。
「バルコニーに出ましょうか。あの方角からは庭の向こうに湖が眺められます」
以前に訪れたことのあるラファエルの提案に、ジュスティーヌが頷いた。
人込みを離れて薄暗いバルコニーに出る。初夏の夜の湿った空気が心地よい。
仮面をつけた限られた視界から眺める夜空には、上弦の月が金色に輝いて、空と同じ深い紺青の湖にもやはり金色の姿が映っている。背後の広間から漏れる喧騒が嘘のように、湖と月は静寂の中にあった。
「綺麗ね……」
ジュスティーヌの唇から零れた呟きを、ラファエルが拾う。
「そうでしょう? このバルコニーは毎年、あまり人も来なくて、いい場所なんです」
会場を振り返って苦笑するラファエルが、視線を動かして月を見上げた。
毎年、この場所に来ているらしい彼の言葉に少し引っかかりを覚えながら、ジュスティーヌも月を眺める。
「こんなに美しい光景なのに、パーティーに夢中で誰も気にしないのね?」
「ええ、月を気にするのはごく一部の人間だけです。……ここに来るたびに、人間どもの騒ぎを月は見下ろして、さぞやかましく思うだろうと考えてしまうのですが……」
月の考えることを予想しようとするラファエルの言葉が意外で、ジュスティーヌがつい、噴き出した。
「銀月の騎士みたいなあなたにわからないなら、きっと誰もわからないでしょう」
ラファエルの銀色の髪が月の光に照らされて、青みを帯びて輝いていた。ジュスティーヌの冗談に、仮面をつけていてもわかるほどのラファエルの美貌がかすかに柔らかく綻んだ。
「このバルコニーから見る月はとても美しいので、ぜひ、姫にも見ていただきたかったのです」
そっと、寄り添いあって月を眺める二人の後ろ姿は、誰の目にも恋を語り合っているように見え、王女と護衛騎士の二人が深い仲だとの噂が、真実味を帯びて語られ始めるのだった。
***
ジュスティーヌが帰郷して二月が過ぎ、王都は本格的な夏を迎えた。
妊娠中の王太子妃イザベルは甘え盛りの幼い王女二人を持て余していたので、ジュスティーヌはしばしば王太子夫妻の宮を訪れ、二人の王女たちと遊んだり、イザベルの話し相手を務めたりした。
その日も、ジュスティーヌはイザベルの部屋のテラスでお茶を飲みながら、例によってとりとめのないおしゃべりに興じていた。話題は、近づく湖上祭のこと。
イザベルが言う。
「もうすぐ湖上祭ですわね! 今年はどんな趣向の灯籠が出るか、今年の花火はどんなか、今から楽しみだわ。ジュスティーヌ様も湖上祭は六年ぶりですわね」
北国の短い夏の盛りを惜しむ湖上祭。
王都では毎年八月の満月の夜、郊外の湖にたくさんの船を浮かべて松明を掲げ、趣向を凝らした灯籠を製作してその意匠を競う。もちろん、花火も惜しげなく打ち上げられ、祭の雰囲気を盛り上げる。湖上には小舟が木の葉のように浮かび、水面に揺らめく明かりが天の星のごとく煌めくのだ。ジュスティーヌも六年ぶりの祭を楽しみにしていた。
「幼いころ、わたくし、あの小舟に乗りたいって我儘を言って、お兄様に叱られましたのよ。今年は乗れるかしら」
ジュスティーヌがおっとりと言うと、遠く東洋から輸入した白地に青い染付けのカップを優雅に持ち上げたイザベルが、あら、という風に首を傾げた。
「……どなたかお誘いくださいましたの? ジュスティーヌ様」
「いいえ。前に、お兄様は、あれは大人にならないと乗っては駄目だっておっしゃって……。今はもう大人だから、乗ってもいいのでしょう?」
「あれは、想い合った男女で乗るものですわ。どなたかそういう殿方がいらっしゃる?」
その夜のために、恋人のいる男たちは早くから舟と船頭を確保して、女を誘う。小舟から女神像に愛を誓えば、湖の女神の恩寵を受けて幸福が約束されるという。
兄嫁の言葉に、ジュスティーヌが目を丸くする。
「そうでしたの⁉ 全然、知りませんでしたわ」
「わたくしもマルスラン様にお誘いいただきましたわよ? 結婚の前の年に」
イザベルが膨らんだお腹を誇らしげに撫でて言えば、ジュスティーヌが頷いた。
「そうそう、憶えていますとも。わたくし、お兄様がお舟を召されると聞いて、その舟に乗せてくれと言って、騒いだんですもの。イザベル様を誘った舟でしたのね。叱られるはずですわ」
王太子妃イザベルは先々代の王弟の孫である。二人は幼馴染で相思相愛の恋人同士であった。マルスランが湖上祭の舟の上でイザベルにプロポーズした逸話は、王都でも有名だった。
だが二人の婚約が調った直後に、隣国の大公から横槍が入る。マルスランの妃に大公の妾腹の姫を、という申し出を、マルスランと王は突っぱねた。だがその代償として、幼いジュスティーヌが四十以上も歳の離れた大公に嫁ぐことになった。
マルスランとイザベルの結婚も、ジュスティーヌの犠牲の上に成り立っていたとも言える。
イザベルがさりげなく視線を動かし、意味ありげにラファエルを見た。それからイザベルはジュスティーヌに向き直る。
「ジュスティーヌ様、お舟に乗りたいのでしたら、ラファエルに頼んでみたらいかが? きっと喜んで舟を出すのではないかしら」
イザベルの言葉に、白い指で焼き菓子を摘まんでいたジュスティーヌが、驚いて顔をあげた。
「お舟は恋人同士で乗るのでしょう? 恋人でもないのに、そんなこと頼めません」
恋人とはどういうものか、ジュスティーヌはよくわからなかったが、自分とラファエルがそうでないことは間違いない。
ラファエルはただの護衛騎士だ。恋人の役を頼むことはできない。そう思うのに、イザベルは悪戯っぽく目元を笑わせて言う。
「確かに恋人同士で乗るものですけど、別に資格試験があるわけでもなし、恋人じゃなくてもバレはしませんわよ」
扇をパタパタ振りながらイザベルは笑った。
「だって、考えてもごらんなさいな。もし、ジュスティーヌ様に恋人がいたとして、その人がジュスティーヌ様をお舟に誘ったら、絶対にラファエルもついていきますわよ? 自分は護衛だから、姫様のお側を離れることはできません、とか何とか言って」
自分に恋人がいるという状況が全く想像できなかったが、二か月を過ごして、ラファエルが生真面目を通り越して空気の読めないほどの鈍感な人間であることには気づいていた。
恋人同士の舟に無表情な顔で割り込んでくるラファエルの姿を想像してしまい、ジュスティーヌが扇を口元に当ててぷっと噴き出した。
おそらく同じ姿を思い描いていたのだろう、イザベルが笑いながら言う。
「そんなお邪魔虫なことになるくらいなら、最初からラファエルと二人で乗った方がマシでしょう? ジュスティーヌ様は要するにお舟にさえ乗れればよいのですもの。だったら別にラファエルでも何の問題もないわ」
イザベルのものすごい論理に、ジュスティーヌはちょっとびっくりする。
たしかにジュスティーヌは舟に乗りたいだけだ。別に恋人じゃなくてもいい。でも――
「……何だかそれは……ちょっと違うんじゃありませんの? お義姉様」
不安になったジュスティーヌは、背後に控えるラファエルを振り返った。
「ラファエル、今のお話、聞いていて?」
「は」
ラファエルが生真面目に頭を下げる。その美貌に視線を奪われつつも、ジュスティーヌはおずおずと聞いた。
「お義姉様は、どっちみち護衛としてついてくるのだから、最初からあなたに舟に乗せてもらいなさいとおっしゃるのだけど……ラファエル、あなたはどう思う?」
ラファエルは表情一つ動かさず、騎士然として答えた。
「……はい。当日の警備の観点から申し上げますれば、姫君がご乗船なさる場合は、護衛騎士隊の誰かが同乗すべきと存じます。姫君からの特段のご指名がない場合は、責任上、隊長である俺自身が警護に当たることになりますかと」
「つまり……どのみちラファエルとは一緒に舟に乗る、と言う意味かしら。でもそれと、いっそのことラファエルに舟に乗せてもらうというのは、意味が違うように思うのだけど……」
ラファエルが紫色の瞳をまっすぐにジュスティーヌに向け、続ける。
「我々としては、たとえ姫君に恋人なる者がいたとしても、お二人だけでのご乗船は許可できません。恋人なる者の有無はともかく、湖上祭の小舟に姫君が乗る場合、俺が同乗いたします」
つまり恋人のあるなしにかかわらず、ラファエルは舟に乗ってくるということだ。
ジュスティーヌが扇を口元に当てながら考える。
湖上祭の舟に乗るのは、ジュスティーヌの幼い頃からの夢でもあった。恋人がいなくとも、ラファエルに頼めば小舟に乗せてくれる。その提案は抗いがたいほど魅力的だった。
「……その……恋人がいなくても乗ってもいいのかしら。昔、湖の上の小舟がとても綺麗で……舟の上からの光景もさぞかし素敵だろうと思って……」
上目遣いに見上げるジュスティーヌを見て、ラファエルがかすかに頬を緩める。それから確かに頷いた。
「姫が望まれるのでありますならば。……湖上祭は満月の夜でございますから、水に映った月も見事でございましょう」
『姫が望まれるのでありますなら、俺が水に映る月の見える場所にお連れすることを誓います』
ラファエルとの以前の約束を思い出し、ジュスティーヌはハッとした。
あの時の誓いを、ラファエルは守ろうとしてくれているのだ。胸の奥に温かいものが満ちてくるような気がして、ジュスティーヌもつい、顔をほころばせる。
「じゃあ、お願いしてもいいかしら。……ラファエル、わたくしを舟に乗せてくださる?」
「もちろん、姫のお望みとありましたら、このラファエル、身命を惜しみません。……ただ、王太子殿下のお許しが得られましたならば、ですが」
ラファエルが胸に手を当てて騎士の礼を執ると、ジュスティーヌもニッコリ微笑んだ。
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