【R18】渾沌の七竅

無憂

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七竅

22、罪該万死

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 詔勅の閲読が終わり、勅使が上座を下り、代わって恭親王が上座に動いて南面する。背後には座が作られて黄鉞が威嚇するように置かれた。

 恭親王はゾーイに命令を下す。

「地下牢に入れてある、朱雀州刺史ランダと、リンフー県県令のソブをこちらに引っ立てろ」
「は!」
「トルフィン、刺史と県令への弾劾文と、証拠の品をこちらに並べよ」
「は!」

 命令を聞いて、勅使のウラガンとルーイが目を瞠る。ゲルフィンは、恭親王が今この、勅使たちの面前で刺史を断罪するつもりであることに気づき、ニヤリとした。

 せっかく黄鉞までもらったのだ。せいぜい有効に使わせてもらおうと、恭親王は頭を切り替えたというわけだ。

「お許しください、わしはただ、刺史様の言う通りに動いただけで~!」
「触るな、わしはクラウス家の者だぞ、このような非法が許されるはずがない!」 

 引っ立てられてきた二人の官吏、リンフー県令の方は情けなく泣き喚き、刺史は相変わらずクラウス家クラウス家と威嚇するばかりだ。恭親王は穢いものでも見るような目でそれを一瞥すると、トルフィンの渾身の力作を開いた。
 これはもともと皇帝に上奏すべき弾劾状として書かれたものであるから、ここで断罪の文として読み上げるには少しぶっつけで文章を変えなければならない。だが恭親王は迷いの片鱗も見せずに堂々と読み上げた。

「静まれ。――朱雀州刺史のランダは三年前のプーランタ河堤防の決壊の折、勿体なくも皇帝陛下より下賜された堤防の修復費を着服し、当地の厲蠻の民や貧民を無理に徴発して修復工事に当たらせた。さらに租税の一部を着服して私腹を肥やし、その穴埋めのために南岸の諸県より定額以上の税を取り立て、南岸の民を収奪した。このほか租税のかたと称して厲蠻他の南岸の婦女、少年を無理無体に徴発して売買し、さらには自らの慰み者とするなど、非道なる行いを繰り返してきたこと、すでに証拠も挙がっている。この度の反乱が、度重なる刺史の非法により、厲蠻の民が帝国や皇帝陛下に対する不信を抱いた結果であること、疑いを入れぬ。この非道なる者を裁かねば、厲蠻の民に対する帝国の支配の正当性は示すことができぬ。――私はそう思うが、勅使は如何に?」

 恭親王はちらりと勅使のウラガンを見る。

「……なるほど。ですが殿下、こう見えてもこれはクラウス家の一員でありますとか。殿下はたしかに使持節ではございますが、十二貴嬪家に連なる者は繍衣御史によっての拘束しか受けぬとの特権がございます。これは一旦帝都に連れ帰り、陛下のご裁可を待つべきでは――」

 十二貴嬪家に対する特権は大きい。だが、ここでこの男を帝都に返し、そこで死刑になっても厲蠻は納得はしまい。

「某はクラウス家の一員にござる! 龍皇帝以来の取り決めは守っていただかねば……」
「うるさい! 私は陛下から黄鉞を賜った。私の決断は皇帝陛下の決断と同等と心得よ!」

 ランダがはっとして恭親王の背後に置かれた黄鉞を見る。その意味を察したランダが慌てて跪く。

「……殿下! お待ちくださいませ!そのような乱暴な!」
「証拠は山ほどあがっているのだ。おぬしを厳罰に処さねば厲蠻の反乱に正当性を与えることになる」

 その言葉に、ウラガンも沈黙する。

「同じく陰陽を奉じ、皇帝陛下の支配をうけながらも、厲蠻であるというだけで、不当に高い税を徴収され、さらには悪徳官吏に無理に貞操を奪われた者たちもおる。洪水の被害を受けながらも何の救済もなく、死んでいったものたちも多くいよう。しかもお前は罪を否定するわけでなく、また罪を認めて懺悔するわけでもなく、ただクラウス家クラウス家と騒ぐばかりで反省の色すら見えぬ。到底許しがたい」

 そう言われて、初めてランダが頭を擦りつけた。

「ひいっお許しを! 臣の罪は万死にたり申す! ですがお慈悲を!」

 恭親王はつかつかと大股で土下座するランダに近づくと、長身を折り曲げてランダの醜い顔の間近に美貌を寄せて言った。

「見苦しい上に、とは大げさな奴だな」

 あまりの美麗な微笑みに、ランダは一瞬、命は助かるのではないかと思った。だが、恭親王は浮上させて叩き落とす楽しみを知っていた。
 にっこりと微笑むと、ランダの禿げかけた頭を黒革の長靴を履いた長い脚で踏みつけ、その顔を石畳に擦りつける。

「あう、殿下……お慈悲を……」
「何、一万回も死んでもらう必要はない。一回で十分だ。……クラウス家への慈悲として、苦しまずに死なせてやろう、感謝しろよ?」

 言うや否や、恭親王は腰の佩剣をすらりと抜いて上から振り下ろした。
 
 見事な手練によって切り落とされたランダの首が、血だまりに転がる。

「ひいいいいいっ!」

 隣にいたリンフー県の県令ソブはその光景に失禁して気を失うが、恭親王はそれを無視して叫んだ。

「厲蠻叛乱の元凶となった悪徳官吏は処断された! 刺史の首を砦の門に晒し、叛乱の正当性はすでに消えたと明らかにせよ!」



 征南大将軍恭親王ユエリン皇子の名において、悪逆を極めてプーランタ南岸を混乱に陥れた刺史ランダは処刑され、その首は騎士団の砦の門闕の上に晒された。

「叛乱の正当性はこれによって潰えた。速やかに武装を解いて帝国の支配下に戻れ」

 との、恭親王の布告とともに――。
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