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第一章 呪われた王子
楓並木の別れ
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リンドホルムの使用人たちは、誰しもエルシーを可愛がっていた。あからさまには言わないが、商家の出のヴェロニカ夫人が、露骨にビリーばかり優先するのに、批判的な者も多かった。
一見、厳しい家政婦のスミス夫人も、気難しい庭師のサムじいも、皆、エルシーを愛していた。突然やってきた俺を、はじめ胡散臭そうに見ていた使用人たちも、エルシーが俺に懐いたことで、すっかり当たりが丸くなった。
「エルシーが荒野にピクニックに行きたいと言っているんだけど――」
俺がスミス夫人に相談すれば、スミス夫人はつけていた帳簿から顔をあげ、眼鏡をはずして首を傾げる。
「エルスペスお嬢様が? それはお二人で?」
「ポニーに乗りたいんだって」
「この季節なら大丈夫と思いますけれど、遠くまでは行かないと約束していただけますか?」
「もちろん!」
俺が頷けば、スミス夫人が微笑む。
「ならばお弁当を厨房に申しつけましょう。ご希望はありまして?」
「僕は特には――」
「お嬢様はチョコレートマフィンがお好きで……でも、奥様がビリー坊ちゃまに甘い物を食べさせたくないと言って、お邸ではほとんど出ませんのよ。お弁当ならばコックに頼んでみてもいいかもしれません」
「ほんと? じゃあ、お願いできる?」
「ええ、いつもお嬢様のお相手をありがとうございます」
スミス夫人に丁寧に礼を言われ、俺はこそばゆい気分になる。ついでに言えば、俺はチョコレートマフィンはそれほど好きではないのだが、子供は甘い物が好きに違いないと、スミス夫人は思いこんでいるらしい。
翌日、たっぷりのチョコレートマフィンとベーグルサンド、それから魔法瓶の熱いお茶を持って、俺とエルシーは二人だけで、ポニーで荒野に出かけた。
でも、俺に好意的な人間だけではなかった。
執事のアーチャーは最初から俺を警戒していた。俺が、エルシーに近づきすぎると思っていたらしい。
俺の方でも、アーチャーはやたらエルシーの写真を撮っていると気になっていた。写真が趣味で現像したものをくれるが、どう考えても、撮ってる方が断然、多い。――ほかの写真はどうなっているんだ?
なんとなくだが、アーチャーのエルシーを見る目が普通ではないと、俺は感じた。言いたくはないが、同類の匂いがする。
そして、よりによってアーチャーに、俺がエルシーのベッドにもぐりこんでいると、知られてしまった。
当然、それはマックスとおばあ様に告げ口され、俺はリンドホルムを追い出されることになった。
「本当に、何もしてないよ! ただその……エルシーが一人で寝るのが怖いって言うから、眠るまでそばにいただけ!」
「……たとえ七歳でも、女性のベッドに潜りこむことの意味は、君にもわかるだろう」
マックスにたしなめられ、俺は俯く。
「まあでも、君がリンドホルムに来て半年。そろそろ、ごまかしも効かなくなってきたし、ちょうどいいころおいだ。入学手続きは済ませてあるから、王都の士官学校に移りなさい。……寄宿舎もあるし、王宮に戻らなくてもいい」
「聖誕節の休暇には、こっちに来ても?」
俺が必死に頼んでも、おばあ様が首を振った。
「お前はアルバート王子に戻るのよ。リジー・オーランドなんて人間は、もういなくなるの。いない人間が休暇に遊びにきたりしないでしょ」
「でも!」
ここを出て、また王都に戻るのは恐ろしかった。王宮にはまだ、雪の女王がいるし、何よりエルシーがいない。
おばあ様が噛んで含めるように、俺に言う。
「いいこと、二度と、この城に来てはいけません。お前はアシュバートン家とは、表向きは何のつながりもないのよ。ここで療養したことも、もちろん、口に出してはいけない。わたくしとも、もう二度と会うことはない。もちろん、エルシーやビリーにもね」
それは死よりも辛い宣告に思われた。俺は勇気を振り絞る。
「おばあ様、僕はエルシーが好きだ。将来、彼女と結婚したい」
横で聞いていたマックスが、思わず吹き出した。
「おいおい……エルシーはまだ、七歳だぞ?」
だが、あばあ様はあくまで冷たく言った。
「ダメよ。もう、王家の男は懲り懲り。お前はローズがどんな風に死んだか、知らないからそんなことを言う」
「どうして、死んだの?」
「……王妃はお前を生んだあの子を許さなかった。ひどい折檻の挙句、冷たい雪の中に放りだされていたそうよ」
僕は息を飲んだ。
「お母さん、子供にする話では――」
「王妃は自分で、子を産まないと言ったそうじゃないか。にもかかわらず、あの子を恨んであんな所業を。……確かに神様は許さない関係かもしれない。でも、人が裁いていいことじゃない」
雪の中で発見されたローズはすでに手遅れで、ただ、マックスとおばあ様のもとには連絡があり、最後の死に目にだけはギリギリ間に合ったのだそうだ。
「エルシーをローズの二の舞にはしたくない。お前にエルシーはやれないわ。……第一、お前は王妃の姪と結婚するのでしょう? そういう、条件だと聞いていますよ」
おばあ様にはっきりと拒絶され、俺は絶望した。
王妃の姪のステファニーは、エルシーと二歳しか違わないが、うんとわがままで……それに、ステファニーの言うことを聞かないと王妃に告げ口され、俺は王妃からお仕置きをうけるのだ。
おばあ様は立ち上がり、俺を抱きしめて、頬にキスを落とす。
「……リジー、強くおなりなさい。我が家は無力で、お前を守ってやることはできないの」
「おばあ様……」
おばあ様の言葉は厳しかったけれど、青い瞳は涙で潤んでいた。
九月の半ば、俺はエルシーの素描でいっぱいのスケッチブックを抱きしめるようにして、馬車に乗った。
邸の正門から続く楓並木は色づいて、雲一つない秋晴れの青空に鮮やかな黄色が眩しかった。
動き出した馬車を追いかける声に、俺は思わず窓に縋った。
エルシー!!
泣きながら、走ってくるエルシーの姿。
「停めて、お願い!」
マックスに頼めば、娘の姿に気づいた彼が、ステッキで窓を叩き、馬車を停める。
転がるように馬車を降りれば、亜麻色の髪を振り乱して、金色の光の矢のように、エルシーが俺にぶつかってきた。
「行っちゃいや、嘘つき! ずっと一緒って言ったのに」
「必ず、また会いに来る。きっと――」
嘘だ。俺はもう二度と、リンドホルムには来られない。
俺はエルシーの細い身体を抱き締めて、髪の香りを吸い込む。
エルシーが身をよじり、涙でぐずぐずな顔で、俺の額にキスをする。
「約束よ、絶対に来てね?」
「ああ、約束する」
額の文字は、「emeth」。俺は名前も何もかもが嘘ばかりだから、一文字消えれば「meth」になる。粘土でできたゴーレムを、光の妖精は愛してくれた。彼女の愛があれば、魂を持つこともできるのだろうか?
もう二度と会えないとしても。
俺が粘土に返るその日まで、ただエルシーだけを愛してる――。
一見、厳しい家政婦のスミス夫人も、気難しい庭師のサムじいも、皆、エルシーを愛していた。突然やってきた俺を、はじめ胡散臭そうに見ていた使用人たちも、エルシーが俺に懐いたことで、すっかり当たりが丸くなった。
「エルシーが荒野にピクニックに行きたいと言っているんだけど――」
俺がスミス夫人に相談すれば、スミス夫人はつけていた帳簿から顔をあげ、眼鏡をはずして首を傾げる。
「エルスペスお嬢様が? それはお二人で?」
「ポニーに乗りたいんだって」
「この季節なら大丈夫と思いますけれど、遠くまでは行かないと約束していただけますか?」
「もちろん!」
俺が頷けば、スミス夫人が微笑む。
「ならばお弁当を厨房に申しつけましょう。ご希望はありまして?」
「僕は特には――」
「お嬢様はチョコレートマフィンがお好きで……でも、奥様がビリー坊ちゃまに甘い物を食べさせたくないと言って、お邸ではほとんど出ませんのよ。お弁当ならばコックに頼んでみてもいいかもしれません」
「ほんと? じゃあ、お願いできる?」
「ええ、いつもお嬢様のお相手をありがとうございます」
スミス夫人に丁寧に礼を言われ、俺はこそばゆい気分になる。ついでに言えば、俺はチョコレートマフィンはそれほど好きではないのだが、子供は甘い物が好きに違いないと、スミス夫人は思いこんでいるらしい。
翌日、たっぷりのチョコレートマフィンとベーグルサンド、それから魔法瓶の熱いお茶を持って、俺とエルシーは二人だけで、ポニーで荒野に出かけた。
でも、俺に好意的な人間だけではなかった。
執事のアーチャーは最初から俺を警戒していた。俺が、エルシーに近づきすぎると思っていたらしい。
俺の方でも、アーチャーはやたらエルシーの写真を撮っていると気になっていた。写真が趣味で現像したものをくれるが、どう考えても、撮ってる方が断然、多い。――ほかの写真はどうなっているんだ?
なんとなくだが、アーチャーのエルシーを見る目が普通ではないと、俺は感じた。言いたくはないが、同類の匂いがする。
そして、よりによってアーチャーに、俺がエルシーのベッドにもぐりこんでいると、知られてしまった。
当然、それはマックスとおばあ様に告げ口され、俺はリンドホルムを追い出されることになった。
「本当に、何もしてないよ! ただその……エルシーが一人で寝るのが怖いって言うから、眠るまでそばにいただけ!」
「……たとえ七歳でも、女性のベッドに潜りこむことの意味は、君にもわかるだろう」
マックスにたしなめられ、俺は俯く。
「まあでも、君がリンドホルムに来て半年。そろそろ、ごまかしも効かなくなってきたし、ちょうどいいころおいだ。入学手続きは済ませてあるから、王都の士官学校に移りなさい。……寄宿舎もあるし、王宮に戻らなくてもいい」
「聖誕節の休暇には、こっちに来ても?」
俺が必死に頼んでも、おばあ様が首を振った。
「お前はアルバート王子に戻るのよ。リジー・オーランドなんて人間は、もういなくなるの。いない人間が休暇に遊びにきたりしないでしょ」
「でも!」
ここを出て、また王都に戻るのは恐ろしかった。王宮にはまだ、雪の女王がいるし、何よりエルシーがいない。
おばあ様が噛んで含めるように、俺に言う。
「いいこと、二度と、この城に来てはいけません。お前はアシュバートン家とは、表向きは何のつながりもないのよ。ここで療養したことも、もちろん、口に出してはいけない。わたくしとも、もう二度と会うことはない。もちろん、エルシーやビリーにもね」
それは死よりも辛い宣告に思われた。俺は勇気を振り絞る。
「おばあ様、僕はエルシーが好きだ。将来、彼女と結婚したい」
横で聞いていたマックスが、思わず吹き出した。
「おいおい……エルシーはまだ、七歳だぞ?」
だが、あばあ様はあくまで冷たく言った。
「ダメよ。もう、王家の男は懲り懲り。お前はローズがどんな風に死んだか、知らないからそんなことを言う」
「どうして、死んだの?」
「……王妃はお前を生んだあの子を許さなかった。ひどい折檻の挙句、冷たい雪の中に放りだされていたそうよ」
僕は息を飲んだ。
「お母さん、子供にする話では――」
「王妃は自分で、子を産まないと言ったそうじゃないか。にもかかわらず、あの子を恨んであんな所業を。……確かに神様は許さない関係かもしれない。でも、人が裁いていいことじゃない」
雪の中で発見されたローズはすでに手遅れで、ただ、マックスとおばあ様のもとには連絡があり、最後の死に目にだけはギリギリ間に合ったのだそうだ。
「エルシーをローズの二の舞にはしたくない。お前にエルシーはやれないわ。……第一、お前は王妃の姪と結婚するのでしょう? そういう、条件だと聞いていますよ」
おばあ様にはっきりと拒絶され、俺は絶望した。
王妃の姪のステファニーは、エルシーと二歳しか違わないが、うんとわがままで……それに、ステファニーの言うことを聞かないと王妃に告げ口され、俺は王妃からお仕置きをうけるのだ。
おばあ様は立ち上がり、俺を抱きしめて、頬にキスを落とす。
「……リジー、強くおなりなさい。我が家は無力で、お前を守ってやることはできないの」
「おばあ様……」
おばあ様の言葉は厳しかったけれど、青い瞳は涙で潤んでいた。
九月の半ば、俺はエルシーの素描でいっぱいのスケッチブックを抱きしめるようにして、馬車に乗った。
邸の正門から続く楓並木は色づいて、雲一つない秋晴れの青空に鮮やかな黄色が眩しかった。
動き出した馬車を追いかける声に、俺は思わず窓に縋った。
エルシー!!
泣きながら、走ってくるエルシーの姿。
「停めて、お願い!」
マックスに頼めば、娘の姿に気づいた彼が、ステッキで窓を叩き、馬車を停める。
転がるように馬車を降りれば、亜麻色の髪を振り乱して、金色の光の矢のように、エルシーが俺にぶつかってきた。
「行っちゃいや、嘘つき! ずっと一緒って言ったのに」
「必ず、また会いに来る。きっと――」
嘘だ。俺はもう二度と、リンドホルムには来られない。
俺はエルシーの細い身体を抱き締めて、髪の香りを吸い込む。
エルシーが身をよじり、涙でぐずぐずな顔で、俺の額にキスをする。
「約束よ、絶対に来てね?」
「ああ、約束する」
額の文字は、「emeth」。俺は名前も何もかもが嘘ばかりだから、一文字消えれば「meth」になる。粘土でできたゴーレムを、光の妖精は愛してくれた。彼女の愛があれば、魂を持つこともできるのだろうか?
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