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第一章 呪われた王子
光あれ
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人は暗闇にずっと閉じ込められていると、そこが暗闇だとさえ、わからなくなる。光あれ、と神が言って、初めて世界が生まれるように、光がなければ闇も何も存在しない。俺はエルシーに出会って初めて、自分がずっと闇の中に囚われていたと気づく。エルシー――マックス・アシュバートンの娘、エルスペスは、俺にとって、まさに光そのものだった。
わずか七歳のエルシーは、無垢で幼いながらも、姉として弟・ビリーの面倒をよく見ていた。それは母親のヴェロニカ夫人が折につけて、「ビリーの面倒をみて」「あなたはお姉さんなんだから」と言うせいもある。ステファニーより二歳も下だが、エルシーは無茶な我が儘を言ったりはしない。少しこまっしゃくれたところがあるが、全体に素直で、周囲を困らせることはなかった。逆に、五歳のビリーは体が弱いせいもあって、ずいぶん甘やかされ、過保護に育てられていた。
たいてい、エルシーは一日中庭で過ごし、ビリーがそれについて回る。ヴェロニカ夫人がビリーを思い出すと、乳母が庭を大声で探しに来るので、ビリーだけを乳母に渡し、ビリーはまだ遊びたいと騒ぎながら、乳母に連れられていく。その後は、日が暮れるか、夕食の時刻まで、俺とエルシーは庭師のサムじいさんと過ごす。サムじいさんが果樹園や菜園の世話をする間は、俺はエルシーと二人っきりで、生垣の迷路で鬼ごっこをしたり、ローズの庭のブランコを推してやったりした。
早春のストラスシャーは天気の安定しない日が多く、頻繁に嵐が来た。外に出られない日は、伯爵家代々の肖像画が並ぶ長画廊を見回ったり、執事のアーチャーに鍵を借りて、図書館で過ごした。
普通に考えて、七歳の幼女を十四歳の男に預けたりしないのではと思ったが、当主のマックス・アシュバートンは陸軍将校の仕事で滅多に城にはいないし、前当主夫人のレディ・ウルスラはリンドホルム周辺の貴族や有力者の夫人たちとの社交に忙しい。
王都の商家から嫁いだヴェロニカ夫人と、子爵家の出で昔気質のウルスラ夫人との、嫁姑の仲はお世辞にもよくはなかった。もともと、ウルスラ夫人は商家から嫁を迎えるのに反対だったようだ。慣れない伯爵家に嫁いだヴェロニカ夫人は、初めての子が男児でなく、女児のエルシーで、ひどく落胆したという。
男児の跡取りが待望されるのは貴族家の常ではあるが、俺の見た限り、おばあ様ーーウルスラ夫人ーーは、男女で子供の待遇に差をつけない人だ。しかし、ヴェロニカ夫人は跡取りへの思い入れが殊に深く、ひ弱なビリーの世話に一喜一憂し、勢い、丈夫で育てやすいエルシーのことは放置気味だった。
女だからと言って教育を疎かにすべきでない、もっとエルスペスにも気を配りなさい、とおばあ様が苦言を呈すたびに、嫁姑の間はさらに険悪になる。おばあ様は厳格な性格だが、それだけに公平だった。俺に対しても容赦なくマナーを指摘し、おばあ様との夕食は緊張の連続となる。俺が真っ当な貴族的立ち居振る舞いができるようになったのも、ほとんどおばあ様のおかげと言える。
城の家政を掌握しているのは間違いなくおばあ様だった。おばあ様は両親を失った親族の娘、ローズを隣国から引き取り、自ら教育を施して、将来的にはマックスの妻にする予定だった。城の使用人たちもそのつもりでいたのに、突然、王都に行ってしまい、それきり戻ることはなかったという。ローズに何が起きたのか、使用人たちも事情がわからないまま、ローズを恩知らずと罵る者もいて、王都からヴェロニカ夫人が嫁いで来てからは、ローズのことは屋敷内で口にしないのが不文律となっていた。
そんなところへ突然、ローズの息子だという俺がやってきた。
ヴェロニカ夫人は初め、俺に対して不信感がいっぱいだったようだが、俺はオーランド伯爵を継ぐ予定で、マックスとも似たところがないので、どうやらローズは誰か身分の高い男の子を産み、今はもう、この世にいないのだと納得したらしい。
そういう過去の行きがかりもあって、ヴェロニカ夫人と一部使用人は、俺に対して複雑な感情はあるものの、痩せっぽちの無力な子供でもあり、エルシーが懐いてしまったこともあって、時間のありあまった居候の俺に、エルシーの子守りを押し付ける形になったわけだ。
聞き分けがいいとは言っても、エルシーもまだ七歳。本当は母親に甘えたい盛りなのを、我慢していたのだろう。俺と過ごすことに慣れると、すっかり俺に甘えるようになる。
庭ではほぼ、一日中、俺と過ごす。
マックスが俺に何か欲しいものはないか、と言うので、俺はずっと描いてみたいと思っていた、油絵の道具をねだった。それはリンドホルムの街の雑貨商を通じてすぐに届けられ、俺は見様見真似で絵を描き始め、傍ら、エルシーやビリーの子守をした。天気の良い日は、弁当を持って森に出かける。小鳥が鳴き騒ぎ、ウサギを追いかけて走り回る姿を、俺はスケッチした。
天気のよくない日は、エルシーとビリーで俺の膝の上を取り合うように座って、図書館の画集を眺めたり、読んでやる童話に目を輝かせる。遊びつかれたエルシーは、時には俺の膝の上で眠ってしまう。俺の腕の中でするりと流れ落ちる、絹糸のように細い、くすんだ金髪が、ランプの灯りを反射して、煌めく。陶器のように白く、なめらかな肌は、しかし触れればほんのりと温かく、柔らかかった。
俺の事情をよく知らない大人たちは、幼女の世話を押し付けられた俺を申し訳なさそうに見たが、俺はエルシーと過ごせる日々に幸福を覚えていた。
ストラスシャーの荒野は、時に嵐が吹き荒れる。
吹き抜ける風が不気味な音を立て、窓枠がガタガタと揺れる。雷鳴がとどろいて、古城には幽霊でもいるんじゃないかと、俺もびくびくした。
こんな夜、エルシーはどうしているんだろうと、ふと、子供部屋を覗いてみると、すすり泣くような声が聞こえた。
「エルシー?」
俺が声をかけると、エルシーが涙声で答える。
「リジー?」
「しい! 静かに。僕が来たことは内緒だよ?」
「嵐が怖くて眠れないの……」
「もう、大丈夫だよ、僕がいてあげるから」
俺はエルシーの子供部屋の、ベッドに転がりこんで、彼女の小さな体を抱きしめる。暖かくて、柔らかくて、シャボンのいい香りがして――。
小さな額にキスをすると、エルシーも俺の額にキスを返す。
目に見えない、真実の文字が刻まれた、ゴーレムの呪い。エルシーがキスをしてくれたら、すべて解けるのかもしれない。彼女のキスで粘土に返るのならば、それはそれで構わない――。
七歳の幼女を抱きしめて眠る十四歳の男。どう考えてもマトモではないが、そのころの俺にとって、エルシーは光そのものであったから。
初めはただ、一人で眠れないと泣くエルシーが可愛くて、稚くて、純粋に愛しくて抱きしめて眠った。
わずか七歳のエルシーは、無垢で幼いながらも、姉として弟・ビリーの面倒をよく見ていた。それは母親のヴェロニカ夫人が折につけて、「ビリーの面倒をみて」「あなたはお姉さんなんだから」と言うせいもある。ステファニーより二歳も下だが、エルシーは無茶な我が儘を言ったりはしない。少しこまっしゃくれたところがあるが、全体に素直で、周囲を困らせることはなかった。逆に、五歳のビリーは体が弱いせいもあって、ずいぶん甘やかされ、過保護に育てられていた。
たいてい、エルシーは一日中庭で過ごし、ビリーがそれについて回る。ヴェロニカ夫人がビリーを思い出すと、乳母が庭を大声で探しに来るので、ビリーだけを乳母に渡し、ビリーはまだ遊びたいと騒ぎながら、乳母に連れられていく。その後は、日が暮れるか、夕食の時刻まで、俺とエルシーは庭師のサムじいさんと過ごす。サムじいさんが果樹園や菜園の世話をする間は、俺はエルシーと二人っきりで、生垣の迷路で鬼ごっこをしたり、ローズの庭のブランコを推してやったりした。
早春のストラスシャーは天気の安定しない日が多く、頻繁に嵐が来た。外に出られない日は、伯爵家代々の肖像画が並ぶ長画廊を見回ったり、執事のアーチャーに鍵を借りて、図書館で過ごした。
普通に考えて、七歳の幼女を十四歳の男に預けたりしないのではと思ったが、当主のマックス・アシュバートンは陸軍将校の仕事で滅多に城にはいないし、前当主夫人のレディ・ウルスラはリンドホルム周辺の貴族や有力者の夫人たちとの社交に忙しい。
王都の商家から嫁いだヴェロニカ夫人と、子爵家の出で昔気質のウルスラ夫人との、嫁姑の仲はお世辞にもよくはなかった。もともと、ウルスラ夫人は商家から嫁を迎えるのに反対だったようだ。慣れない伯爵家に嫁いだヴェロニカ夫人は、初めての子が男児でなく、女児のエルシーで、ひどく落胆したという。
男児の跡取りが待望されるのは貴族家の常ではあるが、俺の見た限り、おばあ様ーーウルスラ夫人ーーは、男女で子供の待遇に差をつけない人だ。しかし、ヴェロニカ夫人は跡取りへの思い入れが殊に深く、ひ弱なビリーの世話に一喜一憂し、勢い、丈夫で育てやすいエルシーのことは放置気味だった。
女だからと言って教育を疎かにすべきでない、もっとエルスペスにも気を配りなさい、とおばあ様が苦言を呈すたびに、嫁姑の間はさらに険悪になる。おばあ様は厳格な性格だが、それだけに公平だった。俺に対しても容赦なくマナーを指摘し、おばあ様との夕食は緊張の連続となる。俺が真っ当な貴族的立ち居振る舞いができるようになったのも、ほとんどおばあ様のおかげと言える。
城の家政を掌握しているのは間違いなくおばあ様だった。おばあ様は両親を失った親族の娘、ローズを隣国から引き取り、自ら教育を施して、将来的にはマックスの妻にする予定だった。城の使用人たちもそのつもりでいたのに、突然、王都に行ってしまい、それきり戻ることはなかったという。ローズに何が起きたのか、使用人たちも事情がわからないまま、ローズを恩知らずと罵る者もいて、王都からヴェロニカ夫人が嫁いで来てからは、ローズのことは屋敷内で口にしないのが不文律となっていた。
そんなところへ突然、ローズの息子だという俺がやってきた。
ヴェロニカ夫人は初め、俺に対して不信感がいっぱいだったようだが、俺はオーランド伯爵を継ぐ予定で、マックスとも似たところがないので、どうやらローズは誰か身分の高い男の子を産み、今はもう、この世にいないのだと納得したらしい。
そういう過去の行きがかりもあって、ヴェロニカ夫人と一部使用人は、俺に対して複雑な感情はあるものの、痩せっぽちの無力な子供でもあり、エルシーが懐いてしまったこともあって、時間のありあまった居候の俺に、エルシーの子守りを押し付ける形になったわけだ。
聞き分けがいいとは言っても、エルシーもまだ七歳。本当は母親に甘えたい盛りなのを、我慢していたのだろう。俺と過ごすことに慣れると、すっかり俺に甘えるようになる。
庭ではほぼ、一日中、俺と過ごす。
マックスが俺に何か欲しいものはないか、と言うので、俺はずっと描いてみたいと思っていた、油絵の道具をねだった。それはリンドホルムの街の雑貨商を通じてすぐに届けられ、俺は見様見真似で絵を描き始め、傍ら、エルシーやビリーの子守をした。天気の良い日は、弁当を持って森に出かける。小鳥が鳴き騒ぎ、ウサギを追いかけて走り回る姿を、俺はスケッチした。
天気のよくない日は、エルシーとビリーで俺の膝の上を取り合うように座って、図書館の画集を眺めたり、読んでやる童話に目を輝かせる。遊びつかれたエルシーは、時には俺の膝の上で眠ってしまう。俺の腕の中でするりと流れ落ちる、絹糸のように細い、くすんだ金髪が、ランプの灯りを反射して、煌めく。陶器のように白く、なめらかな肌は、しかし触れればほんのりと温かく、柔らかかった。
俺の事情をよく知らない大人たちは、幼女の世話を押し付けられた俺を申し訳なさそうに見たが、俺はエルシーと過ごせる日々に幸福を覚えていた。
ストラスシャーの荒野は、時に嵐が吹き荒れる。
吹き抜ける風が不気味な音を立て、窓枠がガタガタと揺れる。雷鳴がとどろいて、古城には幽霊でもいるんじゃないかと、俺もびくびくした。
こんな夜、エルシーはどうしているんだろうと、ふと、子供部屋を覗いてみると、すすり泣くような声が聞こえた。
「エルシー?」
俺が声をかけると、エルシーが涙声で答える。
「リジー?」
「しい! 静かに。僕が来たことは内緒だよ?」
「嵐が怖くて眠れないの……」
「もう、大丈夫だよ、僕がいてあげるから」
俺はエルシーの子供部屋の、ベッドに転がりこんで、彼女の小さな体を抱きしめる。暖かくて、柔らかくて、シャボンのいい香りがして――。
小さな額にキスをすると、エルシーも俺の額にキスを返す。
目に見えない、真実の文字が刻まれた、ゴーレムの呪い。エルシーがキスをしてくれたら、すべて解けるのかもしれない。彼女のキスで粘土に返るのならば、それはそれで構わない――。
七歳の幼女を抱きしめて眠る十四歳の男。どう考えてもマトモではないが、そのころの俺にとって、エルシーは光そのものであったから。
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