20 / 68
第二章 忘れられた男
「愛人」
しおりを挟む
歌劇場でキスをしてからも、俺は忙しい公務の合間を縫って、エルシーと出かけた。
旧ワーズワース邸での催しは、やはり違法な取引の仲介場となっているらしく、さまざまな情報が上がってきた。だが、主催者の資本家は最近、王都で力をつけたヤリ手で、閣僚とも裏では付き合いがあって、いきなりしょっぴくのは難しいようだった。
「邸のオーナーは場所を提供しているだけで、黒幕は他にいるようです」
「黒幕?」
「あの邸に居候して、資金援助を受けている芸術家が、絵画や宝石の闇市場とつながっています。以前に贋作を手掛けているようで――」
ラルフ・シモンズの報告を受けて、俺は眉を寄せる。
俺はマックス・アシュバートンの部下を一部引き継ぎ、いずれ特務機関を管掌する予定のはずだが、現在、特務を仕切っているマールバラ公爵から完全に引き継いだわけではない。俺が使える特務はごく一部に過ぎず、あまり大掛かりな捕り物は荷が重い。
「……実は、近々、競売が開かれるようなのですが、目録に、『レザンの聖母』があると」
「なんだと?」
『レザンの聖母』は、巨匠エル・グランの作品で王家の所蔵品だ。ところが、戦時中のチャリティーとして王立美術館を公開したときに、とある鑑定家が精巧な贋作であると指摘したのだ。その事実は内密にされているが、一部好事家の間では、盗難されて密かにコレクターの手に落ちている、などと噂されていた。
「……あれが闇市場に出回るわけか!」
盗品と知りながら所有していたコレクターが、何かの理由で手放すことになった。下手をすると国外に流出してしまう。
「この程度の事案なら、俺が動いてもよかろう。……競売で俺が落札する。兄上に連絡を」
「は」
ラルフに指示し、俺は当日の競売に臨んだ。
「今日はホンモノの間諜だ。ごっこじゃない」
「はい?」
俺に言われて、エルシーが首を傾げる。
今日は深緑色のドレスに、黒い仮面。チュールのオーバースカートに、透ける同色のショール。森の妖精をイメージして、秋の木の葉模様のビーズの小物入れ。ふわっとしたスカートが、妖精の羽のようだ。
俺はエルシーの耳元でささやく。
「今日の競売は秘密だ。出品されるのは、盗品ばかり。……どうしても、落札しなければならない絵がある」
「絵……盗品を?」
俺は出品のカタログを広げ、指さす。
「これは本来、王家の所蔵品だが、いつの間にか精巧な贋作とすり替えられていた。今日、ホンモノが出る。国内のコレクターならともなく、外国に流出したらまずい」
「へえ……」
エルシーは仮面をつけた首を傾げる。
「……殿下はずいぶん、絵にお好きなのですね」
聞かれて、俺はエルシーの顔を仮面越しに見つめた。俺はリンドホルムではいつも、絵を描いていた。……エルシーは俺のことはすべて忘れてしまったのか……。
「……まあな、昔は画家になりたかったんだ」
「そうなのですか。……意外です。王子様なのに」
……たしかに、王子のくせに絵が趣味なんてのは、全く歓迎されなかった。油絵の道具は実は、マックス・アシュバートンが買ってくれたものだ。
「プロの画家になれるほど、上手くなかった」
「今はもう、趣味でもお描きにはならないのですか?」
エルシーでいっぱいだったスケッチブックは、ステファニーに見せろと詰め寄られ、暖炉に投げ込んで焼いてしまった。あれ以来、風景をスケッチするくらいだ。
「最近は書いてないな……スケッチくらいだ。戦地では油絵を描く暇はなかった」
何しろ塹壕に籠っていたからな。光も射さないし、油絵のイーゼルを立てる場所すらなかった。
「スケッチされるなら、今度見せてくださいよ。……お金がかからなくていい趣味だわ」
エルシーも、よく俺の絵を見たがった。それを思い出して、俺はつい、微笑んでいた。
「……ああ、そのうち、な」
ちょうど競売が始まり、話はそこまでになった。
無事に落札して、高級レストランで向かいあって食事をしながら、エルシーが言う。
「王族にとって、結婚は義務でしょう? ……よろしいんですか? こんなところで平民の秘書官とお食事なんかなさって。ゴシップ紙にでも嗅ぎつけられたら、とんだ浮気者だって騒がれますよ?」
王族に生まれた以上、早く結婚しろ。――王宮で遇う人間ごとに説教されていたが、エルシー本人に言われるのは心外だった。俺とお前の結婚は、三年も前に父上だって許可を出している。お前となら今すぐにでも、俺は結婚したいんだ、と力説したい。なのに――。
「そういうご身分に生まれたんですから、王族の義務だと思って諦めたらいかがです?」
「勝手なことを! お前だって、好きでもない男と結婚しろと言われて、はいわかりました、なんてならないだろう?」
「それが領地のためならしましたよ。……代襲相続の勅許が下りていたら、条件の合う相手と結婚するつもりでした」
あっさり反論され、俺は言葉に詰まる。
そうなのだ。マックスが死んで三年。もし、エルシーの相続が認められていたとして、十六かそこらのエルシーに、領地経営なんてできるわけがない。……マックスが父上に俺とエルシーの結婚を求めたのも、万一、自分が死んだ時のことを考えていたはずなのだ。
だが、あの詔勅は握り潰された。……詔勅の副本は紛失し、代襲相続まで却下されて……。
結果的に、エルシーは領地のために結婚することを免れている。
「でも、お前もその、誰が好きな男はいなかったのか、幼馴染とか、親戚の男とか」
少しでもリジーを憶えていないだろうかと、俺の藁にもすがるような質問に、しかし、エルシーはすごく嫌そうに顔を歪めた。
「幼馴染なんていません!……でも、代襲相続の勅許が下りていたら、親戚の……今のリンドホルム伯爵の息子と結婚させるなんて話もありましたけど。でも、おばあ様が断固拒否して、そのおかげで城にいづらくなったんですけどね!」
「そんな話があったのか!」
ひとしきり、親族の男をくさすエルシーの話を聞いて、俺は一つ、謎が解けた気がした。爵位が親族に移るにしても、先代伯爵の母親と娘を領地から追い出すなんて、あまりに外聞が悪い。現伯爵の息子はどうやら、女に手の早い放蕩者らしい。そんな男にエルシーを任せられなくて、おばあ様は領地も城も捨てて王都に出てきたのだ。
あの貴族的な老婦人が、王都の下町の家で、いったいどんな気持ちで暮らしているのだろうか。せめて、もう少し環境のいい家に移ってもらうことはできないか。
考えに沈んでいた俺の耳に、エルシーが躊躇いがちに言う。
「その……わたしが、殿下と不適切な関係にある、という噂もあるようで、友人に注意されました。事務の引継ぎもだいぶ要領を得てきたし、そろそろ――」
「まさかお前、俺の秘書官をやめたいのか?」
エルシーが視線を彷徨わせる。
「だいたいこの仕事をやめて、お前はどうするつもりだ? 祖母の薬代を払ってくれる、気前のいい金持ちと結婚するつもりか?」
「そんな……当てがあるわけでは――」
目を伏せるエルシーを見て、俺は頭に血が上った。当てはあるんだ。――ニコラス・ハートネル! あいつが、しつこく言い寄っているのは聞いていた。
ハートネルに奪われるのは嫌だ。
いや、ハートネル以外も許しがたいが、あいつだけはなんだか嫌な予感がする。
だいたい、エルシーと俺はキスまでした仲なのに、「不適切」とは何事だ!
エルシーを手放すつもりのない俺は、強引に次の予定を取り付けた。
翌日、司令部に出勤すると、クルツ主任事務官が寄ってきて、言いにくそうに言った。
「その……ミス・アシュバートンなのですが――」
「なんだ?」
「殿下と不適切な関係にあるとの、噂が回っておりまして――」
「彼女は俺の秘書官だ。別に不適切じゃない!」
「レストランで食事をするのは、秘書官の仕事を少々、逸脱しているかと――」
「俺だってメシくらい食うさ!」
「こういった醜聞で、悪評を被るのはたいてい、女性です。レコンフィールド公爵令嬢への同情が広まっておりますし、これ以上は、彼女の結婚に差し支えるかもしれません、どうか――」
俺自身は気にしていなかったが、たしかに、その頃から俺に「愛人」がいる、という噂が王都に出回り始めていた。俺らしき男が、ステファニー以外の、若い女を連れて高級レストランに足を運ぶのが目撃されるようになったからだ。
レストランで個室を予約しても、当然、店への出入りは人の目に触れる。最近評判の、ランド川に面した眺望が自慢のレストランはテラス席でなければ意味がない。エルシーとのデートはレストランでの食事が中心だったが、先日の競売や仮面舞踏会、歌劇場、それから前衛芸術の展覧会などは出かけたことはある。レストラン以外は仮面をつけた催しと、昼間の健全な催しだけだから、「秘書官」だと言い張れば問題ないと俺は思っていた。
俺とステファニーの婚約は白紙に戻り、俺は誰とも婚約しておらず、誰とメシを食おうが俺の勝手だと思っていた。でも、世間はそんな風には見ない。
俺はここにきてようやく、「アクセサリー」が欲しいなら他の女を誘え、と言ったエルシーの言葉の意味を理解した。
俺がエルシーを着飾らせるのは、連れて歩くアクセサリーにするつもりなんかじゃない。
俺はエルシーを愛しているし、エルシーは俺にとって、お姫様だからだ。当然、受け継ぐはずのものを全て奪われたエルシーに、せめて何か贈りたい。それが俺の、エルシーへの気持ちだった。
でも、爵位も財産も失ったエルシーと、第三王子の俺には深い身分の差が立ち塞がる。没落したエルシーに、その壁はひどく大きく映るのだろう。でも再会に浮かれ、エルシーのことになると近視になって他が見えなくなる俺は、彼女の置かれた立ち場の危うさに気づかなった。
旧ワーズワース邸での催しは、やはり違法な取引の仲介場となっているらしく、さまざまな情報が上がってきた。だが、主催者の資本家は最近、王都で力をつけたヤリ手で、閣僚とも裏では付き合いがあって、いきなりしょっぴくのは難しいようだった。
「邸のオーナーは場所を提供しているだけで、黒幕は他にいるようです」
「黒幕?」
「あの邸に居候して、資金援助を受けている芸術家が、絵画や宝石の闇市場とつながっています。以前に贋作を手掛けているようで――」
ラルフ・シモンズの報告を受けて、俺は眉を寄せる。
俺はマックス・アシュバートンの部下を一部引き継ぎ、いずれ特務機関を管掌する予定のはずだが、現在、特務を仕切っているマールバラ公爵から完全に引き継いだわけではない。俺が使える特務はごく一部に過ぎず、あまり大掛かりな捕り物は荷が重い。
「……実は、近々、競売が開かれるようなのですが、目録に、『レザンの聖母』があると」
「なんだと?」
『レザンの聖母』は、巨匠エル・グランの作品で王家の所蔵品だ。ところが、戦時中のチャリティーとして王立美術館を公開したときに、とある鑑定家が精巧な贋作であると指摘したのだ。その事実は内密にされているが、一部好事家の間では、盗難されて密かにコレクターの手に落ちている、などと噂されていた。
「……あれが闇市場に出回るわけか!」
盗品と知りながら所有していたコレクターが、何かの理由で手放すことになった。下手をすると国外に流出してしまう。
「この程度の事案なら、俺が動いてもよかろう。……競売で俺が落札する。兄上に連絡を」
「は」
ラルフに指示し、俺は当日の競売に臨んだ。
「今日はホンモノの間諜だ。ごっこじゃない」
「はい?」
俺に言われて、エルシーが首を傾げる。
今日は深緑色のドレスに、黒い仮面。チュールのオーバースカートに、透ける同色のショール。森の妖精をイメージして、秋の木の葉模様のビーズの小物入れ。ふわっとしたスカートが、妖精の羽のようだ。
俺はエルシーの耳元でささやく。
「今日の競売は秘密だ。出品されるのは、盗品ばかり。……どうしても、落札しなければならない絵がある」
「絵……盗品を?」
俺は出品のカタログを広げ、指さす。
「これは本来、王家の所蔵品だが、いつの間にか精巧な贋作とすり替えられていた。今日、ホンモノが出る。国内のコレクターならともなく、外国に流出したらまずい」
「へえ……」
エルシーは仮面をつけた首を傾げる。
「……殿下はずいぶん、絵にお好きなのですね」
聞かれて、俺はエルシーの顔を仮面越しに見つめた。俺はリンドホルムではいつも、絵を描いていた。……エルシーは俺のことはすべて忘れてしまったのか……。
「……まあな、昔は画家になりたかったんだ」
「そうなのですか。……意外です。王子様なのに」
……たしかに、王子のくせに絵が趣味なんてのは、全く歓迎されなかった。油絵の道具は実は、マックス・アシュバートンが買ってくれたものだ。
「プロの画家になれるほど、上手くなかった」
「今はもう、趣味でもお描きにはならないのですか?」
エルシーでいっぱいだったスケッチブックは、ステファニーに見せろと詰め寄られ、暖炉に投げ込んで焼いてしまった。あれ以来、風景をスケッチするくらいだ。
「最近は書いてないな……スケッチくらいだ。戦地では油絵を描く暇はなかった」
何しろ塹壕に籠っていたからな。光も射さないし、油絵のイーゼルを立てる場所すらなかった。
「スケッチされるなら、今度見せてくださいよ。……お金がかからなくていい趣味だわ」
エルシーも、よく俺の絵を見たがった。それを思い出して、俺はつい、微笑んでいた。
「……ああ、そのうち、な」
ちょうど競売が始まり、話はそこまでになった。
無事に落札して、高級レストランで向かいあって食事をしながら、エルシーが言う。
「王族にとって、結婚は義務でしょう? ……よろしいんですか? こんなところで平民の秘書官とお食事なんかなさって。ゴシップ紙にでも嗅ぎつけられたら、とんだ浮気者だって騒がれますよ?」
王族に生まれた以上、早く結婚しろ。――王宮で遇う人間ごとに説教されていたが、エルシー本人に言われるのは心外だった。俺とお前の結婚は、三年も前に父上だって許可を出している。お前となら今すぐにでも、俺は結婚したいんだ、と力説したい。なのに――。
「そういうご身分に生まれたんですから、王族の義務だと思って諦めたらいかがです?」
「勝手なことを! お前だって、好きでもない男と結婚しろと言われて、はいわかりました、なんてならないだろう?」
「それが領地のためならしましたよ。……代襲相続の勅許が下りていたら、条件の合う相手と結婚するつもりでした」
あっさり反論され、俺は言葉に詰まる。
そうなのだ。マックスが死んで三年。もし、エルシーの相続が認められていたとして、十六かそこらのエルシーに、領地経営なんてできるわけがない。……マックスが父上に俺とエルシーの結婚を求めたのも、万一、自分が死んだ時のことを考えていたはずなのだ。
だが、あの詔勅は握り潰された。……詔勅の副本は紛失し、代襲相続まで却下されて……。
結果的に、エルシーは領地のために結婚することを免れている。
「でも、お前もその、誰が好きな男はいなかったのか、幼馴染とか、親戚の男とか」
少しでもリジーを憶えていないだろうかと、俺の藁にもすがるような質問に、しかし、エルシーはすごく嫌そうに顔を歪めた。
「幼馴染なんていません!……でも、代襲相続の勅許が下りていたら、親戚の……今のリンドホルム伯爵の息子と結婚させるなんて話もありましたけど。でも、おばあ様が断固拒否して、そのおかげで城にいづらくなったんですけどね!」
「そんな話があったのか!」
ひとしきり、親族の男をくさすエルシーの話を聞いて、俺は一つ、謎が解けた気がした。爵位が親族に移るにしても、先代伯爵の母親と娘を領地から追い出すなんて、あまりに外聞が悪い。現伯爵の息子はどうやら、女に手の早い放蕩者らしい。そんな男にエルシーを任せられなくて、おばあ様は領地も城も捨てて王都に出てきたのだ。
あの貴族的な老婦人が、王都の下町の家で、いったいどんな気持ちで暮らしているのだろうか。せめて、もう少し環境のいい家に移ってもらうことはできないか。
考えに沈んでいた俺の耳に、エルシーが躊躇いがちに言う。
「その……わたしが、殿下と不適切な関係にある、という噂もあるようで、友人に注意されました。事務の引継ぎもだいぶ要領を得てきたし、そろそろ――」
「まさかお前、俺の秘書官をやめたいのか?」
エルシーが視線を彷徨わせる。
「だいたいこの仕事をやめて、お前はどうするつもりだ? 祖母の薬代を払ってくれる、気前のいい金持ちと結婚するつもりか?」
「そんな……当てがあるわけでは――」
目を伏せるエルシーを見て、俺は頭に血が上った。当てはあるんだ。――ニコラス・ハートネル! あいつが、しつこく言い寄っているのは聞いていた。
ハートネルに奪われるのは嫌だ。
いや、ハートネル以外も許しがたいが、あいつだけはなんだか嫌な予感がする。
だいたい、エルシーと俺はキスまでした仲なのに、「不適切」とは何事だ!
エルシーを手放すつもりのない俺は、強引に次の予定を取り付けた。
翌日、司令部に出勤すると、クルツ主任事務官が寄ってきて、言いにくそうに言った。
「その……ミス・アシュバートンなのですが――」
「なんだ?」
「殿下と不適切な関係にあるとの、噂が回っておりまして――」
「彼女は俺の秘書官だ。別に不適切じゃない!」
「レストランで食事をするのは、秘書官の仕事を少々、逸脱しているかと――」
「俺だってメシくらい食うさ!」
「こういった醜聞で、悪評を被るのはたいてい、女性です。レコンフィールド公爵令嬢への同情が広まっておりますし、これ以上は、彼女の結婚に差し支えるかもしれません、どうか――」
俺自身は気にしていなかったが、たしかに、その頃から俺に「愛人」がいる、という噂が王都に出回り始めていた。俺らしき男が、ステファニー以外の、若い女を連れて高級レストランに足を運ぶのが目撃されるようになったからだ。
レストランで個室を予約しても、当然、店への出入りは人の目に触れる。最近評判の、ランド川に面した眺望が自慢のレストランはテラス席でなければ意味がない。エルシーとのデートはレストランでの食事が中心だったが、先日の競売や仮面舞踏会、歌劇場、それから前衛芸術の展覧会などは出かけたことはある。レストラン以外は仮面をつけた催しと、昼間の健全な催しだけだから、「秘書官」だと言い張れば問題ないと俺は思っていた。
俺とステファニーの婚約は白紙に戻り、俺は誰とも婚約しておらず、誰とメシを食おうが俺の勝手だと思っていた。でも、世間はそんな風には見ない。
俺はここにきてようやく、「アクセサリー」が欲しいなら他の女を誘え、と言ったエルシーの言葉の意味を理解した。
俺がエルシーを着飾らせるのは、連れて歩くアクセサリーにするつもりなんかじゃない。
俺はエルシーを愛しているし、エルシーは俺にとって、お姫様だからだ。当然、受け継ぐはずのものを全て奪われたエルシーに、せめて何か贈りたい。それが俺の、エルシーへの気持ちだった。
でも、爵位も財産も失ったエルシーと、第三王子の俺には深い身分の差が立ち塞がる。没落したエルシーに、その壁はひどく大きく映るのだろう。でも再会に浮かれ、エルシーのことになると近視になって他が見えなくなる俺は、彼女の置かれた立ち場の危うさに気づかなった。
20
あなたにおすすめの小説
もう無理して私に笑いかけなくてもいいですよ?
冬馬亮
恋愛
公爵令嬢のエリーゼは、遅れて出席した夜会で、婚約者のオズワルドがエリーゼへの不満を口にするのを偶然耳にする。
オズワルドを愛していたエリーゼはひどくショックを受けるが、悩んだ末に婚約解消を決意する。
だが、喜んで受け入れると思っていたオズワルドが、なぜか婚約解消を拒否。関係の再構築を提案する。
その後、プレゼント攻撃や突撃訪問の日々が始まるが、オズワルドは別の令嬢をそばに置くようになり・・・
「彼女は友人の妹で、なんとも思ってない。オレが好きなのはエリーゼだ」
「私みたいな女に無理して笑いかけるのも限界だって夜会で愚痴をこぼしてたじゃないですか。よかったですね、これでもう、無理して私に笑いかけなくてよくなりましたよ」
病弱な彼女は、外科医の先生に静かに愛されています 〜穏やかな執着に、逃げ場はない〜
来栖れいな
恋愛
――穏やかな微笑みの裏に、逃げられない愛があった。
望んでいたわけじゃない。
けれど、逃げられなかった。
生まれつき弱い心臓を抱える彼女に、政略結婚の話が持ち上がった。
親が決めた未来なんて、受け入れられるはずがない。
無表情な彼の穏やかさが、余計に腹立たしかった。
それでも――彼だけは違った。
優しさの奥に、私の知らない熱を隠していた。
形式だけのはずだった関係は、少しずつ形を変えていく。
これは束縛? それとも、本当の愛?
穏やかな外科医に包まれていく、静かで深い恋の物語。
※この物語はフィクションです。
登場する人物・団体・名称・出来事などはすべて架空であり、実在のものとは一切関係ありません。
王子を身籠りました
青の雀
恋愛
婚約者である王太子から、毒を盛って殺そうとした冤罪をかけられ収監されるが、その時すでに王太子の子供を身籠っていたセレンティー。
王太子に黙って、出産するも子供の容姿が王家特有の金髪金眼だった。
再び、王太子が毒を盛られ、死にかけた時、我が子と対面するが…というお話。
どうやら夫に疎まれているようなので、私はいなくなることにします
文野多咲
恋愛
秘めやかな空気が、寝台を囲う帳の内側に立ち込めていた。
夫であるゲルハルトがエレーヌを見下ろしている。
エレーヌの髪は乱れ、目はうるみ、体の奥は甘い熱で満ちている。エレーヌもまた、想いを込めて夫を見つめた。
「ゲルハルトさま、愛しています」
ゲルハルトはエレーヌをさも大切そうに撫でる。その手つきとは裏腹に、ぞっとするようなことを囁いてきた。
「エレーヌ、俺はあなたが憎い」
エレーヌは凍り付いた。
【R18】純粋無垢なプリンセスは、婚礼した冷徹と噂される美麗国王に三日三晩の初夜で蕩かされるほど溺愛される
奏音 美都
恋愛
数々の困難を乗り越えて、ようやく誓約の儀を交わしたグレートブルタン国のプリンセスであるルチアとシュタート王国、国王のクロード。
けれど、それぞれの執務に追われ、誓約の儀から二ヶ月経っても夫婦の時間を過ごせずにいた。
そんなある日、ルチアの元にクロードから別邸への招待状が届けられる。そこで三日三晩の甘い蕩かされるような初夜を過ごしながら、クロードの過去を知ることになる。
2人の出会いを描いた作品はこちら
「純粋無垢なプリンセスを野盗から助け出したのは、冷徹と噂される美麗国王でした」https://www.alphapolis.co.jp/novel/702276663/443443630
2人の誓約の儀を描いた作品はこちら
「純粋無垢なプリンセスは、冷徹と噂される美麗国王と誓約の儀を結ぶ」
https://www.alphapolis.co.jp/novel/702276663/183445041
敵に貞操を奪われて癒しの力を失うはずだった聖女ですが、なぜか前より漲っています
藤谷 要
恋愛
サルサン国の聖女たちは、隣国に征服される際に自国の王の命で殺されそうになった。ところが、侵略軍将帥のマトルヘル侯爵に助けられた。それから聖女たちは侵略国に仕えるようになったが、一か月後に筆頭聖女だったルミネラは命の恩人の侯爵へ嫁ぐように国王から命じられる。
結婚披露宴では、陛下に側妃として嫁いだ旧サルサン国王女が出席していたが、彼女は侯爵に腕を絡めて「陛下の手がつかなかったら一年後に妻にしてほしい」と頼んでいた。しかも、侯爵はその手を振り払いもしない。
聖女は愛のない交わりで神の加護を失うとされているので、当然白い結婚だと思っていたが、初夜に侯爵のメイアスから体の関係を迫られる。彼は命の恩人だったので、ルミネラはそのまま彼を受け入れた。
侯爵がかつての恋人に似ていたとはいえ、侯爵と孤児だった彼は全く別人。愛のない交わりだったので、当然力を失うと思っていたが、なぜか以前よりも力が漲っていた。
※全11話 2万字程度の話です。
【R18】幼馴染がイケメン過ぎる
ケセラセラ
恋愛
双子の兄弟、陽介と宗介は一卵性の双子でイケメンのお隣さん一つ上。真斗もお隣さんの同級生でイケメン。
幼稚園の頃からずっと仲良しで4人で遊んでいたけど、大学生にもなり他にもお友達や彼氏が欲しいと思うようになった主人公の吉本 華。
幼馴染の関係は壊したくないのに、3人はそうは思ってないようで。
関係が変わる時、歯車が大きく動き出す。
愛された側妃と、愛されなかった正妃
編端みどり
恋愛
隣国から嫁いだ正妃は、夫に全く相手にされない。
夫が愛しているのは、美人で妖艶な側妃だけ。
連れて来た使用人はいつの間にか入れ替えられ、味方がいなくなり、全てを諦めていた正妃は、ある日側妃に子が産まれたと知った。自分の子として育てろと無茶振りをした国王と違い、産まれたばかりの赤ん坊は可愛らしかった。
正妃は、子育てを通じて強く逞しくなり、夫を切り捨てると決めた。
※カクヨムさんにも掲載中
※ 『※』があるところは、血の流れるシーンがあります
※センシティブな表現があります。血縁を重視している世界観のためです。このような考え方を肯定するものではありません。不快な表現があればご指摘下さい。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる