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終章 ゴーレムの王子は光の妖精の夢を見る
廃園の誓い
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おばあ様の葬儀は秋晴れだったが、埋葬の途中から雲が出て、最後、細かい霧雨が降った。
牧師の祈りと説教が続く間、俺はエルシーからやや離れ、マックスの墓の前で彼に祈っていた。俺はマックスの恩に何一つ報いていない。
俺は、内ポケットの詔勅を上着の上から押さえ、彼の墓に誓う。
――必ず、リンドホルムを取り戻す。だから、俺とエルシーを見守ってほしい。
マックスの墓の隣には、ヴェロニカ夫人の墓碑と、そしてウィリアム・アシュバートン――ビリーの墓碑。
黒服の人垣の向こうでは、棺に土がかけられている気配がする。おばあ様、ウルスラ・アシュバートンの墓碑も、いずれ建てられる。
とうとう、エルシーは全ての家族に先立たれ、ひとりぼっちになってしまった。
黒い喪服に黒い帽子をかぶり、黒い紗のヴェールで顔を覆って、背筋を伸ばして立つ、エルシーの凛とした立ち姿の美しさが、むしろ哀しかった。
霧雨の中で埋葬が終わると牧師が解散を宣言し、人々は蜘蛛の子を散らすように去る。だが、エルシーは一人、おばあ様の真新しい墓の前から動かなかった。
「……リジー様、濡れます。これを……」
ジョンソンが背後から声をかけ、俺に黒い蝙蝠傘を差しかける。
「お嬢様を、お願いできますか」
「ああ、すまない。もう少しだけ、彼女に付き合って帰る」
「その間に片付けをしておきます」
俺は傘を差してエルシーの横に立つ。エルシーは身じろぎもせず、その白い頬には涙が光っていた。その涙に俺の胸が痛む。でも――俺は目を逸らしてはいけないと思い、ずっとエルシーの横でただ、無言で傘を差しかけていた。
どれほどの時が経ったか。エルシーが突然、我に返って俺を振り返った。
「でん――」
「リジーだ。……もう、行こう。この後、あの庭を見せてもらうことになっている」
周囲に誰もいないことに、ようやく気付いたエルシーが、申し訳ありませんと、頭を下げる。
「謝るな。たった一人の身内に死なれたんだ。哀しくないはずがない」
俺が差し出すハンカチをエルシーはおとなしく受け取り、そっと目の下を押さえる。そんな仕草の一つ一つが、エルシーは洗練されていて、綺麗だった。……おばあ様が、そう、育てたのだ。
俺はエルシーの背中に手を当てて、促す。
「その……この城は危険だ。あのダグラスとかいうクズ野郎もいるし……」
俺が言えば、エルシーも苦笑した。
「ええ、わたしも、ここに厄介になろうとは思いません。……ここに、わたしの居場所はないわ……」
「本当は王都のアパートメントか、郊外の邸に住んで欲しいんだが、マクガーニが、エルシーと本気で結婚したいなら、一緒に住んではダメだって……どうせ結婚するんだから、いいじゃないかと俺は思ったんだが……」
エルシーが呆れたように言う。
「……同棲中の愛人との結婚なんて、認められるわけないでしょう」
俺はどう言っていいかわからず、思いつくままに言葉を繋いだ。
「その……すまなかった。俺は、お前に再会できたことで舞い上がって、周りが見えていなかった。お前がどう思うのか、周囲からどう見られるのか、深く考えていなかった。……俺が、全部悪い」
「リジー……」
エルシーが、ブルーグレーの瞳を見開いて、俺を見上げる。俺もエルシーの目を見つめて返す。
「……愛してる、エルシー。どれだけ時間がかかっても、どれだけの人間を敵に回しても、王子としての地位を失っても、俺はお前と結婚したい。だから――これからは俺がお前を守るから、だから、信じて側にいて欲しい」
俺が一息に言うと、エルシーは呆然と俺を見つめ、それから、視線をついと逸らすと、手袋をはめた掌を傘の外に出して、呟いた。
「雨……止みましたわ……」
「エルシー……俺は……」
エルシーが俺の腕を掴んで、引っ張った。
「見て……虹が……」
指さす方向を見れば、教会の尖塔の脇に、大きな虹の橋がかかっていた。
「おばあ様の魂はあの橋を渡るのかしら……」
返事をはぐらかされて、俺は何も言えず、エルシーと並んで虹を見上げる。
おばあ様は、やはり王家の男にはエルシーをやれないとあくまで言うのだろうか――。
約束通り、ダグラスは庭の鍵を開けて待っていた。
俺とエルシーと、ロベルト、マクガーニ、それからダグラスの五人で、有刺鉄線をギリギリ人が通れる分だけ開き、中に入る。
「世話をしていた園丁の爺さんがくたばって、手が足りなくなって放置されがちで……いっそのこと売っちまおうって話になったんですよ。このご時世ですからね」
ダグラスのボヤキを聞きながら、俺たちは奥へと向かう。花壇が枯れて雑草がはびこり、樹々も剪定されず伸び放題、枯れ葉や枯草が地面を埋め尽くしている。四辻の噴水は水が止まり澱んで、藻が繁殖して嫌な臭いがした。
ロベルトがダグラスと書類を見ながら交渉を始めたのをきっかけに、俺はエルシーの耳元で言う。
「行こう、俺はローズの庭がどうなっているか見たい」
俺たちは二人だけ、広場を左に曲がり、早足で散歩道を行く。蔦で覆われた壁が続くけれど、俺もエルシーも、扉のある場所は覚えていた。蔦の下から現れる深緑の扉。
「鍵は――」
「かけてないわ。サム爺さんがいつでも世話をできるように」
真鍮のノブは回るが、何かが裏でひっかかっていて開かない。ドアに俺が体当たりしてこじあけ、隙間から手を入れて裏側に這いまわっていた蔦を取り払い、俺たちは苦労の末に中に入り、ドアを閉めた。
戻ってきた。あの、秘密の庭に。
内部は想像以上に荒れていた。
噴水の水は止められ、小川は涸れていた。大理石の像は倒れ、壊れて、蔓薔薇のアーチはすっかり枯れ枝に覆われている。小道は腰まで伸びた雑草で全く見えず、草の向こうに白い四阿も半ば蔦に埋もれていた。
俺はエルシーの手を引き、雑草を薙ぎ払いながら四阿にたどり着くと、ベンチにハンカチを敷いてエルシーを座らせ、自分も隣に座った。
四阿からの風景も、記憶にあるのとはずいぶん違う。――美しかった庭は、すっかり寂れた廃園になっていた。
「見て、あそこ!」
エルシーが壁泉のそばの薔薇の垣根を指させば、紅い薔薇が一輪、咲いていた。
「あの樹は生きているんだ。……ローズも言っていた。薔薇は強いって」
幼い時、ローズがいつも話してくれた。……ローズが見つけた、寂れた秘密の花園。そう、きっと……ローズが見つけた庭も、こんな風だったのだろう。それをサム爺やマックスの助けを借りて蘇らせ、俺の知るあの薔薇の庭にした――。
俺はエルシーの手を握り、並んで庭を眺めながら思う。
「十二年前、あの扉を見つけて中に入ってみたら……不思議な小さな庭だった。春は浅くて……小さな子供が二人と年老いた園丁が世話をしていた。俺に気づいた赤いコートの子供が走ってきて俺に言ったんだ」
――ここは知らない人は入っちゃダメなの。でも、雑草を抜いてくれたら、あなたは特別に許してあげる。
幼いエルシーが俺を許してくれたから、俺は今でも生きていられる。エルシーがいない世界では、俺は生きていけない。俺はエルシーを抱き寄せるた。
「愛してる、エルシー……あの頃から、ずっと――」
俺は四阿の壁にエルシーの背中を押し付け、腕の中に閉じ込めるようにして、強引に唇を奪う。エルシーの抵抗も力で押さえつけ、唇を貪って。息も絶え絶えになったエルシーの唇を解放すると、エルシーが荒い息をつきながら言った。
「……だめ、こんな……ところで……」
「さっきの、返事を聞いていない。お願いだ、エルシー」
俺はエルシーの耳元で囁くように言った。
俺はどうしても、エルシーからプロポーズの了承を取りたかった。父上の勅書の効力を充たすために。
「俺が戦争の前から好きだったのはお前だ。俺はずっとお前のことを忘れられなかった。戦場でも、ずっと……俺は戦争でこの世の地獄を見たから」
俺はまっすぐにエルシーを見て、言った。
「俺は王族を抜ける覚悟もできている。結婚してくれ、エルシー」
俺は必死だった。ためらうエルシーの顔じゅうにキスの雨を降らせて懇願する。承諾を得るまで離さないつもりだったが、だが、エルシーはとうとう泣き出してしまう。
「そんな……わからない、わからないわ……だって――あなたは第三王子で、婚約者もいて、でもわたしは、爵位も領地も、明日住む家すらどうなるかわからないのに……おばあ様が亡くなったばかりで、そんな――」
エルシーのブルーグレーの瞳から溢れるを見て、俺は我に返る。
この寂れた庭のように、エルシーの人生はめちゃくちゃにされてしまった。家族を失い、本来得られる権利も奪われて、自分の未来も見えない時に、そのすべてを奪った王家の男にプロポーズされて、「はい、よろこんで」なんて言えるわけがない。
俺は、ひとまず保留するしかないと、その場は引き下がる。でも――
「わかった。……エルシー、俺は明日、リンドホルムを発つ。一緒に、来てほしいんだ」
だが、エルシーはそれをも首を振った。
「マクガーニも明日、戻る。お前ひとりをここに残しておけない」
「ええ?」
「今朝、ジョナサンから電話があって、マクガーニもすぐに戻らなければならなくなった。お前を一人で残しておけない」
エルシーは困惑していたが、ジョンソンにもメアリーにも根回し済みだと言えば、諦めたように頷いた。
牧師の祈りと説教が続く間、俺はエルシーからやや離れ、マックスの墓の前で彼に祈っていた。俺はマックスの恩に何一つ報いていない。
俺は、内ポケットの詔勅を上着の上から押さえ、彼の墓に誓う。
――必ず、リンドホルムを取り戻す。だから、俺とエルシーを見守ってほしい。
マックスの墓の隣には、ヴェロニカ夫人の墓碑と、そしてウィリアム・アシュバートン――ビリーの墓碑。
黒服の人垣の向こうでは、棺に土がかけられている気配がする。おばあ様、ウルスラ・アシュバートンの墓碑も、いずれ建てられる。
とうとう、エルシーは全ての家族に先立たれ、ひとりぼっちになってしまった。
黒い喪服に黒い帽子をかぶり、黒い紗のヴェールで顔を覆って、背筋を伸ばして立つ、エルシーの凛とした立ち姿の美しさが、むしろ哀しかった。
霧雨の中で埋葬が終わると牧師が解散を宣言し、人々は蜘蛛の子を散らすように去る。だが、エルシーは一人、おばあ様の真新しい墓の前から動かなかった。
「……リジー様、濡れます。これを……」
ジョンソンが背後から声をかけ、俺に黒い蝙蝠傘を差しかける。
「お嬢様を、お願いできますか」
「ああ、すまない。もう少しだけ、彼女に付き合って帰る」
「その間に片付けをしておきます」
俺は傘を差してエルシーの横に立つ。エルシーは身じろぎもせず、その白い頬には涙が光っていた。その涙に俺の胸が痛む。でも――俺は目を逸らしてはいけないと思い、ずっとエルシーの横でただ、無言で傘を差しかけていた。
どれほどの時が経ったか。エルシーが突然、我に返って俺を振り返った。
「でん――」
「リジーだ。……もう、行こう。この後、あの庭を見せてもらうことになっている」
周囲に誰もいないことに、ようやく気付いたエルシーが、申し訳ありませんと、頭を下げる。
「謝るな。たった一人の身内に死なれたんだ。哀しくないはずがない」
俺が差し出すハンカチをエルシーはおとなしく受け取り、そっと目の下を押さえる。そんな仕草の一つ一つが、エルシーは洗練されていて、綺麗だった。……おばあ様が、そう、育てたのだ。
俺はエルシーの背中に手を当てて、促す。
「その……この城は危険だ。あのダグラスとかいうクズ野郎もいるし……」
俺が言えば、エルシーも苦笑した。
「ええ、わたしも、ここに厄介になろうとは思いません。……ここに、わたしの居場所はないわ……」
「本当は王都のアパートメントか、郊外の邸に住んで欲しいんだが、マクガーニが、エルシーと本気で結婚したいなら、一緒に住んではダメだって……どうせ結婚するんだから、いいじゃないかと俺は思ったんだが……」
エルシーが呆れたように言う。
「……同棲中の愛人との結婚なんて、認められるわけないでしょう」
俺はどう言っていいかわからず、思いつくままに言葉を繋いだ。
「その……すまなかった。俺は、お前に再会できたことで舞い上がって、周りが見えていなかった。お前がどう思うのか、周囲からどう見られるのか、深く考えていなかった。……俺が、全部悪い」
「リジー……」
エルシーが、ブルーグレーの瞳を見開いて、俺を見上げる。俺もエルシーの目を見つめて返す。
「……愛してる、エルシー。どれだけ時間がかかっても、どれだけの人間を敵に回しても、王子としての地位を失っても、俺はお前と結婚したい。だから――これからは俺がお前を守るから、だから、信じて側にいて欲しい」
俺が一息に言うと、エルシーは呆然と俺を見つめ、それから、視線をついと逸らすと、手袋をはめた掌を傘の外に出して、呟いた。
「雨……止みましたわ……」
「エルシー……俺は……」
エルシーが俺の腕を掴んで、引っ張った。
「見て……虹が……」
指さす方向を見れば、教会の尖塔の脇に、大きな虹の橋がかかっていた。
「おばあ様の魂はあの橋を渡るのかしら……」
返事をはぐらかされて、俺は何も言えず、エルシーと並んで虹を見上げる。
おばあ様は、やはり王家の男にはエルシーをやれないとあくまで言うのだろうか――。
約束通り、ダグラスは庭の鍵を開けて待っていた。
俺とエルシーと、ロベルト、マクガーニ、それからダグラスの五人で、有刺鉄線をギリギリ人が通れる分だけ開き、中に入る。
「世話をしていた園丁の爺さんがくたばって、手が足りなくなって放置されがちで……いっそのこと売っちまおうって話になったんですよ。このご時世ですからね」
ダグラスのボヤキを聞きながら、俺たちは奥へと向かう。花壇が枯れて雑草がはびこり、樹々も剪定されず伸び放題、枯れ葉や枯草が地面を埋め尽くしている。四辻の噴水は水が止まり澱んで、藻が繁殖して嫌な臭いがした。
ロベルトがダグラスと書類を見ながら交渉を始めたのをきっかけに、俺はエルシーの耳元で言う。
「行こう、俺はローズの庭がどうなっているか見たい」
俺たちは二人だけ、広場を左に曲がり、早足で散歩道を行く。蔦で覆われた壁が続くけれど、俺もエルシーも、扉のある場所は覚えていた。蔦の下から現れる深緑の扉。
「鍵は――」
「かけてないわ。サム爺さんがいつでも世話をできるように」
真鍮のノブは回るが、何かが裏でひっかかっていて開かない。ドアに俺が体当たりしてこじあけ、隙間から手を入れて裏側に這いまわっていた蔦を取り払い、俺たちは苦労の末に中に入り、ドアを閉めた。
戻ってきた。あの、秘密の庭に。
内部は想像以上に荒れていた。
噴水の水は止められ、小川は涸れていた。大理石の像は倒れ、壊れて、蔓薔薇のアーチはすっかり枯れ枝に覆われている。小道は腰まで伸びた雑草で全く見えず、草の向こうに白い四阿も半ば蔦に埋もれていた。
俺はエルシーの手を引き、雑草を薙ぎ払いながら四阿にたどり着くと、ベンチにハンカチを敷いてエルシーを座らせ、自分も隣に座った。
四阿からの風景も、記憶にあるのとはずいぶん違う。――美しかった庭は、すっかり寂れた廃園になっていた。
「見て、あそこ!」
エルシーが壁泉のそばの薔薇の垣根を指させば、紅い薔薇が一輪、咲いていた。
「あの樹は生きているんだ。……ローズも言っていた。薔薇は強いって」
幼い時、ローズがいつも話してくれた。……ローズが見つけた、寂れた秘密の花園。そう、きっと……ローズが見つけた庭も、こんな風だったのだろう。それをサム爺やマックスの助けを借りて蘇らせ、俺の知るあの薔薇の庭にした――。
俺はエルシーの手を握り、並んで庭を眺めながら思う。
「十二年前、あの扉を見つけて中に入ってみたら……不思議な小さな庭だった。春は浅くて……小さな子供が二人と年老いた園丁が世話をしていた。俺に気づいた赤いコートの子供が走ってきて俺に言ったんだ」
――ここは知らない人は入っちゃダメなの。でも、雑草を抜いてくれたら、あなたは特別に許してあげる。
幼いエルシーが俺を許してくれたから、俺は今でも生きていられる。エルシーがいない世界では、俺は生きていけない。俺はエルシーを抱き寄せるた。
「愛してる、エルシー……あの頃から、ずっと――」
俺は四阿の壁にエルシーの背中を押し付け、腕の中に閉じ込めるようにして、強引に唇を奪う。エルシーの抵抗も力で押さえつけ、唇を貪って。息も絶え絶えになったエルシーの唇を解放すると、エルシーが荒い息をつきながら言った。
「……だめ、こんな……ところで……」
「さっきの、返事を聞いていない。お願いだ、エルシー」
俺はエルシーの耳元で囁くように言った。
俺はどうしても、エルシーからプロポーズの了承を取りたかった。父上の勅書の効力を充たすために。
「俺が戦争の前から好きだったのはお前だ。俺はずっとお前のことを忘れられなかった。戦場でも、ずっと……俺は戦争でこの世の地獄を見たから」
俺はまっすぐにエルシーを見て、言った。
「俺は王族を抜ける覚悟もできている。結婚してくれ、エルシー」
俺は必死だった。ためらうエルシーの顔じゅうにキスの雨を降らせて懇願する。承諾を得るまで離さないつもりだったが、だが、エルシーはとうとう泣き出してしまう。
「そんな……わからない、わからないわ……だって――あなたは第三王子で、婚約者もいて、でもわたしは、爵位も領地も、明日住む家すらどうなるかわからないのに……おばあ様が亡くなったばかりで、そんな――」
エルシーのブルーグレーの瞳から溢れるを見て、俺は我に返る。
この寂れた庭のように、エルシーの人生はめちゃくちゃにされてしまった。家族を失い、本来得られる権利も奪われて、自分の未来も見えない時に、そのすべてを奪った王家の男にプロポーズされて、「はい、よろこんで」なんて言えるわけがない。
俺は、ひとまず保留するしかないと、その場は引き下がる。でも――
「わかった。……エルシー、俺は明日、リンドホルムを発つ。一緒に、来てほしいんだ」
だが、エルシーはそれをも首を振った。
「マクガーニも明日、戻る。お前ひとりをここに残しておけない」
「ええ?」
「今朝、ジョナサンから電話があって、マクガーニもすぐに戻らなければならなくなった。お前を一人で残しておけない」
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