沢田くんとバレンタイン

ゆづ

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沢田くんとエスケープ

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「沢田くん、今のうちに行こう!」
「あ、うん【佐藤さんは無事だったか! 良かった。゚(゚´ω`゚)゚。】」

 沢田くんの笑顔なら今までに何回か見ているから免疫がある。
 私は沢田くんの手を握って、とりあえずダッシュでその場を逃げ出した。
 でも、私の他にも無事だった人が一人だけいた。

「待てえええ! 沢田──っ!!」
 追いかけてきたのは小野田くんだ。

【怖い顔の人!((((;゚Д゚)))))))なぜあの人がここに⁉︎】
 沢田くんはいまだに小野田くんの名前を覚えていない。

「沢田くん、小野田くんは友チョコを渡す気だよ」
「えっ……【あの人まで俺にバチを当てようとしているのか! なんて迷惑なんだ。゚(゚´Д`゚)゚。】」

 私の手を握る沢田くんの手が、ぎゅっと力強くなった。

「振り切ろう」
 風に髪をなびかせた沢田くんの横顔がキリッとしてカッコいい。
 私はドキドキしながら「うん」と頷いた。

 その後も通学路に待ち受けていた中学生、違う高校の女子高生、メガネをかけたスーツのOL、竹箒を持った主婦、黄色い帽子を被った幼稚園児たちとその先生、杖をついたお婆さん、ボールをくわえた犬、お魚くわえた野良猫などが次々と現れたけど、沢田くんと私は彼女らをぶっちぎって学校まで駆け抜けた。

「はあ、はあ、はあ……ここまで来たら、もう大丈夫だよね」
【まさか猫まで追ってくるとはな:(;゙゚'ω゚'):】

 沢田くんの人気がここまですごいなんて、ちっとも知らなかった。
 おそらく、普段の沢田くんは話しかけるなオーラが凄くて、みんなは声をかけられないでいたのだろう。その抑圧が、バレンタインデーで一気に放出されたのだ。

 こんな人気者が私の彼氏だなんて、なんだか信じられない。

【早くトイレに行かないと、俺の膀胱が終わってしまう】

 カッコいい顔してこんなこと考えているのはもっと信じられない。



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